2013年05月19日

公然実施について、知り得る状況で実施されていれば足りるとした事例

事件番号 平成23(ワ)10693
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松川充康,網田圭亮
特許法29条1項2号

ウ 原告は,一般人が「ナイトロテック処理」との表示を見たとしても,同処理の内容を具体的に認識することはできないと主張するが,公然実施について,当該発明の内容を現実に認識したことまでは必要ではなく,知り得る状況で実施されていれば足りると解すべきであり,また,その判断の基準は一般人ではなく当業者と解すべきである。そして,これを前提とした場合にその要件を満たすことは上記のとおりであるから,原告の主張には理由がない。
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2013年03月10日

発明の成立性を否定した事例

事件番号 平成24(行ケ)10298
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法2条、特許法29条柱書

3 審決の理由
 審決の理由は別紙審決書写しのとおりであり,その要点は,@本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない,A本願推進装置は自然法則を利用したものではなく,特許法2条にいう「発明」に該当しない,というものである。
・・・

第5 当裁判所の判断
 当裁判所は,本願推進装置は自然法則を利用したものではく,特許法2条にいう「発明」に該当しないものであるとした審決の判断に誤りはないものと判断する。

1 自然法則の利用性について
・・・
(2) そこで,本願推進装置が運動量保存の法則に適合するものであるかどうかを検討する。
・・・
 そうすると,本願推進装置は,静止している状態と,縦軸回転軸の軸芯に沿って上方又は下方へ移動している状態とで,運動量が変わっていることは明らかである。
 したがって,本願推進装置は,運動量保存の法則に反するものである。
・・・
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2012年07月14日

人為的取決と確率論−発明の成立性を否定した事例

事件番号 平成24(行ケ)10096
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
特許法29条1項柱書

 特許法における発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」(2条1項)ところ,ここにいう「自然法則を利用した」とは,単なる精神活動,数学上の公式,経済上の原則,人為的な取決めにとどまるものは特許法上の発明に該当しないものとしたものである。

 請求項1に記載の事項は,入札において一定条件による選抜と抽選を用いて業者を選定することをその構成とするものであって,全体として,人為的取決めに当たることは明らかである。原告は,確率論に基づく抽選が自然法則の利用に当たる旨主張するが,人為的取決めの中に数学上の法則によって説明可能な部分が含まれているというにすぎず,上記事項が人為的取決めに当たるとする前記判断を左右するものではない

同日に判決のあった類似の事例:
平成24年07月11日 知財高裁 平成24(行ケ)10001 塩月秀平裁判長
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自然法則を利用しているとはいえないとされた事例

事件番号 平成24(行ケ)10001
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
特許法29条1項柱書

2 特許法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる」と定め,その前提となる「発明」について同法2条1項が,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定めている。そして,ゲームやスポーツ,語呂合わせといった人間が創作した一定の体系の下での人為的取決め,数学上の公式,経済上の原則に当たるとき,あるいはこれらのみを利用しているときは,自然法則(law of nature)を利用しているとはいえず,「発明」には該当しないと解される。

 かかる見地から本件出願に係る請求項1〜3をみるに,そこに記載の事項は,いずれも,人為的な取決めないしは人間の精神活動のみに基づく取決めであって,自然法則を利用しているとはいえず,特許法2条1項,29条1項柱書にいう「発明」には該当せず,特許を受けることはできない。

同日に判決のあった類似の事例:
平成24年07月11日 知財高裁 平成24(行ケ)10096 塩月秀平裁判長
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2012年03月06日

製造原料が同一であって製造方法が同一であれば同一の物が製造されるとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10185
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 そして,本件製法と引用発明に示されたLiTi12の製造方法とは,その方法として記載されたところを比較すると,いずれも焼成によりリチウムチタン複合酸化物(LiTi12はリチウムチタン複合酸化物の一種である。)を合成した後,これを粉砕して再焼成するというものであるが,両者の工程は,製造原料(金属原子比),乾燥方法,粉砕形式,液体粉砕助剤及び粉砕メディアの点において一致し,焼成温度,焼成時間,再焼成温度,再焼成時間の点では,引用発明製法の製造条件は,本件製法の製造条件の範囲に含まれるものとなっていることが明らかである。

 したがって,本件製法と引用発明製法とは,実質的に同一の製造方法であると認められるところ,製造原料が同一であって,製造方法が同一であれば,同一の物が製造されると解するのが自然であるから,引用発明においても,本願発明と同一のもの,すなわち,平均細孔直径が50ないし500Å で,かつpH値が10ないし11.2であるLiTi12が製造されると認めるのが相当である。

