2012年06月24日

補正が発明特定事項を削除する補正事項を含むとされた事例

事件番号 平成23(行ケ)10319
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 本願発明において,
「通信イベントのメディア・フォーマットが通信イベントの発信者により変更されるべきことを示す」ものであったところ,
 本件補正発明では,
「コマンド信号」は,「前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す」ものとなった
ことは,特許請求の範囲における文言から明らかであるから,本件補正により,「コマンド信号」における「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体は,「通信イベントの発信者」に限定されず,「サーバ」のように本願発明には記載されていないものも含まれるようになったものというほかない。そのため,本件補正により,通信イベントの受信者のサーバに対する指示であるコマンド信号において,メディア・フォーマットの選択の主体が発信者に限定されるコマンド信号のみならず,発信者に限定されないコマンド信号をも含むものとなるものである。

(2) したがって,本件補正は,本願発明における発明特定事項を削除する補正事項を含み,発明特定事項を限定するものではないから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない

(3) この点について原告らは,本件補正発明は,「通信イベントの発呼者」と明記されているとおり,通信イベントを発信するのは発呼者であるし,本件明細書【0044】の記載からしても,本件補正発明の「変更」の主体は「発呼者」というべきであるなどと主張する。

 しかしながら,本件補正発明の特許請求の範囲には,「通信イベントの発呼者」と,「前記の情報信号を受信した後のトランシーバユーザの入力に応じて,前記サーバにコマンド信号を送信する手段であって,該コマンド信号は,前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す,手段」との関係を示す発明特定事項は存在しないことは,先に述べたとおりである。
 そして,「通信イベントを発信する」ことと,「通信イベントのメディア・フォーマットを変更する」こととは,機能や処理内容が異なるから,両者の主体が同一とは限らないことはむしろ当然である。

 そうすると,原告らが指摘するとおり,本件明細書に「発呼者に,…通信イベントをオーディオまたはビジュアル・フォーマットで選択させる」との記載があるとしても,本件補正発明の特許請求の範囲の記載からすると,「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体が,本願発明と同様に,通信イベントを発信する者である「通信イベントの発呼者」に限定されているということはできない

(4) 以上からすると,本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当しないとして,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはない。
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不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当する場合における告知者の過失の有無の判断事例

事件番号 平成22(ワ)5719
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成24年05月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(4) 被告の過失の有無
 原告は,特許権侵害の告知が,特許が無効であるため,不正競争防止法2条1項14号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知」の不正競争行為に該当する場合における告知行為を行った告知者の過失の有無については,告知者が告知行為を行った時点を基準として,被告知者に現に示した特許発明(特許請求の範囲記載の発明)についての無効理由を前提に判断すべきである旨主張する。
 そこで検討するに,不正競争防止法2条1項14号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知」の不正競争行為を行った者の故意又は過失(同法4条)については,不正競争行為を行った時点を基準に判断すべきであり,これは,特許権侵害の告知が,特許が無効であり,又は特許に無効理由があるため,同号の不正競争行為に該当する場合も同様である。

 一方で,特許法128条は,「・・・」と規定し,確定した訂正審決の効力に遡及効を認めており,また,同法134条の2第5項は,特許無効審判における訂正請求について同法128条の規定を準用していることからすると,特許権侵害の警告等の告知行為を行った告知者は,仮に告知行為時点の特許請求の範囲記載の発明に無効理由があるとしても,告知行為後の訂正審判請求又は特許無効審判における訂正請求によって特許請求の範囲を訂正し,その無効理由を解消できるものと考えるのが通常であるから,告知行為後に訂正審判請求がされた場合において,当該訂正審判請求が同法126条1項,3項,4項の訂正要件を満たし,かつ,告知の対象となった製品が訂正後の特許請求の範囲記載の発明の技術的範囲に属するときは,その発明が独立特許要件(同法126条5項)を欠くとする理由(無効理由に相当)について告知行為を行った時点における過失の有無を判断するのが相当である。

 しかるところ,本件においては,・・・。
 以上を総合すると,被告の本件告知行為@,B及びEによる不正競争行為についての過失の有無は,各告知行為の時点で,別件判決2が判断した第2次訂正後の発明の進歩性欠如の理由(無効理由に相当)を前提に判断すべきである。これに反する原告の上記主張は,採用することができない。
 ・・・

