事件番号 平成22(行ケ)10367
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
発明が,特許法29条2項に違反しないと判断されるためには,その前提として,常に,当該発明の効果が,当初明細書の「特許請求の範囲」又は「発明の詳細な説明」に記載又は示唆されていることが求められるものではない。しかし,先願主義の下,発明を公開した代償として,発明の実施についての独占権を付与することによって,発明に対するインセンティブを高め,産業の発展を促進することを目的とする特許制度の趣旨に照らすならば,当該発明による格別の効果が,当初明細書に記載又は示唆されているか否かは,発明の容易想到性の判断を左右するに当たって,重要な判断要素になることはいうまでもない。
特に,本件のような,アミノ酸配列を規定したペプチドに係る発明については,
@ 特定のアミノ酸配列が,ペプチドにおける既知のアミノ酸配列を変化させて,ペプチドの物性を改良することは,全ての当業者が試みるものと解されること,
A アミノ酸の数が少ないペプチドについて,当該発明の効果を切り離して,単に製造をするだけであれば,さほど技術的な困難を伴わないと解されること等
の諸事情を勘案すると,容易想到性の有無を判断するに当たり,当該発明の効果は,重要な技術的意味を有する考慮要素とされるべきである。
もっとも,当該発明の効果は,常に,当初明細書に記載されていることを要するものではなく,当初明細書に記載されなかった効果について,追加記載ないし事実主張や立証の補充が,全て排斥されるとまではいえない。しかし,前記特許制度の趣旨に照らすならば,本件のようなアミノ酸配列を規定したペプチドに係る発明については,当初明細書に記載されなかった効果についての追加記載及び事実主張や立証の補充が許容される場合は,限定される場合が多いものと解するのが相当である。
・・・
・・・本件当初明細書における上記記載内容のみでは,当業者において,本件当初明細書に本件ペプチドの効果について実質的に開示がされていたとはいえず,また,本件当初明細書に当時の技術常識から当業者が本件発明の効果を認識できる程度の記載があったとも認められない。
ウ 「第4,1 はじめに」において言及したとおり,本件のような,アミノ酸配列を規定したペプチドに係る発明については,@ペプチドにおける既知のアミノ酸配列を変化させて,ペプチドの物性を改良することは,全ての当業者が試みるものであり,かつ,Aアミノ酸の数が少ないペプチドについて,当該発明の効果を切り離して,単に製造をするだけであれば,さほど技術的な困難を伴わないと解されること等に照らすならば,本件ペプチドは,当業者において,引用発明に基づいて,容易に,その構成に至ることができたものというべきであり,本件発明には,当業者が予測できない効果が存在すると認めることもできないことから,本件発明は,当業者が,引用発明に基づき,容易に想到し得た発明といえる。
2012年01月22日
編み物と編み図の著作物性の判断事例
事件番号 平成22(ワ)39994
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋
以上を前提に,原告編み物の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ そこで検討すると,原告は,原告編み物について,いずれも「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される別紙図面記載の構成(本件構成)を有するものであって,この点に創作性が存在すると主張するものであるところ,確かに,前記(1)オでみたとおり,原告編み物は,Aモチーフの中心部分で編み目の方向が変わるとともに,寄せ目部分で編み目が重なることにより編み目が直線状に浮き上がって見え,この線が,原告の主張する別紙図面記載のAの線として看取できるものとなっており,また,隣接するA,B,Cモチーフをそれぞれ異なる色とすることにより,モチーフ同士のとじ目を境として両側の色が異なるものとなり,その境界部分がB又はCの線として看取できるものとなっていることが認められる(・・・。)。
そうすると,原告編み物は,前記認定のとおり,編み目の方向の変化,編み目の重なりなどにより,線を浮き上がらせることによってAの線を表現し,かつ,隣接する各モチーフの色を異なるものとすることによってB,Cの線を表現しているものであり,編み地が平面的で均一なものであることなどと相まって,A,B,Cの線で構成される直角三角形の形状を強調し,全体として,直角三角形をパズルのごとく組み合わせたような面白さや斬新な印象を表現しようとしたものと認められるのであって,原告編み物においては,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択,編み地の選択等の点が,その表現を基礎付ける具体的構成となっているものということができる。そうすると,原告編み物は,これらの具体的構成によって,上記の思想又は感情を表現しようとしたものであって,これらの具体的構成を捨象した,「線」から成る本件構成は,表現それ自体ではなく,そのような構成を有する衣服を作成するという抽象的な構想又はアイデアにとどまるものというべきものと解され,創作性の根拠となるものではないというべきである。
・・・
(2) 以上を前提に,原告編み図の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ 原告は,原告編み図には衣服のデザインとして本件構成が表現されているのであって,この点に原告編み物と同様に著作物性が認められるべきであると主張するが,争点(1)アに関する判断でみたとおり,本件構成自体は,そのような形の衣服を作成するという抽象的な思想又はアイデアにすぎず,上記思想又はアイデアを編み物として具現化する過程において,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択等によって具体的表現となるに至るものであるから,原告編み図に本件構成が表示されている点は,思想又はアイデアを表示したにとどまるものというべきであり,この点をもって,原告編み図に著作物性を認めることはできない。
