2012年05月27日

異なる技術的課題の解決を目的として同じ解決手段(構成)に到達したとされた事例

事件番号 平成23(行ケ)10298
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


 しかし,引用発明において,前記(1)アないしカ記載の周知技術を適用する動機付けは存在することは前記(3)のとおりである。そして,引用発明に上記周知技術を適用する動機付けがあることが明らかである以上,引用発明に上記周知技術を適用して相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。また,前記(4)のとおり,引用発明に上記周知技術を適用し,・・・,引用発明における記録方法によって行うことは,当業者が当然に行うものであり,その結果,引用発明における記録方法で記録された各情報層では,クラスタ間のリンキングセクタL3で,リンキング用セクタに配されたダミーデータどうしが重複することは,前記3で検討したとおりである。
 そうすると,引用発明に上記周知技術を適用し・・・,各情報層においてクラスタ間にはダミーデータが配されたマルチレイヤー記録担体の上方情報層を通過して下方情報層に達する光を照射する際に,上方情報層における光透過率が均一となることは,その構成から当業者には自明である

 したがって,本件補正発明が「均一な光透過率とすることにより,下方情報層へのデータ書き込みに悪影響を与えないようにするという」という課題を有するものであり,他方,引用発明は,このような課題を有するものではないとしても,異なる技術的課題の解決を目的として同じ解決手段(構成)に到達することはあり得るのであり,実際,引用発明に上記周知技術を適用することにより,相違点1に係る本件補正発明の構成とした場合には,各情報層はギャップが存在しないものとなる以上,引用発明が複数の情報層を備えていないからといって,本件補正発明と同様の構成とすることが想到し得ないということはできず,原告の主張は理由がない。
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特許出願の請求項の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定することの適法性

事件番号 平成23(行ケ)10296
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告は,審決は請求項1の発明の進歩性についてのみ判断し,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断しておらず,不当,違法であると主張する。

 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言や,特許出願分割制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決民集62巻7号1905頁参照)。
 なお,拒絶査定を受けた出願人が不服審判請求をするために請求項の数に応じた手数料を納付しなければならないのは,審判においてすべての請求項につき審理・判断の可能性があることに対応するものであって,出願拒絶についての可分的な取扱いと結び付くものではない

 したがって,審決が請求項2ないし4の発明の進歩性について判断をしなかったとしても違法ではなく,原告が主張する取消事由3は理由がない。
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特定の実施例の作用効果と発明の構成に基づく効果

事件番号 平成23(行ケ)10199
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 以上によれば,本件明細書に記載された本件発明の実施例(本件実施例)が達成した8%というEL効率は,発光層のホスト材料としてCBPを採用し,かつ,BCPからなる励起子阻止層を採用した場合に限って得られるものであって,発光層に「芳香族配位子を有するリン光性有機金属イリジウム錯体」を採用したことによって当然に得られるものとは認められず,したがって,当該イリジウム錯体に含まれるfac−Ir(thpy)3を発光層に採用したとしても,そのことによって上記の8%というEL効率が達成されるものとは認められない。

 以上のとおり,本件発明のうち,特定の実施例(本件実施例)が顕著な作用効果(8%というEL効率)を示しているとしても,当該作用効果は,本件発明の構成に基づいて得られたものとは認められないから,本件明細書は,それ自体,本件発明がその構成によって顕著な作用効果を有していることや,ましてfac−Ir(thpy)3を発光層に採用した場合に顕著な作用効果を発揮することを明らかにしているとはいい難い
 ・・・
 よって,本件発明の容易想到性の評価に当たって,本件実施例の有する作用効果を参酌することはできないというほかない。
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相当程度進行した請負契約の解除

事件番号 平成22(ワ)17142
事件名 物件返還等請求事件
裁判年月日 平成24年05月15日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判官 志賀勝(裁判長裁判官 阿部正幸 転補)

 被告代表者は,平成22年3月12日,原告に一方的に被告の仕事を辞めるようにと告げており,これは,本件各請負契約の注文者である被告が原告に対し解除権(民法641条)を行使したものということができる。このように,本件各請負契約は本件各物件が完成する前に解除されているものの,前記1(2),(3)及び後記イ,(2)アによれば上記解除の時点において,本件各物件の製作は相当程度進行していたことが認められるのであり,このような場合においては,既に製作された部分に対する請負契約の解除は許されず,請負人である原告は,被告に対し,本件各請負契約が解除された時点における本件各物件の完成度に応じた出来高に係る請負代金請求権を有すると解するのが相当である。
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2012年05月20日

