2012年02月28日

不使用商標登録取消審判における商標の使用(商標法50条1項)

事件番号 平成23(行ケ)10243
事件名 審決取消請求事件(商標)
裁判年月日 平成24年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 本件商標の通常使用権者であるフルーツキングミズノ(梅田店)は,「ももいちご」「百壱五」の文字が入った商品タグ(甲33,66の写真参照)を用いていたところ,同商品タグでは,「百壱五」の文字が「ももいちご」の文字に比べて小さい上,他の文字(「登録第4323578号」等)も使われるなど,本件商標において「ももいちご」「百壱五」の文字をほぼ同じ大きさで二段に並べたものとは,使用態様が異なる
 しかし,不使用商標登録取消審判における商標の使用とは,商標法50条1項が明示するように,必ずしも登録された商標と同一の商標の使用でなくても社会通念上同一と認められる商標の使用であれば足りると解されている。これは,現実の社会では,願書添付の商標見本と厳密な意味での同一の商標を,営業上絶えず同じ態様で固定して用いることはむしろまれであり,登録商標の使用の解釈を社会通念に合致するように行う必要があるためである。

 そこで検討するに,上記商品タグにおいて,文字の色や大きさから,「ももいちご」の部分が最も大きな自他識別能力を有することは明らかであり,「佐那河内の」の部分は,それに次いで自他識別能力を有するといえる。他方で,文字の大きさや内容からすれば,「登録第4323578号」「平成10年商標登録願第30450号」「百壱五」の部分は,いずれも自他識別能力は非常に小さいといえる。
 しかし,原告は,「百壱五」の部分につき,単に登録要件を充足するために本件商標に付加したものであり,客観的にみても,本件商標において漢数字である「百壱五」の部分は,「ひゃくいちご」のほか「ももいちご」とも一応読み得るものであり,ここから,数字の100と1と5,又は何らかの「いちご」との観念が生じ得るものの,あくまで平仮名の「ももいちご」を補足する部分であり,「百壱五」の部分自体が顕著な自他識別能力を有することは期待されていないと解されることからすれば,「ももいちご」「百壱五」の両方の文言が,文字の変更や欠落などなく,共に用いられていれば,字体や字の大きさに違いがあるとしても,本件商標を表す「登録第4323578号」「平成10年商標登録願第30450号」も表示されていることも併せ考慮すると,社会通念上,本件商標と同一の商標が使用されていると解すべきである
 そして,本件での商品タグ(甲33,66参照)において,「百壱五」の文字が小さいとしても,判読できないほど小さいわけではなく,他の文言が入っていても,「ももいちご」「百壱五」の両方の文言が上下二段に並べて用いられているものである。

 以上からすれば,甲33(写真)の赤丸で囲まれた商品タグにおいて,本件商標と社会通念上同一の商標が使用されているものと認めるのが相当である(なお,その写真内容からして,本件商標の指定商品である第31類「いちご」について使用されていることは明らかである。)。
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2012年02月26日

優先権主張の取り下げによる翻訳文提出期間の延長の主張

事件番号 平成23(行ウ)535
事件名 決定処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

 原告は,本件取下書の提出によって,本件国際特許出願に関する2007年(平成19年)1月23日を優先日とする優先権主張は取り下げられたものであり,その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がることとなり,ひいては,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も平成22年7月23日に繰り下がることとなる旨主張する。

 そこで,原告による本件取下書提出の効果について検討するに,前記争いのない事実等(1)ないし(3)のとおりの本件国際特許出願に係る事実経過からすれば,
 @ 原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約3条に基づいて,同条約8条に基づくパリ条約による優先権主張(優先権主張日・2007年(平成19年)1月23日(米国における先の出願の特許出願日))を伴う本件国際出願(受理官庁・欧州特許庁)をしたこと,
 A 本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされたこと(本件国際特許出願),
 B 本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったこと
が認められる。

 しかるところ,原告は,当該提出期間の満了日までに上記翻訳文をいずれも提出しなかったのであるから,特許法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなすものとされる。

 そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は,既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していないこととなるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続は,およそ観念することができないというべきである。
 してみると,原告による本件取下書の提出をもって,本件国際特許出願に関する優先権主張の取下げの効果を生じさせるものと認めることはできない。

同様の事件の判決はここ
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著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の解釈