以上のとおりであるが,原告は,編み図は美術の著作物あるいは図面の著作物に当たると主張するので,以下,念のため,本件構成を含む編み図全体(各2枚目)について,著作物性を検討する。
ウ 原告編み図を美術の著作物としてみた場合,・・・,その具体的表現において,「美術の範囲に属するもの」というべき創作性を認め得るものではない。
エ また,原告は,原告編み図は図面の著作物として著作物性を有する旨も主張する。図面の著作物については,図面としての見やすさや,編み方の説明のわかりやすさに関する創意工夫が表現上現れているか否かによって創作性の有無を検討すべきものと解されるところ,・・・,原告編み図は,編み図における一般的な表示方法又は表示ルールに従い,他の編み図でも一般的に採用されている構成によって,原告編み物の作成方法を説明したものであると認められ,図面としての見やすさや,説明のわかりやすさに関し,特段の創意工夫を加えたものということはできず,図面の著作物としての創作性を認めることはできない。
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋
以上を前提に,原告編み物の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ そこで検討すると,原告は,原告編み物について,いずれも「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される別紙図面記載の構成(本件構成)を有するものであって,この点に創作性が存在すると主張するものであるところ,確かに,前記(1)オでみたとおり,原告編み物は,Aモチーフの中心部分で編み目の方向が変わるとともに,寄せ目部分で編み目が重なることにより編み目が直線状に浮き上がって見え,この線が,原告の主張する別紙図面記載のAの線として看取できるものとなっており,また,隣接するA,B,Cモチーフをそれぞれ異なる色とすることにより,モチーフ同士のとじ目を境として両側の色が異なるものとなり,その境界部分がB又はCの線として看取できるものとなっていることが認められる(・・・。)。
そうすると,原告編み物は,前記認定のとおり,編み目の方向の変化,編み目の重なりなどにより,線を浮き上がらせることによってAの線を表現し,かつ,隣接する各モチーフの色を異なるものとすることによってB,Cの線を表現しているものであり,編み地が平面的で均一なものであることなどと相まって,A,B,Cの線で構成される直角三角形の形状を強調し,全体として,直角三角形をパズルのごとく組み合わせたような面白さや斬新な印象を表現しようとしたものと認められるのであって,原告編み物においては,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択,編み地の選択等の点が,その表現を基礎付ける具体的構成となっているものということができる。そうすると,原告編み物は,これらの具体的構成によって,上記の思想又は感情を表現しようとしたものであって,これらの具体的構成を捨象した,「線」から成る本件構成は,表現それ自体ではなく,そのような構成を有する衣服を作成するという抽象的な構想又はアイデアにとどまるものというべきものと解され,創作性の根拠となるものではないというべきである。
・・・
(2) 以上を前提に,原告編み図の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ 原告は,原告編み図には衣服のデザインとして本件構成が表現されているのであって,この点に原告編み物と同様に著作物性が認められるべきであると主張するが,争点(1)アに関する判断でみたとおり,本件構成自体は,そのような形の衣服を作成するという抽象的な思想又はアイデアにすぎず,上記思想又はアイデアを編み物として具現化する過程において,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択等によって具体的表現となるに至るものであるから,原告編み図に本件構成が表示されている点は,思想又はアイデアを表示したにとどまるものというべきであり,この点をもって,原告編み図に著作物性を認めることはできない。
以上のとおりであるが,原告は,編み図は美術の著作物あるいは図面の著作物に当たると主張するので,以下,念のため,本件構成を含む編み図全体(各2枚目)について,著作物性を検討する。
ウ 原告編み図を美術の著作物としてみた場合,・・・,その具体的表現において,「美術の範囲に属するもの」というべき創作性を認め得るものではない。
エ また,原告は,原告編み図は図面の著作物として著作物性を有する旨も主張する。図面の著作物については,図面としての見やすさや,編み方の説明のわかりやすさに関する創意工夫が表現上現れているか否かによって創作性の有無を検討すべきものと解されるところ,・・・,原告編み図は,編み図における一般的な表示方法又は表示ルールに従い,他の編み図でも一般的に採用されている構成によって,原告編み物の作成方法を説明したものであると認められ,図面としての見やすさや,説明のわかりやすさに関し,特段の創意工夫を加えたものということはできず,図面の著作物としての創作性を認めることはできない。
出願後に補充した実験結果等を参酌できないとされた事例
事件番号 平成22(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