機能クレームを実施例に沿って解釈して新規事項の追加ではないとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 取消事由1(本件補正の補正要件に係る判断の誤り)について
(1) 原告は,当初明細書には,マッサージ機の座面部,フットレスト及び足裏支持ステップの寸法を使用者の太ももから足裏の寸法に合うように設計するという本件構成により特定される技術的事項の記載がないから,本件補正は,新規事項の追加に該当し,補正要件を満たさないものであるなどと主張する

 しかし,本件構成は,本件発明1に係る椅子型マッサージ機について
「フットレストを垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で,座面部に座っている使用者が,お尻から太ももの範囲を座面部に接触させたまま,膝を曲げて足裏支持ステップに足裏を載せたときに,フットレストの座面部よりの端部において対向内側面と分離丘との間に脚が位置して,ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行える」
という機能によってその構成を特定したものであるところ,本件明細書(甲10)では,このような構成については,・・・などと記載されているほかは,図8において,フットレストを垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で,・・・,足裏支持ステップに足裏を載せたときに,・・・,ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されていることが示されているだけであって,椅子型マッサージ機の各部分の寸法等の具体的な構成は記載されていない
 本件明細書のかかる記載内容からすると,本件構成は,あらかじめ設定されているフットレスト等の寸法に適合する体形の使用者に限って上記機能が発揮されるものであって,あらゆる体形の使用者に対して上記機能が発揮されることがその技術的事項に含まれるということはできない

 したがって,原告の主張は,その前提において誤りであり,これを採用することはできない。
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主引用例に内在する課題を認定した事例

事件番号 平成23(行ケ)10218
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平


イ ところで,引用文献2(甲17)には,図7に係るインプラントとして,上下部分52及び54から成るインプラント50が記載され,その7頁には,
「インプラント50を形成する同種骨の単一部材を得るのが難しそうなとき,2個の部材,すなわち上下部分52,54でインプラント50を製造すると,より小さな同種骨を使うことができる。」(・・・)
と記載されている。
 この記載によれば,当業者は,相違点2に係る補正発明の構成と同様の技術的事項が記載されており,その技術的事項は図7に示されているような移植片骨の具体的な形状に拘わらないことが容易に理解できる。

 そして,引用発明にあっても同種骨の単一部材が手に入りにくいという問題は当然内在するから,引用文献2を知り得た当業者にとって,引用発明に対して引用文献2に記載された事項を適用することは格別困難ではなく,引用文献1には移植部材を複数の部材から構成することを排除する特段の記載もない

ウ 原告は,共通する技術分野に属するものであるからといって,全く異なった形状のインプラント同士である引用発明に引用文献2に記載された事項を採用して,補正発明のように,インプラントが単一ユニットを形成するために組み立てられた複数の相互連結ボディから形成されるように構成することについての示唆や動機付けはなく,たとえ組み合わせたとしても補正発明に到達することはできないと主張する

 しかし,引用文献2の当該記載に接した当業者には,記載された事項が図7に示されているような移植片骨の具体的な形状に拘わらない事項であることは容易に理解できるものであり,引用発明にあっても同種骨の単一部材が手に入りにくいという問題は当然内在するから,引用発明において,インプラントが単一ユニットを形成するために組み立てられた複数の相互連結ボディから形成されるように構成することについての示唆や動機付けはあると認められる。
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抽象的な記載を硬直的に認定したとされた事例

事件番号 平成23(行ケ)10091
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 ・・・,甲1発明を主引用例とした場合の相違点を判断するに際し,審決は,・・・として,甲2の記載からは開環型の形態とすることについて何らの示唆がされているとすることはできないとした。この判断において,審決は,CI−981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出されたとの事実を前提としたものと解される。

2 ここで本件発明1におけるCI−981半カルシウム塩に関して,本件明細書(甲19)には,以下のように記載されている。
 ・・・
 このように,本件明細書には,CI−981半カルシウム塩が「もっとも好ましい化合物」として記載されている。そして,他にも,CI−981半カルシウム塩が有利な化合物であるかについての本件明細書の記載として,「特に重要な化合物」(第10欄39〜43行)であり,「もっとも好ましい活性な化学成分」(第19欄44〜46行)であるという抽象的な記載があるものの,開環型であるCI−981半カルシウム塩とラクトン型とを比較して,開環型の方が何らかの有利な効果を有するものであることを具体的に明らかにしているわけではなく,逆に「実際に,塩形態の使用は,酸またはラクトン形態の使用に等しい。」(第16欄3〜4行)との記載もあるところである。