事件番号 平成21(ワ)18463
事件名 著作権確認等請求事件
裁判年月日 平成24年02月16日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

 著作権法15条1項の,「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」とは,その文言からして,結果として「法人等の名義で公表されたもの」ではなく,創作の時点において「法人等の名義で公表することが予定されていたもの」と解釈するのが相当である

 そして,前記(1),(2)のとおり,本件では,原告の発意により,原告の従業員が本件対策問題集の編集著作を行ったものであるから,本件対策問題集は,創作の時点において,原告が,その編集著作物を利用,処分する権利を有しており,その名義により公表することが予定されていたということができる(実際に編集作業に携わった,個々の従業員の名義の下に公表されることが予定されていたことを窺わせる事情はない。)。

 この点,本件対策問題集は,当初発行に当たり,編集著作者を意味する「編者」が日本漢字教育振興会と表記されていたものであるが,前記(2)のとおり,その編集著作者は,原告の従業員であり,日本漢字教育振興会を編者とする上記記載は実態に合致せず,上記記載のみをもって,日本漢字教育振興会(被告オーク)を本件対策問題集の編集著作者であるとみなすことはできない
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ウェブモール出店者による商標権侵害があった場合のウェブモール管理者への権利行使

事件番号 平成22(ネ)10076
事件名 商標権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(3) 検討
ア 本件における被告サイトのように,ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し,これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において,上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは,商標権者は,直接に上記展示を行っている出店者に対し,商標権侵害を理由に,ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが,そのほかに,ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。

 けだし,
 (1) 本件における被告サイト(楽天市場)のように,ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は,販売者・購入者の双方にとって便利であり,社会的にも有益な方法である上,ウェブページに表示される商品の多くは,第三者の商標権を侵害するものではないから,本件のような商品の販売方法は,基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること,
 (2) 仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても,出店者が先使用権者であったり,商標権者から使用許諾を受けていたり,並行輸入品であったりすること等もあり得ることから,上記出品がなされたからといって,ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと,
 (3) しかし,商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,ウェブページの運営者であっても,出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識,認容するに至ったときは,同法違反の幇助犯となる可能性があること,
 (4) ウェブページの運営者は,出店者との間で出店契約を締結していて,上記ウェブページの運営により,出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること,
 (5) さらにウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等
の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。

 もっとも商標法は,その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが,商標権は「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」権利であり(同法25条),商標権者は「自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから,侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。

イ そこで以上の見地に立って本件をみるに,・・・。以上によれば,ウェブサイトを運営する一審被告としては,商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。
(4) 以上によれば,本件の事実関係の下では,一審被告による「楽天市場」の運営が一審原告の本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないということになる。
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2012年02月25日

見解書等で進歩性を否定された発明と同様の発明が特許査定され、見解書等の無効確認請求等がなされた事例

事件番号 平成23(行コ)10001
事件名 審査結果無効確認及びその損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成24年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
裁判長裁判官 中野哲弘

2 本件見解書及び本件報告書において特許庁審査官の示した見解の適否について
(1) 事案に鑑み,本件見解書の請求項21及び22,本件報告書の請求項9〜13につき特許庁審査官が示した進歩性に関する見解の法適合性について判断する。
(2) 特許庁が示した上記見解は,一審原告たる控訴人が平成18年8月18日付けでなした国際予備審査の請求についてのものであるが,上記請求に対して特許庁審査官がなすべき見解の判断基準となるのは,PCT条約33条であり,その(1)には,「国際予備審査は,請求の範囲に記載されている発明が新規性を有するもの,進歩性を有するもの(自明のものではないもの)及び産業上の利用可能性を有するものと認められるかどうかの問題についての予備的なかつ拘束力のない見解を示すことを目的とする」と規定されているから,当該発明が
@ 「新規性を有するもの」か,
A 「進歩性を有するもの(自明でないもの)」か,
B 「産業上の利用可能性を有するものか」がその基準となる
ものである。
 そして本件見解書及び本件報告書において該請求項につき特許庁審査官が示した見解は,控訴人の出願した各発明は(請求項21及び22,9〜13)は上記Aの「進歩性を有するもの(自明でないもの)」に該当しない,というものである。
 この要件は,国内出願に対して定められている特許法29条2項の「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたとき」と極めて類似するが,法的には同一ではない。控訴人は,本件各見解はPCT条約ではなく特許法29条2項に基づき判断されるべきである旨主張するようであるが,後に述べるとおり,採用することができない。
 そこで,特許庁審査官が示した上記各見解がPCT条約33条(1)に適合するものであるかについて,以下検討する。
 なお,国際予備審査請求に対する特許庁審査官の判断は,国内出願に対する別の特許庁審査官の判断とは別個独立になされるものであるから,仮に国際予備審査の対象となった国際出願と類似した内容の国内出願が控訴人により別途なされ,それについて日本国特許庁から特許査定を受け特許登録がなされたからといって,法的には別の手続である国際予備審査における特許庁審査官の見解表明が違法となるものでないことは明らかである。
 ・・・