・・・本願の当初明細書には,「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX−bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),・・・クロム(Cr),・・・鉄(Fe),銅(Cu),チタン(Ti),・・・白金(Pt),バラジウム(Pd),…からなる群から選択された金属元素・・・である・・・」(段落【0005】)と記載されているものの,M+aX−bで表される成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用する組成物については,発明の詳細な説明に具体的データの記載がなく,また,本願の組成物が脂肪酸やDNAを分解するメカニズムを説明する記載もなく,脂肪酸やDNAの分解において組成物中の各成分が果たす役割を実証する記載もない。
・・・
(エ) さらに,原告は,「銅」以外の各種金属イオン,すなわち,「ニッケル」,「コバルト」,「クロム」,「鉄」,「チタン」,「白金」及び「パラジウム」などの金属イオン化合物が触媒機能を発揮することを立証するため,「銅」以外の各種金属イオンを含有する抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を本願明細書の実施例1と同じ手順で調製し,実験例1及び2で述べた手法で検証したところ,金属イオン化合物が本願補正発明において触媒機能を発揮し,これらの化合物を使用して組成物を調製した場合においても所望の抗菌,抗ウィルス及び抗真菌作用を奏することが示されたと主張する。
しかし,明細書等に記載されていなかった事項について,出願後に補充した実験結果等を参酌することは,特段の事情がない限り,許されないというべきところ,原告が主張する上記実験結果は本願の当初明細書に記載されておらず,それがいつ,どこで行われた実験であるか明らかでないばかりか,同主張が平成23年8月26日付け「技術説明書」と題する書面により初めて主張されていることからすれば,上記実験は本件訴訟提起後に行われたと推認されるし,本願の当初明細書又は出願時の技術常識から上記実験の結果が示唆ないし推認されるような特段の事情も認められないから,そもそも上記実験結果を参酌することはできないというべきである。
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
・・・本願の当初明細書には,「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX−bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),・・・クロム(Cr),・・・鉄(Fe),銅(Cu),チタン(Ti),・・・白金(Pt),バラジウム(Pd),…からなる群から選択された金属元素・・・である・・・」(段落【0005】)と記載されているものの,M+aX−bで表される成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用する組成物については,発明の詳細な説明に具体的データの記載がなく,また,本願の組成物が脂肪酸やDNAを分解するメカニズムを説明する記載もなく,脂肪酸やDNAの分解において組成物中の各成分が果たす役割を実証する記載もない。
・・・
(エ) さらに,原告は,「銅」以外の各種金属イオン,すなわち,「ニッケル」,「コバルト」,「クロム」,「鉄」,「チタン」,「白金」及び「パラジウム」などの金属イオン化合物が触媒機能を発揮することを立証するため,「銅」以外の各種金属イオンを含有する抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を本願明細書の実施例1と同じ手順で調製し,実験例1及び2で述べた手法で検証したところ,金属イオン化合物が本願補正発明において触媒機能を発揮し,これらの化合物を使用して組成物を調製した場合においても所望の抗菌,抗ウィルス及び抗真菌作用を奏することが示されたと主張する。
しかし,明細書等に記載されていなかった事項について,出願後に補充した実験結果等を参酌することは,特段の事情がない限り,許されないというべきところ,原告が主張する上記実験結果は本願の当初明細書に記載されておらず,それがいつ,どこで行われた実験であるか明らかでないばかりか,同主張が平成23年8月26日付け「技術説明書」と題する書面により初めて主張されていることからすれば,上記実験は本件訴訟提起後に行われたと推認されるし,本願の当初明細書又は出願時の技術常識から上記実験の結果が示唆ないし推認されるような特段の事情も認められないから,そもそも上記実験結果を参酌することはできないというべきである。
明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができない訂正を新規事項の追加とした事例
事件番号 平成22(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
ア 取消事由1(新規事項の有無についての判断の誤り)について
(ア) 本件補正(第2次補正)は,本願発明(第1次補正)における「・・・キノンからなる群から選択される酸化能力を有する試薬」との記載を「・・・酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2−ジヒドロキノン,および1,4−ジヒドロキノンからなる群から選択され」との記載に訂正する内容を含んでいる。
