2013年08月25日

先願明細書に記載されているに等しい事項

事件番号  平成25(行ケ)10022
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年08月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 西理香,神谷厚毅
特許法29条の2

(4) 一応の相違点に関する判断について
ア 前記(2)に認定した先願発明の内容及び先願発明における求職クライアント信用評価情報の内容に照らすと,先願発明においても,求職クライアント信用評価情報記憶部には記憶容量の限りがあること,及び,古い求職クライアント信用評価情報は現実性を失い価値が無くなるため常にデータを新鮮にする必要があることが認められる。そうすると,先願発明においてこれらに対処することは,先願明細書に明示されていなくても当然に行われるものであるといえ,先願発明に本件周知技術を付加し,あらかじめ設定された蓄積期間が経過した古い求職クライアント信用評価情報を削除し,常にデータを新鮮なものとする構成とすることは,先願明細書に記載されているに等しい事項といえる。

イ そして,本願発明と上記ア認定の先願発明に本件周知技術を付加した構成とを対比すると,
・・・

ウ 以上によれば,本願発明と先願発明との一応の相違点に係る構成は,先願発明に上記周知技術を単に付加した程度のものであり,かつ,新たな作用効果を奏するものでもない。したがって,本願発明と先願発明とは実質的に同一であるとした審決の判断の結論に誤りがあるとはいえない。
・・・

オ 原告らは,先願発明に何ら記載も示唆もない本件周知技術を先願発明に足し合わせることによって,本願発明と同一であるという帰結を導くことは特許法29条の2に該当するかどうかを判断する際には許されない旨主張する。
しかし,前記(4)アに認定したところによれば,原告らの上記主張を採用することはできない
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2012年11月24日

先願発明が本件特許の特許請求の範囲に含まれる実施例と同じものである場合

事件番号 平成24(行ケ)10051
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法29条の2

イ 原告は,審決は,本件特許発明1の実施例1,2と先願当初明細書の実施例1とが同じものであると認定しているが,仮に,実施例どおしが同じであるとしても,それをもって本件特許発明1が先願発明と同一の発明であると結論付けることはできないと主張する。

 しかし,先願発明が本件特許の特許請求の範囲に含まれる実施例と同じものであれば,先願発明が本件特許の特許請求の範囲に含まれることは当然であり,この場合,本件特許発明1は先願発明と同一の発明であるということができる。
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2012年10月21日

特許法29条1項3号又は特許法29条2項の引用例適格性

事件番号 平成23(行ケ)10201
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治
特許法29条1項3号又は特許法29条2項の引用例適格性

1 特許法29条1項3号又は同条2項違反についての判断の誤り(取消事由1)
について
(1) 甲1文献の引用例適格性についての判断の誤りについて
ア 特許法29条1項3号は,「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明」は特許を受けることができないと規定する。ところで,同号所定の「刊行物に記載された発明」というためには,刊行物記載の技術事項が,特許出願当時の技術水準を前提にして,当業者に認識,理解され,特許発明と対比するに十分な程度に開示されていることを要するが,「刊行物に記載された発明」が,特許法所定の特許適格性を有することまでを要するものではない

 そこで,上記の観点から,甲1文献に記載された技術事項が,特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明」に該当するか否かについて検討する。
・・・
エ 以上のとおり,甲1文献には,単一モード・ファイバーに多重モード・ファイバー増幅器を適用する光学増幅器において,単一モード・ファイバーと多重モード・ファイバー増幅器との間に,ファイバーモードを整合するためのインターフェース光学部品が設置され,多重モード・ファイバー増幅器に,入力信号を入力する入力信号源とポンプ光を入力するポンプ源が接続されていること,高品質の導波路及び適切なモード整合光学部品を使用して,多重モード・ファイバー増幅器の入力ポートにその基本モードの信号を入力し,多重モード・ファイバー増幅器によって増幅されたこの基本モードの信号エネルギーを,当該多重モード・ファイバー増幅器の全体を通して,その出力ポートまで保存することが開示されており,本件特許の優先日当時の当業者の技術水準によれば,その当時,インターフェース光学部品の構成や,基本モードの入射・保存のための方法などを含め,上記光学増幅器の構成は,当業者が理解可能な程度に明らかになっていたといえる。
 したがって,甲1文献には,本件発明と対比可能な程度に技術事項が開示されており,甲1文献に記載された発明は,特許法29条1項3号に規定する「刊行物に記載された発明」に該当するというべきである。
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2012年03月10日