カ 以上からすれば,本件国際予備審査請求における担当審査官は,本願発明9ないし13,21及び22の非自明性(PCT条約33条所定の要件)につき,当業者の立場に立って正しく検討した上で,これを否定したものといえ,その判断に誤りはない
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密接に関連したひとまとまりの技術の一部を抜き出した引用発明の認定

事件番号 平成23(行ケ)10134
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

【請求項1】
・・・
残部Feと不可避的不純物からなる鋼板を用い,水素量が体積分率で10%以下,かつ露点が30℃以下である雰囲気にて,Ac3〜融点までに鋼板を加熱した後,フェライト,パーライト,ベイナイト,マルテンサイト変態が生じる温度より高い温度でプレス成形を開始し,成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,下死点から10mm以内にて剪断加工を施すことを特徴とする高強度部品の製造方法。

 ・・・
第5 当裁判所の判断
 ・・・
 刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない

 しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
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2012年02月22日

ピンク・レディー事件−パブリシティ権を認めた判決

事件番号 平成21(受)2056 判決全文はここ
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年02月02日
裁判所名 最高裁判所第一小法廷  

3(1) 人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決民集42巻2号27頁,肖像につき,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決刑集23巻12号1625頁最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決民集59巻9号2428頁各参照)。
 そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,
 ○1 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,
 ○2 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,
 ○3 肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする
といえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となる
と解するのが相当である。


(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,上告人らは,昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その当時,その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから,本件各写真の上告人らの肖像は,顧客吸引力を有するものといえる。
 しかしながら,前記事実関係によれば,本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8cm,横3.6cmないし縦8cm,横10cm程度のものであったというのである。
 これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
 したがって,被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない
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ピンク・レディー事件−パブリシティ権を認めた判決

事件番号 平成21(受)2056 判決全文はここ
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年02月02日
裁判所名 最高裁判所第一小法廷  

3(1) 人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決民集42巻2号27頁,肖像につき,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決刑集23巻12号1625頁最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決民集59巻9号2428頁各参照)。
 そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,
 ○1 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,
 ○2 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,
 ○3 肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする
といえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となる
と解するのが相当である。


(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,上告人らは,昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その当時,その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから,本件各写真の上告人らの肖像は,顧客吸引力を有するものといえる。
 しかしながら,前記事実関係によれば,本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8cm,横3.6cmないし縦8cm,横10cm程度のものであったというのである。
 これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
 したがって,被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない
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2012年02月20日

引用文献に記載された技術内容の抽象化

事件番号 平成23(行ケ)10121
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 当該発明が,発明の進歩性を有しないこと(・・・)を立証するに当たっては,公平かつ客観的な立証を担保する観点から,次のような論証が求められる。すなわち,当該発明と,これに最も近似する公知発明(主引用発明)とを対比した上,当該発明の引用発明との相違点に係る技術的構成を確定させ,次いで,主たる引用発明から出発して,これに他の公知技術(副引用発明)を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に至ることが容易であるとの立証を尽くしたといえるか否かによって,判断をすることが実務上行われている
 この場合に,主引用発明及び副引用発明の技術内容は,引用文献の記載を基礎として,客観的かつ具体的に認定・確定されるべきであって,引用文献に記載された技術内容を抽象化したり,一般化したり,上位概念化したりすることは,恣意的な判断を容れるおそれが生じるため,許されないものといえる。そのような評価は,当該発明の容易想到性の有無を判断する最終過程において,総合的な価値判断をする際に,はじめて許容される余地があるというべきである。