しかし,特許法にいう補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),乙1文献によれば,「ジヒドロキノン」とは「ヒドロキノン」の2量体を意味するから,原告が本件補正において追加しようとした「1,2−ジヒドロキノン」及び「1,4−ジヒドロキノン」なる名称の化学物質が何を指すのか不明といわざるを得ないし,少なくともそのような名称を正しい名称とする化学物質が実在することを認めるに足りる的確な証拠はなく,このことは,原告が指摘する甲17文献及び甲18文献の前記記載によっても左右されない。そうすると,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,このような名称を有する化学物質がいかなる化学構造を有する物質であるかを理解することができず,そもそも上記補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができないので,上記補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということはできない。
したがって,「本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない」との審決の判断に誤りはない。
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
ア 取消事由1(新規事項の有無についての判断の誤り)について
(ア) 本件補正(第2次補正)は,本願発明(第1次補正)における「・・・キノンからなる群から選択される酸化能力を有する試薬」との記載を「・・・酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2−ジヒドロキノン,および1,4−ジヒドロキノンからなる群から選択され」との記載に訂正する内容を含んでいる。
しかし,特許法にいう補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),乙1文献によれば,「ジヒドロキノン」とは「ヒドロキノン」の2量体を意味するから,原告が本件補正において追加しようとした「1,2−ジヒドロキノン」及び「1,4−ジヒドロキノン」なる名称の化学物質が何を指すのか不明といわざるを得ないし,少なくともそのような名称を正しい名称とする化学物質が実在することを認めるに足りる的確な証拠はなく,このことは,原告が指摘する甲17文献及び甲18文献の前記記載によっても左右されない。そうすると,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,このような名称を有する化学物質がいかなる化学構造を有する物質であるかを理解することができず,そもそも上記補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができないので,上記補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということはできない。
したがって,「本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない」との審決の判断に誤りはない。
2012年01月16日
へんしんふきごま事件控訴審判決
事件番号 平成23(ネ)10008
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
2 当審における当事者の補足的主張に対する判断
(1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,
@ 32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,
A 各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,
B 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。
しかし,他方で,本件折り図は,・・・折り方を示すことを基本とし,・・・読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,折り工程の順番を丸付き数字・・・で示した上で,折り工程の大部分・・・について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。
このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる点などにおいて相違する。
以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しない。
イ また,原告は,本件折り図の「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,上記の点において共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。
しかし,原告の主張は,主張自体失当である。
すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない。
上記アのとおり,被告折り図と本件折り図とを対比すると,
@ 32の折り工程からなる折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)による説明手法,
A いくつかの工程をまとめた説明手法及び内容,
B 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示しているという説明手法等において共通する。
しかし,これらは,読者に対し,わかりやすく説明するための手法上の共通点であって,具体的表現における共通点ではない。そして,具体的表現態様について対比すると,本件折り図と被告折り図とは,上記アのとおり,数多くの相違点が存在する。被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
第1審判決はここ
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
2 当審における当事者の補足的主張に対する判断
(1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,