・・・
 しかしながら,仮に,引用発明製法における各製造条件の組合せや,粉砕時のボールミルの回転数など引用発明に明記されていない条件の設定によっては,引用発明製法により製造されたLiTi12が,平均細孔直径が50ないし500Åで,かつpH値が10ないし11.2とならない場合があるとしても,本願明細書には,本願発明に係るリチウムチタン複合酸化物粒子の製造方法として本件製法が記載され,かつ,粉砕時のボールミルの回転数やメディア及び水の量とチタン酸リチウムの量との比率を調整してpH値を意識的に調整することが必要であることについては何らの記載がなく,pH値を調整するため,粉砕時のボールミルの回転数やメディア及び水の量とチタン酸リチウムの量との比率を調整することが技術常識であるともいえないから,当業者が本件製法と引用発明製法で重なり合う製造条件の範囲でリチウムチタン複合酸化物粒子を製造すれば,通常は,その平均細孔直径が50ないし500Å で,かつpH値が10ないし11.2になるものというべきである(特許法36条4項1号参照)。
 実際,原告が引用発明の製造工程に準じ,本件製法と引用発明製法で重なり合う製造条件の範囲で行ったとする追試実験(甲13,14)においても,平均細孔直径が50ないし500Åで,かつpH値が10ないし11.2であるリチウムチタン複合酸化物粒子が製造されている(甲13の表Aの例B及び例C,甲14の表1の例3及び例4)。
 以上によれば,引用発明は,通常,本件相違点に係る本願発明の構成を備えたものであると認めるのが相当である。
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2012年02月05日

「物」の発明における方法の特定

事件番号 平成23(行ケ)10053
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第4 取消事由に関する被告の反論
1 取消事由1に対し
 「物」の発明であるポリマーの発明において,重合方法の相違によって生産されるポリマーが相違するのであれば,かかる重合方法の相違を相違点として認定すべきであるが,そうでない限り重合方法の相違を相違点として認定する必要はない
・・・

第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
 原告は,本願発明のフルオロエラストマーは刊行物1発明におけるような従来の懸濁重合法とは異なる特定の方法で初めて得られるものであって,重合方法の相違も本願発明と刊行物1発明の相違点となるべきである等と主張する。

 確かに,本願発明の特許請求の範囲には,水性エマルション(エマルジョン)中で重合する旨が記載されているが,フッ素樹脂に関する一般的な文献である・・・中に・・・との記載があることに照らせば,VDF系フッ素樹脂をラジカル重合の方法で製造する場合においては,・・・乳化重合法(・・・。)も・・・懸濁重合法(・・・。)も,ともに当業者が採用する周知の方法であるということができる。また,乳化重合法も懸濁重合法も,重合開始剤の分解に基づいて目的となるラジカル重合反応を生じさせる点には変わりがなく,ポリマーの生成過程も同一の過程が想定され,乳化重合方法と懸濁重合法のいずれを採用するかによって異なる化学構造のポリマーが生成することは想定されていない(・・・)。一般的には,両重合方法は得ようとするポリマーの分子量,反応のさせやすさ,反応時の安全性や生成するポリマーの純度等を勘案して適宜選択されるものにすぎないものである。

 そして,後記2のとおり,VDF(CH2CF2)をその化学構造のうちに含む刊行物1発明のフルオロエラストマーと本願発明のフルオロエラストマーとでその化学構造に違いがあるとはいえないから,両者の重合方法の相違が本願発明と刊行物1発明の相違点になるものではない。したがって,本願発明と刊行物1発明の相違点の認定に誤りはない。
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2011年12月04日

特許請求の範囲の解釈(「鍵の発明」としての解釈)

事件番号 平成22(ワ)24818
事件名 特許権差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月25日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

ア 本件特許発明
本件特許発明は,本件特許に係る特許請求の範囲の【請求項2】に記載された発明であり,
・・・
によって特定されるものである。
上記構成要件A〜Nの記載から明らかなとおり,本件特許発明は,特定の構成を備えたロータリーディスクタンブラー錠に用いられる「鍵」として表現されており,これを総体としてみれば,本件特許発明は「鍵」の発明であると認められるが,「鍵」そのものの構成としては,構成要件Kにおいて,「ロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位に,有底で所定の深さの摺り鉢形の窪みを形成」することが特定されるにとどまる
 また,構成要件A〜Nの記載をみても,本件特許発明の鍵が使用される錠がロータリーディスクタンブラー(特に環状に成形されたロータリーディスクタンブラー)を用いた形式のものであることによって,特に鍵自体の構成が工夫されているものとは認め難く,また,本件明細書等の発明の詳細な説明をみても,錠が環状に成形されたロータリーディスクタンブラーを用いたものであることによって,本件特許発明の発明特定事項とされた構成要件Kの鍵の形状以外の構成が把握できるものではない(・・・。)。