イ 本件告知行為@,Bの時点における被告の過失の有無
 発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては,・・・,相違点に係る構成の容易想到性が一応認められるとしても,当該発明がその構成から当業者の予測を超える顕著な作用効果を奏する場合には,そのような作用効果が顕著である点において,当該発明が引用発明から容易想到であったとはいえないから,当該発明は進歩性を有するものと解するのが相当である。
 以上を前提とすると,被告の過失の有無は,被告が,本件告知行為@,Bを行った時点において,別件判決2が認定判断する第2次訂正発明1の進歩性欠如の理由,すなわち,「第2次訂正発明1の構成の容易想到性」及び「第2次訂正発明1の作用効果が顕著でないこと」の両方について調査確認すべき注意義務に違反したかどうかによって判断すべきである。

 そこで,まず,第2次訂正発明1の作用効果が顕著でない点に関する注意義務違反の有無について判断することとする。
 ・・・
 しかし,本件告知行為@,Bの時点では,別件無効審判事件に係る無効審判請求がされておらず,被告は,原告が行った実験結果である甲15の1,5を見ておらず,その内容を認識していないこと,一般に,自己の採用する方法が当業者の技術水準であると考えるのは自然であることからすれば,被告が,本件告知行為@,Bの時点で,甲15の1,5のような実験条件での発明の効果についても検討し,あるいは調査確認することにより,第2次訂正発明1に顕著な作用効果を奏さない部分があることを認識し,又はこれを予測することは困難であったというべきである。

b 以上によれば,被告が,本件告知行為@,Bの時点で,被告において,別件判決2が第2次訂正発明1の作用効果が顕著でないとした点について調査確認をすべき注意義務違反があったものとはいえず,被告に過失があるものと認めることはできない。
 ・・・

ウ 本件告知行為Eの時点における被告の過失の有無
(ア) 平成20年3月10日,原告から別件無効審判事件に係る無効審判が請求され,本件特許の実施例である本件化合物を正孔輸送材料として使用した場合と比較例であるNPDを正孔輸送材料として使用した場合とで効果に大きな差異はないとする原告による実験結果(本訴甲15の1・無効審判甲7)と,同旨の韓国の大学による実験結果(本訴甲15の2・無効審判甲8)が証拠として提出された(・・・)。したがって,被告は,本件告知行為Eの時点(平成20年11月ころ)では,甲15の1,2を認識していたものである。

 しかし,被告は,平成20年5月に自ら再現実験(乙30の実験)を行い,本件訂正明細書に記載された実験結果と概ね同様の結果を得ていたものであり(・・・),別件判決2において,乙30(・・・)の実験結果についても,信ぴょう性を疑うに足る内容を見出すことはできないと認定判断(・・・)されている。また,甲15の1の実験及び甲15の2の実験と本件訂正明細書に記載された実験は,前記(ア)aで述べたように,実験条件に種々の相違点があったものである。なお,原告は,別件無効審判事件において甲15の5(無効審判甲13)を提出しているが,それが特許庁に提出されたのは平成20年12月10日であると認められること(・・・)に照らすならば,被告が甲15の5を認識したのは本件告知行為E後と認められる。仮に被告が甲15の5を認識していたとしても,本件訂正明細書の実験と実験条件に種々の相違点があったことは,甲15の1の実験,甲15の2の実験と同様である。

 そうすると,被告が,本件告知行為Eの時点において,甲15の1,2には洗浄方法等の実験条件に不適切な点があったため,実験結果が誤っていると考えたとしても,直ちに不合理な判断ということはできない

 以上によれば,被告が,本件告知行為Eの時点で,第2次訂正発明1に顕著な作用効果を奏さない部分があることを認識し,又はこれを予測することは困難であったというべきであるから,被告において,別件判決2が第2次訂正発明1の作用効果が顕著でないとした点について調査確認をすべき注意義務違反があったものとはいえず,被告に過失があるものと認めることはできない。
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2012年06月18日

特許法121条2項の「責めに帰することができない理由」

事件番号 平成24(行ケ)10084
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文

1 特許法121条2項は,「拒絶査定不服審判を請求する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができないときは・・・その理由がなくなった日から14日・・・以内でその期間の経過後6月以内にその請求をすることができる。」と規定しており,「責めに帰することができない理由」とは,天災地変のような客観的な理由に基づいて手続をすることができないことのほか,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由をいうものと解される。
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2012年06月17日

特許権を破産裁判所及び破産管財人に申告しなかった破産者の損害賠償請求訴訟の原告適格

事件番号  平成23(ワ)38220
事件名  特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年05月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