文言解釈では一致する請求項の用語を、発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈し相違するとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 審決は,本願補正発明における「電力需給線路」に,先願発明の「送配電線網」は含まれるものと認定し,本願補正発明と先願発明に相違点は認められず,本願補正発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができないと判断して,本件補正を却下した。しかし,以下のとおり,審決の認定,判断は誤りである。
 ・・・
 本願補正発明における「電力需給線路」は,・・・,請求項1の記載のみでは,その技術的意義が明確ではないから,発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。
 補正明細書の記載によれば,「従来の電力系統」とは,図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムをいうこと,従来の電力系統では,・・・損失が多く,また,従来の電力系統との連係を前提とした系統連系型分散発電システムは,・・・大規模発電所を構築しにくいとの課題があり,これを解決するため,本願補正発明は,従来の電力系統に拠らない電力システムの提供を目的としていること(・・・),本願補正発明は,自立し,疎結合した各電力需給家が,少なくとも各1つの発電機器,蓄電機器及び電力消費機器と,電力需給制御機器とを備え,それぞれの電力需給制御機器において電力需給線路により相互接続されてなる電力システムであること,・・・が認められる。
 以上によれば,特許請求の範囲の請求項1記載の「電力需給線路」は,従来の電力系統に拠らない電力システムを構成し,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであり,各「電力需給家」において,電力の不足,余剰が生じた場合には,「電力需給制御機器」がこれを判断して電力を「受け取り」又は「渡し」,電流・電圧等の整合を行うが,「電力需給線路」を介して電力の移動が行われるものであることが認められる。
 すなわち,本願補正発明における「電力需給線路」は,「従来の電力系統に拠らない」【0006】ことを目的とするものであって,図8(従来の電力系統)が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備は含まず,各「電力需給家」が備える「電力需給制御機器」を接続するものであるから,「電力需給線路」は,「従来の電力系統」とは異なるとともに,電圧等の整合を行うための構成を含んでいないと解するのが相当である。
 そうすると,本願補正発明における,電力需給家の複数が夫々の電力需給制御機器を相互接続するための「電力需給線路」は,「従来の電力系統」(図8が示すような,大規模発電所を頂点とし需要家を裾野とする「放射状系統」を基本とする広域かつ大規模な単一システムを前提とする電力設備)を排除しているものと解すべきである。
 ・・・
 以上によれば,本願補正発明の「電力需給線路」は,従来の電力系統でないとともに「電力需給制御装置」とも区別されているのであって,電圧等の整合を行うための構成を含んでいないのに対して,先願発明における「送配電線網」は,従来の電力系統として変電所等の電圧等の整合を行うための構成を示すにとどまり,これを超える構成を示すものではないから,両者が相当するということはできない
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2012年02月05日

自明の課題と顕著な効果の不存在から設計事項を認定した事例

事件番号 平成23(行ケ)10109
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 そうすると,先願発明においては,本願発明における「巻上機」の重量がどの程度であるのかが具体的に示されていないものの,乙3(乙4)や乙5と同じエレベータの技術分野に属するものであるから,前記の一般的な技術的課題は,自明の課題として内在しており,かかる一般的な技術的課題に基づいて,定格荷重との関係において駆動モータを軽量化するという課題が存在するものと認められる。

 ここで,本願発明における「巻上機は,その重量は最高でもエレベータの定格荷重の重量の1/5である」ことの技術的意義について検討するに,本願明細書(甲4〜6,9,12)に,本願発明において,「巻上機は,その重量は最高でもエレベータの定格荷重の重量の1/5である」とする構成を採用することによる格別顕著な作用について根拠となる記載は見当たらず,むしろ,その構成に関する記載としては,「巻上機及び支持装置の重量」は「定格荷重」のそれぞれ約1/5,約1/6,約1/8,約1/10あるいは,「巻上機の重量」は「定格荷重」のそれぞれ約1/7,約1/10というような適宜の重量をとり得ることが示されており,また,「巻上機の重量」が「定格荷重」の1/5であることは直接示されておらず,また,それが1/5を超えることにより作用効果に顕著な差異が生じることも示されていない

