2012年01月29日

新規事項の追加を認定した事例

事件番号 平成23(行ケ)10030
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 被告の反論
(1) 取消事由1(本件訂正の適否に関する判断の誤り)に対し
ア 原告は,請求項1に「区別データ」を新たに加入する本件訂正は,本件明細書の「共通フラグ」を,これ以外のデータを含むようにしようとするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものではない旨主張する。しかし,原告の主張は失当である。
・・・
第4 当裁判所の判断
 そこで,本件訂正における「区別データ」が,本件訂正前の本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるかを検討する。

 ・・・すなわち,これらの記載から,「共通フラグ」は,全ての許容段階の種類に共通して判定値データを記憶するか,そうでない(判定値データを許容段階の種類に応じて個別に記憶する)かという2つの記憶形態を表すものであることがわかる。
そして,「フラグ」という語の技術的意味を検討すると,「・・・」(甲28),「・・・」(甲29),「・・・」(乙1)などの説明がされている。
 そうすると,「フラグ」は,ある条件が成立しているか否かという,2者のうちのいずれの状態であるかを知らせるために用いられる標識であるから,当業者にとって,「フラグ」は,1ビットのデータであると理解される。そして,本件明細書において,「共通フラグ」の「フラグ」の語が,上記と異なる意味を指すものとして用いられている事情はないから,当業者は,「共通フラグ」は1ビットのデータと認識すると考えられる
 また,本件明細書の上記各記載及びその他の記載によっても,・・・,「共通フラグ」のビット数を,2進法に基づく1ビットのデータだけでなく,多ビットのデータとしたり,8進法,16進法等のデータとするような例は開示されていない。・・・,「共通フラグ」を1ビットのデータ以外のものとすることは,本件明細書において示唆もされていないと解すべきである。
 さらに,段落【0006】ないし【0008】,【0012】に,判定値データのデータ量を抑えると共に量産機種までの開発が容易なスロットマシンを提供することが発明の解決課題とされている旨記載されていることに照らすならば,「共通フラグ」は,判定値データを共通化して,開発用の機種における判定値データの記憶態様を量産用の機種にそのまま転用できるようにし,かつ,判定値データ記憶手段の記憶容量の低減を図る目的で採用されたことが理解される。・・・,スロットマシン開発における確率調整の前の段階で,より多くの種類の記憶態様を許容することは,上記の発明の解決課題に沿わないというべきである。

 以上によれば,当業者は,本件明細書の全ての記載を総合することにより,「共通フラグ」について,設定値についての1ビット(賭け数についての1ビットのフラグを設定する場合は併せて2ビット)のデータであるとの技術的事項を導くことが認められる。

イ 他方,本件訂正に基づく「区別データ」は,「複数種類の許容段階に共通して判定値データが記憶されているか該許容段階の種類に応じて個別に判定値データが記憶されているかを区別する」ためのデータであって,「フラグ」であるとの限定や1ビットであるとの限定もないから,1ビットを超えるデータを含むと理解される。
 また,1ビットを超えてビット数を増大させることができるならば,判定値データの分類を限りなく細かく設定することができるので,上記解決課題に沿わないような記憶態様を作出することが可能となる。すなわち,本件訂正に基づき請求項1に「区別データ」を加入することは,単に,1ビットを超えるデータを含むことになるのみならず,願書に添付された本件明細書に開示された発明の技術思想,解決課題とは異質の技術的事項を導入するものというべきである。

ウ そうすると,本件訂正に基づき請求項1に「区別データ」を加入することは,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入することになる。
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本願発明と主引発明の解決課題が異なる事例

事件番号 平成22(行ケ)10407
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(イ) 以上によると,本願発明は,風力発電施設において,比較的大きな消費者が電力網から切り離された場合などに生じる電力網の周波数の(急速な)変化や,風速の変化によって生じる電力網の電圧の変化は,消費者や電気的デバイスにとって望ましくないことから,電力網の周波数が基準値より高いか又は低いとき,及び電力網の電圧が基準値より高いか又は低いときに,ウインドパークの供給電力を低減し,電力網に供給される電流と前記電力網の電圧の間の位相位置の位相角φを,電力網の電圧に依存して変更するという,相違点2に係る構成を採用することにより,電力網の周波数や電圧の変化を回避するという作用効果を有する発明であると解される。
 ・・・
 ・・・本願発明は,相違点2に係る構成を採用することにより,ウインドパークの電力網の周波数や電圧の変化を回避するとの効果を実現する発明である。

