2012年05月13日

本願発明の要旨の認定−明細書を参酌し発明特定事項を限定解釈した事例

事件番号 平成23(行ケ)10336
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 特許請求の範囲の記載
 平成22年4月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲(請求項の数4)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」といい,同補正後の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。)
【請求項1】 同じ構造のもの同士が複数隣接して結合し集合型コンピュータを構成するための結合型コンピュータであり,多面形状の複数のケーシング毎に,CPUやメモリIC及び入出力インターフェースなどのコンピュータ構成要素を内蔵し,・・・,前記ケーシングの各面に設けられた複数の入出力用信号伝達素子を前記多重スイッチルータを介して該ケーシング内の前記入出力インターフェースに接続し,前記入出力用信号伝達素子による他のコンピュータからの信号の取り込み,吐き出しを信号選択及びバイパス機能を有する前記多重スイッチルータを通じて行うようにし,前記多重スイッチルータにより前記ケーシングの各面に配設されたコードレス型の複数の入出力用信号伝達素子間にバイパスを形成できるようにしたことを特徴とする結合型コンピュータ。」
・・・

第4 当裁判所の判断
 ・・・
2 判断
(1) 「多重スイッチルータ」に関する認定,判断の誤りについて
ア まず,本願発明に係る「多重スイッチルータ」の意義について検討する。本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,多重スイッチルータに関して,・・・が記載されているが,多重スイッチルータの意義は,必ずしも一義的に明確ではない部分がある。そこで,本願明細書の記載を併せて参照することとする

 本願明細書の上記記載によれば,本願発明は,多数のコンピュータをクラスタ接続して集合型超コンピュータを構成するに当たり,・・・,集合型コンピュータを構成する各コンピュータの入出力インターフェース等のコンピュータ構成要素を多面形状のケーシングに内蔵し,入出力インターフェースに結合されたコードレス型の信号伝達素子をケーシングの各面に配設し,さらに,他のコンピュータからの信号の取り込み及び吐き出しを「信号選択」及び「バイパス機能」を有する多重スイッチルータを通じて行うようにしたものであることが認められる。

 そして,本願明細書の段落・・・によれば,○1 上記「信号選択」機能とは,他のコンピュータからのデータのうち自コンピュータが取り込むべきデータを選択的に取り込むために信号を選択する機能と,形成されたバイパスを含む信号伝送経路を選択するために信号を選択する機能とを総称したものであり,○2 上記「バイパス機能」とは,入出力用端子間に,入出力インターフェースに取り込まれることなくデータを伝送するためのバイパスを形成するものと認められる。さらに,本願明細書の段落【0015】によれば,「周波数,時間,符号を使ってデータ伝送経路の選択を行う」ことの例示として,各ポートに設定された周波数帯域に応じて互いに分離できるようにされた複数の信号が伝送される例が示されており,これらの記載は,いずれも「多重スイッチルータ」が周波数等を用いた弁別により互いに分離できる状態で複数の信号を伝送することを前提としたものと解される。

 そうすると,本願発明における「多重スイッチルータ」は,○1 データの導通と遮断を行う開閉ゲートとして作動し,ポートごとの周波数帯域を所定の値に設定することによってポートを閉じてデータの取り込みや吐き出しを阻止し,○2 各コンピュータが周波数,時間,符号を使ってデータの伝送経路を選択する際,特別の信号伝送経路制御装置を用意することなく,ポート間にバイパスを形成し,○3 バイパスが形成された場合には,当該コンピュータの入出力インターフェースに取り込まずにポートからポートへとデータを伝送する機能を有するものであること,また,「多重」とは,互いに分離できるように複数の信号を物理的に1つの伝送路により伝送することを意味するものといえる。
 以上によれば,本願発明に係る「多重スイッチルータ」とは,データの導通や遮断を行うスイッチとして作動し,かつ,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されるルータを意味するものであって,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されないルータはこれに含まれないものと解される。
 ・・・
 以上によれば,引用例2には,・・・いずれにおいても,ルータに複数方向からの入力が与えられてこれらが衝突する場合には調停が行われて,いずれかの方向からの入力についてのみ伝送が行われ,1つのメッセージを構成する複数のフリットは連続して入力され宛先に届くものであり,ある方向からの1つのメッセージを構成するフリットの伝送と他の方向からのメッセージを構成するフリットの伝送とは衝突し調停されるものといえる。引用例2には,・・・,衝突し調停されるものとされたメッセージを構成するフリットの伝送を,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送するものに変形することは,記載も示唆もされていない
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2012年05月06日

