2009年02月01日

容易想到性の判断に課題を的確に把握することが必要不可欠とした事例

事件番号 平成20(行ケ)10096
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年01月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 判断
(1) 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。

 ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。
 そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる

 さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。

(2) 上記の観点に立って,審決の判断の当否について検討する。
ア 前記1,(1)の本願明細書の記載,特に各実施例と比較例1との対比部分の記載に照らすならば,本願補正発明においてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を必須成分として用いるとの構成を採用したのは,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いることに比べて,その接続信頼性(初期と500時間後のもの)及び補修性を向上させる課題を解決するためのものである。

 一方,前記1,(2)の引用例には,「フェノキシ樹脂は・・・エポキシ樹脂と構造が似ていることから相溶性が良く,また接着性も良好な特徴を有する」(甲4の段落【0007】)と記載されており,格別,相溶性や接着性に問題があるとの記載はない上,回路用接続部材用の樹脂組成物を調製する際に検討すべき考慮要素としては耐熱性,絶縁性,剛性,粘度等々の他の要素も存在するのであるから,相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることの示唆等がされていると認めることはできない

 また,一般的に,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂が本願出願時において既に知られた樹脂であるとしても(乙2,3),それが回路用接続部材の接続信頼性や補修性を向上させることまで知られていたものと認めるに足りる証拠もない

 さらに,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂は,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂に比べてその耐熱性が低いという問題があること,・・・と認められる。上記のビスフェノールF型フェノキシ樹脂の性質に照らすと,良好な耐熱性が求められる回路用接続部材に用いるフェノキシ樹脂として,格別の問題点が指摘されていないビスフェノールA型フェノキシ樹脂(PKHA)(甲4の段落【0022】)に代えて,耐熱性が劣るビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが,当業者には容易であったとはいえない
posted by ごり at 21:15| Comment(3) | TrackBack(0) | 特許法29条2項
この記事へのコメント
最近、拝見しています。
今回の判決の基準は、今まで見たことがないですが、新しい基準を作ったのでしょうか?
Posted by 寝たろう at 2009年02月03日 22:35
まだ子細には分析をしていませんが、私は新基準を作ったものではないと思っています。

 この判決が描いた大前提の骨格を抽出すれば、次の(a)ないし(c)のとおりです。
 (a) 容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。
 (b) 容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならない。
 (c) 当該発明が容易想到であると判断するためには,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である。

 ここで、(b)については、事後分析的かつ論理的な思考であれば排除されなくてもよく、(c)については明示の記載以外の論理付けも許容するものであると思います。さらに本件の審決は発明の課題を軽んじており、その論理も破綻しているようであることも踏まえると、前記大前提は、従来の手法を適正に適用するようにとのメッセージを込めてあのように説示したものではないか、と思います。
Posted by ごり at 2009年02月03日 23:31
よく分かりました。ありがとうございました。
Posted by 寝たろう at 2009年02月05日 23:50
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