 そうすると,本願発明における「巻上機は,その重量は最高でもエレベータの定格荷重の重量の1/5である」とする構成は,その重量が低ければ低いほど好ましいという意味でしかなく,また,当該重量が1/5を超えてはならないというものでもないとみるのが自然であり,そこに格別技術的意義は見出せない
 そして,前記のとおり,先願発明においても,一般的な技術的課題に基づいて,定格荷重との関係において駆動モータを軽量化するという課題が存在するものと認められるのであるから,本願発明のように格別技術的意義の存在しない「巻上機の重量」を「定格荷重」の最高でも1/5とすることを選択することは,単なる設計上の事項でしかないというべきである。
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2011年03月07日

構成の意義を明細書の記載から認定して引用発明と対比した事例

事件番号 平成22(行ケ)10299
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 本件明細書の記載
本件明細書(甲19)には,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成に関して,以下の記載がある。
 ・・・
 このように,本件発明1の上記実施例は,「給水管配設空間部」を「カバー部材」により覆うことにより,全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなるとの効果を生じるとするものである。すなわち,「カバー部材」を用いずに「給水管配設空間部」のような空隙を生じさせた場合には,全体として平面的に形成されず,見栄えが悪くなると解される。
以上のとおり,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義は,全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなることを意味しているものといえる。本件明細書には,同記載部分を除いて,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義に関する記載はない。
 ・・・
3 相違点1の実質的同一性に係る判断
 上記によれば,本件発明1における植栽マットを「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成の技術的意味は,給水管配設用空間部22を形成し得るような「空隙」が生じないというものであって,植栽設備が全体として平面的に形成され,その見栄えが非常に良くなるとするものである。
他方,甲2−1発明の緑化構造も,雑然としたイメージを排除して花壇のような美しい景観を造り出すように載置するものであって,本件発明1の植栽設備と同様の美観上の効果を有するものであることに照らせば,甲2−1発明の緑化構造は,本件発明1の「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成を備えるものであるといえる
 そうすると,相違点1(「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との限定の有無)は実質的な相違点に当たらず,本件発明 1 と,甲2−1 発明とは同一の発明であり,特許法29条の2の規定に違反して特許されたものとして本件発明1及び2の特許がいずれも無効である旨判断した第2次審決には誤りがないということができる。

原審
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2009年11月15日

「公知技術」を安易に参酌した先願明細書等の記載の補充

事件番号 平成20(行ケ)10483
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年11月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

 ・・・
(4) 他方で,「先願発明」の化合物については,先願明細書等の【化5】,【化16】で示された一般式に,抽象的には包含されるとしても,先願明細書等において,その構造につき具体的に記載されてはいない
 そして,上記【化5】【化16】に関しては,複数の化合物の組み合わせを表現したものにすぎず,ある化合物が明細書等において開示されているというためには,たとえ表の中であっても,具体的な構造(「先願発明」の化合物に関しては,メチル基を置換基として有する具体的構造)が特定して開示される必要があるというべきである。

 なお,被告は,「同族列に所属する一連の化合物は,化学的性質が極めてよく似ていて,すべての化合物に共通の官能基に基づく同一の反応を示すから,化合物No.II-10 と『先願発明』の化合物も実質的に同視できる」旨主張するとともに,特許公報(乙4,5)の記載により,上記主張を補強している。

 しかし,前記1(3) ウのとおり,化学大辞典(乙3)において,同族列として脂肪族飽和炭化水素のメタン,エタンや,芳香族炭化水素のベンゼン,トルエン,飽和脂肪酸のギ酸,酢酸などを例示しているが,これらの分子量の小さな化合物相互の関係と,本件での化合物No.II-10 と「先願発明」化合物のような分子量の大きな化合物相互の関係について,同一に扱ってよいかは不明というべきである。
 また,前記1(3) エ,オからすれば,乙4,5で開示された,それぞれ同族列の関係にある各化合物の化学的性質(有機EL素子としての性質を含む。)が類似していることが認められるが,これが直ちに,化合物No.II-10 と「先願発明」化合物の関係にも適用できるか明らかではない上,特許法29条2項の進歩性を判断する場合であれば格別,同法29条の2第1項により先願発明との同一性を判断するに当たっては,化合物双方が同族列の関係にあることをもって,一方の化合物の記載により他方の化合物が「記載されているに等しい」と解するのは相当ではない(前述のとおり,一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識するところであるからである。)。