 ところで,当業者の技術常識ないし周知技術についても,・・・,裁判手続(審査,審判手続も含む。)において,証明されることにより,初めて判断の基礎とされる。他方,・・・,立証に困難を伴う場合は,少なくない。しかし,当業者の技術常識ないし周知技術の主張,立証に当たっては,そのような困難な実情が存在するからといって
@ 当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に当たって,特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をすることが,当然に許容されるわけではなく,また,
A 特定の公知文献に記載されている公知技術について,主張,立証を尽くすことなく,当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱うことが,当然に許容されるわけではなく,さらに,
B 主引用発明に副引用発明を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に到達することが容易であるか否という上記の判断構造を省略して,容易であるとの結論を導くこと
が,当然に許容されるわけではないことはいうまでもない。

 上記観点に照らすならば,被告の主張は,次の理由から採用することはできない。すなわち,前記のとおり,引用発明は,その解決課題を「A」とする発明にすぎず,引用発明には,Bという本願発明の解決課題及びその解決手段についての開示ないし示唆は,存在しない。したがって,被告の主張に係る「C」との技術が,周知技術又は当業者の技術常識であるか否かにかかわらず,引用発明を起点として,周知技術を適用することによって本願発明に至ることが容易であるとはいえない。
 のみならず,被告の主張に係る「C」との技術が,周知例1ないし3の具体的な記載内容を超えて,技術内容を抽象化ないし上位概念化することなく,当然に周知技術又は当業者の技術常識であると認定することもできない。さらに,周知例1ないし3には,本願発明の相違点2に係る構成を採用することによる解決課題及び解決手段に係る事項についての記載も示唆もない。

 そうである以上,引用発明を起点として,周知技術を適用することによって本願発明に至ることが容易であると解することはできない。
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2012年02月19日

著作権の時効取得

事件番号 平成23(ネ)10028
事件名 損害賠償等,著作権侵害差止等,出版権確認等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 著作権の時効取得が観念されると解した場合,著作権の時効取得が認められるためには,自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作権(例えば,複製権)を行使する状態を継続していたことを要する
 換言すれば,著作権の時効取得が認められるためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利などを専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するのであって,そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月17日判決民集51巻6号2714頁参照)。
この観点から,本件をみると,・・・こと等の事実を認めることができる。

 上記認定事実によれば,亡Bの相続人が,控訴人日本教文社から印税を受け取ったり,控訴人日本教文社に対し本件@の書籍1の18版及び19版の奥付に誤った「Ⓒ」表示をさせたりした経緯を認定することはできるが,そのような経緯によっては,複製権等を独占的,排他的に行使する状態を継続している事実,及び他の者に対する著作権の行使を排除した事実を主張,立証したと認めることはできない
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課題と解決手段を検討し動機付けを否定した事例

事件番号  平成23(行ケ)10142
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 すなわち,引用発明は,素材を内外から加熱することに発明の特徴があるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,マイクロ波の素材への直接照射を遮断することに発明の特徴があり,両発明は,解決課題及び解決手段において,大きく異なる。
 引用発明においては,外部加熱のみによって加熱を行わなければならない必然性も動機付けもないから,引用発明を出発点として,引用刊行物2記載の技術事項を適用することによって,本願発明に至ることが容易であるとする理由は存在しない

 したがって,審決が,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。
posted by ごり at 19:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条2項

希望された面接なしに審決した手続

事件番号  平成23(行ケ)10245
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 原告は,本願に係る不服審判請求時,審判官との面接を希望したにもかかわらず,面接がされないまま,審決がされた手続には違法がある旨主張する。

 しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,特許法145条2項には,拒絶査定不服審判は,書面審理による旨が規定されている。したがって,当事者に面接の機会を与えなかったことは,特段の事情のない限り違法を来すことはない。また,本件において,審判合議体が原告に対し面接の機会を付与しなかった点に,審決の違法を来す特段の事情はうかがえない。したがって,原告主張に係る手続の瑕疵を認めることはできない。
posted by ごり at 19:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法その他

プロダクトバイプロセスクレーム−大合議判決と特許庁基準の比較

大合議判決と特許庁審査基準との比較

<所感>
 普通に物として特定できるのにあえてプロダクトバイプロセスクレームとした場合には、特許請求の範囲の特定どおり解釈した方が解釈原則を曲げないので筋がよい。不真性プロダクトバイプロセスクレームの解釈は大合議判決の方が良い。不真性→真性の立証責任を出願人に負わせることで広い権利範囲を得ることと立証責任の負担とのバランスがとれる。