1 原告適格の有無(本案前の争点)について
(1) 破産手続開始決定があった場合には,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は,破産管財人に専属するから(破産法78条1項),破産財団に関する訴訟は破産管財人が当事者適格を有する(同法44条1項・2項)。
 これを本件についてみるに,原告は,本件破産手続を廃止する旨の決定が確定した日(平成23年12月21日)よりも前である平成23年11月26日に本件訴訟を提起している(前提事実(2)オ,(3)イ)のであり,破産手続廃止の決定は確定しなければ効力が生じないから(破産法217条8項),本件訴訟の提起日においては,本件破産管財人が本件訴訟の当事者適格を有していたと解される。
 そうすると,本件訴訟は,その提起時において,原告適格を有しない者の訴えであったから,不適法な訴えであったといわざるを得ない。

(2) 原告は,その後,本件破産手続が終了し,原告が本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権の管理処分権を回復したから,原告適格の欠缺は治癒された旨主張する。

 そこで検討するに,確かに,破産手続が終了した場合には,・・・,破産者は当該訴訟手続を受継しなければならない(破産法44条4項・5項)。しかしながら,破産管財人の任務が終了した場合であっても,破産管財人は,急迫の事情があるときの必要な処分や財団債権の弁済をしなければならないし(同法90条),新たに配当に充てることができる相当の財産があることが確認されたときは,追加配当を行うことができる(同法215条1項後段)など,破産管財人の管理処分権限が認められる場合がある。
 このような破産法の規定に照らすと,破産手続が終結した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産終結後に当該財産をもって同法215条1項後段の規定する追加配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。・・・(最高裁平成3年(オ)第1334号同5年6月25日第二小法廷判決民集47巻6号4557頁参照)。
 加えて,破産手続が廃止によって終了した場合であっても,破産管財人は財団債権を弁済しなければならない(破産法90条2項)のであるから,破手続が廃止によって終了した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産手続廃止後に当該財産をもって財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。
 これを本件についてみるに,原告は,その陳述書(甲12)において,本件特許権を本件破産裁判所及び本件破産管財人に申告しなかったことを認めている上,本件破産手続の廃止決定以前に本件訴訟の委任状を作成し,その決定の5日後に本件特許権侵害の特許法102条1項の推定による損害額を1億0962万円と主張して本件訴訟を提起した(・・・)のであるから,本件特許権が価値を有する可能性があることを知りながら,本件破産裁判所に対して本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権を申告しなかったと認められる。

 そうすると,原告の重要財産開示義務(破産法41条)の違反によって,本件破産管財人は,本件破産手続の過程において,本件特許権の換価やこれに基づく損害賠償請求権の行使の機会を失い,ひいては本来行うべき財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の機会を失ったというべきであるから,財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定すべき特段の事情があったと認めるのが相当である。
 したがって,本件訴訟においては,口頭弁論終結時点においても,本件破産管財人が原告適格を有するというべきである。
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2012年06月10日