 このほか,被告は,「正孔注入輸送を司る本質的部位が分子中のN−フェニル基であること」は技術常識であって,同事実と先願明細書等の記載からすれば,「フェニル基を導入してビフェニル基にすることでπ共役系が広がり,キャリア移動に有利になり,正孔注入輸送能にも非常に優れる」旨主張している。
 確かに,前記1(3) ア,イのとおり,「正孔注入輸送を司る本質的部位が分子中のN−フェニル基である」旨の被告の主張に整合する文献(乙1,2)が存在するほか,先願明細書等には「分子中にN−フェニル基等の正孔注入輸送単位を多く含み,R 1 〜R4にフェニル基を導入してビフェニル基にすることでπ共役系が広がり,キャリア移動に有利になり,正孔注入輸送能にも非常に優れる」旨の記載がある(【0058】)。

 しかし,前述のとおり,特許法29条の2第1項による先願発明との同一性の判断は,同法29条2項の進歩性の判断とは異なるから,上記のような「公知技術」を安易に参酌して先願明細書等の記載を補充するのは相当ではなく,メチル基の有無を捨象して化合物No.II-10 と「先願発明」化合物を同視し,「先願発明」化合物が先願明細書等に実質的に記載されていたとみることは相当ではない

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2008年11月09日

特許法29条の2への抗弁と特許法36条6項1号

事件番号 平成20(行ケ)10126
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(3) なお,被告は,原告が先願明細書には*A*の実施例がないから先願明細書にはこれが記載されているとすることはできないと主張することは,原告自ら,本願補正発明が「発明の詳細な説明」に記載されたものでなく,特許法36条6項1号に違反しているということを認めることになる,と主張するが,特許法29条の2の適用に当たって先願明細書にどのような発明が記載されているかの認定と本願が特許法36条6項1号に適合するかどうかの判断は異なるものであって,先願明細書に*A*が記載されていないことから直ちに本願が特許法36条6項1号に適合しないものとなるということはない
(ブログ編者注:*A*には、電気化学的活物質の組成式が入る。)
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2008年01月06日

先願とその優先権基礎出願との記載事項の違いの評価事例

事件番号 平成18(行ケ)10449
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『3 審決の理由等
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,
@ 本願発明は,出願1及び出願2との関係において,適法な優先権主張の出願とはいずれも認められないから,国内優先の利益を享受できず,現実の出願日である平成7年11月29日が基準日となる。
A 特願平8−530899号(国際公開第97/11920号,優先権主張日:平成7年9月28日,甲6。以下,「先願」という。)は,適法な優先権主張の出願であるから,先願の出願日は,優先権主張の基礎となる出願(特願平7−276760号,出願日:平成7年9月28日,甲7。以下,「優先権基礎出願」という。)の出願日である平成7年9月28日となる。
B 本願発明と,優先権基礎出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明とを対比すると,両者の発明は実質同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない
というものである。
そして,原告は,本件訴訟において,審決の上記判断中,@は争わず,A及びBを争っている。』

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(先願の優先権主張を適法とした誤り)について
当裁判所は,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということができないから,本願との関係で,先願発明を特許法29条の2所定の発明として同条の規定を適用することはできないと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。
 ・・・
(2) 検討
 優先権基礎出願先願について,各特許請求の範囲(請求項1)の記載を対比すると,
CaO含有量については,前者が「0〜10.0%」であるのに対し,後者が「0〜8.0%」であり,
SrO含有量については,前者が「0〜10.0%」であるのに対し,後者が「0.1〜10.0%」であり,
いずれも,先願における含有量は,優先権基礎出願における含有量の範囲に含まれる