3 次に,甲2は,・・・特許公開公報であるが,そこには,以下の事項が記載されている。
・・・
 上記(ア)のとおり,甲2の特許請求の範囲の請求項6には,本件発明1のCI−981半カルシウム塩に相当する化合物である・・・が記載されている。上記(イ),(エ),(オ)には,甲2に示される化合物,すなわち上記(ウ)に記載される化合物が,血中コレステロールを低下させる,高コレステロール血症の治療剤として有用であり,上記(キ)には製剤化され,経口投与されることも記載されている。
 上記(オ)には,甲2に示される化合物について,まず塩の製造方法が記載され,塩形態の使用は,酸またはラクトン形態の使用に等しいことが記載され,・・・。そしてCI−981半カルシウム塩に該当する化合物が「最も好ましい態様」であることが記載されている

4 そうすると,審決が判断の前提としたように,CI−981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出された,と評価することはできないのであり,本件発明1は,単に「最も好ましい態様」としてCI−981半カルシウム塩を安定化するものと認めるべきである
 したがって,甲1発明との相違点判断の前提として審決がした開環ヒドロキシカルボン酸の形態におけるCI−981半カルシウム塩についての認定は,本件発明1においても,また甲2に記載された技術的事項においても,硬直にすぎるということができる。この形態において本件発明1と甲2に記載された技術的事項は実質的に相違するものではなく,この技術的事項を,甲1発明との相違点に関する本件発明1の構成を適用することの可否について前提とした審決の認定は誤りであって,甲1発明との相違点の容易想到性判断の前提において,結論に影響する認定の誤りがあるというべきである。
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2012年05月13日

本願発明の要旨の認定−明細書を参酌し発明特定事項を限定解釈した事例

事件番号 平成23(行ケ)10336
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 特許請求の範囲の記載
 平成22年4月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲(請求項の数4)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」といい,同補正後の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。)
【請求項1】 同じ構造のもの同士が複数隣接して結合し集合型コンピュータを構成するための結合型コンピュータであり,多面形状の複数のケーシング毎に,CPUやメモリIC及び入出力インターフェースなどのコンピュータ構成要素を内蔵し,・・・,前記ケーシングの各面に設けられた複数の入出力用信号伝達素子を前記多重スイッチルータを介して該ケーシング内の前記入出力インターフェースに接続し,前記入出力用信号伝達素子による他のコンピュータからの信号の取り込み,吐き出しを信号選択及びバイパス機能を有する前記多重スイッチルータを通じて行うようにし,前記多重スイッチルータにより前記ケーシングの各面に配設されたコードレス型の複数の入出力用信号伝達素子間にバイパスを形成できるようにしたことを特徴とする結合型コンピュータ。」
・・・

第4 当裁判所の判断
 ・・・
2 判断
(1) 「多重スイッチルータ」に関する認定,判断の誤りについて
ア まず,本願発明に係る「多重スイッチルータ」の意義について検討する。本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,多重スイッチルータに関して,・・・が記載されているが,多重スイッチルータの意義は,必ずしも一義的に明確ではない部分がある。そこで,本願明細書の記載を併せて参照することとする

 本願明細書の上記記載によれば,本願発明は,多数のコンピュータをクラスタ接続して集合型超コンピュータを構成するに当たり,・・・,集合型コンピュータを構成する各コンピュータの入出力インターフェース等のコンピュータ構成要素を多面形状のケーシングに内蔵し,入出力インターフェースに結合されたコードレス型の信号伝達素子をケーシングの各面に配設し,さらに,他のコンピュータからの信号の取り込み及び吐き出しを「信号選択」及び「バイパス機能」を有する多重スイッチルータを通じて行うようにしたものであることが認められる。