 問題としては、
(1) 「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であること」の立証が困難ではないかということ、
(2) 物として特定できることの反証が示された場合に権利範囲が変動し、無効(拒絶)理由の有無も変わることから、予測可能性、権利の安定性を欠くこと。
(3) 出願人が立証をせずあるいは審査官が直ちに不真性プロダクトバイプロセスクレームとして特許査定を与えた後、権利行使の場面で権利者が真性プロダクトバイプロセスクレームの立証をした場合に審査を経ていない権利範囲で権利行使が可能となる点で、予測可能性、権利の安定性を欠くこと。
があげられる。
 ただし、(1)については疎明すればよしとすること、(2)、(3)についてはまず審査に当たりプロダクトバイプロセスクレームの場合には必ず「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であること」を立証させる運用とすることで、容易に解決できるのではないか。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(大合議判決)はここ
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技術常識を考慮した特許請求の範囲の用語の解釈

事件番号 平成23(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(イ) 原告は,本件補正発明においては,審決が引用発明1のデータ端末とコンピュータにそれぞれ対応させた「ウエブ・ブラウザ12」と「コンピュータ・ネットワーク装置22」とは「遠隔アクセス」する関係にある。「ウエブ」とは,インターネットまたはワールドワイド・ウエブと呼ばれる国際的なネットワークのようなコンピュータ・ネットワークを意味しているのに対し,引用発明1におけるデータ端末はコンピュータに収容されており,あるいはせいぜいLAN(構内通信網)6を介して接続されていることから,引用発明1は,「遠隔アクセス」を想定していないと主張する。

 しかし,原告のこの点の主張も,以下のとおり採用できない。すなわち,本件補正後の請求項1には,「遠隔アクセス」について,「ウエブ・ブラウザを用いて遠隔アクセスできるコンピュータ・ネットワーク装置によってアクセスするために,」との記載及び「前記電話番号情報の表示のためにウエブ・ブラウザを用いてコンピュータ・ネットワーク装置を遠隔アクセスし;」との記載はあるが,「遠隔アクセス」の内容は特定されていない。LAN上のサーバに情報を記憶しておき,ウエブ・ブラウザからサーバの該情報にアクセスして,ウエブ・ブラウザ上で該情報を表示することは,企業内ネットワークにみられるように,本願の優先日前において,当該技術分野では常套手段であるから,ウェブ・ブラウザを用いて「遠隔アクセス」することが記載されていても,その「遠隔アクセス」が,インターネットを介して接続される遠隔なアクセスに限定されるものではない
posted by ごり at 10:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年02月18日

編集著作物であると認めた事例

事件番号 平成20(ワ)20337
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) 上記認定事実によれば,原告書籍収録文書は,単に米軍押収文書を時系列に従って並べたり,既に分類されていたものの中から特定の項目のものを選択したりしたというものではなく,原告が,未整理の状態で保存されていた160万ページにも及ぶ米軍押収文書の中から,南北朝鮮のどちらが先に朝鮮戦争を仕掛け,戦争を主導したかを明らかにする文書という一定の視点から約1500ページ分を選択し,これを上記(1)のとおり原告の設定したテーマごとに分類して配列したものといえる。

 したがって,原告書籍収録文書は,全体として,素材たる原資料の「選択」及び「配列」に編者の個性が顕れているものと認められるものであり,編集著作物に当たるというべきである。
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2012年02月12日

商標法4条1項8号の解釈

事件番号 平成23(行ケ)10190
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

(3) 本件商標は,その構成中に引用商標3,5の「メルク」の文字を包含するものである。
 しかし,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標はその他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護すること,すなわち,人(法人等の団体を含む)は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護することにあるところ(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決裁判集民事217号595頁),問題となる商標に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず,当該他人を想起,連想できないのであれば,他人の人格的利益が毀損されるおそれはない。そうすると,他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく,その部分が他人の略称等として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものであることを要する

 かかる見地から見るに,本件商標の片仮名文字部分「メルクス」は需要者に一体として看取されると見るのが相当であり,「メルク」を独立して看取することはできないことは前記のとおりである。そうすると,「メルク」,「MERCK」,「Merck」が原告の名称の略称として,医薬品や化学製品の需要者のみならず,一般消費者の間において周知・著名であるとしても(その点において審決の認定には誤りがある),本件商標はそれを含む商標ではないとして8号に該当しないとした審決はその結論において誤りはない
posted by ごり at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標法

