2012年03月31日

自己の商品の形態を模倣した違法なものであるとして警告する場合の注意義務

事件番号 平成22(ワ)145
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成24年03月21日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(3) 原告は,被告の本件掲載行為及び本件送信行為によって営業上の利益を侵害されたとして損害賠償を求めているから,被告の故意,過失について検討する。
ア 競争関係にある者が販売する商品について,それが自己の商品の形態を模倣した違法なものであるとの疑念を持つ者が,当該販売者の取引先に対し当該販売者の商品は自己の商品の形態を模倣した違法なものであるとして警告する場合には,これにより当該警告を受けた取引先が警告者による差止請求,損害賠償請求等の権利行使を懸念し,当該販売者の商品の取引を差し控えるなどして当該販売者の営業上の利益を損なう事態に至るであろうことが容易に予測できるのであるから,自己の商品の形態を模倣した違法なものであるとの疑念を持つ者は,上記のような警告をするに当たっては,当該警告が不競法2条1項14号の「虚偽の事実」の告知,流布とならないよう,当該販売者の商品が自己の商品の形態を模倣した違法なものに該当するか否か,その前提として自己の商品の形態が法的に保護される形態に当たるか否かについて検討すべき注意義務を負うものと解するのが相当である。

イ 被告は,
 原告製品が発売された直後である平成21年10月5日に原告製品を購入し,同月9日にかけて,形状測定,車両側コネクターとの嵌合比較,目視比較,出力特性等の調査を行い,嵌合のための必然性のない部分も含めて原告製品の形態は被告製品の形態に完全に一致すること,出力特性,極性も同一であること,
 既に模倣品であることが判明していた台湾のGDL社製の製品と本体ユニット,車種別専用ハーネスの形態,出力特性等が完全に一致することを確認した結果,原告製品は被告製品の形態を模倣したものであると判断し,
 原告製品は被告製品を模倣した商品であり,原告の行為は不競法2条1項1号ないし3号の不正競争に当たるとして原告製品の販売の中止等を求める同月14日付けの通知書(甲1)を原告に対して送付したものの,原告から直ちに回答がなかったため,必要な調査を行い形態が完全に一致することを十分に確認した上で,対抗措置として本件掲載行為,本件送信行為を行ったものであり,被告の行為に違法性はなく,故意,過失もない旨主張
する。

 しかしながら,上記1で説示したように,被告製品の車種別専用ハーネス,本体ユニットにつき被告が原告により模倣されたと主張する形態は,商品の機能及び効用を確保するために不可欠な形態であるか,同種製品の一般的な形態であるから,原告が被告製品の「形態を模倣した」ということができないものである。それにもかかわらず,被告は,原告に模倣されたと主張する被告製品の形態について,ドライビングアシストコントローラー(スロットルコントローラー)という商品の機能及び効用を確保するために不可欠な形態に当たるか否か,また,同種製品の形態にどのようなものがあるかなど,被告製品の形態が不競法2条1項3号で保護される形態に当たるか,原告が被告製品の「形態を模倣した」といえるかを判断するに当たって当然に検討すべき事項に係る調査検討の有無,内容につき,何ら主張立証していないことからすると,被告が本件掲載行為,本件送信行為を行うに当たって上記注意義務を尽くしたものと認めることはできない。したがって,被告には過失が認められるというべきである。

 よって,被告は,本件掲載行為及び本件送信行為により原告が被った損害を賠償する責任を負う。
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2012年03月25日

国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間の経過と国際特許出願の取り下げ

事件番号 平成23(行ウ)542
事件名 決定処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

第3 当裁判所の判断
原告は,
@ 平成22年1月22日に原告が特許庁長官に対し本件国際特許出願に関して本件取下書を提出したことにより,本件国際特許出願における2007年(平成19年)1月23日を優先日とするパリ条約による優先権主張は取り下げられた,
A その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がる,
B その結果,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も,上記国際出願日である平成20年1月23日から2年6月が経過する平成22年7月23日に繰り下がることになる
旨主張する。

 しかしながら,原告の主張は採用することができない。
 すなわち,原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約に基づいてパリ条約による優先権主張を伴う本件国際出願をし,本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされ(本件国際特許出願),本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったにもかかわらず,原告は当該提出期間の満了日までに上記翻訳文を提出しなかった(前記第2の2(1),(2)ア,イ)のであるから,同法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。

 そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していなかったことになるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続を観念することはできないというべきである。

<同様の事件(同一原告)>
 平成23(行ウ)535 平成24年02月16日 東京地方裁判所  裁判長裁判官 大鷹一郎
 平成23(行ウ)514 平成24年02月16日 東京地方裁判所  裁判長裁判官 阿部正幸

<関連事件>
 平成23(行ウ)542、ブログ紹介はここ
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本願明細書に発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がなく、実施できないとされた事例

事件番号 平成23(行ケ)10251
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 特許請求の範囲の記載
 本件審決が判断の対象とした特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。・・・。

 中空軸の外周に転がり軸受の内輪を外嵌し,前記中空軸の軸端を径方向外向きに屈曲させて前記転がり軸受の内輪の外端面にかしめつけて,転がり軸受に対する抜け止めと予圧付与とを行う軸受装置であって,
 ・・・,
 前記硬化層のかしめ側端部の位置を関係式(1)に基づいて規定することにより,内輪と中空軸との間に隙間が発生しないようにされていることを特徴とする軸受装置。