指定期間が経過しても請求書の却下決定をせずに請求人に3回確認する運用にならわなかった却下処分の違法性

事件番号 平成24(行ケ)10061
事件名 審判請求書却下決定取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に関する裁量について特許出願について拒絶をすべき旨の査定を受けた者は,その査定に不服があるときは,拒絶査定不服審判を請求することで特許査定又は拒絶査定の取消しを求めることができ(特許法121条1項,159条3項,51条,160条1項),その際,請求の理由等を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない(同法131条1項3号)ところ,審判長は,請求書がこの規定に違反しているときは,請求人に対し,相当の期間を指定して,請求書について補正をすべきことを命じなければならず(同法133条1項),請求人が当該補正命令により指定した期間内に請求書の補正をしないときは,決定をもってその請求書を却下することができるとされている(同条3項)。
 そして,特許法は,審判長が上記決定をすべき時期については何ら規定していないところ,上記補正命令に基づく補正が上記相当の期間内にされない以上,あえて当該決定を遷延させることについて積極的な意義は見出し難い一方で,当該補正が当該相当の期間経過後にされた場合,当該補正を却下して請求書を却下する決定をしなければならない理由も見当たらない。したがって,審判長は,請求書を却下する決定の要件が充足したとしても,直ちに当該決定をしなければならないものではないというべきである
 以上によれば,審判長は,特許法131条1項に違反する請求書について,同法133条1項に基づく補正命令により指定した相当の期間内に補正がされなかった場合,いかなる時期に同条3項に基づく当該請求書を却下する決定をするかについての裁量権を有しており,当該決定は,具体的事情に照らしてその裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り,違法と評価されるというべきである。
 ・・・
イ 他方,特許庁内部では,前記1(5)に認定のとおり,「審判事務機械処理便覧」という文書により,特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に先立って,請求人からの上申書等の有無や却下処分前通知書の発送を確認することとされているほか,請求人から,同条1項に基づく指定期間内に手続補正についての期間の猶予を求める上申書が提出された場合,審判長は,当該指定期間を経過しても直ちに請求書を却下する決定をするとは限らず,あるいはそのような上申書が提出されなくても,特許庁からの郵便はがきによる却下処分前通知又は電話による手続続行の意思の有無の確認を経てから,請求書を却下する決定をする運用が行われている。
 しかしながら,上記「審判事務機械処理便覧」という文書は,あくまでも事務担当者の便益のために特許庁内部における事務処理の運用を書面化したものであるにすぎず,特許法の委任を受けて請求人との関係を規律するものではないし,特許庁内部におけるその余の上記運用も,いずれも特許法に根拠を有する手続ではなく,実務上の運用として行われているにすぎないから,このような運用に従わない取扱いがされたからといって,そのことは,原則として当不当の問題を生ずるにとどまり,直ちに請求書の却下決定に関する時期についての裁量権の逸脱又は濫用となるものではない
 ・・・
ウ 以上によれば,原告は,本件拒絶査定により本件審判における争点を認識しており,当該争点についての立証について,本件審判の請求まで約4か月,本件指令書により指定された補正のための指定期間の満了まで約6か月にわたる準備期間を与えられていながら,その立証準備の状況等について何ら具体的に説明をせずに当該指定期間を徒過していたのであるから,原告が外国法人であって,本件事務所との間の意思疎通について内国人よりも時間と費用を要することや,本件決定に先立って,郵便はがきによる却下処分前通知又は電話による手続続行の意思の有無の確認といった特許庁内部で行われていた運用に従った取扱いがされていなかったこと,そして,そのことから,仮に,本件事務所において自ら補正の理由書を提出するまで本件請求書が却下されることはないと期待していたとすれば,本件審判長がその期待を与えたことを考慮しても,本件審判長は,本件請求書を却下した時点において,当該決定を遷延させ,もって原告のために更に補正のための猶予期間を与える必要はなかったものというほかなく,本件拒絶査定から約7か月後であって当該指定期間の満了から43日後にされた本件決定は,審判長が有する請求書の却下決定をする時期についての裁量権を逸脱又は濫用したものとはいえない。
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物の発明において,その発明を実施することができるとは

事件番号 平成23(行ケ)10254
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 取消事由2(実施可能要件に係る判断の誤り)について
(1) 実施可能要件
 物の発明において,その発明を実施することができるとは,その物を作ることができ,かつその物を使用できることを意味する。本件明細書(【0022】【0032】)には,本件発明に係る減塩醤油の製造方法の概要が記載されており,当業者が出願時の技術常識に基づき製造することができたものであると認められる。また,本件発明に係る減塩醤油は,所期の効果を有する減塩醤油として使用することができるということができる。
posted by ごり at 22:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法36条4項

商品・役務リストの分類を機能に照らして認定した事例(商標法50条2項)

事件番号 平成24(行ケ)10011
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第4 取消事由に対する被告の反論
1 特許庁の商品・役務リストの分類では,ネオンランプ,ネオン封入放電ランプ,ネオン灯あるいは放電ランプ,放電灯,アーク灯はいずれも電球類や照明器具と同様の類似群11A02に分類されているし,放電管のうち照明用のものもこの類似群11A02に分類されている(照明用以外の放電管は11C01)。
 類似群をまたがって機能を有する商品の場合,主たる用途がいずれであるかでその分類が定まるところ,ネオンランプの主たる用途は照明にあり,電球類等と同じ類似群に分類されるべきであるから,定電圧機能等を併せ持つとしても類似群が異なる「電子応用機械器具及びその部品」には当たらない。原告のカタログ(甲8の3)でも,「ネオン交換電球」の項目に「ネオンランプ」が記載されているから(21頁),原告の「ネオンランプ」も電球の類として用いられていることは明らかである。

2 回路基板のうち汎用のプリント回路基板のみが「電子応用機械器具及びその部品」と同じ類似群11C01に分類されるところ,原告の「センサー用LED基板」は照明用器具としての用途に用いられる回路基板であって,類似群11C01に分類されるべきものではない