 そして,本願明細書の段落・・・によれば,○1 上記「信号選択」機能とは,他のコンピュータからのデータのうち自コンピュータが取り込むべきデータを選択的に取り込むために信号を選択する機能と,形成されたバイパスを含む信号伝送経路を選択するために信号を選択する機能とを総称したものであり,○2 上記「バイパス機能」とは,入出力用端子間に,入出力インターフェースに取り込まれることなくデータを伝送するためのバイパスを形成するものと認められる。さらに,本願明細書の段落【0015】によれば,「周波数,時間,符号を使ってデータ伝送経路の選択を行う」ことの例示として,各ポートに設定された周波数帯域に応じて互いに分離できるようにされた複数の信号が伝送される例が示されており,これらの記載は,いずれも「多重スイッチルータ」が周波数等を用いた弁別により互いに分離できる状態で複数の信号を伝送することを前提としたものと解される。

 そうすると,本願発明における「多重スイッチルータ」は,○1 データの導通と遮断を行う開閉ゲートとして作動し,ポートごとの周波数帯域を所定の値に設定することによってポートを閉じてデータの取り込みや吐き出しを阻止し,○2 各コンピュータが周波数,時間,符号を使ってデータの伝送経路を選択する際,特別の信号伝送経路制御装置を用意することなく,ポート間にバイパスを形成し,○3 バイパスが形成された場合には,当該コンピュータの入出力インターフェースに取り込まずにポートからポートへとデータを伝送する機能を有するものであること,また,「多重」とは,互いに分離できるように複数の信号を物理的に1つの伝送路により伝送することを意味するものといえる。
 以上によれば,本願発明に係る「多重スイッチルータ」とは,データの導通や遮断を行うスイッチとして作動し,かつ,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されるルータを意味するものであって,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されないルータはこれに含まれないものと解される。
 ・・・
 以上によれば,引用例2には,・・・いずれにおいても,ルータに複数方向からの入力が与えられてこれらが衝突する場合には調停が行われて,いずれかの方向からの入力についてのみ伝送が行われ,1つのメッセージを構成する複数のフリットは連続して入力され宛先に届くものであり,ある方向からの1つのメッセージを構成するフリットの伝送と他の方向からのメッセージを構成するフリットの伝送とは衝突し調停されるものといえる。引用例2には,・・・,衝突し調停されるものとされたメッセージを構成するフリットの伝送を,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送するものに変形することは,記載も示唆もされていない
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2012年05月06日

前訴の既判力が本訴に直接に及ばなくても、前訴の蒸し返しとなり訴訟上の信義則に反するとした事例

事件番号 平成21(ワ)31535
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(2) 検討
ア 前訴と本訴では,原告の請求権を基礎付ける特許権はいずれも本件特許権で同一であるが,前訴は本件特許権に基づく前訴マウスの使用等の差止請求権を訴訟物とするもので,前訴の確定判決により既判力が生じるのは,前訴の控訴審の口頭弁論終結時である平成14年7月9日における上記請求権の存否であるのに対し,本訴は前訴控訴審判決が確定した平成15年3月25日から本訴の提起日までの間における被告の本訴マウスの使用等による本件特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とするものであって,前訴と本訴では訴訟物が異なり,前訴の既判力が本訴に直接に及ぶものではない
・・・
 ・・・ところが,原告は,本訴において,上記争点について,前訴でした主張と同様の主張を行い,本訴マウスが構成要件Bを充足し,ひいては本件発明の技術的範囲に属する旨主張している。前訴1審判決及び前訴控訴審判決が示した構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」についての解釈は判決における理由中の判断であって,本訴はもとより,前訴においても既判力の対象となるものではないが,本訴において,原告が構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈を再び争い,本訴マウスが本件発明の技術的範囲に属すると主張することは,前訴の判決によって原告と被告との間で既判力をもって確定している前訴マウスの使用等による本件特許権に基づく差止請求権の不存在の判断と矛盾する主張をすることに帰し,実質的に,同一の争いを繰り返すものであるといわざるを得ない。 ・・・,民事訴訟法においては,単に新たな証拠が発見されたというのみでは,再審事由とはならず,相手方当事者又は第三者の犯罪その他の違法行為によって攻撃防御の方法の提出を妨げられた場合などに限り,再審事由(同法338条1項5号ないし7号,2項)としている趣旨に照らすならば,上記技術常識を可視的に立証することは前訴当時の技術では不可能であったが,本訴の時点においては,甲8の実験報告書によってその立証が可能になったからといって,前訴の蒸し返しとなる主張を行うことを正当化することはできない。
 したがって,この限りにおいて,原告の上記主張を採用することはできない。