第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(法36条4項に係る判断の誤り)について
・・・
エ 以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,当業者の技術常識を踏まえても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより,内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないこととなる理由が明らかにされておらず,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないものといわざるを得ない。

 ところで,法36条4項において,明細書の発明の詳細な説明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと規定した趣旨は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が実施できない発明に対して独占的な権利を付与することは,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるためであるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上,当業者は,出願時の技術水準に照らしても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないという技術上の意義を有するものとしての本願発明を実施することができないのであるから,その記載は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が当該発明を実施できることを求めるという法36条4項の上記趣旨に適合しないものである。
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技術常識が主張・考慮されず、文献の記載のみから判断された事例

事件番号 平成23(行ケ)10214
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・
(2) 以上のとおり,本願発明は,プリントヘッド素子を含むサーマルプリンタにおいて,周囲温度,プリントヘッド素子に以前に提供されたエネルギー及び印刷する予定の印刷媒体の温度に基づき,プリントヘッド素子の温度を予測し,その予測温度と所望の出力濃度に基づき,プリントヘッド素子に提供される入力エネルギーを計算するというものである。

・・・
(2) 以上のとおり,引用発明は,プリントヘッドの周囲温度,プリントヘッドの熱履歴及びエネルギー履歴から予測されるプリントヘッド要素の温度と所望の濃度に基づいて,プリントヘッド要素に供給する入力エネルギーを計算するというものである。

・・・
 しかしながら,
 本願発明は,周囲温度と,プリントヘッド素子に以前に提供されたエネルギと,プリントヘッド素子が印刷する予定の印刷媒体の温度とに基づいて,プリントヘッド素子の温度を予測するステップを有するものであるが,
 周知例1ないし3には,印刷媒体の温度に基づいて,サーマルヘッド(本願発明の「プリントヘッド要素」に相当する。)への印加エネルギー(同様に「入力エネルギ」に相当する。)を補正することは記載されているといっても,この補正は印刷媒体の温度に基づいて補正されるべきエネルギーを計算するものであって,プリントヘッド要素の現在の温度を予測するのに際して印刷媒体の温度を考慮することは何ら記載も示唆もされていない
 周知例1ないし3においては,印刷媒体の温度の影響を考慮して入力エネルギーを補正することによって,より適正な印刷ができるようにするとの目的を達成しているのであるから,周知例1ないし3は,プリントヘッド要素の温度を予測するために用いる要件として,印刷媒体の温度を選択することの契機となり得るものではない

 また,引用例には,周囲温度及びプリントヘッド要素に以前に提供されたエネルギーに基づいてプリントヘッド要素の現在の温度を予測するという引用発明を上位概念化して捉えることを着想させるような記載はないから,引用例にはプリントヘッド要素の温度を予測することが開示又は示唆されていると解釈した上で,印刷媒体の温度もプリントヘッド要素の温度に影響を及ぼす要素として周知であるとの事情を考慮することにより,プリントヘッド要素の現在の温度を予測する要件として,印刷媒体の温度を採用することが容易であるということもできない。

<筆者メモ>
a.本願発明 
 プリントヘッド素子へ以前に提供されたエネルギー + 印刷媒体温度 → プリントヘッド素子の温度予測
 プリントヘッド素子の温度 + 出力濃度 → プリントヘッド素子への入力エネルギー計算

b.引用発明
 プリントヘッドの熱履歴及びエネルギー履歴 → プリントヘッド要素の温度予測
 プリントヘッド要素の温度 + 所望の濃度 → プリントヘッド要素への入力エネルギー計算

c.相違点(その余は一致。)
 引用発明は、プリントヘッド要素の温度を予測する際に印刷媒体の温度(前記a.下線部)を考慮していない。

d.相違点に対する周知例
 印刷媒体の温度に基づいてプリントヘッドにおいて補正されるべきエネルギーを計算するもの。

e.裁判所判断:
 プリントヘッド要素の現在の温度を予測するのに際して印刷媒体の温度を考慮することは何ら記載も示唆もされていない。

f.筆者所感
 被告は下記技術常識を主張し、裁判所も考慮すべきではなかったか。

 サーマルヘッドは入力エネルギーにより制御される温度により印字濃度を調整するものであることは当業者には技術常識。
 そうすると、d.でのエネルギー補正は記録媒体温度のサーマルヘッド温度に与える影響(ex.+α度)を調整(ex.-α度)し、所望の温度で所望の印字濃度を得るためのものである。
 したがって、周知例にはプリントヘッド要素の温度を予測するために用いる要件として,印刷媒体の温度を選択することが記載ないし示唆されている。

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2012年03月18日

商標法56条1項が準用する特許法134条1項の趣旨

事件番号 平成23(行ケ)10184
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 本件審判手続における手続違背(取消事由4)について
(1) 本件審判手続の経緯
 原告らは,平成22年6月25日,本件審判を請求した。