第5 当裁判所の判断
 ・・・
 ここで,ネオンブラケットが用いられるパイロットランプは,これが取り付けられた機器の状態(例えばスイッチのオン,オフ)を示す表示灯としての機能を果たすものであるが,甲第25,第44号証によれば,ネオンランプ(ネオンブラケット)をその定電圧特性を活かして回路保護のために用いることがあることが認められるから,上記カタログにおける使用商標1,2の使用をもって,「電子応用機械器具及び部品」についての使用と評価することが可能である。
 ・・・

 上記「センサー用LED基板Assy」は基板上に複数のLED(発光ダイオード)を並べて実装したもの(甲10),・・・であるが,これらは顧客が画像解析装置を製造するために,注文を受けた原告においてその構成部品(装置)を設計,製造したものである(弁論の全趣旨)。
 ここで,上記「センサー用LED基板Assy」等が画像解析を行うために,対象となる物に光を照射する機能を果たすものであるとしても,日常生活において光を照らして空間を明るくする目的とは程遠いことは明らかである。そして,上記「センサー用LED基板Assy」等は,電子部品であるLEDやダイオード等を使用して構成されており,その機能に照らせば,電子の作用を応用し,その電子の作用が当該機械器具にとっての構成要素となっているということができる

 そうすると,原告は,「電子応用機械器具及びその部品」につき,取引書類である納品書や納入仕様書に使用商標1を使用したということができる。
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主引用例において機能的に結びついている構成の一方を省略する周知技術の適用

事件番号 平成23(行ケ)10284
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 他方,前記のとおり,引用発明が解決しようとする課題は,発酵槽内を複数の領域に概念的,論理的に区切り,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理する点にあり(甲1の2頁左下欄10〜16行),引用発明の撹拌機も,下記第1図のとおり,発酵槽(1)内からいったん移動通路(15)上に移動させた後,移動通路上を発酵槽の長尺方向に沿って他の領域の前(開口部側)まで移動させ,再度発酵槽内に移動させることによって,上記の領域ごとの被処理物の撹拌頻度の管理を可能にするものである。
 したがって,引用発明においては,撹拌機の構成と移動通路とは機能的に結び付いているものである。

 そうすると,引用発明の発酵処理装置の構成から移動通路(15)を省略し,かつ奥行き方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する甲第2,第3号証から認められる周知技術に係る撹拌機の構成に改め,同時に概念的,論理的に複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することができるようにすることは,甲第2,第3号証に表れる構成が当業者に周知のものであるとしても,本件出願当時,当業者において容易ではあったと認めることはできない
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「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」(法3条1項)の趣旨と立証責任

事件番号 平成24(行ケ)10019
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文

(1) 商標法3条1項柱書は,商標登録要件として,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標,あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される

 これを本件についてみるに,上記認定事実によれば,
@ 原告は,・・・原告使用商標を使用して本件店舗の宣伝,広告を行っていたこと,
A 原告は,・・・,原告使用商標を使用し,飲食物の提供を業とする本件店舗を開店したこと,
B 被告は,・・・にその登録を受けたが,現在に至るまで本件商標を指定役務である「飲食物の提供」やその他の業務に使用したことはないこと,
C 本件商標と原告使用商標(1)は,類似すること,
D 原告使用商標は,・・・造語で,特徴的なものである上,本件店舗の宣伝,広告及び開店と本件商標の登録出願日が近接していることからすれば,被告は,原告使用商標を認識した上で,原告使用商標(1)と類似する本件商標を出願したものと考え得ること,
E 被告は,・・・短期間に,本件商標以外にも44件もの商標登録出願をし,その登録を受けているところ,現在に至るまでこれらの商標についても指定役務やその他の業務に使用したとはうかがわれない上,その指定役務は広い範囲に及び,一貫性もなく,このうち30件の商標については,被告とは無関係に類似の商標や商号を使用している店舗ないし会社が存在し,確認できているだけでも,そのうち10件については,被告の商標登録出願が類似する他者の商標ないし商号の使用に後れるものであることが認められる。

 上記事情を総合すると,被告は,他者の使用する商標ないし商号について,別紙2のとおり多岐にわたる指定役務について商標登録出願をし,登録された商標を収集しているにすぎないというべきであって,本件商標は,登録査定時において,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標に当たらない上,被告に将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思があったとも認め難い
 ・・・
 したがって,本件商標は,その登録査定時において,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標にも,将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標にも当たらず,本件商標登録は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われたものとは認められず,商標法3条1項柱書に違反するというべきである。