@ 32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,
A 各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,
B 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。
しかし,他方で,本件折り図は,・・・折り方を示すことを基本とし,・・・読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,折り工程の順番を丸付き数字・・・で示した上で,折り工程の大部分・・・について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。
このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる点などにおいて相違する。
以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しない。
イ また,原告は,本件折り図の「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,上記の点において共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。
しかし,原告の主張は,主張自体失当である。
すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない。
上記アのとおり,被告折り図と本件折り図とを対比すると,
@ 32の折り工程からなる折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)による説明手法,
A いくつかの工程をまとめた説明手法及び内容,
B 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示しているという説明手法等において共通する。
しかし,これらは,読者に対し,わかりやすく説明するための手法上の共通点であって,具体的表現における共通点ではない。そして,具体的表現態様について対比すると,本件折り図と被告折り図とは,上記アのとおり,数多くの相違点が存在する。被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
第1審判決はここ
2012年01月15日
火災保険改訂の説明書面の著作物性
事件番号 平成22(ワ)36616
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 本件説明書面の著作物性
ア 本件説明書面(甲2)は,別紙1のとおりのものであり,「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題して,本件改定の内容を顧客向けに文章で説明する本文部分(1枚目)と,地域別に建物の構造級別区分ごとの保険料率の改定幅を数値で示した一覧表及び本件改定の前後それぞれにおける建物の構造級別区分の判定の仕方をフローチャート方式で示した図表などが記載された別添資料部分(2枚目)とからなるものである。
そして,本件説明書面のうち,上記本文部分においては,「主な改定の内容」が,「1.火災保険上の建物構造級別の判定方法の簡素化」,「2.火災保険料率の大幅な改定」,「3.保険法の改定による対応」の3点に整理されて,それぞれの内容が数行程度の簡略な文章で紹介されるとともに,特に内容的に重要な部分については,太文字で表記されたり,下線が付されるなど,一見して本件改定のポイントが把握しやすいような構成とされている。
また,上記別添資料部分においては,本件改定による建物の構造級別区分の判定方法の変更点について,一見して理解しやすいように,フローチャート方式の図表を用いた説明がされ,しかも,当該フローチャート図の中に,楕円で囲った白抜きの文字や太い矢印を適宜用いるなど,視覚的にも分かりやすくするための工夫が施されている。
以上で述べたような本件説明書面の構成やデザインは,本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で(甲3ないし5,弁論の全趣旨),本件説明書面の作成者が,本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から特定の選択を行い,その選択に従った表現を行ったものといえるのであり,これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができる。
・・・
ウ 以上によれば,本件説明書面は,作成者の思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作権法2条1項1号の著作物に当たるものといえる。
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 本件説明書面の著作物性
ア 本件説明書面(甲2)は,別紙1のとおりのものであり,「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題して,本件改定の内容を顧客向けに文章で説明する本文部分(1枚目)と,地域別に建物の構造級別区分ごとの保険料率の改定幅を数値で示した一覧表及び本件改定の前後それぞれにおける建物の構造級別区分の判定の仕方をフローチャート方式で示した図表などが記載された別添資料部分(2枚目)とからなるものである。
そして,本件説明書面のうち,上記本文部分においては,「主な改定の内容」が,「1.火災保険上の建物構造級別の判定方法の簡素化」,「2.火災保険料率の大幅な改定」,「3.保険法の改定による対応」の3点に整理されて,それぞれの内容が数行程度の簡略な文章で紹介されるとともに,特に内容的に重要な部分については,太文字で表記されたり,下線が付されるなど,一見して本件改定のポイントが把握しやすいような構成とされている。