 原告ハッピーに対し,特許庁長官は,同年7月8日ころ,本件審判事件の審判番号並びに本件審判事件の審判官及び審判書記官の氏名を(甲32,33),審判長は,同年9月17日,本件審判の審理は書面審理にする旨を(甲34),特許庁長官は,平成23年3月1日ころ,審判官及び審判書記官の変更を(甲35),審判長は,同月30日ころ,審理の終結を(甲36),それぞれ通知した。
 また,原告京都産業に対しては,審判長は,平成23年4月21日ころ,本件審判の審理は書面審理にする旨を(甲37),同月22日ころ,審理の終結を(甲38)それぞれ通知したが,特許庁長官は,本件審判事件の審判番号,本件審判事件の審判官及び審判書記官の氏名,審判官及び審判書記官の変更については,通知しなかった(弁論の全趣旨)。
 被告は,平成22年9月6日ころ,特許庁に答弁書を提出した(甲31)。特許庁は,平成23年5月6日付けで審決をし,同月13日,原告らに対し,審決書謄本と共に答弁書の副本が発送された(甲39の1,39の2,40の1,40の2)。

(2) 判断
 商標法56条1項が準用する特許法134条3項は,審判長は,答弁書を受理したときは,その副本を請求人に送達しなければならないと規定する。同規定は,審判請求手続において,答弁書が提出された場合には,その副本を請求人に送達して,請求人に被請求人の主張の内容を知らせ,請求人にこれに対応する機会を付与するなど,適正な審判手続を実現する趣旨で設けられた規定といえる。
 同項が設けられた上記の趣旨に照らし,本件審判手続の当否を検討すると,平成22年9月6日には被告から答弁書が出されていたにもかかわらず,答弁書副本が原告らに発送されたのは,答弁書提出から8か月を経過した後である平成23年5月13日であり,しかも,審決書謄本と共に発送されている。このような手続は,特許法が答弁書副本の送達を義務づけた上記の趣旨に著しく反した措置というべきであり,同法134条3項に違反する

 もっとも,審判長は,請求人に対し,答弁書に対する再反論等の機会を与えなければならないものではない(商標法56条1項が準用する特許法134条1項参照)。しかし,その点を考慮に入れたとしてもなお,審決書謄本とともに答弁書副本を送達した本件の措置が適法として許されるものとはいえない
posted by ごり at 11:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標法

拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与える理由

事件番号 平成23(行ケ)10406
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 特許法は,審判官が,拒絶査定不服審判手続において,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合には,審判請求人に対して,拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならないと規定する(平成14年法律第24号による改正前の特許法159条2項,50条)
 同条が,審判官において,査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に,相当の期間を指定して,意見書提出の機会を付与した理由は,審判請求人に意見を述べる機会を与えることによって,審判官の誤解などに基づいた判断がされることを,できる限り防止して,審判請求人に不利な審決がされることを回避することにあり,同規定は,審判請求人のための手続的な保障規定といえる。また,意見書提出のための相当の期間を定めることも,上記の手続的な保障を実質ならしめるためのものであると解される。

 上記の観点から検討する。本件においては,平成23年3月23日付けの拒絶理由通知に対する意見書の提出期限は,当初同年6月30日とされたが,原告からの合計3か月の期間延長申請に対して許可がされたことにより,同年9月30日まで延長された。しかるに,本件審判においては,上記提出期限より約2か月前である平成23年7月25日付けで審理終結通知がされ,同年8月9日付けで上記拒絶理由を理由として本件審決がされた。したがって,本件審決は,実質的に意見書提出の機会を付与することなくされたものであり,手続違背の違法があるといえる。

 この点,被告は,本件審決の審決書が送達される約1か月前である同年7月25日に,審理終結通知書が原告に対して発送されているから,原告に,意見書提出の意思があったのであれば,審理終結通知書が発送された時点で,特許庁に対して,確認,上申書提出などの行為をなし得たはずであると主張する。しかし,被告の主張は,意見書提出の機会を付与すべきと定めた特許法の上記の趣旨に反する主張であり,採用の余地はない
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2012年03月17日

引用発明の技術思想に反する設計変更

事件番号 平成23(行ケ)10237
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 ・・・引用発明のガスケット(6)に設けられた突条部17の役割は,その弾性力(反発力)で,可動側板(可動形側板4)を歯車端面側に押し付けることにあり,突条部17と可動側板の間に作動液(高圧流体)が侵入して,液圧でガスケットをケーシング(1)に押し付ける(押し上げる)こと等は想定されていないが,
 本願発明のガスケット又は可動側板に設けられる「凹欠」は,可動側板の溝の底部の隅(隅部)の「Rをとっている部位」すなわち曲面状の部位(部分)にまで達するように,例えば溝状の部分を設け,この部分に作動液が侵入できるようにして,ガスケットが作動液によって低圧側の溝壁に押し付けられたときでも,作動液の液圧で,ガスケットをケーシングに向かって押し付け,また可動側板を歯車端面に向かって押し付けて,可動側板の圧力バランス及び歯車端面に対する封止機能(シール)を確保できるようにするものである。
 そうすると,本願発明のガスケットの「Rをとっている部位」や「凹欠」が果たす機能と引用発明のガスケットの突状部17等が果たす機能は異なり,引用発明のガスケットでは,可動側板(可動形側板4)の溝底隅部でガスケットと可動側板との間に作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることが想定されていない。したがって,引用発明ではガスケットと可動側板(可動形側板4)との間の隙間10が可動側板の溝底隅の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶことが予定されていない
 ・・・
 そうすると,引用発明のガスケットと可動側板の構成を,可動側板の溝の低圧側側面と底面が成す曲面状の隅部にまで作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることができるよう,ガスケットと可動側板との間の隙間10が上記の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶように改めることは,突条部17の機能を害し,またガスケットの低圧側へのはみ出しを防止するという技術的思想に反するものであるから,上記構成に改める発想が生じるはずはなく,当然のことながら当業者には容易に想到できる事柄ということはできない
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社交ダンスの振り付けの著作物性