 したがって,「鍵」の発明である本件特許発明に係る発明特定事項のうち,ロータリーディスクタンブラー錠の構成に関する記載は,特定の構成を備えたロータリーディスクタンブラー錠に用いられる「鍵」として表現されているものの,そのことから構成要件K以外の構成が把握できるものではないから,当該鍵の構成を具体的に特定する意味を有しておらず,結局のところ,本件特許発明は,「錠の鍵孔に挿入されたときタンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位に,有底で所定の深さの摺り鉢状の窪みを形成した鍵」の発明であると認められる。
 ・・・
 したがって,本件特許発明と乙7の2発明において,発明特定事項に相違する点はなく,本件特許発明は,本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特許第3076370号公報(乙7の2)に記載された発明と認められるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
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2011年11月27日

物の発明としての同一性の判断

事件番号 平成23(行ケ)10047
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

審決は,本件発明1と甲1発明との技術的思想の相違や,甲1に具体的な鉄損値の記載がないことを指摘するが,本件発明1の解決課題と甲1に記載された課題が異なることや,甲1に発明の効果に関する具体的な数値の記載がないことは,物の発明としての同一性の判断に影響を及ぼすものとはいえない
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2011年11月17日

特許法29条1項3号所定の刊行物

事件番号 平成23(行ケ)10189
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ウ 取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)について
原告は,
@ 刑事事件において裁判所が引用例(乙1)の内容をでたらめと判断し,これを刊行物として認めなかったこと,
A A教授が,引用例の内容をでたらめと判断したこと,
B 引用例が絶版となったことの3点を根拠に,引用例は引用刊行物として妥当でない
と主張
する。

 しかし,仮に刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,あるいはA教授が引用例の内容をでたらめと判断し,さらには引用例とされた刊行物が絶版になった事実が認められたとしても,当該刊行物が出版されたという事実自体が消滅するものではなく,引用例は特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内・・・において,頒布された刊行物」に該当する

 したがって,引用例が引用刊行物としての適格性を欠く旨の原告の主張は採用することができない。
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2011年11月14日

引用発明が一部の構成要件のみを充足し,その他の構成要件に言及がない場合

事件番号 平成22(行ケ)10245
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 特許法29条1項は,特許出願前に,公知の発明,公然実施された発明,刊行物に記載された発明を除いて,特許を受けることができる旨を規定する。出願に係る発明(当該発明)は,出願前に,公知,公然実施,刊行物に記載された発明であることが認められない限り(立証されない限り),特許されるべきであるとするのが同項の趣旨である。

 当該発明と出願前に公知の発明等(以下「公知発明」という場合がある。)を対比して,・・・,公知発明が,「一部の構成要件」のみを充足し,「その他の構成要件」について何らの言及もされていないときは,広範な技術的範囲を包含することになるため,論理的には,当該発明を排除していないことになる。したがって,例えば,公知発明の内容を説明する刊行物の記載について,推測ないし類推することによって,「その他の構成要件についても限定された範囲の発明が記載されているとした上で,当該発明の構成要件のすべてを充足する」との結論を導く余地がないわけではない。

 しかし,刊行物の記載ないし説明部分に,当該発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,そのような推測,類推をすることによってはじめて,構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできない。仮に,そのような場合について,同法29条1項に該当するとするならば,発明を適切に保護することが著しく困難となり,特許法が設けられた趣旨に反する結果を招くことになるからである。上記の場合は,進歩性その他の特許要件の充足性の有無により特許されるべきか否かが検討されるべきである。
 ・・・
・・・甲1及びその引用文献には,防菌・防黴剤の組成物として用いられるMITについて,「CMITを含まない」ことについては言及がなく,CMITが含まれたことによって生じる欠点に関する指摘もない。したがって,甲1において,CMITが含まれることによる欠点を回避するという技術思想は示されていない
 甲1に接した当業者は,「CMITを含まない」との構成要件によって限定された範囲の発明が記載されていると認識することはなく,甲1には,「CMITを含む発明」との包括的な概念を有する発明が記載されていると認識するものと解される。

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2011年04月10日

新規性を判断する引用発明は従来以上の作用効果有することを要件とするか

事件番号 平成22(行ケ)10256
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年03月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


 原告は,新規性を判断する引用発明は,完成した発明でなければならないところ,引用発明は,用途発明として完成しているとはいえないから,新規性を判断する上で対比されるべき引用発明としての適格性を欠くと主張する。