(ウ) ・・・均等侵害の主張を含めて,原告が前訴において自己の攻撃防御を尽くす十分な機会と権能を与えられていなかったことをうかがわせる事情は認められない。

(エ) 一方,被告において,前訴控訴審判決が確定したことによって紛争が解決し,本件発明の各構成要件の充足性を判断する上では前訴マウスの構成と実質的に同一の構成といえるマウスを用いた実験等を行うことは本件特許権を侵害するものでなく,そのような行為を対象とした差止請求や損害賠償請求をされることはないものと期待することは合理的であり,保護するに値するものである。本訴において前訴と同一の争点について審理を繰り返すことは,このような被告の期待に反するものであって,そのための被告の応訴の負担は軽視することはできない。

ウ 以上の諸事情を総合すると,前訴と本訴は,訴訟物を異にし,差止め又は損害賠償の対象とされた被告の侵害行為等が異なり,しかも,本訴は前訴と異なる争点をも含むものであるから,原告による本訴の提起が,前訴の蒸し返しであって,訴権の濫用に当たり,違法であるとまで認めることはできない。しかし,本訴において,前訴における争点と同一の争点である構成要件Bの解釈について前訴と同様の主張をすること及び前訴で主張することができた均等侵害の主張をする点においては,前訴の蒸し返しであり,訴訟上の信義則に反し,許されないというべきである。
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2012年05月05日

優先権主張の利益を享受で きず新規性がないとされた事例

事件番号 平成23(ネ)10069
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 控訴人は,本件特許発明1にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にし」たとの限定も,「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との限定も,基礎出願の明細書及び図面から導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではないとして,これらの構成が特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載された発明に基づ」かないとする原判決は誤りであるなどと主張する。

 しかしながら,・・・基礎出願明細書1(図面を含む。乙2)にも,・・・基礎出願明細書2(図面を含む。乙3)にも,・・・基礎出願明細書3(図面を含む。乙4)にも,クランプロッド5の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの,傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされておらず,本件特許発明1の構成のうち,「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定」するとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号による改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきである。

 この点,控訴人は,当業者であれば基礎出願明細書1の段落【0005】等の記載から基礎出願において従来技術にはない小さな傾斜角度の旋回溝という技術的事項を採用したことを理解できるところ,旋回溝の傾斜角度やガイド溝の具体的な構成を開示するために明細書に添付されたのが,クランプロッドの下摺動部分の展開図である図2であって,当業者は図2から具体的な傾斜角度を理解できるなどと主張する。しかしながら,上記図2には寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことに照らしても,上記図2は装置の部材の概要を示した模式図にすぎず,図面から具体的な傾斜角度を読み取ることができる性格のものではないことが明らかである。また,本件特許発明1のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

 なお,原判決が判示するとおり(62頁),上記図2からガイド溝(旋回溝)間の隔壁の厚さとガイド溝の溝幅の大小関係を一応看取することができるとしても,当業者において「隔壁の最小厚さ」を「ガイド溝の溝幅」よりも小さくするという技術的思想まで看取することは困難であるから,本件特許発明1の「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との構成(発明特定事項)についても,改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでなく,かかる観点からも,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できないというべきである。

 そして,控訴人が上記平成14年10月2日以前(同年4月8日)に製造・販売を開始した「スイングクランプLH」は本件特許発明1の実施品であるから,本件特許発明1に係る特許(本件特許1)は新規性(特許法29条1項2号)を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである。
 控訴人は,「スイングクランプLH」は,製造装置(製造工程で使用される装置)の一部にすぎず,納入先での分解や改造は禁止されているから,「スイングクランプLH」の製造・販売によって同製品に係る発明が公然実施されたことになるものではないなどと主張する。しかしながら,「スイングクランプLH」の購入者が同製品を分解してその構成を知ることができなかったことを窺わせるに足りる事情は証拠上存しないのであって,控訴人の上記主張を採用することはできない。また,被控訴人らによる新規性欠如の主張や特許法104条の3の抗弁の提出が権利濫用であるということもできない

原審 大阪地方裁判所平成21年(ワ)第1193号 裁判長裁判官 森崎英二
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2012年05月04日

