2008年05月18日

特許請求の範囲の技術的範囲の解釈(構成要件の限定解釈事例)

事件番号 平成18(ワ)12773
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年05月08日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田知司

『(1) はじめに
 被告は,本件発明が立体映像表示装置についての発明であることを前提として,構成要件Bの「前記LCDに異なる画像を順次表示する」は,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」と限定して解し,構成要件Dの「表示装置」は,「立体映像表示装置」と限定して解釈すべきであると主張する
 そこで,まず,本件発明が二次元映像表示装置を含まない,立体映像表示装置についての発明であるか否か,すなわち構成要件Dについて検討する。
 ・・・
 そして,前記に認定した本件明細書の記載からすれば,本件発明は,
 従来の技術によれば,透過型映像表示板に左眼用と右眼用の各映像を表示し,左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えることにより,左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影され,立体映像として観察されるところ,前記の透過型映像表示板にLCDを使用した場合,・・・,完全に時間的に分離することができないという問題点があったので,
 片方の眼用の方向像が書き込まれた後,次の画像の書き換えが始まる前に,いったん全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することにより,最初に書き込まれた片方の眼用の方向像とその次に書き込まれる他方の眼用の方向像を時間的に完全に分離することを実現した発明である
と認められる。

 以上のとおり,

 本件明細書においては,技術分野,発明の課題,実施例のすべてにおいて,立体映像表示装置についての記載しかなく,立体映像の表示機能を備えない装置の記載はないこと,
 また,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する表示装置において,表示板にLCDを使用した場合の問題点を解決しようとする発明であることからすれば,
 本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置の発明であって,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)を含まない発明である。したがって,本件発明の技術的範囲は立体映像表示装置に限定されるから,構成要件Dは,「立体映像表示装置」と解すべきである。』

『ウ 分割出願が行われると,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなされるが,出願日の遡及が認められるためには,分割出願に係る発明がその原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることを要する。

エ 本件において,本件出願が分割出願の適法要件を満たすものであるかどうかについて検討する。
 前記認定のとおり,本件原出願明細書には,従来の技術には立体映像表示装置の記載しかなく,発明の名称,特許請求の範囲,産業上の利用分野,課題を解決するための手段,実施例,発明の効果のいずれにおいても,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみが記載されており,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)に関する記載は一切なく,明細書又は図面に記載された事項の範囲内とすることもできない

 したがって,仮に,本件発明が左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置についての発明ではなく,二次元の映像のみを表示する装置をも含む表示装置についての発明であると解釈すると,本件明細書には,本件原出願明細書又は図面に記載した事項の範囲内ではないものが含まれることになり,本件出願は分割出願の適法要件を満たさないことになってしまう。

オ そして,本件出願が分割出願の適法要件を欠くとすれば,出願日の遡及は認められず,現実の出願日である平成15年10月2日が本件発明の出願日となる。
 証拠(甲3)によれば,同出願日の前である平成8年12月24日には既に本件原出願の発明が公開されていることが認められる。また,前記認定事実によれば,本件発明は,その公開特許公報において,・・・の記載のとおり,既に開示されていることが認められる。
 とすれば,本件発明は新規性を欠くものであり,特許法29条1項3号の規定する発明に該当し,同法123条1項2号に基づき,特許無効審判により無効にされるべきものとなってしまう。

 他方で,本件発明は,二次元映像のみを表示する装置を含まず,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であると解すれば,同発明は,本件原出願明細書に記載されたものであるから,本件出願が分割出願の適法要件を欠くことにはならず,上記無効理由があるとはいえない

 この点からみても,本件発明は,その技術的範囲の解釈に当たっては(発明の要旨の認定は別論である。),左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であるとすべきである。したがって,構成要件Dは,本件発明の技術的範囲の解釈としては「立体映像表示装置」と解釈するのが相当である。』
posted by ごり at 10:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条
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