 このうち,SrO含有量については,優先権基礎出願明細書に「好ましくは0.1〜10.0%である」との記載があることに照らすならば, 「0.1〜10.0%」の含有量については,優先権基礎出願明細書に開示されているとみることができる。

しかし,CaO含有量については,優先権基礎出願明細書には ,「10.0%より多いと,ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するため好ましくない」と記載され,同記載部分によれば,優先権基礎出願明細書においては,「10.0%」なる数値に上限としての技術的意義を有するものとして開示されているといえるが,「0〜8.0%」の範囲の数値については,何ら技術的な意味を示唆する記載はない
そして,優先権基礎出願明細書の実施例及び比較例によればCaOの含有量は,2.1〜7.5%の範囲にあることが示されており,CaOを「8.0%」含有させたガラス組成物についての開示はない
 そうすると,優先権基礎出願明細書には「8%」を上限とする「0〜8%」のCaO含有量範囲について,何らかの技術的意義を示した記述はないと理解するのが自然である。
 以上によれば,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということはできない。』

『(3) 被告の主張について
ア 被告は,ガラス組成物は,誤差が生ずることは避けられず,特定の数値で規定することが難しく,ある程度の幅を持った概数値で論じられざるを得ない分野であること(乙2,乙3)に鑑みれば,先願明細書に記載されたCaO含有量「0〜8.0%」は,優先権基礎出願明細書に実施例に最大値「7.5%」の記載があることに照らすと,同数値は,概数として「8.0%」の値を示したものと理解できるから,優先権基礎出願明細書の記載から自明な事項であると主張する。
 しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。

 すなわち,乙2には,「成分の安定性:大量生産のガラスでは製品の物理的・化学的性質の安定や機械成形の安定性が望まれるため,製品のガラス組成において各成分は一般に0.05%以内の範囲で一定でなければならない」(282頁7〜9行)と記載され,乙3には,第4・3表(31頁)に,ガラス原料を配合した場合の誤差として,CaO成分については「0.008%」という小さい数値が例示されている。

 そうすると,ガラス技術分野において,ガラス組成物の含有量が「ある程度の幅を持った概数の値」で示さざるを得ないとしても,その幅は,せいぜい「0.05%」のような小さな程度をいうのであって,「7.5%」の概数として「8.0%」まで包含するような大きさであるとは,到底認められない

イ また,被告は,先願明細書の記載は,優先権基礎出願明細書における実施例の「7.5%」を考慮し「0〜10.0%」を「0〜8.0%」まで単に減縮したものであるとも主張する。
 しかし,被告の上記主張も失当である。

 すなわち,優先権基礎出願明細書には,ガラス組成物の組成範囲が記載されているだけであって,組成範囲の誤差に関する記載はなく,また,CaO含有量が「7.5%」を超える具体例も記載されていない
そして,ガラス分野における「7.5%」の含有量が「8.0%」まで包含するものでないことは上記アで説示したとおりである。

 そうすると,数値的には,「0〜10.0%」を減縮すれば,「0〜8.0%」になり得るとしても,優先権基礎出願明細書において上限値の「10.0%」を「8.0%」という特定の数値に変更する理由が見当たらないから「0〜8.0%」は, 「0〜10.0%」を単に減縮したものであるとは認められない。』
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2007年12月07日

技術常識を参酌した請求項及び引用例の認定をした事例

事件番号 平成19(行ケ)10022
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『第3 当事者の主張
・・・
(2) 発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,前記のとおり請求項1ないし11から成るが,そのうち請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】pH感応性分散剤を配合し,顔料が分散されている第1のインクでプリント媒体上にプリントし,
次に,前記第1のインクの分散された顔料を前記プリント媒体上で析出させるのに適切なpHの第2のインクでプリントし,第2のインクを第1のインクに隣接してプリントすることで,
第1及び第2のインクの境界において1つの色が他の色へ侵入する二色間におけるにじみを減少させることを特徴とするインクジェット・プリント方法。」』