前訴の既判力が本訴に直接に及ばなくても、前訴の蒸し返しとなり訴訟上の信義則に反するとした事例

事件番号 平成21(ワ)31535
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(2) 検討
ア 前訴と本訴では,原告の請求権を基礎付ける特許権はいずれも本件特許権で同一であるが,前訴は本件特許権に基づく前訴マウスの使用等の差止請求権を訴訟物とするもので,前訴の確定判決により既判力が生じるのは,前訴の控訴審の口頭弁論終結時である平成14年7月9日における上記請求権の存否であるのに対し,本訴は前訴控訴審判決が確定した平成15年3月25日から本訴の提起日までの間における被告の本訴マウスの使用等による本件特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とするものであって,前訴と本訴では訴訟物が異なり,前訴の既判力が本訴に直接に及ぶものではない
・・・
 ・・・ところが,原告は,本訴において,上記争点について,前訴でした主張と同様の主張を行い,本訴マウスが構成要件Bを充足し,ひいては本件発明の技術的範囲に属する旨主張している。前訴1審判決及び前訴控訴審判決が示した構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」についての解釈は判決における理由中の判断であって,本訴はもとより,前訴においても既判力の対象となるものではないが,本訴において,原告が構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈を再び争い,本訴マウスが本件発明の技術的範囲に属すると主張することは,前訴の判決によって原告と被告との間で既判力をもって確定している前訴マウスの使用等による本件特許権に基づく差止請求権の不存在の判断と矛盾する主張をすることに帰し,実質的に,同一の争いを繰り返すものであるといわざるを得ない。 ・・・,民事訴訟法においては,単に新たな証拠が発見されたというのみでは,再審事由とはならず,相手方当事者又は第三者の犯罪その他の違法行為によって攻撃防御の方法の提出を妨げられた場合などに限り,再審事由(同法338条1項5号ないし7号,2項)としている趣旨に照らすならば,上記技術常識を可視的に立証することは前訴当時の技術では不可能であったが,本訴の時点においては,甲8の実験報告書によってその立証が可能になったからといって,前訴の蒸し返しとなる主張を行うことを正当化することはできない。
 したがって,この限りにおいて,原告の上記主張を採用することはできない。

(ウ) ・・・均等侵害の主張を含めて,原告が前訴において自己の攻撃防御を尽くす十分な機会と権能を与えられていなかったことをうかがわせる事情は認められない。

(エ) 一方,被告において,前訴控訴審判決が確定したことによって紛争が解決し,本件発明の各構成要件の充足性を判断する上では前訴マウスの構成と実質的に同一の構成といえるマウスを用いた実験等を行うことは本件特許権を侵害するものでなく,そのような行為を対象とした差止請求や損害賠償請求をされることはないものと期待することは合理的であり,保護するに値するものである。本訴において前訴と同一の争点について審理を繰り返すことは,このような被告の期待に反するものであって,そのための被告の応訴の負担は軽視することはできない。