事件番号 平成20(ワ)9300
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) 社交ダンスの振り付けの著作物性について
ア 社交ダンスが,原則として,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであることは前記(1)アのとおりであり,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップは,ごく短いものであり,かつ,社交ダンスで一般的に用いられるごくありふれたものであるから,これらに著作物性は認められない
 また,基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることであり,前記のとおり基本ステップがごく短いものでありふれたものであるといえることに照らすと,基本ステップにアレンジを加えたとしても,アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは,基本ステップの範ちゅうに属するありふれたものとして著作物性は認められない

 社交ダンスの振り付けにおいて,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることがあることは前記(1)アのとおりであるが,このような新しいステップや身体の動きは,既存のステップと組み合わされて社交ダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものにとどまるということができる。このような短い身体の動き自体に著作物性を認め,特定の者にその独占を認めることは,本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになりかねず,妥当でない

 以上によれば,社交ダンスの振り付けを構成する要素である個々のステップや身体の動き自体には,著作物性は認められないというべきである。

イ 前記(1)アのとおり,社交ダンスの振り付けとは,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことである。このような既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには,それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当である。
 なぜなら,社交ダンスは,そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり,競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると,振り付けについての独創性を緩和し,組合せに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると,わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し,特定の者の独占が許されることになる結果,振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである。このことは,既存のステップの組合せに加えて,アレンジを加えたステップや,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを組み合わせた場合であっても同様であるというべきである。
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釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面に著作物性を認め、翻案権侵害等を認定した事例

事件番号 平成21(ワ)34012
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年02月23日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(4) 携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面は,釣り針に掛かった魚をユーザーが釣り糸を巻くなどの操作をして引き寄せる過程を,影像的に表現した部分であり,この画面の描き方については,・・・などの点において,様々な選択肢が考えられる

 原告作品は,この魚の引き寄せ画面について,・・・,特に,水中に三重の同心円を大きく描き,釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ,魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表した点は,原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり(甲3),この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。

 他方,被告作品の魚の引き寄せ画面は,・・・,原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴といえる
「水面上を捨象して,水中のみを真横から水平方向の視点で描いている点」,
「水中の中央に,三重の同心円を大きく描いている点」,
「水中の魚を黒い魚影で表示し,魚影が水中全体を動き回るようにし,水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で統一し,水底と岩陰のみを配置した点」,
「魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の一定の位置に来たときに決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点」
についての同一性は,被告作品の中に維持されている


 したがって,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面との同一性を維持しながら,同心円の配色や,魚影が同心円上のどの位置にある時に魚を引き寄せやすくするかという点等に変更を加えて,新たに被告作品の製作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。また,これらの事実に加えて,被告作品の製作された時期は原告作品の製作された時期の約2年後であること,被告らは被告作品を製作する際に原告作品の存在及びその内容を知っていたこと(甲1の1,2)を考慮すると,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面に依拠して作成されたものといえ,原告作品の魚の引き寄せ画面を翻案したものであると認められる。

(5) これに対し,被告らは,原告が魚の引き寄せ画面に関して原告作品と被告作品とで同一性を有すると主張する部分は,いずれも,単なるアイデア又は平凡かつありふれた表現にすぎず,創作的表現とはいえないと主張する。

 しかしながら,原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通点は,単に,「水面上を捨象して水中のみを表示する」,「水中に三重の同心円を表示する」,「魚の姿を魚影で表す」などといったアイデアにとどまるものではなく,「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」,「同心円の背景や水中の魚の姿をどのように描き」,「魚にどのような動きをさせ」,「同心円やその背景及び魚との関係で釣り糸を巻くタイミングをどのように表すか」などの点において多数の選択の幅がある中で,上記の具体的な表現を採用したものであるから,これらの共通点が単なるアイデアにすぎないとはいえない
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2012年03月16日

可分債権の一部請求を明示して訴えを提起し、残部についての権利行使の意思を継続的に表示している場合

事件番号 平成21(ワ)17204
事件名 職務発明の対価請求事件
裁判年月日 平成24年02月17日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(2) 被告は,原告の請求のうち,当初の請求額である150万円を超える部分(増額部分)の消滅時効は平成10年10月7日から進行し,上記150万円の訴訟提起によってもその時効は中断ぜずに進行を続け,平成20年10月6日の経過をもって時効期間が満了し,被告の消滅時効の援用により増額部分の請求債権は時効消滅したと主張する。
 しかし,数量的に可分な債権の一部につき一部であることを明示して訴えを提起した場合に,当該訴訟手続においてその残部について権利を行使する意思を継続的に表示していると認められる場合には,いわゆる裁判上の催告として,当該残部の請求債権の消滅時効の進行を中断する効力を有するものと解すべきであり,当該訴訟継続中に訴えの変更により残部について請求を拡張した場合には,消滅時効を確定的に中断すると解するのが相当である。

 本件において,原告は,訴状において,相当対価の総額として主張した約20億6300万円から既払額を控除した残額の一部として150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するとしつつ,「本件請求については時効の問題は生じないものと考えられるが,被告からいかなる主張がなされるか不明であるので,念のため,一部請求額を「150万円」として本訴を提起したものであり,原告は追って被告の時効の主張を見て請求額を拡張する予定である」として,本件訴訟手続において,残部について権利を行使する意思を明示していたと認められる。したがって,裁判上の催告により,当該残部の請求債権の消滅時効の進行は,遅くとも上記訴状を第1回口頭弁論期日において陳述した平成19年6月26日に中断し,その後,本件訴訟係属中に原告が訴えの変更により残部について請求を拡張したことにより,当該残部の請求債権の消滅時効は確定的に中断したものというべきであるから,被告の主張には理由がない。