(2) この点について,審決は,上記事情をもってしても,被告の本件商標に係る使用の意思について合理的な疑義があるとはいえないと認定,判断する
 しかし,登録商標が,その登録査定時において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に当たることについては,権利者側において立証すべきところ,本件商標についてこれを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,上記認定事実によれば,本件商標登録は,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用していない商標について,将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思もなく行われたものというべきであって,上記審決の認定,判断は失当である。
 ・・・
 付言するに,上記認定の事実関係に照らすと,本件商標は,原告使用商標を剽窃するという不正な目的をもって登録出願されたものとして,商標法4条1項7号(公序良俗に反するおそれのある商標)に該当する余地もあるが,本件においては,同法3条1項柱書該当性の判断で足りるものと解する。
posted by ごり at 10:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標法

解決課題の異なる主引用例

事件番号 平成23(行ケ)10208
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 以上のとおり,引用発明は,粘度の異なるインクの印刷ユニットを複数並べ,それぞれの印刷ユニットの長所を生かして,べた刷りも,細線印刷も美しく仕上げることのできる印刷装置を提供するものであるが,それらのインクを重ね刷りすることを前提としたものではなく,重ね刷りによる課題(・・・)の解決を目的としたものでもない。引用例には,重ね刷りによる印刷工程の促進を目指して開発されたウェットトラップ(甲2の段落【0004】)を採用することに関連した記載,及びウェットトラップを実施した際に生じる課題解決に関連した記載はない

 そうすると,本願発明の相違点に係る構成,すなわち「前記複数のインク層が,重なり合ったものであり,かつ,一番目のインク層から前記希釈剤の一部が蒸発することにより,前記インク付けステーションで前記被印刷体に塗布された一番目の液体インク層の粘度が増加し,前記被印刷体が前記インク付けステーション間を移行する際,前記一番目のインク付けステーションから間隔を置いて位置する次のインク付けステーションにおいて前記一番目のインク層上に塗布される前記二番目の液体インクをウェットトラップするように,一番目のインクの粘度が二番目のインクの粘度よりも高くされる」との構成について,当業者が引用発明に基づいて,容易に発明をすることができたものということはできない。
 ・・・
 また,仮に,ウェットトラップ印刷法が,本願優先日前における技術常識であったとしても,上記アのとおり,引用発明においては,インクを重ね刷りすることを前提としておらず,重ね刷りによる解決課題(色の汚濁の防止,印刷時間の長期化の防止等)を目的としたものではないから,引用発明からウェットトラップ印刷法を採用する動機付けは生じない
posted by ごり at 09:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条2項

印刷物上の商標の表示と指定役務についての本件商標の使用(商標法50条)

事件番号 平成23(行ケ)10348
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 審決の理由
 ・・・
(3) サイエントロジー東京における使用について
 ・・・サイエントロジー東京は,ポスター・・・であり,表題を「THE BRIDGE TO TOTAL FREEDOM」とする印刷物(甲17・審決乙17)(判決注 甲17の1ないし3を総称して,「甲17」という。)を,販売するために輸入し,平成21年12月末に所有したが,印刷物(甲17・審決乙17)は,宗教哲学に関する知識の教授に付随してその生徒に譲渡等されるものとはいえず,独立して商取引の対象となるものというのが相当であり,ほかに,印刷物がかかる役務の提供に付随するものとみるべき証拠はない。したがって,上記印刷物は,商標法上の商品に該当するというべきものであり,これに本件商標が表示されているとしても,そのことをもって請求に係る指定役務についての本件商標の使用とはいえない


第4 当裁判所の判断
・・・
(2) 判断
 上記(1)イ(ア) 認定の事実によれば,甲17の印刷物には「THE BRIDGE」,「The Bridge(R) 」,「The Bridge」との記載があり,「The Bridge」については原告の商標であることが明確に注記されているから,甲17における「TheBridge」は,原告の出所を識別するものとして使用されていることが認められる。
 「The Bridge」と本件商標とは,文字の外観(大文字と小文字において若干の相違がある。),称呼及び観念において共通し,両者は,社会通念上同一の商標である。