ウ 以上の諸事情を総合すると,前訴と本訴は,訴訟物を異にし,差止め又は損害賠償の対象とされた被告の侵害行為等が異なり,しかも,本訴は前訴と異なる争点をも含むものであるから,原告による本訴の提起が,前訴の蒸し返しであって,訴権の濫用に当たり,違法であるとまで認めることはできない。しかし,本訴において,前訴における争点と同一の争点である構成要件Bの解釈について前訴と同様の主張をすること及び前訴で主張することができた均等侵害の主張をする点においては,前訴の蒸し返しであり,訴訟上の信義則に反し,許されないというべきである。
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2012年05月05日

優先権主張の利益を享受で きず新規性がないとされた事例

事件番号 平成23(ネ)10069
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 控訴人は,本件特許発明1にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にし」たとの限定も,「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との限定も,基礎出願の明細書及び図面から導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではないとして,これらの構成が特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載された発明に基づ」かないとする原判決は誤りであるなどと主張する。

 しかしながら,・・・基礎出願明細書1(図面を含む。乙2)にも,・・・基礎出願明細書2(図面を含む。乙3)にも,・・・基礎出願明細書3(図面を含む。乙4)にも,クランプロッド5の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの,傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされておらず,本件特許発明1の構成のうち,「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定」するとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号による改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきである。

 この点,控訴人は,当業者であれば基礎出願明細書1の段落【0005】等の記載から基礎出願において従来技術にはない小さな傾斜角度の旋回溝という技術的事項を採用したことを理解できるところ,旋回溝の傾斜角度やガイド溝の具体的な構成を開示するために明細書に添付されたのが,クランプロッドの下摺動部分の展開図である図2であって,当業者は図2から具体的な傾斜角度を理解できるなどと主張する。しかしながら,上記図2には寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことに照らしても,上記図2は装置の部材の概要を示した模式図にすぎず,図面から具体的な傾斜角度を読み取ることができる性格のものではないことが明らかである。また,本件特許発明1のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

 なお,原判決が判示するとおり(62頁),上記図2からガイド溝(旋回溝)間の隔壁の厚さとガイド溝の溝幅の大小関係を一応看取することができるとしても,当業者において「隔壁の最小厚さ」を「ガイド溝の溝幅」よりも小さくするという技術的思想まで看取することは困難であるから,本件特許発明1の「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との構成(発明特定事項)についても,改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでなく,かかる観点からも,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できないというべきである。

 そして,控訴人が上記平成14年10月2日以前(同年4月8日)に製造・販売を開始した「スイングクランプLH」は本件特許発明1の実施品であるから,本件特許発明1に係る特許(本件特許1)は新規性(特許法29条1項2号)を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである。
 控訴人は,「スイングクランプLH」は,製造装置(製造工程で使用される装置)の一部にすぎず,納入先での分解や改造は禁止されているから,「スイングクランプLH」の製造・販売によって同製品に係る発明が公然実施されたことになるものではないなどと主張する。しかしながら,「スイングクランプLH」の購入者が同製品を分解してその構成を知ることができなかったことを窺わせるに足りる事情は証拠上存しないのであって,控訴人の上記主張を採用することはできない。また,被控訴人らによる新規性欠如の主張や特許法104条の3の抗弁の提出が権利濫用であるということもできない

原審 大阪地方裁判所平成21年(ワ)第1193号 裁判長裁判官 森崎英二
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2012年05月04日

補償金請求権−市場の独占と超過利益、売上総利益の赤字と超過売上高

事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

イ 以上を前提として,本件ジャイロが本件発明1及び5の実施品であること・・・を踏まえ,更に検討する。
 本件発明1は,その効果として,・・・,接着剤が不要で,接着位置や接着層のばらつきなどによる特性のばらつきを回避することができる効果があったと認められ・・・,小型化でも有利であったと解される。また,本件発明5は,その効果として,共振周波数の調整を容易にする効果があったと認められ・・・,共振周波数の調整工程を簡略化できる効果があったと解される。そして,本件ジャイロは,・・・%の市場占有率を維持していた(前記1(3)ア)のであるから,本件発明1及び5の代替技術の存在が否定できないとしても,本件発明1及び5の実施による超過売上高が存在すると認めるのが相当である。また,本件発明1及び5の技術的範囲及び効果に加え,本件ジャイロの市場占有率を考慮すると,超過売上高の割合は40%と認めるのが相当である(・・・。)。