 被告が指摘する最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決民集13巻2号209頁)は,明示的な一部請求における訴え提起による時効中断の効力を判示したものであって,被告の主張を根拠づけるものとはいえない。
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2012年03月11日

明確性(法36条6項2号)が争われた場合の用語の意義の確定事例

事件番号 平成23(行ケ)10108
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(ア) 本件審決は,本件発明1ないし3における水などのプロトン性物質の量に関して,「4−ADPA中間体の選択性を維持するために必要な程度に有意な量」の「反応に関与できる状態にあるプロトン性物質の存在」を必要とするものであるから,プロトン性物質については,ゼロではなく,有意な量が必要であるとする
 しかしながら,本件明細書では,「調節された量」について,・・・,下限値がゼロであってはならないとの記載はなく,むしろ,無水条件下で行うことができるかもしれないことが記載されているのである。
 しかも,実施例において,反応系に水は添加されていない。むしろ,無水条件化の方が,収量が最大となることが示されているものである
。・・・。

(イ) したがって,プロトン性物質の「調節された量」について,プロトン性物質として水を使用した場合には,無水条件,すなわち,当該水の量がゼロの場合が含まれるものということができる。

(ウ) この点について,被告は,本件発明1において,水などのプロトン性物質が存在することを前提として,その「調節された量」について,「4−ADPA中間体の選択性を維持するために必要な程度に有意な量」を意味するものであると主張するが,以上認定の限度では,その前提自体が誤りであるといわなければならない。被告の主張は採用することができない。

エ 小括
 以上からすると,「調節された量のプロトン性物質」には,プロトン性物質として水を使用した場合であるが,無水条件が含まれるのであるから,プロトン性物質が存在しない状態が含まれるものといわざるを得ない。
 したがって,「調節された量のプロトン性物質」について,「4−ADPA中間体の選択性を維持するために必要な程度に有意な量」として,「アニリンとニトロベンの反応に関与できる状態」で反応物中に存在している必要があるとした本件審決の判断は,無水条件を含まないという趣旨であるならば,誤りであるというほかない。

 もっとも,「調節された量のプロトン性物質」について,上記のとおり,プロトン性物質が存在しない状態が含まれるものと解し得る以上,「調節された量のプロトン性物質」の意義それ自体が不明確であるというわけではなく,明確性の要件に違反するということはできない
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プログラムの著作物性

事件番号 平成23(ネ)10063
事件名 プログラム著作権使用料等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 プログラムに著作物性があるというためには,プログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現でなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するところ,本件証拠上,本件プログラムが著作物性を備えるものであるといえるかについては疑義がある。
 しかし,前記のとおり,当審における争点は,専ら損害の額であるので,・・・


原審判決はここ
posted by ごり at 21:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権法

優先権主張(法41条1項)が認められなかった事例

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120301084713.pdf
事件番号 平成23(行ケ)10127
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

3 取消事由3(本件発明3,4に係る新規事項の追加の有無の判断の誤り,無効理由6関係)について
 ・・・特許出願(第1基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先1,甲16)にも,・・・特許出願(第2基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先2,甲17)にも,・・・特許出願(第3基礎出願)に係る明細書3(図面を含む。優先3,甲18)にも,・・・螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの(例えば甲16の段落【0016】,図2),傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされていない
 本件発明3の構成のうち,「その旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定した,」との構成すなわち第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定したとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号特許法等の一部を改正する法律附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件発明3についての特許法29条の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月10日を基準として発明の新規性を判断すべきである。

 原告は,基礎出願に係る明細書及び図面のすべての記載を総合すれば,「旋回溝の傾斜角度を通常の角度よりも小さいものとすることで,クランプロッドの旋回用ストロークを小さくしたクランプ」との技術的事項が開示されているものということができるし,本件発明3にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との限定は,上記「通常の角度よりも小さい」との技術的事項を明確にするものであるなどと主張する。
 しかしながら,本件発明3にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との限定(発明特定事項)は,具体的な数値範囲を限定するものであるところ,基礎出願に係る各明細書添付の図2は,寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことからも明らかなとおり,ガイド溝の構造を示すために用いられる模式図にすぎず,これから傾斜角度の具体的な数値範囲を読み取ることはできない。また,本件発明3のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。
posted by ごり at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法40〜52条

限定された実施例についての追加実験データ

事件番号 平成23(行ケ)10191
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 これに対し,原告は,
@ 甲15記載の追加実験データに基づいて本件訂正発明の作用効果を認定した審決の判断は誤りである,
A 本件当初明細書の段落【0044】,【0045】記載の実施例(例1のb),c))は,本件訂正発明における「HFC−365mfcが50質量%未満」との構成要件を満たさない
から,上記実施例から本件訂正発明の作用効果を認定した審決は誤りである旨主張する。

 以下,この点について検討する。
 甲15記載の追加実験データは,本件訂正発明のうち,限定された実施例について,限定された方法により実験された結果にすぎず,このデータのみから本件訂正発明の作用効果を認定することはできないというべきである。