 前記のとおり,引用発明は,風力発電施設の全出力電力を送電網の最大許容送電量とするために,風力発電施設が送電網の最大許容送電量よりも高い全出力電力が出せるようにした上で,個々の風力発電設備の出力電力を定格出力電力の0から100%の範囲内で調整するという構成を備えた風力発電施設の運転方法である引用発明の解決課題は,従来,全ての風力発電設備から常に定格出力電力が得られるとは限らず,風力発電施設全体の最大電力出力を連続して出すことができなかった風力発電施設において,常に送電網の最大許容送電量を出力できるようにして,送電網の送電網構成部品が最適化された態様で利用できるようにすることである

 したがって,引用発明と本願発明とは,解決課題において,相違する
 また,課題解決手段をみると,引用発明では,常に送電網の最大許容送電量を出力できるようにしたものであるのに対し,本願発明では,電力網の周波数や電圧が基準値より高いか又は低いときに,ウインドパークの供給電力を低減する,すなわち,ウインドパークの供給電力を,送電網の最大許容送電量との関係によらず,電力網の周波数や電圧により制御するものである点において,両者は,課題解決手段において相違する。

 そうすると,本願発明の課題解決手段は,引用発明の課題解決手段を採用することに対する妨げになるから,引用発明に相違点2に係る構成を組み合わせることには,阻害要因があるといえる
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サポート要件の判断事例

事件番号 平成22(行ケ)10097
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) サポート要件について
 本件特許は,平成7年12月1日出願に係るものであるから,法36条6項1号が適用されるところ,同号には,特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている(サポート要件)。
 特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。法36条6項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである
 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 本件明細書のサポート要件の充足性について
 これを本件発明についてみると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件出願日当時,そこに記載の本件各化合物の製造方法が当業者に周知の技術であったことは,前記1(3)に認定のとおりである。
 また,前記1(2)エ(エ)に認定のとおり,本件明細書には,BF灰に,水と本件化合物2の塩を0.4ないし0.8重量%加え,混練したものから重金属の溶出が抑制されていることが記載されている(重金属固定化能試験)。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各化合物が飛灰中の重金属の固定化処理剤として使用できる旨の記載があるといえる。そして,前記1(2)ウに認定のとおり,本件発明の目的は,飛灰中に含まれる重金属を安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に固定化できる方法を提供することであり,上記のとおり,重金属固定化能試験に関する発明の詳細な説明の記載により,当業者は,本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。

 以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。よって,本件発明の特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号に違反せず,本件審決の判断に誤りはない。

(3) 原告の主張について
 以上に対して,原告は,本件各化合物が,その合成方法により硫化水素及び二硫化炭素の発生源であるチオ炭酸塩を含有したりしなかったりするならば,本件発明の特許請求の範囲の記載には硫化水素が発生する場合が含まれることになるばかりか,本件明細書には二硫化炭素を発生させないという効果についても記載がないから,本件明細書がサポート要件を満たさない旨を主張する。
 しかしながら,本件発明の特許請求の範囲の記載には,本件各化合物からなる飛灰中の重金属固定化処理剤との記載があるのみであり,本件発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであることは,前記のとおりであって,本件各化合物が,その合成方法によっては副生成物としてチオ炭酸塩を含有することがあるとしても,そのことは,本件各化合物及びそれが飛灰中の重金属固定化処理剤として使用できることについての開示を欠くことにはならない
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進歩性の裏付けとなる事項の実施可能性を実施可能要件の検討の際に検討を要しないとした事例

事件番号 平成22(行ケ)10097
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
 そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。

 これを本件発明についてみると,本件発明は,いずれも物の発明であるが,その特許請求の範囲(前記第2の2)に記載のとおり,本件各化合物(ピペラジン−N−カルボジチオ酸(本件化合物1)若しくはピペラジン−N,N′−ビスカルボジチオ酸(本件化合物2)のいずれか一方若しくはこれらの混合物又はこれらの塩)が飛灰中の重金属を固定化できるということをその技術思想としている
 したがって,本件発明が実施可能であるというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明を構成する本件各化合物を製造する方法についての具体的な記載があるか,あるいはそのような記載がなくても,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき当業者が本件各化合物を製造することができる必要があるというべきである。