 (4) これに対し,被告は,独占の利益(超過利益)がない旨を主張するので検討する。
被告は,・・・,本件各特許権によって市場を独占できていないから,無償の通常実施権に基づく実施によるものを超えた利益は存在していない旨主張する。しかしながら,超過利益は発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益であって,市場の独占がある場合に限って超過利益の存在が認められるわけではないから,市場の独占ができていないからといって,超過利益の存在を否定することはできない。・・・
 ・・・
 ウ さらに,被告は,被告ジャイロ事業は,ほぼ毎年度赤字続きで,累積では売上高から売上原価を控除した売上総利益でみても赤字となっており,本件各発明を実施したことにより被告が受けた利益は全く認められない旨主張する
 確かに,・・・,被告ジャイロ事業が赤字であったことがうかがえる。しかしながら,改正前特許法35条4項の「使用者等が受けるべき利益」とは,権利承継時において客観的に見込まれる利益をいうのである。被告の提出する損益計算表(乙23)をみても,損失のある年度ばかりではなく,利益の認められる年度も存在する。そのことからは,本件発明1及び5の実施による事業はおよそ利益の上がらない事業ではなく,市場環境,被告の事業方針等によっては利益を生み出すことのできる事業であることが認められる。
 そして,別紙「CGシリーズ型式別売上金額」のとおり,被告には,本件発明1及び5の実施品の製造・販売により1億円以上の売上が十数年にわたって継続して認められるのである(そのうちの5年は,30億円を超える売上高である。)。そうすると,当該職務発明の実施に係る事業において最終的に損失があったとしても,上記のとおり,超過売上高が存在する本件においては,独占の利益を否定することはできないというべきである。
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補償金請求権−特許登録前の独占の利益(超過売上高)の有無とその割合

事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

(5) 最後に,特許登録前の独占の利益について検討するに,被告は,登録前に独占の利益は存在しない旨主張し,登録後の2分の1の独占力を認める考えがあり得てもそれは公開後に限られる旨主張する
 しかしながら,特許登録前であっても,出願公開後は一定の要件を満たせば補償金を請求することができるから(特許法65条),少なくとも出願公開後においては,事実上の独占力があると認められる。もっとも,差止請求権や損害賠償請求権は認められないから,その独占力が登録後と比較して小さいといえるのであって,本件発明1及び5の内容,効果等を考慮すると,その登録前の超過売上高の割合は登録後のものの2分の1と認めるのが相当である(なお,本件特許権1に係る出願公開は平成5年3月30日,本件特許権2に係る出願公開は平成7年1月10日であるから〔甲1及び5の各1〕,本件発明1及び5の実施品の販売はいずれも出願公開以降である〔前記1(2)〕。)。
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2012年05月01日

特許発明の本質的部分とは

事件番号 平成23(ワ)4131
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年04月12日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。
 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。

イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には以下の記載がある。
 ・・・
 そうすると,構成要件Eの「導入面取り部」は,本件特許発明1の課題解決手段である上記Aにおける基本的構成であり,特徴的原理を成すものであることが認められる。換言すれば,本件特許発明1において,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるには,構成要件Eの「導入面取り部」によりロック用留め具をロック位置まで案内することが必要不可欠の構成であり,課題解決の原理そのものであるというべきである。
 これに対し,被告製品では,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるため,構成要件Eの「導入面取り部」の構成によりロック用留め具を係合位置まで移動させる構成ではなく,ロック用留め具そのものを可動突部とすることにより下段コンテナの溝穴と係合させる構成が採用されている。

 したがって,被告製品の課題解決手段は,本件特許発明1の解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものとはいえず,むしろ,異なる原理に属するものというべきである。