 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。

 すなわち,特許制度は,発明を公開した代償として,一定の期間の独占権を付与することによって,産業の発展を促すものであるから,既知の技術を公開したことに対して,独占権を付与する必要性はないばかりでなく,仮に,そのような技術に独占権を付与することがあるとするならば,第三者から,既知の技術を実施し,活用する手段を奪い,産業の発達を阻害することになる。
 特許制度の上記趣旨に照らすならば,出願に係る発明が,既に公知となっている技術(引用発明)と同一の構成からなる場合は,当該出願に係る発明は,新規性を欠くものとして,特許が拒絶されるというべきである。原告が主張する引用発明の完成とは,引用発明が従前の技術以上の作用効果を有することを意味するものと解されるが,新規性の有無を判断するに当たって,引用発明として示された既知の技術それ自体が,従前の技術以上の作用効果を有することは要件とすべきではない

 また,出願に係る発明は,特定の用途を明示しているのに対して,引用発明は,出願に係る発明と同一の構成からなるにもかかわらず,当該用途に係る記載・開示がないような場合においては,出願に係る発明の新規性が肯定される余地はある。しかし,そのような場合であっても,出願に係る発明と対比するために認定された引用発明自体に,従前の技術以上の作用効果があることは,要件とされるものではない
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特許法29条1項各号の例外

事件番号 平成22(行ケ)10256
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年03月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(1) 一般に,公知の物は,特許法29条1項各号に該当するから,特許の要件を欠くことになる。
しかし,その例外として
@ その物についての非公知の性質(属性)が発見,実証又は機序の解明等がされるなどし,
A その性質(属性)を利用する方法(用途)が非公知又は非公然実施であり,
B その性質(属性)を利用する方法(用途)が,産業上利用することができ,技術思想の創作としての高度なものと評価されるような場合
には,単に同法2条3項2号の「方法の発明」として特許が成立し得るのみならず,同項1号の「物の発明」としても,特許が成立する余地がある
点において,異論はない(特許法29条1項,2項,2条1項)。

 もっとも,物に関する「方法の発明」の実施は,当該方法の使用にのみ限られるのに対して,「物の発明」の実施は,その物の生産,使用,譲渡等,輸出若しくは輸入,譲渡の申出行為に及ぶ点において,広範かつ強力といえる点で相違する。このような点にかんがみるならば,物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。

・・・
 以上によれば,本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は,甲1において記載,開示されていた,白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく,新規な方法(用途)とはいえないのであって,せいぜい,白金微粉末に備わった上記の性質を,構成Dとして付加したにすぎないといえる。すなわち,構成Dは,白金微粉末の使用方法として,従来技術において行われていた方法(用途)とは相違する新規の高度な創作的な方法(用途)の提示とはいえない。
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2010年10月21日

「刊行物に記載された発明」とは

事件番号 平成22(行ケ)10029
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年10月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 特許法29条1項3号(新規性)適用の有無
 審決は,本願優先日前に頒布された引用例1及び2には「L612を分泌する・・・細胞系」なる記載があり,・・・,引用例1及び2にいう上記記載は本願発明を記載したことになるから特許法29条1項3号(新規性の欠如)に該当すると判断し,これに対し原告は,上記該当性を争うので,以下,検討する。

(1) 特許は,発明を社会に公開することの代償として,一定期間に限って特許権という独占権を付与するものであるから,特許を受けるには,当該発明が出願前又は優先日前に広い意味で公に知られていないこと(「新規性」があること)が必要であり,特許法29条1項は,これを表すため,「公然知られた発明」(1号)・「公然実施された発明」(2号)・「頒布された刊行物に記載された発明」等(3号)につき,それぞれ新規性がないことを定めているところ,本件は,上記のうち3号の「頒布された刊行物に記載された発明」に該当するかどうかという事案である。

 ところで,上記にいう「刊行物に記載された発明」とは,刊行物に記載されている事項又は記載されているに等しい事項から当業者(その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者)が把握できる発明をいう,と解するのを相当とするところ,本件においては,本願発明が「L612として同定され,アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(AmericanType Culture Collection)にATCC受入番号CRL10724として寄託されているヒトのBリンパ芽腫細胞系」であるのに,本願優先日前に刊行された引用例1及び2には「L612を分泌する細胞系」と記載されているだけで,ATCC受入番号の記載がないことから,引用例1及び2における上記記載だけで「刊行物に記載されているに等しい事項」といえるかということを検討する必要がある