 また,上記(1)イ(イ) 認定の事実によれば,甲17の印刷物は,サイエントロジー哲学を学習する者,又は,その学習を始めようとする者に対し,・・・,人間の回復と精神的な人の能力とパワーの究極的な拡張への道筋を説明し,その過程で受けることのできるサービスやトレーニングを紹介し,もしくは,自己の学習の進行状況を確認させることを目的として作成されたものと解される。さらに,甲17は,サイエントロジー東京の生徒向けの資料として輸入し,保有され,その部数も限られていることに照らすならば,同印刷物は,サイエントロジー哲学を学習する者,又は,その学習を始めようとする者に対して,供与されるものであって,不特定多数の者に対する販売することを目的としたものではないと解される。

 そうすると,甲17の印刷物は,サイエントロジー哲学の教授という役務の提供を受ける者の利用に供する物であるというべきであるから,これに本件商標と社会通念上同一の商標を付する行為は,本件商標の指定役務である「哲学の教授その他の技芸・スポーツ又は知識の教授」中,「哲学の教授」について本件商標を使用したものと評価すべきである(商標法2条3項3号)。
posted by ごり at 09:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標法

2012年06月07日

特許請求の範囲の解釈事例

事件番号 平成23(行ケ)10277
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(ア) 本願発明の意義及び相違点について
 本願発明の特許請求の範囲は,第2の2記載のとおりである。
 本願発明の特許請求の範囲の記載によれば,挿管液体吸入法用液体呼吸剤が全液体呼吸のための呼吸剤であるとの限定はないこと,同明細書の記載を参照しても,「部分液体呼吸」を排除する記載がないこと,引用例A及び乙1文献によると,本願の優先日当時,液体呼吸には全液体呼吸と部分液体呼吸があることは,当業者に周知であったと認められること等を総合すると,本願発明における挿管液体吸入法用液体呼吸剤は,全液体呼吸のみに使用され,部分液体呼吸への使用を排除するものと解することはできない

 他方,上記(1)によれば,引用例Aには,・・・,部分液体呼吸のため,挿管液体吸入法に使用することが開示されているといえる。そして,前記ア及びイも総合すると,引用例Aに記載されている発明(本件引用発明)の内容は,「・・・,部分液体呼吸に用いられる挿管液体吸入法用液体呼吸剤」であると認められる。
 そうとすると,本件引用発明が「部分液体呼吸に用いられる」挿管液体吸入法用液体呼吸剤であるとの点は,本願発明との相違点にはならない。したがって,本願発明と本件引用発明との相違点に関する審決の認定に誤りはなく,本願発明と引用例A記載の発明との間に第3の1(2)記載の相違点2があるとの原告の主張も,採用できない。
posted by ごり at 23:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条2項

2012年06月04日

製造方法が容易でないことを理由に、物の発明の本願発明が容易でないとする主張の当否

事件番号 平成23(行ケ)10345
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

イ 原告の主張に対して
 原告は,
 @ 刊行物1記載の方法によって製造された砥粒分散液と刊行物2記載の方法によって製造されたスラリーとを混合した場合,・・・,混合前の粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子とは粒子数が異なってしまうこと,
 A 刊行物1と刊行物2とでは,・・・高圧ホモジナイザーの圧力が異なるため,どちらの圧力で分散させるとしても,刊行物1又は刊行物2に記載された実施例とはヒュームドシリカ粒子数が異なってしまうことから,刊行物2に記載された事項を引用発明に適用するだけでは,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数を本願発明の範囲内とすることは容易ではない
と主張する


 しかし,本願発明は,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数を一定の範囲内とする半導体研磨用組成物についての製造方法の発明ではなく,物の発明である。粒子数を一定の範囲内とする方法は,上記@(混合)やA(高圧ホモジナイザーによる分散)に限られず,分級や加水による希釈などの周知技術も採用し得るのであり(乙1ないし4),これらの手段を適用することによって,粒子数を一定の範囲内とすることは可能であるから,半導体研磨用組成物の製造方法が容易でないことを理由に,本願発明が容易でないとする原告の主張は,主張自体失当である
posted by ごり at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条2項

2012年06月03日

明確性を否定した事例

事件番号 平成24(行ケ)10021
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 取消事由2(明確性の要件に係る判断の誤り)について
(1) 本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13の明確性について
・・・
 本件審決は,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13が前の請求項を引用していないため,これらの請求項に記載された「真円ロータリーエンジン」がどのような構造を有しているか不明確である旨を説示している