 なお,本件当初明細書の段落【0044】,【0045】には,それぞれ,・・・との記載があり(例1のb),c)),これらの実施例は,本件訂正発明における「HFC−365mfcが50質量%未満」との構成を充足するものではない。

 したがって,甲15記載の追加実験データから,低温で熱遮断性に優れた発泡体を提供することができるという効果を確認できるとした審決には誤りがある。上記@の原告の主張には理由がある。
posted by ごり at 20:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条2項

2012年03月10日

文言解釈では一致する請求項の用語を、発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈し相違するとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 審決は,本願補正発明における「電力需給線路」に,先願発明の「送配電線網」は含まれるものと認定し,本願補正発明と先願発明に相違点は認められず,本願補正発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができないと判断して,本件補正を却下した。しかし,以下のとおり,審決の認定,判断は誤りである。
 ・・・
 本願補正発明における「電力需給線路」は,・・・,請求項1の記載のみでは,その技術的意義が明確ではないから,発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。
 補正明細書の記載によれば,「従来の電力系統」とは,図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムをいうこと,従来の電力系統では,・・・損失が多く,また,従来の電力系統との連係を前提とした系統連系型分散発電システムは,・・・大規模発電所を構築しにくいとの課題があり,これを解決するため,本願補正発明は,従来の電力系統に拠らない電力システムの提供を目的としていること(・・・),本願補正発明は,自立し,疎結合した各電力需給家が,少なくとも各1つの発電機器,蓄電機器及び電力消費機器と,電力需給制御機器とを備え,それぞれの電力需給制御機器において電力需給線路により相互接続されてなる電力システムであること,・・・が認められる。
 以上によれば,特許請求の範囲の請求項1記載の「電力需給線路」は,従来の電力系統に拠らない電力システムを構成し,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであり,各「電力需給家」において,電力の不足,余剰が生じた場合には,「電力需給制御機器」がこれを判断して電力を「受け取り」又は「渡し」,電流・電圧等の整合を行うが,「電力需給線路」を介して電力の移動が行われるものであることが認められる。
 すなわち,本願補正発明における「電力需給線路」は,「従来の電力系統に拠らない」【0006】ことを目的とするものであって,図8(従来の電力系統)が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備は含まず,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであるから,「電力需給線路」は,「従来の電力系統」とは異なるとともに,電圧等の整合を行うための構成を含んでいないと解するのが相当である。
 そうすると,本願補正発明における,電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器を相互接続するための「電力需給線路」は,「従来の電力系統」(図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備)を排除しているものと解すべきである。
 ・・・
 以上によれば,本願補正発明の「電力需給線路」は,従来の電力系統でないとともに「電力需給制御装置」とも区別されているのであって,電圧等の整合を行うための構成を含んでいないのに対して,先願発明における「送配電線網」は,従来の電力系統として変電所等の電圧等の整合を行うための構成を示すにとどまり,これを超える構成を示すものではないから,両者が相当するということはできない
posted by ごり at 11:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条の2

除斥期間(商標法47条1項)の経過と権利濫用の成否

事件番号 平成22(ワ)11604
事件名 損害賠償
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 商標権
裁判長裁判官 大鷹一郎

(2) 権利濫用の成否について
ア 上記(1)で述べたとおり,本件商標は,その商標登録当時,出願人たる原告において,自己の業務に現に使用していたとは認められず,かつ,自己の業務に使用する意思があったとも認められないものであって,その商標登録に商標法3条1項柱書きに違反する無効理由があることは明らかである。
 加えて,前記(1)イ(イ)で検討したところによれば,本件商標の商標登録後においても,原告が,本件商標を「墓地又は納骨堂の提供」の役務に係る業務において現に使用した事実は認められず,また,将来において本件商標を使用する具体的な計画があることも認められないものであるから,本件商標には,原告の信用が化体されているとはいえない

 これらの事情に鑑みれば,原告の本件商標権に基づく損害賠償請求権の行使を容認することは,商標法の趣旨・目的,とりわけ,いわゆる登録主義の法制下においての濫用的な商標登録を排除し,登録商標制度の健全な運営を確保するという同法3条1項柱書きの規定趣旨に反する結果をもたらすものといえるから,原告の被告らに対する本件商標権に基づく損害賠償請求権の行使は,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。

イ これに対し,原告は,本件商標については,商標法47条1項所定の除斥期間の経過により商標登録無効審判の請求をすることができず,したがって,被告らは,本件商標の商標登録が無効であることを理由とする権利行使制限の抗弁(商標法39条,特許法104条の3第1項)を主張することができないにもかかわらず,本件商標の商標登録に無効理由があることを根拠として権利濫用の主張を認めることは,上記除斥期間を定めた商標法47条1項の趣旨を没却することとなり,許されない旨を主張する。
 しかしながら,商標法47条1項の規定は,商標登録を対世的かつ遡及的に無効とするための無効審判請求との関係において,その請求のないまま一定の期間が平穏に経過した場合に,現存の法律状態を尊重し維持するために,商標登録についての瑕疵が消滅したものと扱う趣旨の規定であると解されるところ,商標権者の特定の相手方に対する具体的な商標権の行使が権利の濫用に当たるか否かの判断は,商標法47条1項の規定が対象とする無効審判請求の可否の問題とは異なる場面の問題である。上記権利濫用の成否は,当事者間において具体的に認められる諸般の事情を考慮して,当該権利行使を認めることが正義に反するか否かの観点から総合的に判断されるべきものであって,ここで考慮され得る事情については,特段の制限が加えられるべきものではない