(2) これにつき,審決は,引用例1及び2に記載されたL612細胞系は,第三者から分譲を請求された場合には分譲され得る状態にあったと推定できると認定判断したのに対し,原告はA 博士の宣誓供述書の提出等により,上記の認定判断を争っている。
 ・・・

b 上記記載によれば,細胞系のような生物学的研究材料について論文等で発表した著者は,希望する研究者に対し,同材料を提供することが学術研究の社会における慣習であることが認められる。また,この点についても,当事者間に特段争いがない。ただし,こうした学術研究の社会における慣習についても,論文等で発表した著者に対し,第三者による生物学的研究材料の分譲の要求に応じることを強制するものとまでは認められない。そうすると,論文等で発表した著者が上記の慣習に従うか否かは,基本的に各著者の意思に依存するものというほかはない
 ・・・
 そこで,引用例1及び2の著者が,L612細胞系について,本願優先日前に,第三者から分譲の要求があったときに同要求に応じる意思があったか否かについて,検討する。
 ・・・

b 以上のとおり,甲15には,引用例1の(A 博士以外の)4人の共同著者は,・・・L612細胞を第三者に頒布するためにはA博士の許可を得なければならなかったこと,A 博士は,・・・その許可を与える意図はなかったことが記載され,甲23には,本願優先日前,A 博士自身も,仮に第三者からL612細胞系の提供を要求されても提供する意図はなかったことが記載されている。また,甲16には,引用例2の(A 博士以外の)6人の共同著者は,・・・L612細胞を第三者に頒布するためにはA 博士の許可を得なければならなかったこと,A 博士は,・・・その許可を与える意図はなかったことが記載され,甲24には,本願優先日前,A 博士自身も,仮に第三者からL612細胞系の提供を要求されても提供する意図はなかったことが記載されている

 そして,本訴において,A 博士の上記各宣誓供述の信用性を疑わせるに足る事情はないため,同供述は信用できるものということができ,その結果,本願優先日前,L612細胞系は,第三者である当業者にとって入手可能ではなかったものと認められる。
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2010年08月29日

引用例が特許法29条1項3号の「刊行物」に該当する要件

事件番号 平成21(行ケ)10180
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

(1) 本件発明6及び7における本件3水和物が新規の化学物質であること,甲7文献には,本件3水和物と同等の有機化合物の化学式が記載されているものの,その製造方法について記載も示唆もされていないこと,以上の点については当事者間に争いがなく,かつ審決も認めるところである。
 そこで,このような場合,甲7文献が,特許法29条2項適用の前提となる29条1項3号記載の「刊行物」に該当するかどうかがまず問題となる。

 ところで,特許法29条1項は,同項3号の「特許出願前に‥‥頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定するものであるところ,上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。

 特に,当該物が,新規の化学物質である場合には,新規の化学物質は製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから,刊行物にその技術的思想が開示されているというためには,一般に,当該物質の構成が開示されていることに止まらず,その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして,刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。

(2) 本件については,・・・,甲7文献が特許法29条1項3号の「刊行物」に該当するというためには,甲7文献に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいて本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるということになる。

(3) そうすると,本件においては,本件出願当時,甲7文献の記載を前提として,これに接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができるような技術常識が存在したか否かが問題となるが,次のとおり,本件においては,本件出願当時,そのような技術常識が存在したと認めることはできないというべきである。
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2010年06月30日

特許法29条1項3号所定の「頒布された刊行物」

事件番号 平成21(行ケ)10323
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年06月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 頒布された刊行物への該当性
 甲1は,以下のとおりの理由から,頒布された刊行物(特許法29条1項3号)に該当する。

 特許法29条1項3号所定の「刊行物」を「頒布」するとは,不特定の者に向けて,秘密を守る義務のない態様で,文書,図面その他これに類する情報伝達媒体を頒布することを指す

ア 頒布の対象者について
 ・・・本件全証拠によるも,甲1のテクニカルガイドについて,通し番号を付すなどして管理されていたことや,配布先を特定して管理されていたこと,又は第三者への再頒布や開示が禁止されていたこと等の事実を認めることはできない。そうすると,甲1の配布の対象者ないし所持者は,不特定の者であったと解するのが相当である。

イ秘密保持契約の有無について
 ・・・したがって,甲1に記載された事項の全部又は一部について,守秘義務を負う旨の明示又は黙示の秘密保持契約がされていたものと認めることはできない

・・・上記事項に秘密性はない。
 以上のとおり,甲1について秘密保持契約が締結されたことは認められず,甲1に記載された事項は,顧客(消費者)との関係も含めて,秘密性はない。