『第4 当裁判所の判断
・・・
(3) そこで検討するに,本願発明と先願発明が前記第3の1(3)イの〈一致点〉及び〈一応の相違点〉のとおり一致ないし一応相違することは当事者間に争いがなく,これによれば,先願発明におけるpH値を異にする組成からなる顔料系及び染料系インクの使用という課題解決手段の点及び被記録材上で両インクが交わることによって顔料系インクが凝集し,被記録材表面に固着するという作用効果の点については,実質的にみて本願発明と差異がないと理解できるものの,両インクを同一地点に着弾させるという先願発明の課題解決手段は,本願発明における両インクを隣接させる方法と同一であるとはいえない

 しかし,先願発明におけるカラー画像(上記(2)ア(キ))の記録を実施した場合,通常,当該カラー画像は黒色領域とカラー領域との混交により形成されるものであるから,その形成過程において,顔料系ブラックインクと染料系カラーインクとを同一地点に着弾させる場合だけでなく,顔料系ブラックインクの着弾地点と異なる地点に染料系カラーインクを着弾させる場合があり,そのカラー画像の内容によっては,両インクが隣接して着弾され,その結果両インクの接触に至ることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識に照らして自明の事項である。そして,顔料系ブラックインクと染料系カラーインクの両インクが上記のように接触した場合,必然的に顔料系インクが凝集し,被記録材表面に固着するという作用効果が得られることは,上記の先願発明の作用効果に照らして明らかである。

 以上のとおり,当業者の技術常識を参酌すれば,「第2のインクを第1のインクに隣接してプリントすること」は先願明細書に記載されているに等しい事項であると認められ,このことに,先願発明に関する上記課題,課題解決手段,作用効果を併せ考慮すれば,「第2のインクを第1のインクに隣接してプリントすることで,第1及び第2のインクの境界において1つの色が他の色へ侵入する二色間におけるにじみを減少させる」という発明を把握することができる
 そうすると,このような発明と本願発明は実質的に同一であるということができるから,本願発明は特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないというべきである。』

『イ 次に原告は,本願発明は第1のインクと第2のインクとの間に境界が生ずるように第1及び第2のインク領域をプリントすることを前提とするものであり,第1のインクと第2のインクが重複することは予定されていないから,本願発明が第2のインクを第1のインクの一部と同一地点に着弾させる発明を含んでいるとの審決の認定は誤りである旨,また,仮に,本願発明において,インクが重複する態様は排除されていないと解したとしても,その重なり合いはごく一部にすぎないのに対し,先願発明は顔料系ブラックインク(第1のインク)のプリント領域全面について重なり合いを有する点で,両者の態様は全く異なる旨主張する

しかし,前記(3)に述べたところから明らかなとおり,先願明細書の記載に加えて当業者の技術常識を参酌することにより把握される発明と本願発明とが実質同一であることは,第1のインクと第2のインクが隣接し,かつ,これらが接触することで第1のインクが凝集するという本願発明の技術的特徴を前者が有していることから認められるのであって,このことは,両インクを同一地点に着弾させる(両インクが重複する)という先願発明の課題解決手段を本願発明が備えているか否かにより左右されるものではない。したがって,その余を検討するまでもなく,原告の上記主張は理由がない。』

『ウ さらに原告は,本願発明における「色と色の境目」とは,「第1のインクの色」と「第2のインクの色」の境目を意図しているものと考えるべきであって,「第1のインクの色と第2のインクの色の混色」と「第2のインクの色」との境目も包含されるとの被告の解釈は誤りである旨主張する

 しかし,前記(1)イに述べたとおり,本願発明は,異なる色領域が隣接する場合,これらの色領域を生成するインク同士が接触するとにじみが発生することから,これを抑制するため,異なる色領域を生成する各インクの組成につき,一方をpH感応性着色剤を含むもの,他方を適切なpHの他のインクとし,これらが異なる色領域の境界において接触することで,一方のインクが凝集,固着するという技術的特徴を有するものであるから,
 このような本願発明の技術的特徴を踏まえれば,「第1及び第2のインクの境界」とは,接触により着色剤が不溶化(着色剤が溶液から析出)するという特定の組成を有するインク同士の境界を指すものと解すべきであるし, 「色と色の境目」とは,接触により着色剤が不溶化(着色剤の溶液からの析出)するという特定の組成を含有するインクにより生成される色領域が隣接する場合の境目を指すものと解すべきである。』