(2) 本件明細書の記載について
 ・・・
 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には本件各化合物の製造方法についての一般的な記載はなく,実施例中に,・・・,本件化合物2の塩の製造例が記載されているにとどまる。
 他方,引用例2(昭和59年12月20日刊行)には,・・・本件化合物2・・・を常法を参考にして比較的簡単に合成した旨の記載があるほか,甲95(昭和40年(1965年)刊行)にも,・・・本件化合物2・・・をピペラジンと二硫化炭素から合成した旨の記載がある。このように,本件化合物2の製造方法について本件出願日を大きく遡るこれら複数の文献に記載されており,そうである以上本件化合物2を除く本件各化合物の製造方法も明らかであるから,本件各化合物は,本件出願日当時において公知の化合物であり,その製造方法も,当業者に周知の技術であったものと認められる。
 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の有無にかかわらず,当業者は,本件出願日当時において,本件各化合物を製造することができたものと認められる

 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に十分に記載されているものということができるので,法36条4項に違反せず,本件審決の判断に誤りはない。

(4) 原告の主張について
 以上に対して,原告は,本件発明が,硫化水素を発生させないという作用効果により進歩性が認められているのに,本件各化合物を製造するに当たって硫化水素の発生源であるチオ炭酸塩の副生を防止する方法が本件出願日当時に存在せず,引用例2等に記載のチオ炭酸塩を除く精製工程も本件明細書には記載がなく,本件明細書の記載により製造した本件各化合物(未精製品)によって本件発明を実施すると硫化水素が発生し,現に,原告らの実験結果もこれを裏付けているから,本件明細書が実施可能要件を満たさない旨を主張する。

 しかしながら,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件各化合物が飛灰中の重金属の固定化剤として使用できる旨を物の発明として特定しており,本件発明は,本件各化合物の製造に当たって硫化水素を発生させる副生成物の生成を抑制することをその技術的範囲とするものではない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に副生成物の生成が抑制された本件各化合物の製造方法が記載されていないからといって,特許請求の範囲に記載された本件発明が実施できなくなるというものではなく,法36条4項に違反するということはできない

 なお,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,前記(2)エ(ウ)に認定のとおり,本件発明は,飛灰中の重金属を固定化する際にpH調整剤と混練し又は加熱を行うという条件下でも分解せずに安定である,すなわち有害な硫化水素を発生させないことも,その技術的課題としているといえる(安定性試験)。しかし,上記技術的課題を解決するという作用効果は,他の先行発明との関係で本件発明の容易想到性を検討するに当たり考慮され得る要素であるにとどまるというべきである。
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2012年01月22日

発明による格別の効果の記載・示唆の有無が重要な判断要素であるとされた事例

事件番号 平成22(行ケ)10367
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

発明が,特許法29条2項に違反しないと判断されるためには,その前提として,常に,当該発明の効果が,当初明細書の「特許請求の範囲」又は「発明の詳細な説明」に記載又は示唆されていることが求められるものではない。しかし,先願主義の下,発明を公開した代償として,発明の実施についての独占権を付与することによって,発明に対するインセンティブを高め,産業の発展を促進することを目的とする特許制度の趣旨に照らすならば,当該発明による格別の効果が,当初明細書に記載又は示唆されているか否かは,発明の容易想到性の判断を左右するに当たって,重要な判断要素になることはいうまでもない。

 特に,本件のような,アミノ酸配列を規定したペプチドに係る発明については,
@ 特定のアミノ酸配列が,ペプチドにおける既知のアミノ酸配列を変化させて,ペプチドの物性を改良することは,全ての当業者が試みるものと解されること,
A アミノ酸の数が少ないペプチドについて,当該発明の効果を切り離して,単に製造をするだけであれば,さほど技術的な困難を伴わないと解されること等
の諸事情を勘案すると,容易想到性の有無を判断するに当たり,当該発明の効果は,重要な技術的意味を有する考慮要素とされるべきである。