(3) 本件特許出願前に頒布された刊行物への該当性
 以上のとおり,甲1は,本件特許出願前に配布されたものであり,頒布された刊行物に該当するから,本件特許出願前に頒布された刊行物(特許法29条1項3号)に該当する。
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2010年01月11日

特許法29条1項3号の「頒布された刊行物」

事件番号 平成21(行ケ)10110
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 取消事由1(甲1刊行物が外国頒布刊行物であるとの認定の誤り)について
(1) 原告らは,台湾における実用新案の出願書類写しである甲1刊行物は特許法29条1項3号の「頒布された刊行物」に当たらず,審決がこれを引用例に供したことは誤りである旨主張する
ので,まずこの点について検討する。
 特許法29条1項3号にいう「頒布された刊行物」とは,公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体であって,頒布されたものを意味する(最高裁昭和55年7月4日第二小法廷判決・民集34巻4号570頁,同昭和61年7月17日第一小法廷判決・民集40巻5号961頁参照)。

 そこでこれを本件についてみると,甲1の1(・・・。)・甲1の2(・・・),・・・及び弁論の全趣旨によれば,甲1刊行物は,Aが台湾において昭和63年〔1988年〕5月20日に出願(申請)した実用新案(申請案77204725号,以下「本件実用新案」という。)の出願書類として,1991年(平成3年)5月21日に台湾において公告された公告本の写しであるところ,上記公告日である1991年(平成3年)5月21日当時における台湾特許法(1986年〔昭和61年〕12月24日改正・公布された専利法)においては,その30条に,審査を経て,拒絶すべきでないと認める発明特許は,審定書を明細書,図面と共に公告すべき旨,同39条に,公告した特許案件は,審定書,明細書又は模型若しくは見本等を特許局又はその他適切な場所に6か月間陳列して公開閲覧に供さなければならない旨,同110条に,上記各規定を実用新案に準用する旨がそれぞれ規定されており,上記公告本は上記各規定に基づき本件実用新案を公告に供するために用いられたものであることが認められる(訳文による)。

 一方,本件特許の出願日である平成6年1月17日当時において,台湾特許局では,実務上,既に公告された専利案及び実用新案については,公告期間中であるか公告期間満了後であるかにかかわらず,公告に供された審定書,明細書等を公開しており,何人もこれらを閲覧,書き写し又はコピーすることを申請することができたことが認められる。

 そして,上記のようにして閲覧・謄写の対象となる明細書等は,専利法施行細則(1981年〔昭和56年〕10月2日改正のもの。甲16)10条が出願時に明細書等につき同内容の書類を3部提出すべき旨を定めており,かつ,現に閲覧・謄写に供された甲1刊行物にはその冒頭に「公告本」との表示(特許局が押印したと推認される)がなされていることからすれば,閲覧,謄写の対象となった明細書等の複製物(3部のうちの1部を閲覧等用に備え置いたもの)と認めるのが相当である。

 そうすると,本件実用新案に係る前記「公告本」(甲1刊行物はその写し)は,一般公衆による閲覧,複写の可能な状態におかれた外国特許局備え付けの明細書原本の複製物と認められるから,特許法29条1項3号の外国において「頒布された刊行物」に該当すると認められる。
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2009年06月25日

成立性を特定された発明全体で判断すべきとした事例

事件番号 平成20(行ケ)10279
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年06月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


3 特許法29条1項柱書にいう「発明」性の有無について
・・・
(2) 特許法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明については特許を受けることができる」と定め,その前提となる「発明」について同法2条1項が,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定めている。

 そうすると,本件訂正発明1〜5が,@産業上利用できる発明ではない場合,A自然法則を利用した発明でない場合,B技術的思想の創作となる発明でない場合,C技術的思想の創作のうち高度なものでない場合,のいずれかに該当するときは,同法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないことになる(なお原告は,前記のとおり,本件訂正発明1〜5が上記@及びCには該当しないことを自認している)。

 ところで,本件訂正発明1〜5は,前記のようにスロットマシン等の遊技機に関する発明であって,そこに含まれるゲームのルール自体は自然法則を利用したものといえないものの,同発明は,ゲームのルールを遊技機という機器に搭載し,そこにおいて生じる一定の技術的課題を解決しようとしたものであるから,それが全体として一定の技術的意義を有するのであれば,同発明は自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明である,と解することができる。
 そこで,以上の見地に立って本件訂正発明の特許法29条1項柱書にいう発明該当性について検討する。

(3) 前記2のとおり,本件訂正発明1〜5は「遊技機」という機器に関する
発明であり,上記ゲームのルールを機器に定着させたもの(・・・)であるから(・・・),全体として本件訂正発明1〜5は,自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明であるというべきである。