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2007年12月01日

特許請求の範囲の記載の同一性の判断事例

事件番号 平成19(行ケ)10057
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年11月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『(4) 審決の取消事由
・・・
ほとんどの技術的評価がそうであるように,ある効果が生じるか生じないかを論じる場合は,その効果が享受できる(利用できる)程度に大きいか否かで判断すべきであって,もし生じてもそれが無視できる程度に小さい場合は,それは生じたといわないのが通常である(もっとも,その関心の程度に応じて,微量でも認識すべき場合のあることは,もちろんである。)。
この点,本願発明は,積極的に,「免疫応答を起こさせるタンパク質またはペプチド」として,積極的に利用できる程度の免疫応答を起こさせることを意味しているものである。』

『第4 当裁判所の判断
・・・
先願明細書に記載された発明は,本願発明の構成をすべて備えていると認められるから,本願発明は,先願明細書に記載された発明と同一である。
・・・
ウ 以上の記載のうち,本願発明である請求項1の記載(上記イ(ア))によれば,本願発明においては,トランスフォーメーションするための仲介物に付着させるべきポリ核酸配列が含んでいる遺伝子は,それが脊椎動物組織細胞中で発現した場合に,当該脊椎動物に免疫応答を起こさせるタンパク質又はペプチドである免疫源をコードするものであること,すなわち,当該遺伝子の特性として,免疫応答を起こす能力があることを必要としつつ,かつ,それで足りるものとされているのであるから,当該遺伝子について,免疫応答の程度は問題とならないものといわざるを得ない
・・・
実施例の記載その他において,免疫応答の程度に関する実証的なデータが見当たらないことからすれば,本願発明の構成上,遺伝子に免疫応答の能力ばかりでなく,それが一定程度のものであることが必須の構成であるとまでは解することができない。

 なお,上記イ(ア)のとおり,請求項1には「免疫応答」のほかに「免疫源」との語も使用されているが,本願明細書の発明の詳細な説明には,「免疫源」の用語は記載がないから,本願発明における「免疫源」は,特別な意味はなく,請求の範囲の直前の「脊椎動物に免疫応答を起こさせる」を言い換えただけのものと認められ,これが免疫応答の程度を殊更に限定するものでないことは明らかである。』
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2007年04月03日

先願発明との同一性の判断

事件番号 平成18(行ケ)10324
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美
条文:特許法29条の2


『1 取消事由(先願発明の認定の誤り)について
(1) 審決は,先願明細書には,「家具,吊り戸棚等の開き戸付き収納装置に設けられ,地震時に開き戸の開放を規制する開き戸の閉止装置であって,前記収納装置本体に上下動可能に設けられた係止体と,地震の揺れによって動作して前記係止体の動きを上動不能に阻止する阻止手段(球体37)と,前記開き戸に支持され前記開き戸の開閉に際して前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する規制手段とを備えている開き戸の閉止装置を用いた地震時に開き戸の開放を規制する方法。」(審決謄本6頁第3段落)との先願発明が記載されているとした上,「先願発明の『地震の揺れによって』『前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する』ところの『地震時に開き戸の開放を規制する方法』は,本件発明1の『地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法』に相当するといえる。」(同13頁第4段落)と認定したのに対し,原告は,先願明細書には,本件発明1の「地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法」に相当する構成は記載されておらず,本件発明1と先願発明とが実質的に同一であるとはいえない旨主張する。


( 2) 本件発明1は,「地震時に扉等がばたつくロック状態となる方法」に係る発明であり,その特許請求の範囲には,「地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において」との記載があるところ,「扉等がばたつくロック状態」について,これを限定する格別の記載は見当たらない。
 一般的な用語例に従うと,「ロック」とは,「錠をおろすこと。鍵をかけること。錠。」(広辞苑第5版)とされ,扉についていえば,「ロック状態」とは,鍵をかけるなどして開かない状態をいうと解される。また,「ばたつく」とは,「ばたばたする。騒がしく動きまわる。じたばたする。」(同)などの意味を有する。そうすると,「扉等がばたつくロック状態」とは,「扉等がばたばたした状態にありながら,かつ,鍵をかけるなどして開かない状態」であると,一応理解することができる。しかし,その内容が一義的に理解されるとは,直ちに断定し難いところである。したがって,本件発明1が,これらの語のみで,特許請求の範囲が一義的に発明として特定されるのかは明らかではない