また,上記別添資料部分においては,本件改定による建物の構造級別区分の判定方法の変更点について,一見して理解しやすいように,フローチャート方式の図表を用いた説明がされ,しかも,当該フローチャート図の中に,楕円で囲った白抜きの文字や太い矢印を適宜用いるなど,視覚的にも分かりやすくするための工夫が施されている。
以上で述べたような本件説明書面の構成やデザインは,本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で(甲3ないし5,弁論の全趣旨),本件説明書面の作成者が,本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から特定の選択を行い,その選択に従った表現を行ったものといえるのであり,これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができる。
・・・
ウ 以上によれば,本件説明書面は,作成者の思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作権法2条1項1号の著作物に当たるものといえる。
2012年01月12日
外部から視認できない標章に売り上げへの寄与を認めた事例
事件番号 平成22(ワ)13746
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三
b 被告標章2
被告標章2は,フィルターの名称(ミネマリンフィルター)に係るものである。
そして,被告大倉は,逆浸透膜浄水器の説明や,これを標準装備した分譲住宅の宣伝広告において,ミネマリンフィルターの使用を謳っており(甲33の2,甲40の2),フィルターに「ミネマリン」と表記する必要があったといえるから,外部から視認できないフィルターに付されていても,被告大倉に対する販売については,被告標章2の寄与があると認められる。
もっとも,被告標章2は,浄水器全体に付された標章ではなく,浄水器内部のフィルター4本のうち,ミネマリンフィルターである1本のみに付された標章である(甲3の1〜6)。
c 寄与割合
以上のとおり,被告標章1−1,同2は,本件フィルター1に使用されているに過ぎない。しかも,被告NMT販売が販売した相手は,被告大倉1社であったことを考えると,上記フィルターを装備した浄水器の被告大倉への販売による利益全体に対する,被告標章1−1及び被告標章2の寄与した割合は,合計2%とみるのが相当である
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三
b 被告標章2
被告標章2は,フィルターの名称(ミネマリンフィルター)に係るものである。
そして,被告大倉は,逆浸透膜浄水器の説明や,これを標準装備した分譲住宅の宣伝広告において,ミネマリンフィルターの使用を謳っており(甲33の2,甲40の2),フィルターに「ミネマリン」と表記する必要があったといえるから,外部から視認できないフィルターに付されていても,被告大倉に対する販売については,被告標章2の寄与があると認められる。
もっとも,被告標章2は,浄水器全体に付された標章ではなく,浄水器内部のフィルター4本のうち,ミネマリンフィルターである1本のみに付された標章である(甲3の1〜6)。
c 寄与割合
以上のとおり,被告標章1−1,同2は,本件フィルター1に使用されているに過ぎない。しかも,被告NMT販売が販売した相手は,被告大倉1社であったことを考えると,上記フィルターを装備した浄水器の被告大倉への販売による利益全体に対する,被告標章1−1及び被告標章2の寄与した割合は,合計2%とみるのが相当である
売上げに対する意匠の寄与と実施料率の認定事例
事件番号 平成22(ワ)13746
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三
b 意匠法39条3項に基づく請求について
前記aのとおり,CVQ−2000の販売により被告大倉が得た利益額は不明であるが,その売上額は,仕入価格である税込み28万5600円に販売台数である593台を乗じた1億6936万0800円を下回らないと認められる。
そして,既に述べたとおり,一般の取引を念頭に置いた場合,本件意匠は売上げにほとんど寄与しないと考えられるから,その実施料率も低いと考えられ,2%を相当と認める。
したがって,意匠法39条3項により算定される原告の損害は,338万7216円となる。
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三
b 意匠法39条3項に基づく請求について
前記aのとおり,CVQ−2000の販売により被告大倉が得た利益額は不明であるが,その売上額は,仕入価格である税込み28万5600円に販売台数である593台を乗じた1億6936万0800円を下回らないと認められる。
そして,既に述べたとおり,一般の取引を念頭に置いた場合,本件意匠は売上げにほとんど寄与しないと考えられるから,その実施料率も低いと考えられ,2%を相当と認める。
したがって,意匠法39条3項により算定される原告の損害は,338万7216円となる。
2011年12月23日
明示のない課題を認定した事例
事件番号 平成23(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
4.当裁判所の判断
・・・
ウ 取消事由3(進歩性判断の誤り)について
(ア) 「周知の課題についての認定の誤り」につき
原告は,仮に巻寿司の彩りに変化をつけようとするという課題が周知であったとしても,甲1には巻寿司の見栄えや色彩の考慮についての記載がないので,審決が甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在すると認定したことは誤りであると主張する。