 もっとも,当該発明の効果は,常に,当初明細書に記載されていることを要するものではなく,当初明細書に記載されなかった効果について,追加記載ないし事実主張や立証の補充が,全て排斥されるとまではいえない。しかし,前記特許制度の趣旨に照らすならば,本件のようなアミノ酸配列を規定したペプチドに係る発明については,当初明細書に記載されなかった効果についての追加記載及び事実主張や立証の補充が許容される場合は,限定される場合が多いものと解するのが相当である。
 ・・・
 ・・・本件当初明細書における上記記載内容のみでは,当業者において,本件当初明細書に本件ペプチドの効果について実質的に開示がされていたとはいえず,また,本件当初明細書に当時の技術常識から当業者が本件発明の効果を認識できる程度の記載があったとも認められない。

ウ 「第4,1 はじめに」において言及したとおり,本件のような,アミノ酸配列を規定したペプチドに係る発明については,@ペプチドにおける既知のアミノ酸配列を変化させて,ペプチドの物性を改良することは,全ての当業者が試みるものであり,かつ,Aアミノ酸の数が少ないペプチドについて,当該発明の効果を切り離して,単に製造をするだけであれば,さほど技術的な困難を伴わないと解されること等に照らすならば,本件ペプチドは,当業者において,引用発明に基づいて,容易に,その構成に至ることができたものというべきであり,本件発明には,当業者が予測できない効果が存在すると認めることもできないことから,本件発明は,当業者が,引用発明に基づき,容易に想到し得た発明といえる。
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編み物と編み図の著作物性の判断事例

事件番号 平成22(ワ)39994
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

 以上を前提に,原告編み物の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ そこで検討すると,原告は,原告編み物について,いずれも「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される別紙図面記載の構成(本件構成を有するものであって,この点に創作性が存在すると主張するものであるところ,確かに,前記(1)オでみたとおり,原告編み物は,Aモチーフの中心部分で編み目の方向が変わるとともに,寄せ目部分で編み目が重なることにより編み目が直線状に浮き上がって見え,この線が,原告の主張する別紙図面記載のAの線として看取できるものとなっており,また,隣接するA,B,Cモチーフをそれぞれ異なる色とすることにより,モチーフ同士のとじ目を境として両側の色が異なるものとなり,その境界部分がB又はCの線として看取できるものとなっていることが認められる(・・・。)。
 そうすると,原告編み物は,前記認定のとおり,編み目の方向の変化,編み目の重なりなどにより,線を浮き上がらせることによってAの線を表現し,かつ,隣接する各モチーフの色を異なるものとすることによってB,Cの線を表現しているものであり,編み地が平面的で均一なものであることなどと相まって,A,B,Cの線で構成される直角三角形の形状を強調し,全体として,直角三角形をパズルのごとく組み合わせたような面白さや斬新な印象を表現しようとしたものと認められるのであって,原告編み物においては,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択,編み地の選択等の点が,その表現を基礎付ける具体的構成となっているものということができる。そうすると,原告編み物は,これらの具体的構成によって,上記の思想又は感情を表現しようとしたものであって,これらの具体的構成を捨象した,「線」から成る本件構成は,表現それ自体ではなく,そのような構成を有する衣服を作成するという抽象的な構想又はアイデアにとどまるものというべきものと解され,創作性の根拠となるものではないというべきである。
・・・
(2) 以上を前提に,原告編み図の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ  原告は,原告編み図には衣服のデザインとして本件構成が表現されているのであって,この点に原告編み物と同様に著作物性が認められるべきであると主張するが,争点(1)アに関する判断でみたとおり,本件構成自体は,そのような形の衣服を作成するという抽象的な思想又はアイデアにすぎず,上記思想又はアイデアを編み物として具現化する過程において,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択等によって具体的表現となるに至るものであるから,原告編み図に本件構成が表示されている点は,思想又はアイデアを表示したにとどまるものというべきであり,この点をもって,原告編み図に著作物性を認めることはできない。

 以上のとおりであるが,原告は,編み図は美術の著作物あるいは図面の著作物に当たると主張するので,以下,念のため,本件構成を含む編み図全体(各2枚目)について,著作物性を検討する。
ウ 原告編み図を美術の著作物としてみた場合,・・・,その具体的表現において,「美術の範囲に属するもの」というべき創作性を認め得るものではない