 したがって,商標権の行使が権利濫用に当たるか否かの判断に当たっては,当該商標の商標登録に無効理由が存在するとの事情を考慮し得るというべきであり,当該無効理由につき商標法47条1項の除斥期間が経過しているからといって,このような考慮が許されないものとされるべき理由はなく,このことが同項の趣旨を没却するなどといえないことは明らかであるから,原告の上記主張は理由がない。
posted by ごり at 10:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標法

2012年03月08日

体験型装置の著作物性

事件番号 平成23(ネ)10053
事件名 損害賠償等反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成24年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

ア 創作性について
(ア) 著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号),・・・,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,当該作品等は著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない
(イ) 控訴人装置は,前記第4の1(1)のとおり,当初は舞台装置として使用されていたが,科学館や美術館等で美術作品として展示されたり,体験型装置として使用されているものである。・・・。このように,控訴人装置は,体験型装置としても用いられるが,控訴人が本件訴訟において著作物として主張するのは,上記のような動的な利用状況における創作性ではなく,原判決別紙反訴原告装置目録に示された静的な形状,構成における創作性である
(ウ) 控訴人は,そのような控訴人装置の創作性として,
 @ 「閉じた空間・やわらかい空間」であること,
 A 「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であること,
 B 「見た目の日本的美しさをもつ空間」であること(控訴人装置の上辺部分について,神社の屋根や日本刀の曲線に似ているような形状を有すること)
を主張
する。
 もっとも,控訴人装置は,体験型装置として用いられており,控訴人も,争点(4)において,不正競争防止法2条1項3号の「商品」に該当すると主張するものであって,実用に供され,又は産業上利用されることを目的とする応用美術に属するものというべきであるから,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美的特性を備えている場合に限り,著作物性を認めることができるものと解すべきである。
 そこで,以下,上記観点をふまえ,控訴人主張に係る@ないしBの各要素に基づき,控訴人装置の創作性について検討する。

イ @「閉じた空間・やわらかい空間」であることについて
(ア) 「閉じた空間」とは,控訴人装置が使用されている際の人によって広げられていない部分の空間の性質を示すものであり,使用時において中に入った人によって開かれていくという構想は,控訴人が控訴人装置で実現しようとした,控訴人装置によって構成された空間の性質に関する思想ないしアイデアである。・・・
(イ) 「やわらかい空間」とは,控訴人装置の中に人が入った使用状態において,中に入った人が周囲の空間が固定的ではなく,自在に変形するものと感じられる空間であるという思想ないしアイデアであり,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない。・・・

ウ A「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であることについて
(ア) 「浮遊を可能にする空間」であることは,控訴人が本件において著作物であると主張する控訴人装置そのものに表現されたものではなく,控訴人装置の中に人が入って使用された際,中に入った人が浮遊していると感じる状態になること意味するものであり,控訴人装置の機能を示すものにすぎない。・・・
(イ) 「宙吊り」は,控訴人装置の空間における配置を示すものであるが,それ自体では控訴人装置が空間に存在するという抽象的な観念を示すものにすぎず,具体的な表現を示すものとはいえないから,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない。また,控訴人装置を宙吊りにしたことは,装置の機能を発揮させるための構成であるともいうことができる。いずれにせよ,創作的表現と認めることはできない。

エ B「日本的美しさをもつ空間」であることについて
(ア) 「日本的美しさをもつ空間」であるということそれ自体は,控訴人の思想又はアイデアを示すものであって,ここに創作性の根拠を認めることはできない。また,控訴人は,ロープの「ずらし方」に創作性があると主張するが,それは,本体部分の布の形状を形成するための方法にすぎず,表現と認めることはできないし,張られたロープ自体の形状に創作性を認めることもできない

(イ) 控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,上辺部分について,神社の屋根や日本刀の曲線に似ているような形状を有することについて,創作性の根拠として主張する。原判決別紙反訴原告装置目録の写真によると,控訴人装置の上辺部分は確かに「く」の字に似た反った曲線を有しているものである。
 しかしながら,布状のチューブを宙吊りにする場合,本体部分の端部において支持具とロープとで固定することは格別珍しいものではない。その際,固定用のロープの角度や緊縮度によっては,チューブ部分に「たわみ」や「反り」が生じることはむしろ通常のことであると認められる。もちろん,ロープの角度や緊縮度を調整することにより,「たわみ」や「反り」の形状をも調整することが可能であったとしても,それにより生じるチューブ部分の上辺部分の形状について,制作者の個性が表現されたものとはいえないから,これをもって創作的な表現であるということはできない
 控訴人装置における上辺部分の「反り」についても,それが直ちに「神社の屋根や日本刀」のような美観を想起させるものということはできないし,仮に,そのように観察し得る余地があったとしても,創作的な表現とまでいえないことは,同様である。

(ウ) 控訴人は,控訴人装置は,「空間の生け花」と称され,日本的な独特な表現であるとして評価されており,控訴人装置の見た目の美しさ,控訴人装置内に入った際に体験者が感じる擬似的無重力環境という異次元空間の感覚が控訴人装置の最大の特徴であり,このような独特な空間構成力によって,控訴人装置は,国内外のどこにもない空間として成立しているなどと主張する。
 しかしながら,体験者が控訴人装置内に入った際に感じる感覚については,控訴人装置の機能を示すものにすぎない。また,著作権法によって保護すべき「著作物」であるか否かは,あくまで創作性の有無によって判断すべきであって,控訴人装置に対する評価が控訴人の主張するようなものであったとしても,前記判断が左右されるものではない。