しかし,審決は,巻寿司の彩りに変化をつけようとすることが本願出願前に周知の課題であることを根拠に,漬物を芯に含む巻寿司である甲1発明にも上記課題が存在したと判断するものであって,甲1自体に巻寿司の見栄えや色彩についての記載がありその記載から甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在すると認定するものではない。そして,巻寿司の彩りに変化をつけようとすることが周知の課題であれば,巻寿司についての発明である甲1発明においても,その彩りに変化をつけようとする課題はあるといえるので,たとえ,甲1に巻寿司の見栄えや色彩についての記載が存在しなくとも,周知の課題を根拠に甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在するとした審決の判断に誤りはない。
<被告引用判決>
引用文献には課題が明記されていないものの,課題が自明であるか容易に着想しうる場合において発明の進歩性は否定されるとした裁判例として,
東京高裁平成8年5月29日判決(平成4年(行ケ)第142号)
東京高裁平成9年10月16日判決(平成7年(行ケ)第152号),
知財高裁平成21年9月15日判決(平成21年(行ケ)第10003号)−第35ページ
知財高裁平成22年4月19日判決(平成21年(行ケ)第10268号)−第36ページ
知財高裁平成23年7月27日判決(平成22年(行ケ)第10352号)−第26ページ
・・・
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
4.当裁判所の判断
・・・
ウ 取消事由3(進歩性判断の誤り)について
(ア) 「周知の課題についての認定の誤り」につき
原告は,仮に巻寿司の彩りに変化をつけようとするという課題が周知であったとしても,甲1には巻寿司の見栄えや色彩の考慮についての記載がないので,審決が甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在すると認定したことは誤りであると主張する。
しかし,審決は,巻寿司の彩りに変化をつけようとすることが本願出願前に周知の課題であることを根拠に,漬物を芯に含む巻寿司である甲1発明にも上記課題が存在したと判断するものであって,甲1自体に巻寿司の見栄えや色彩についての記載がありその記載から甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在すると認定するものではない。そして,巻寿司の彩りに変化をつけようとすることが周知の課題であれば,巻寿司についての発明である甲1発明においても,その彩りに変化をつけようとする課題はあるといえるので,たとえ,甲1に巻寿司の見栄えや色彩についての記載が存在しなくとも,周知の課題を根拠に甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在するとした審決の判断に誤りはない。
<被告引用判決>
引用文献には課題が明記されていないものの,課題が自明であるか容易に着想しうる場合において発明の進歩性は否定されるとした裁判例として,
東京高裁平成8年5月29日判決(平成4年(行ケ)第142号)
東京高裁平成9年10月16日判決(平成7年(行ケ)第152号),
知財高裁平成21年9月15日判決(平成21年(行ケ)第10003号)−第35ページ
知財高裁平成22年4月19日判決(平成21年(行ケ)第10268号)−第36ページ
知財高裁平成23年7月27日判決(平成22年(行ケ)第10352号)−第26ページ
・・・
2011年12月19日
特許法が前提とする基本構造
事件番号 平成23(行ケ)10132
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
原告は,審決が,平成22年4月19日付けの補正による請求項1〜9のうち,請求項1のみを本願発明として容易推考性の存否を判断し,請求項2〜9について審理・判断せずに審判請求を不成立としたことは違法である旨主張する。
しかしながら,特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。
したがって,複数の請求項に係る特許出願について,その一部の請求項に出願を拒絶すべき事由がある場合には,当該特許出願の全体を拒絶すべきであって,審決が,本願発明について特許法29条2項の該当性を判断した上で,本件出願全体について請求不成立としたことに違法はない。
<類似・関連の判示>
審査・審判過程において請求項毎に特許査定又は拒絶査定すべきか
請求項分の審判請求手数料を受領して1項のみを判断することについて
一部の請求項に係る発明の拒絶理由で拒絶されること
一部の請求項のみでした拒絶審決の適法性
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
原告は,審決が,平成22年4月19日付けの補正による請求項1〜9のうち,請求項1のみを本願発明として容易推考性の存否を判断し,請求項2〜9について審理・判断せずに審判請求を不成立としたことは違法である旨主張する。
しかしながら,特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。
したがって,複数の請求項に係る特許出願について,その一部の請求項に出願を拒絶すべき事由がある場合には,当該特許出願の全体を拒絶すべきであって,審決が,本願発明について特許法29条2項の該当性を判断した上で,本件出願全体について請求不成立としたことに違法はない。
<類似・関連の判示>
審査・審判過程において請求項毎に特許査定又は拒絶査定すべきか
請求項分の審判請求手数料を受領して1項のみを判断することについて
一部の請求項に係る発明の拒絶理由で拒絶されること
一部の請求項のみでした拒絶審決の適法性