エ また,原告は,原告編み図は図面の著作物として著作物性を有する旨も主張する図面の著作物については,図面としての見やすさや,編み方の説明のわかりやすさに関する創意工夫が表現上現れているか否かによって創作性の有無を検討すべきものと解されるところ,・・・,原告編み図は,編み図における一般的な表示方法又は表示ルールに従い,他の編み図でも一般的に採用されている構成によって,原告編み物の作成方法を説明したものであると認められ,図面としての見やすさや,説明のわかりやすさに関し,特段の創意工夫を加えたものということはできず,図面の著作物としての創作性を認めることはできない
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出願後に補充した実験結果等を参酌できないとされた事例

事件番号 平成22(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 ・・・本願の当初明細書には,「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX−bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),・・・クロム(Cr),・・・鉄(Fe),銅(Cu),チタン(Ti),・・・白金(Pt),バラジウム(Pd),…からなる群から選択された金属元素・・・である・・・」(段落【0005】)と記載されているものの,M+aX−bで表される成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用する組成物については,発明の詳細な説明に具体的データの記載がなく,また,本願の組成物が脂肪酸やDNAを分解するメカニズムを説明する記載もなく,脂肪酸やDNAの分解において組成物中の各成分が果たす役割を実証する記載もない
・・・

(エ) さらに,原告は,「銅」以外の各種金属イオン,すなわち,「ニッケル」,「コバルト」,「クロム」,「鉄」,「チタン」,「白金」及び「パラジウム」などの金属イオン化合物が触媒機能を発揮することを立証するため,「銅」以外の各種金属イオンを含有する抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物を本願明細書の実施例1と同じ手順で調製し,実験例1及び2で述べた手法で検証したところ,金属イオン化合物が本願補正発明において触媒機能を発揮し,これらの化合物を使用して組成物を調製した場合においても所望の抗菌,抗ウィルス及び抗真菌作用を奏することが示されたと主張する。

 しかし,明細書等に記載されていなかった事項について,出願後に補充した実験結果等を参酌することは,特段の事情がない限り,許されないというべきところ,原告が主張する上記実験結果は本願の当初明細書に記載されておらず,それがいつ,どこで行われた実験であるか明らかでないばかりか,同主張が平成23年8月26日付け「技術説明書」と題する書面により初めて主張されていることからすれば,上記実験は本件訴訟提起後に行われたと推認されるし,本願の当初明細書又は出願時の技術常識から上記実験の結果が示唆ないし推認されるような特段の事情も認められないから,そもそも上記実験結果を参酌することはできないというべきである。
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明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができない訂正を新規事項の追加とした事例

事件番号 平成22(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ア 取消事由1(新規事項の有無についての判断の誤り)について
(ア) 本件補正(第2次補正)は,本願発明(第1次補正)における「・・・キノンからなる群から選択される酸化能力を有する試薬」との記載を「・・・酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2−ジヒドロキノン,および1,4−ジヒドロキノンからなる群から選択され」との記載に訂正する内容を含んでいる。

 しかし,特許法にいう補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),乙1文献によれば,「ジヒドロキノン」とは「ヒドロキノン」の2量体を意味するから,原告が本件補正において追加しようとした「1,2−ジヒドロキノン」及び「1,4−ジヒドロキノン」なる名称の化学物質が何を指すのか不明といわざるを得ないし,少なくともそのような名称を正しい名称とする化学物質が実在することを認めるに足りる的確な証拠はなく,このことは,原告が指摘する甲17文献及び甲18文献の前記記載によっても左右されない。そうすると,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,このような名称を有する化学物質がいかなる化学構造を有する物質であるかを理解することができず,そもそも上記補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができないので,上記補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということはできない

 したがって,「本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない」との審決の判断に誤りはない。
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2012年01月16日

へんしんふきごま事件控訴審判決

事件番号 平成23(ネ)10008
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 当審における当事者の補足的主張に対する判断
(1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,
@ 32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,
A 各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,
B 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。
 しかし,他方で,本件折り図は,・・・折り方を示すことを基本とし,・・・読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,折り工程の順番を丸付き数字・・・で示した上で,折り工程の大部分・・・について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。
 このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる点などにおいて相違する。

 以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない
 以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しない