 以上によれば,構成要件Eは,特許請求の範囲に記載された本件特許発明1の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分であり,特許発明の本質的部分に当たる。
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2012年04月15日

公用物件の出願前の特性の立証

事件番号 平成23(行ケ)10186
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年04月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

2 審決は,本件発明と甲4発明との間の相違点3は容易想到でないと判断した(60頁)。しかしながら,この判断は誤りであり,その理由は次のとおりである。
 なお,以下の判断の前提事実として,無効理由5,6で主張された公用物件についても触れるが,無効理由2を裏付ける補強事実として認定するものである。

(1) 証拠(甲9の4−1〜13)によれば,平成22年1月15日〜3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の構成Bにおける式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことが認められる。
 この点,審決は,「・・・公用物件1は『本件に係る出願の実際の出願日前に製造された』ものといえるが,『2010年1月15日〜2010年3月11日の間において大気暴露試験を行』ったものであることは明らかであり,その大気暴露試験の結果が本件に係る出願の出願前に公然実施された発明における『Δσ』の値であるといえるためには,『Δσ』の値が変化するものではないことを請求人は証明することが必要であるといえるが,請求人が提出した第1回口頭審理陳述要領書ないし第3回口頭審理陳述要領書には『Δσ』の値が変化するものではないとの説明もないし,一般的に残留応力は時間の変化に応じて変わるものであることは技術常識といえるものである。」として,公用物件1に係る硬質塩化ビニルパイプが本件に係る出願日前に式(1)で規定される特性を有していたとは認定できないとした(62頁4行〜23行)。

 しかし,硬質塩化ビニル系樹脂管は比較的安定で劣化が起こりにくいが,・・・,塩化ビニル樹脂に大きな影響を及ぼす日射のほか,熱,紫外線,化学薬品による影響を受けた形跡はない上(甲9の1,9の3−1・2),暴露試験時において公用物件1−1・4・8〜12がJIS規格に定められた性能(引張降伏強さ,耐圧性,偏平性,ビカット軟化温度)を満たす状態であったということができるし(甲38),かつ,時間の経過や推奨された方法ではない保管方法により応力緩和が進みΔσ の値が大きくなることはあっても小さくなるとは考えがたい。
 そうすると,平成22年1月15日〜同年3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の式(1)から算出される周方向応力σ の最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことからは,本件出願前において,公用物件1は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであったと推認するのが相当である
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原画の著作権者の許諾を得ることなく増刷された絵本

事件番号 平成20(ワ)36852
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年03月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(エ) Bは,・・・,絵本の印刷数を1万冊とし,・・・,画家に支払う画料は絵本1タイトルにつき50万円程度とするのが適当ではないかと考え,その旨を原告A2ら画家たちに伝えた。また,Bは,画家たちに対し,この絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被告において新たに絵本を制作する機会もあるだろうから,その際には新たな挿絵の制作を依頼したいと考えている旨を伝えた。
・・・
本件会合では,・・・,被告側と原告側との間で,絵本原画制作の基本的な方針(原画の大きさ(サイズ),1書籍当たりの原画の枚数,絵本の中の文章部分の位置等)が確認されるなどした。なお,本件会合では,絵本の原画の著作権がどのように取り扱われるのか(著作権は画家が保持するのか,それとも画家から被告に譲渡されるのか)という問題や,被告において本件書籍を将来(数年後に)増刷する予定があるのか,増刷する際に本件原画の著作者(画家)に対して被告から別途画料が支払われるのかという問題については,特段話題に上らなかった
・・・
(ク) 被告は,平成20年4月から平成22年12月までの間に,別紙書籍増刷表記載のとおり本件第1書籍を増刷し(本件増刷),これらを幼稚園等向けに販売した。被告は,本件増刷に当たって,原告らから増刷について改めて許諾を受けることも,追加の画料を支払うこともしなかった。そのため,原告らは,本件増刷がされた当時は増刷の事実を認識していなかった。
・・・
(3) 以上のとおり,被告は,本件第1原画の著作権者である原告らの許諾を得ることなく本件第1書籍を増刷し,これを販売したものであるから,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したものと認められる。
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2012年04月07日