 そこで検討すると,本件出願日当時の技術常識によれば,「真円ロータリーエンジン」とは,・・・いわゆる「ロータリーエンジン」のうち,ロータ室の形状が繭型ではなく真円であるもの」を指すものと解されるが,それ以上に,何らかの特定の構成を備えており,あるいは上記の各構成が特定の形状に限定されていることを積極的に意味するものとは認められない。

 以上の本件出願日当時の技術常識から明らかとされる真円ロータリーエンジンを前提として本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13に記載をみると,そこに記載の「真円ロータリーエンジン」は,それぞれ燃焼室,排気弁室及び排微出入(請求項2),前微出入及び吸弦前部(請求項3),後微出入及び吸弦後部(請求項4),吸微出入,通気部及び袖部(請求項5),前微出入及び排弦前部(請求項6),後微出入及び排弦後部(請求項7),排微出入,通気部及び袖部(請求項8),燃焼室及び前微出入(請求項9),吸入回転弁枠,燃焼室及び混合ガスを送り込む手段(請求項11)並びにプラグ濡れ防止枠(請求項13)との構成が,何らかの基本的な構成に付加されたものと理解できる。
 そして,これらの付加された構成の意義は,一義的に明らかではないから,本件補正明細書等の発明の詳細な説明及び図面を参酌すると,これらの構成は,いずれも本件補正発明1という特定の構成を備えた「真円ロータリーエンジン」を前提としたうえで,これに付加された構成であることが明らかであって,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13が請求項1を引用していない以上,単に本件出願日当時の技術常識から明らかとされる,上記認定の,ロータ室の形状が繭型ではなく真円であるもの以上に,何らかの特定の構成を備えており,あるいはエンジン内部の各構成が特定の形状に限定されていることを積極的に意味するものとは認められない真円ロータリーエンジンにそのまま適用できるものではない

 したがって,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13において「真円ロータリーエンジン」に付加される各構成は,これらの請求項が請求項1を引用していない以上,それ自体では意義が明らかであるとはいえず,本件出願日当時の技術常識から明らかとされる上記真円ロータリーエンジンにそのような構成を適用することもできないから,本件補正発明の請求項2ないし9,11及び13は,いずれも,そこに記載の発明が明確ではないというほかない。
posted by ごり at 23:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法36条6項

法17条の2第3項中の「第1項の規定」の解釈

事件番号 平成24(行ケ)10021
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第3 当事者の主張
1 取消事由1(新規事項の追加に係る判断の誤り)について
原告の主張
(1) 本件審決は,本件補正が当初明細書等に記載されていない事項(新規事項)を追加する手続補正を含むことが明らかである旨を説示する。
(2) しかしながら,法17条の2第3項は,
「第1項の規定により明細書又は図面について補正をするときは,…願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」
と定めている(新規事項追加の禁止)ところ,ここにいう「規定」に該当するのは,同条第1項の
「特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる。ただし,第50条の規定による通知を受けた後は,次に掲げる場合に限り,補正をすることができる。」
との文言のうち,ただし書の「第50条の規定」しかない。したがって,同条第3項の新規事項の追加の禁止は,「第50条の規定による通知」(拒絶査定通知)を受けた後にのみ妥当するものと解される。

 そして,拒絶査定通知は,平成22年3月23日付けである一方,本件補正の最後のもの(手続補正書13)は,それに先立つ同年1月15日に提出されているから,原告は,拒絶査定通知前の本件補正において任意の補正が可能であると解される。

・・・

第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(新規事項の追加に係る判断の誤り)について
・・・
(2) 新規事項の追加の有無について
ア 法17条の2第1項は,「特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし,第50条の規定による通知を受けた後は,次に掲げる場合に限り,補正をすることができる。」と規定して,拒絶理由通知を受けた後の補正ができる時期について,指定された期間又は拒絶査定不服審判の請求と同時に限定している。また,同条第3項は,「第1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した範囲内においてしなければならない。」と規定しているが,同条第1項ただし書は,上記のとおり,拒絶理由通知を受けた後の補正ができる時期を限定しているにとどまるから,ここで「第1項の規定」とは,同条第1項の本文及びただし書の全てを包含していることが文言上明らかであり,同条第3項の規律が同条第1項ただし書に限定して適用されると解すべき理由はない
 したがって,特許出願人は,拒絶理由通知を受ける前後を通じて,常に補正に当たって法17条の2第3項の規律を受け,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしなければならないというべきである(新規事項追加の禁止)。
posted by ごり at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法17条の2