(4) 原告の主張に対する補足的判断
ア 原告は,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項の特許要件を判断するに際し,2つの発明を対比する場合に,周知慣用技術等を除外して検討することを挙げ,それと同様に特許法29条1項柱書の要件についても,「技術的に意義のある部分」について,自然法則利用の有無や技術的思想の創作該当性を判断すべきであると主張する。

 しかし,前記のように,特許法2条1項が「『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め,同法29条1項柱書において,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」とした上で,「次に掲げる発明」として,1〜3号に公知発明等を挙げている。

 このような特許法の規定の仕方からすると,特許法は,特許を受けようとする発明が自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものであり,かつ産業上利用することができるものであるかをまず検討した上で,これらの要件を満たす発明であっても公知発明等に当たる場合には特許を受けることができないものと定めていると解すべきである。

 そうすると,特許法29条1項柱書該当性の判断に当たっては,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項のように,2つの発明を対比することにより特許要件の有無を判断する場合とは異なり,特許請求の範囲によって特定された発明全体が自然法則を利用した技術的思想の創作に当たるかどうかを全体的に検討すべきであって,公知発明等に当たらない新規な部分だけを取り出して判断すべきではないと解される。原告の主張は独自の論理に基づくものであって,採用することができない。
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2009年05月29日

コンピュータプログラムの成立性の判断事例

事件番号 平成20(行ケ)10151
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年05月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 本件特許発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当すると判断した誤り(取消事由2)について

 当裁判所は,審決が,本件特許発明は自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するとした判断に誤りはなく,取消事由2は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

(1) 請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明は,旅行業向け会計処理装置の発明であり,経理ファイル上に,「売上」と「仕入」とが,「前受金」,「未収金」,「前払金」,「未払金」と共に,一旅行商品単位で同日付けで計上されるようにしたことを特徴とする(1P)。

 その構成は,電子ファイルである経理ファイル(1A),・・・,前受前払金の計上処理手段(1M)を含み,・・・。そして,上記各手段は,コンピュータプログラムがコンピュータに読み込まれ,コンピュータがコンピュータプログラムに従って作動することにより実現されるものと解され,それぞれの手段について,その手段によって行われる会計上の情報の判定や計上処理が具体的に特定され,上記各手段の組み合わせによって,経理ファイル上に,「売上」と「仕入」とが,「前受金」,「未収金」,「前払金」,「未払金」と共に,一旅行商品単位で同日付けで計上されるようにするための会計処理装置の動作方法及びその順序等が具体的に示されている

 そうすると,請求項1に係る発明は,コンピュータプログラムによって,上記会計上の具体的な情報処理を実現する発明であるから,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たると認められる。

イ この点,原告は,
@ 請求項1において特定された「手段」は,本件特許の特許出願の願書に添付された図面の図3ないし5に示された処理手順の各ステップの内容を特定したものであるところ,この処理手順及び各ステップの内容は,請求項1にいう同日付計上の会計処理を,伝票と手計算で実行する際の手順及び内容と同様のものであり,上記特定は,手計算に代えてコンピュータを使用したことに伴い必然的に生じる特定にとどまること,
A 本件特許発明の作用効果である「売上と仕入を一旅行商品単位で同日計上することから,従前の旅行業者向けの会計処理装置では不可能であった,一旅行商品単位での利益の把握が可能となる。また,同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能となるため,不正の防止や正しい経営判断が容易となる。」は,自然法則の利用とは無関係の会計理論又は会計実務に基づく効果にすぎないことなどから,請求項1に係る発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえない,と主張する


 しかし,原告の上記主張は,採用することができない。

 すなわち,
@ 本件特許の特許出願の願書に添付された図面の図3は,本件特許発明に係る旅行業向け会計処理装置による処理操作の一例を示す概略フローチャート,図4は,第1計上処理を示す詳細フローチャート,図5は,第2計上処理を示す詳細フローチャートであり(甲10),コンピュータプログラムに従ってコンピュータにより行われるべき情報処理の流れが開示されていること,
A 請求項1においては,それぞれの手段について,その手段によって行われる会計上の情報の判定や計上処理が具体的に特定され,コンピュータに対する制御の内容が具体的に示されていること,
B その処理手順等は,その性質上,伝票と手計算で実行する際の処理手順等と全く同様ではなく,相違する点があることに照らして,原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用の限りでない。

 また,コンピュータを利用することによって,所定の情報処理を迅速・正確に実現することを目的とする発明の構成中に,伝票と手計算によって実現できる構成要素が含まれていたとしても,そのことによって,当該発明全体が,自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないとするいわれはないから,この点の原告の主張も採用の限りでない。