サポート要件違反を認定した事例

事件番号 平成22(ワ)30777
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年03月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

 しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,・・・,プロテイナーゼKと共に,コラーゲン分解酵素である「コラゲナーゼ」及びDNA分解酵素である「DNアーゼ」が用いられており,これらのコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく,プロテイナーゼKのみを用いて分解処理を行った実施例の記載はない
 また,本件明細書には,・・・との記載がある。これらの記載は,「プロテアーゼを含む分解酵素」を用いることにより,目的物である病原性プリオン蛋白質を十分に取り出すことができること,「プロテアーゼを含む分解酵素」におけるプロテアーゼ以外の分解酵素の組合せとしてコラゲナーゼ及びDNアーゼを用いることが望ましいことを開示するものといえる。

 一方で,本件明細書の発明の詳細な説明には,プロテイナーゼKを用いる場合に,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることを省略することができることについての記載も示唆もない。かえって,本件明細書には,・・・との記載がある。上記記載は,プロテアーゼとして,・・・,「プロテイナーゼK」を用いて所望の検出感度を得るには,「プロテイナーゼK」,「コラゲナーゼ」及び「DNアナーゼ」の3種類の酵素を用いることが必要であることを示唆するものといえる。

 さらに,本件原々出願当時,可溶化された非特異的物質の分解処理工程において,「プロテイナーゼK」のみを用いることによって,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させる効果を奏することが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。

 以上を総合すると,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件原々出願当時の技術常識に照らし,第2次訂正発明の構成要件C'' の「前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理する」構成を採用した場合に,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させる効果を奏し,高感度で組織特異的に病原性プリオン蛋白質を検出できるとする本件発明の課題を解決できることを認識できるものと認めることはできない

 したがって,第2次訂正発明は,サポート要件に適合しないというべきであるから,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由があるものと認められる。
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「・・・inside」という商標の構成

事件番号 平成23(行ケ)10323
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした判断の誤り)について
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 原告は,引用各商標における自他商品の識別性を有する商標の要部の一つは,「・・・inside」及び「・・・INSIDE」との表示形式であり,本件商標の「KDDI」「Module」「Inside」の文字を順に上から下へ積み重ねた態様は,「・・・INSIDE」との表示形式と共通しているから,「・・・インサイド」という共通の称呼が生じ,商品の出所に混同を生じるものであると主張する。

 確かに,引用各商標を構成する「intel inside」との文字が原告又は原告製造に係る製品の表示として広く認識されていることや,テレビ媒体等で使用された「インテル,入っている」というサウンドロゴに接した者は,「intel」の語と「inside」の語との結び付きを強く印象に残すものであることなどからすると,「intel」以外の文字と「inside」の文字を結合した「・・・inside」との表示形式を有する商標に接した者は,当該商標と引用各商標との構成それ自体の共通性を想起し得ることは否定することができない

 しかし,原告は,本件商標の登録出願前では,平成12年3月15日にコンピュータとコンピュータソフトウエアの使用等を指定役務とする「THE JORNEY INSIDE」との商標を出願しているものの(甲50),他に「intel」の文字に代えて,他の文字と「inside」の文字を結合した表示を使用した事実は認められないこと,また,「inside」の文字は,「内側の,内部の」等の意味合いを持つ,一般的な語であり,「intel」以外の文字と結合させることも含め,多様な用法が想定できることからすると,「intel」以外の文字と「inside」の文字を結合した「・・・inside」という商標の構成が,当該商標が使用された商品又は役務が直ちに原告の製造に係る商品又は役務であると誤信するおそれを生じさせるほどの強い出所識別機能を有しているとまでは認められない
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posted by ごり at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標法