イ また,原告は,本件折り図の「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,上記の点において共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。
 しかし,原告の主張は,主張自体失当である。

 すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない

 上記アのとおり,被告折り図と本件折り図とを対比すると,
@ 32の折り工程からなる折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)による説明手法
A いくつかの工程をまとめた説明手法及び内容,
B 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示しているという説明手法等において共通する。
 しかし,これらは,読者に対し,わかりやすく説明するための手法上の共通点であって,具体的表現における共通点ではない。そして,具体的表現態様について対比すると,本件折り図と被告折り図とは,上記アのとおり,数多くの相違点が存在する。被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない

第1審判決はここ
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2012年01月15日

火災保険改訂の説明書面の著作物性

事件番号 平成22(ワ)36616
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 本件説明書面の著作物性
ア 本件説明書面(甲2)は,別紙1のとおりのものであり,「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題して,本件改定の内容を顧客向けに文章で説明する本文部分(1枚目)と,地域別に建物の構造級別区分ごとの保険料率の改定幅を数値で示した一覧表及び本件改定の前後それぞれにおける建物の構造級別区分の判定の仕方をフローチャート方式で示した図表などが記載された別添資料部分(2枚目)とからなるものである。
 そして,本件説明書面のうち,上記本文部分においては,「主な改定の内容」が,「1.火災保険上の建物構造級別の判定方法の簡素化」,「2.火災保険料率の大幅な改定」,「3.保険法の改定による対応」の3点に整理されて,それぞれの内容が数行程度の簡略な文章で紹介されるとともに,特に内容的に重要な部分については,太文字で表記されたり,下線が付されるなど,一見して本件改定のポイントが把握しやすいような構成とされている。
 また,上記別添資料部分においては,本件改定による建物の構造級別区分の判定方法の変更点について,一見して理解しやすいように,フローチャート方式の図表を用いた説明がされ,しかも,当該フローチャート図の中に,楕円で囲った白抜きの文字や太い矢印を適宜用いるなど,視覚的にも分かりやすくするための工夫が施されている

 以上で述べたような本件説明書面の構成やデザインは,本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で(甲3ないし5,弁論の全趣旨),本件説明書面の作成者が,本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から特定の選択を行い,その選択に従った表現を行ったものといえるのであり,これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができる。
・・・
ウ 以上によれば,本件説明書面は,作成者の思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作権法2条1項1号の著作物に当たるものといえる。
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2012年01月12日

外部から視認できない標章に売り上げへの寄与を認めた事例

事件番号 平成22(ワ)13746
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

b 被告標章2
 被告標章2は,フィルターの名称(ミネマリンフィルター)に係るものである。
 そして,被告大倉は,逆浸透膜浄水器の説明や,これを標準装備した分譲住宅の宣伝広告において,ミネマリンフィルターの使用を謳っており(甲33の2,甲40の2),フィルターに「ミネマリン」と表記する必要があったといえるから,外部から視認できないフィルターに付されていても,被告大倉に対する販売については,被告標章2の寄与があると認められる。
もっとも,被告標章2は,浄水器全体に付された標章ではなく,浄水器内部のフィルター4本のうち,ミネマリンフィルターである1本のみに付された標章である(甲3の1〜6)。

c 寄与割合
 以上のとおり,被告標章1−1,同2は,本件フィルター1に使用されているに過ぎない。しかも,被告NMT販売が販売した相手は,被告大倉1社であったことを考えると,上記フィルターを装備した浄水器の被告大倉への販売による利益全体に対する,被告標章1−1及び被告標章2の寄与した割合は,合計2%とみるのが相当である
posted by ごり at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標法

売上げに対する意匠の寄与と実施料率の認定事例

事件番号 平成22(ワ)13746
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

b 意匠法39条3項に基づく請求について
 前記aのとおり,CVQ−2000の販売により被告大倉が得た利益額は不明であるが,その売上額は,仕入価格である税込み28万5600円に販売台数である593台を乗じた1億6936万0800円を下回らないと認められる。
 そして,既に述べたとおり,一般の取引を念頭に置いた場合,本件意匠は売上げにほとんど寄与しないと考えられるから,その実施料率も低いと考えられ,2%を相当と認める
したがって,意匠法39条3項により算定される原告の損害は,338万7216円となる。
posted by ごり at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法