補償金請求権−市場の独占と超過利益、売上総利益の赤字と超過売上高

事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

イ 以上を前提として,本件ジャイロが本件発明1及び5の実施品であること・・・を踏まえ,更に検討する。
 本件発明1は,その効果として,・・・,接着剤が不要で,接着位置や接着層のばらつきなどによる特性のばらつきを回避することができる効果があったと認められ・・・,小型化でも有利であったと解される。また,本件発明5は,その効果として,共振周波数の調整を容易にする効果があったと認められ・・・,共振周波数の調整工程を簡略化できる効果があったと解される。そして,本件ジャイロは,・・・%の市場占有率を維持していた(前記1(3)ア)のであるから,本件発明1及び5の代替技術の存在が否定できないとしても,本件発明1及び5の実施による超過売上高が存在すると認めるのが相当である。また,本件発明1及び5の技術的範囲及び効果に加え,本件ジャイロの市場占有率を考慮すると,超過売上高の割合は40%と認めるのが相当である(・・・。)。

 (4) これに対し,被告は,独占の利益(超過利益)がない旨を主張するので検討する。
被告は,・・・,本件各特許権によって市場を独占できていないから,無償の通常実施権に基づく実施によるものを超えた利益は存在していない旨主張する。しかしながら,超過利益は発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益であって,市場の独占がある場合に限って超過利益の存在が認められるわけではないから,市場の独占ができていないからといって,超過利益の存在を否定することはできない。・・・
 ・・・
 ウ さらに,被告は,被告ジャイロ事業は,ほぼ毎年度赤字続きで,累積では売上高から売上原価を控除した売上総利益でみても赤字となっており,本件各発明を実施したことにより被告が受けた利益は全く認められない旨主張する
 確かに,・・・,被告ジャイロ事業が赤字であったことがうかがえる。しかしながら,改正前特許法35条4項の「使用者等が受けるべき利益」とは,権利承継時において客観的に見込まれる利益をいうのである。被告の提出する損益計算表(乙23)をみても,損失のある年度ばかりではなく,利益の認められる年度も存在する。そのことからは,本件発明1及び5の実施による事業はおよそ利益の上がらない事業ではなく,市場環境,被告の事業方針等によっては利益を生み出すことのできる事業であることが認められる。
 そして,別紙「CGシリーズ型式別売上金額」のとおり,被告には,本件発明1及び5の実施品の製造・販売により1億円以上の売上が十数年にわたって継続して認められるのである(そのうちの5年は,30億円を超える売上高である。)。そうすると,当該職務発明の実施に係る事業において最終的に損失があったとしても,上記のとおり,超過売上高が存在する本件においては,独占の利益を否定することはできないというべきである。
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補償金請求権−特許登録前の独占の利益(超過売上高)の有無とその割合

事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

(5) 最後に,特許登録前の独占の利益について検討するに,被告は,登録前に独占の利益は存在しない旨主張し,登録後の2分の1の独占力を認める考えがあり得てもそれは公開後に限られる旨主張する
 しかしながら,特許登録前であっても,出願公開後は一定の要件を満たせば補償金を請求することができるから(特許法65条),少なくとも出願公開後においては,事実上の独占力があると認められる。もっとも,差止請求権や損害賠償請求権は認められないから,その独占力が登録後と比較して小さいといえるのであって,本件発明1及び5の内容,効果等を考慮すると,その登録前の超過売上高の割合は登録後のものの2分の1と認めるのが相当である(なお,本件特許権1に係る出願公開は平成5年3月30日,本件特許権2に係る出願公開は平成7年1月10日であるから〔甲1及び5の各1〕,本件発明1及び5の実施品の販売はいずれも出願公開以降である〔前記1(2)〕。)。
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2012年05月01日

特許発明の本質的部分とは

事件番号 平成23(ワ)4131
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年04月12日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。
 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。

イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には以下の記載がある。
 ・・・
 そうすると,構成要件Eの「導入面取り部」は,本件特許発明1の課題解決手段である上記Aにおける基本的構成であり,特徴的原理を成すものであることが認められる。換言すれば,本件特許発明1において,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるには,構成要件Eの「導入面取り部」によりロック用留め具をロック位置まで案内することが必要不可欠の構成であり,課題解決の原理そのものであるというべきである。
 これに対し,被告製品では,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるため,構成要件Eの「導入面取り部」の構成によりロック用留め具を係合位置まで移動させる構成ではなく,ロック用留め具そのものを可動突部とすることにより下段コンテナの溝穴と係合させる構成が採用されている。

 したがって,被告製品の課題解決手段は,本件特許発明1の解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものとはいえず,むしろ,異なる原理に属するものというべきである。

 以上によれば,構成要件Eは,特許請求の範囲に記載された本件特許発明1の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分であり,特許発明の本質的部分に当たる。
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