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(大合議)

事件番号 平成22(ネ)10043 判決要旨はここ
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 飯村敏明、塩月秀平、滝澤孝臣、東海林保

(2) 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について
ア 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について,法70条は,その第1項で「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とし,その第2項で「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」などと定めている。したがって,特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。

 特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。

 そうすると,本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。

 もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,法36条6項2号にも反しないと解される。そして,そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。

イ ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもある。前記アで述べた観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになるから,これを区別して検討を加えることとする。そして,前記アによれば,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。

 また,特許権侵害訴訟における立証責任の分配という観点からいうと,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である。
・・・

2 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものかについて
 法104条の3は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定するが,法104条の3に係る抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨は,上記特許無効審判請求手続において特許庁(審判体)が把握すべき請求項の具体的内容と同様に認定されるべきである。
・・・
 上記の観点から本件を検討するに,本件特許には,上記○1にいう不可能又は困難であるとの事情の存在が認められないことは前述のとおりであるから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定に際しても,特許請求の範囲に記載されたとおりの製造方法により製造された物として,その手続を進めるべきものと解され,法104条の3に係る抗弁においても同様に解すべきである。

<筆者注>
並行する審決取消訴訟はここ。プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について同趣旨を判示。
特許法180条の2の規定に基づき求められた特許庁長官の意見において特許庁の審査基準が解説(得られる結論はさておき、解釈は本判決と異なる。)されている。(判決第40頁〜第61頁)
(変更履歴付き(第64頁に痕跡あり。)のファイルがPDFに変換されているためか、判決の字が小さくやや読みにくい。)

大合議判決と特許庁審査基準との比較はここ
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標章にまつわる事情に商標権行使の目的を併せ考慮して商標権の行使を権利の濫用とした事例

事件番号 平成22(ワ)32483
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年01月26日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

3 争点4(原告の本件商標権の行使が権利の濫用に当たり許されないか)について
 被告標章4及び5について,被告に法32条1項の先使用権が認められないことは,上記2説示のとおりである。
 しかしながら,
(1) 社会通念上同一の標章と認められる「KAMUI」の標章をゴルフクラブ及びその関連用品であるキャディバッグへ使用することについては,上記2のとおり,被告に法32条1項の先使用権が認められ,また,上記2(1)の認定事実によれば,
(2) 原告と被告は,カムイクラフトの共同事業を解消した後は,原告は「KAMUITOUR」(カムイツアー),「ASIRI」(アシリ),被告は「KAMUIPRO」(カムイプロ),「TYPHOONPRO」(タイフーンプロ),「KAMUI」(カムイ)の名称でそれぞれゴルフクラブを販売し,日本国内では互いの名称について異議を述べたことは認められないこと,
(3) 被告が卑弥呼からCAMUI商標について使用許諾を得て,平成12年ころから被告のゴルフクラブに「KAMUI」の標章を使用し始め,被告のゴルフクラブに被告標章1,3等の「KAMUI」単独の標章を付すようになったこと,
(4) 原告は,被告が「KAMUI」単独の標章を使用していることをその使用開始から程なくして認識していたものの,本件商標が登録されるまで,その使用について特段異議を述べることはなかったこと,
(5) 原告は,本件商標が登録されるまで,日本国内で製造・販売するゴルフクラブに「KAMUI」単独の標章を使用することはなかったこと,
(6) 雑誌等においても,原告のゴルフクラブを「カムイ」のゴルフクラブとして扱うものは平成9年から平成11年までのものがほとんどで,「KAMUI」や「カムイ」の単独の表記が原告の標章として浸透していなかったこと
が認められる。
 そして,・・・総合すれば,原告が被告による「KAMUI」単独の標章の使用の事実を知りながら,あえて卑弥呼のCAMUI商標の取消審判を得た上で,本件商標を登録し,被告に対し本件商標権を行使したのは,韓国で被告が原告の「KAMUITOUR」の商標を付したゴルフクラブの取扱いの中止を各販売店に要請したことに報復する目的があったためであることが認められる。