(原審の筆者によるブログ紹介はここ。原審判決は本件装置が応用美術でないとする点、前記エ(イ)の点に創作性を認める点で本判決と異なる。
原審判決は 事件番号 平成22(ワ)5114 平成23年08月19日判決)

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2012年03月07日

請求項の開示範囲を考慮した引用例の認定

事件番号 平成23(行ケ)10178
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

ウ 原告らは,引用例で広く規定された数値範囲と一部重複するものの,引用例の実施例とは重複せず,しかも引用発明とは技術的思想が異なり,かつ異質で顕著な効果を奏する本願発明においては,数値範囲の重複は特許性を認められない理由とはならないと主張する。

 しかし,引用例には,実施例以外の引用例に特定される範囲のセルロースアシレートも,フイルムを製造するものとして記載されていると解される。そして,引用例に特定される範囲のセルロースアシレートのうち,引用例に実施例として記載されていないものについて,引用例に特定される範囲の中で,セルロースアシレートという化学物質を単に特定したり,さらにより限定された範囲を単に特定してみたりすることは,当業者が適宜想到し得ることにすぎない。
 そして,本願明細書において確認されているのは,特定の条件で製造されたドープや当該ドープから製造されたフイルムの性能のみである。本願明細書には,本願発明の範囲に含まれるセルロースアシレートという化学物質を特定したことによって,当業者が予測できない効果を奏することに関しては明らかにされていない

 また,本願発明のように,引用例の請求項1に開示される範囲に含まれるものであって,引用例に具体的に記載された実施例を含まない範囲を単に選択して特定することは,当業者にとって容易なことであるといわざるを得ない。
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法17条の2第4項2号所定の限定的減縮にあたるかどうかの判断事例

事件番号 平成23(行ケ)10178
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 本件補正の許否
ア 法17条の2第4項に基づく補正は,法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる(法17条の2第4項2号)。すなわち,補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることが必要である。

イ 本件補正事項に係る「ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造するためのセルロースアシレート」とは,セルロースアシレートがフイルムという物品を製造するための原料であり,そのフイルムの製造方法がソルベントキャスト法であることを特定するものであるが,補正前の請求項1には,セルロースアシレートが何らかの物品を製造するための原料であることや,その物品の製造方法に関して何ら特定する事項がない。よって,本件補正事項は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しない

 そうすると,本件補正事項を含む本件補正は,法17条の2第4項の規定に違反するものであるとして,これを却下すべきものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
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2012年03月06日

製造原料が同一であって製造方法が同一であれば同一の物が製造されるとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10185
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 そして,本件製法と引用発明に示されたLiTi12の製造方法とは,その方法として記載されたところを比較すると,いずれも焼成によりリチウムチタン複合酸化物(LiTi12はリチウムチタン複合酸化物の一種である。)を合成した後,これを粉砕して再焼成するというものであるが,両者の工程は,製造原料(金属原子比),乾燥方法,粉砕形式,液体粉砕助剤及び粉砕メディアの点において一致し,焼成温度,焼成時間,再焼成温度,再焼成時間の点では,引用発明製法の製造条件は,本件製法の製造条件の範囲に含まれるものとなっていることが明らかである。

 したがって,本件製法と引用発明製法とは,実質的に同一の製造方法であると認められるところ,製造原料が同一であって,製造方法が同一であれば,同一の物が製造されると解するのが自然であるから,引用発明においても,本願発明と同一のもの,すなわち,平均細孔直径が50ないし500Å で,かつpH値が10ないし11.2であるLiTi12が製造されると認めるのが相当である。

・・・
 しかしながら,仮に,引用発明製法における各製造条件の組合せや,粉砕時のボールミルの回転数など引用発明に明記されていない条件の設定によっては,引用発明製法により製造されたLiTi12が,平均細孔直径が50ないし500Åで,かつpH値が10ないし11.2とならない場合があるとしても,本願明細書には,本願発明に係るリチウムチタン複合酸化物粒子の製造方法として本件製法が記載され,かつ,粉砕時のボールミルの回転数やメディア及び水の量とチタン酸リチウムの量との比率を調整してpH値を意識的に調整することが必要であることについては何らの記載がなく,pH値を調整するため,粉砕時のボールミルの回転数やメディア及び水の量とチタン酸リチウムの量との比率を調整することが技術常識であるともいえないから,当業者が本件製法と引用発明製法で重なり合う製造条件の範囲でリチウムチタン複合酸化物粒子を製造すれば,通常は,その平均細孔直径が50ないし500Å で,かつpH値が10ないし11.2になるものというべきである(特許法36条4項1号参照)。
 実際,原告が引用発明の製造工程に準じ,本件製法と引用発明製法で重なり合う製造条件の範囲で行ったとする追試実験(甲13,14)においても,平均細孔直径が50ないし500Åで,かつpH値が10ないし11.2であるリチウムチタン複合酸化物粒子が製造されている(甲13の表Aの例B及び例C,甲14の表1の例3及び例4)。
 以上によれば,引用発明は,通常,本件相違点に係る本願発明の構成を備えたものであると認めるのが相当である。
posted by ごり at 22:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条1項