 さらに,本件明細書(【0068】)には,本件特許発明の作用効果として,「・・・。」と記載されており,本件特許発明は,上記の作用効果を目的とするものであることが認められ,上記の作用効果は,人の精神活動に基づいて体系化された会計理論,会計実務を前提とし又は応用したものを含むといえる。 しかし,上記のような作用効果が含まれていたとしても,そのことによって,コンピュータの利用によって実現される発明全体が,自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないとするいわれはないから,この点の原告の上記主張も採用の限りでない。
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2008年09月28日

本願請求項に記載の事項と引用文献との対比

事件番号 平成20(行ケ)10090
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

3 本件発明1の被覆層部
(1) 本件発明1の粒状の排泄物処理材は,上記第2の2のとおり,「・・・ことを特徴とする」ものであるところ,発明特定事項中「糊料」が粘着力を有することは明らかであるから,本件発明1において,「紙粉,着色されている無機質材料の粉体及び糊料の混合物を含有する被覆層部」は,被覆層部が含有する糊料の粘着力によって「粒状芯部」に付着するものであると推認することができるものの,上記付着の仕組みについては,特許請求の範囲の記載のみから一義的に明らかであるとまではいえない。そこで,以下において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する。

(2) ・・・
 上記各記載によると,本件明細書に記載された発明において,被覆組成物は・・・被覆層部を粒状芯部に付着させるために,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」のような接着剤層を必要とするものではないと認められる。
 そうすると,本件発明1に係る被覆層部及び被覆層部と粒状芯部の付着についても上記のとおりのものであると理解することができる


 この点に関して,原告は,本件明細書には「本発明において,接着剤としては,例えばα澱粉等の糊料」(段落【0026】)を使用することが記載されているから,本件発明1において,被覆層部に含有された「糊料」が粒状芯部の水分を吸収すると,必然的に溶解して粒状芯部と被覆層部の界面に「水溶性接着剤層」を形成し,粒状芯部に被覆層部を一体に結合する構造となると主張する

 確かに,本件明細書には,「・・・」(段落【0039】)との記載があることから,本件発明1において,粒状芯部と被覆層部の界面付近に存在する「糊料」が被覆層部の粒状芯部への付着に何らかの寄与をするものと推認することもできるが,
 「糊料」は・・・被覆組成物が含有する混合物の一要素となっているものであり,少なくとも,被覆層部とは別の「水溶性接着剤層」を形成するものでないことは明らかであるし,また,
 「糊料」は,尿で濡れた粒状の排泄物処理材同士が,被覆層部を介して,互いに結着するために混合されるものであり,「水溶性接着剤層」を形成するためのものではないことは,本件明細書の前記各記載に照らし明らかである
から,原告の主張を採用することはできない。
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引用文献の請求項に記載の事項の認定

事件番号 平成20(行ケ)10090
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

第5 当裁判所の判断
 原告は,審決が,本件発明1と甲1発明の相違点として,「被覆層部」が,本件発明1では,粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆うものであるのに対し,甲1発明では,粒状芯部の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものである点を,相違点1として認定したことは誤りであると主張するので,以下において検討する。

1 甲第1号証の記載
・・・
2 甲1発明の水溶性接着剤層
 上記1によると,甲第1号証の特許請求の範囲の請求項6に関する記載から認定することができる甲1発明における「水溶性接着剤層」は,吸水性粒状体に水溶性接着剤をスプレーして形成される「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」であり,
 このような非連続水溶性接着剤層を介して吸水性粒状体と吸水性表層が強固に層着されるため,吸水性表層の成分の剥落が防止され,吸水性粒状体と吸水性表層の複合構造が健全に維持されるとともに,
 排尿時には接着剤非塗布部を通して,又は接着剤塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透することにより,非水溶性顔料粉末により吸水性表層を発色させて,使用部分と未使用部分を的確に判別することができるという効果を奏するものであるということができる。

 そして,甲第1号証において,「水溶性接着剤層」に「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」でないものが含まれることを示唆する記載は認められない。

 なお,原告が主張するとおり,上記請求項6は単に「水溶性接着剤層」と規定しているが,甲第1号証の発明の詳細な説明において,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」に限定されない「水溶性接着剤層」についての記載やそのような限定されない「水溶性接着剤層」の奏する効果についての記載は存在しない(・・・。)から,甲第1号証から認定することができる粒状形の動物用排尿処理材の発明において,「水溶性接着剤層」が「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」に限定されないものであると理解することはできない
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