 上記(1)ないし(6)の事情に原告の本件商標権の行使の目的を併せて考慮すれば,原告が被告に対し,本件商標(KAMUI)と類似すると認められる被告標章4(「KAMUI TyphoonPro」の標章)及び5(「KAMUI」と「PRO」から成る二段表記の標章)をゴルフクラブに使用する行為について,本件商標権を行使することは,正当な権利行使とは認められず,権利の濫用として認められないというべきである。
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判決中の特許請求の範囲の用語の明細書を参酌した解釈と文言解釈との対比

事件番号 平成23(ネ)10013
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

・【請求項1】
カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホストコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機とから成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,
 前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,・・・前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,
 前記端末機が,・・・前記座席表示情報を表示する表示手段と,
を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。
 ・・・
イ 発明の詳細な説明
 ・・・
(2) 上記記載によれば,本件各特許発明は,「券情報」と「発券情報」という2種類の情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報が2種になるために通信回線の負担が1種の場合に比べて2倍になってしまうとともに端末機の記憶容量と処理速度も2倍になってしまうという従来技術の問題点を課題として,これを解決すべく,管理センターに備えられるホストコンピュータにおいて,「券情報」及び「発券情報」に基づき,かつ,「座席管理地の座席レイアウト」に基づいて,1つの表示情報である「座席表示情報」を作成し,これをホストコンピュータから座席管理地に備えられる端末機に伝送し,当該端末機が,これを入力して,その表示手段(ディスプレイ等)において表示するという構成を採用することによって,前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウンが図られ,本発明のシステムの構築を容易にするという効果を達成した発明であると認めることができる。
 したがって,本件各特許発明の「座席表示情報」とは,ホストコンピューターにおいて,「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」といった個々の情報を1つの情報に統合することによって,これを端末機に送信すれば,端末機において他の情報と照合する等の格別の処理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報と認めるのが相当である。
・・・

 控訴人は,原判決が「他方で,本件明細書には,端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視することができるものとすることに関する記載はない」と説示されていることを理由として,このような認定は,本件明細書の記載のみに基づき行われているものであって,本件各特許発明の特許請求の範囲の記載に基づかない実施例限定解釈であって不当である旨主張する。

 しかし,本件各特許発明の1−B及び1−C並びに2−B@及び2−Cには,それぞれ「該ホストコンピューターが・・・」「・・・前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する・・・」と記載されているのであって,その文言解釈上,「座席表示情報」は,端末機に送信される以前に,ホストコンピューターにおいて「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」に基づいて表示される1つの情報として統合処理される情報であると解釈するのが相当であるから,本件各特許発明が「端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示」するものでないことは,特許請求の範囲の文言上明らかである。
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商標法53条の2所定の「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」

事件番号 平成23(行ケ)10194
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 被告は,世界貿易機関の加盟国である台湾において,別紙のとおりの構成からなる被告商標を有する。
 本件商標の指定商品は,被告商標の指定商品に含まれるから,被告商標の指定商品と同一又は類似の商品と認められ,本件商標と被告商標は,本件商標を付した商品と被告商標を付した商品との間で,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあり,両商標は類似する商標である。
 原告ないし原告代表者が,本件商標の登録出願の日前1年以内に,被告ないし被告との間で日本における輸入代理店契約を締結している者から,日本における独占販売権を付与されていたわけでいないものの,原告及び原告代表者と被告との間には,継続的な取引により慣行が形成され,原告及び原告代表者は,日本国内における被告の商品の販売体系に組み込まれるような関係にあった者とみることができるから,商標法53条の2所定の「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当する
 本件商標の登録出願は,被告の承諾を得ないで本件商標の登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者と同等の地位にあった商標権者によってされた。
・・・

 原告は,本件商標出願をした「正当理由」に係る事情として,「本件商標の価値を高めるため,宣伝活動を行い,多額の宣伝広告費用を投じて,これにより,日本国内における本件商標の価値が高まったこと」のみを挙げている。証拠(・・・)及び弁論の全趣旨によれば,・・・,原告がその費用として負担した金額,規模及び上記宣伝広告活動によって,本件商標が,上記ゴルフボールを表示するものとして,商標の価値を高めた事実は認定できない。
 そうすると,原告は,日本における輸入代理店契約を締結している者から,日本における独占販売権を付与されていたわけではなく,原告及び原告代表者が,被告との間で,継続的な取引を続けていたとの事実があるにすぎないこと等の諸事実を総合すると,本件商標登録は,「正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで」されたものであると認定するのが相当である。
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