(3) 本件明細書(甲8)には,以下の記載がある。
・・・

( 6) そこで,先願明細書の上記記載に基づき,先願発明について検討すると,先願発明は,・・・,特別な解除動作を行わなくとも,平常時と同じ状態,すなわち,開き戸が自由に開閉する状態に復帰する(同カ)ものであることが理解できる。そして,先願明細書の段落【0027】の記載(同カ)は,先願発明における一連の動作を記載した,段落【0025】の
記載(同エ)及び段落【0026】の記載(同オ)と一体となって,地震終了時の状態について,一般的に説明したものであると認められる。

 先願明細書には,・・・,地震時において,扉の開閉は,球体37の存在によって規制されると記載されていることは明確であり,地震時における弾性片43の弾性力について,扉の開閉に影響を及ぼす作用効果についての記載や示唆はない。その他,先願明細書において,弾性片43の弾性力について,上記の下限を定めた以外に,その程度を示唆する記載は認められない。
 したがって,先願明細書において,弾性片43の弾性力について,通常時において,開き戸が自由に開閉するとの効果を有することを超えて,地震時における,その作用効果が記載されているとまでは認められない

 そうすると,先願明細書の記載に照らせば,先願発明は,地震時において,蓋39の下面と係止体38の鍔部38bの上面との間に球体37が嵌まり込んで載置されていることから,係止体38の上動が阻止されるため,開き戸32の開放度が若干開く程度に規制されるものではあるが,若干開く程度といえる範囲においては,開き戸の動きを規制するものはなく,開き戸は往復動可能であると認めるのが相当である

 一方,前記(4)のとおり,本件発明1における「扉等がばたつくロック状態」とは,「扉等が,ロック位置からそれ以上開く方向への動きが封殺されるが,ロック位置から閉じる方向については,開く方向及び閉じる方向の動きが許容され,往復動可能となるロック状態」をいうものと,一応解釈することができる。
 そして,本件明細書の実施例(図19,20)においては,地震時に扉の開く程度について,扉の厚みの1.5倍弱程度のものが示され,先願明細書の図1において,地震時に扉の開く程度について,扉の厚みの1.5倍弱程度のものが示されていることからすると,本件発明1における地震時に扉が往復動可能に開く程度は,先願発明における地震時に扉が往復動可能に開く程度を含むものであると認められる。』
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2007年04月01日

相違点が実質的な相違点かどうかの判断手法

事件番号 平成18(行ケ)10296
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官飯村敏明

『 原告は,本願発明においては,「選択セルとして指定されるセルの少なくとも2つの列」が,選択セル以外のセルを含まないと解すべきであるのに対し,先願発明においては,選択セルのみならず分離用セルを含んでいるから,両者はこの点において異なり,これに反する審決の認定には誤りがある旨主張する。
・・・
 先願発明に係る図面(図1)には,分離用トランジスタが用いられている態様が示されているけれども,先願明細書の全体の記載からすれば,セル間干渉による電流差の減少を防止するとの課題に照らして,その解決手段として,選択用トランジスタにコア注入を行って高VTH状態とすることも当然に示唆されているということができる。以上のとおりであるから,先願明細書に開示された発明の内容としては,分離用トランジスタを設けることが,必須の構成であるとすることはできない。
(3) 以上によれば,先願明細書の図1に記載された先願発明の具体的な態様において,Y個の行とX個の列に配列されたトランジスタセルのアレー以外に,分離用トランジスタを有することは,先願発明の内容を理解する上で,付加的な構成にすぎないというべきであるから,これをもって本願発明との実質的な相違点ということはできない。』

『 原告は,本願発明において,2つの選択線を隣接して配置する構成を採用したことは,単なる周知技術の付加ではない旨主張し,これに反する審決の認定判断には誤りがある旨主張する。
・・・
不揮発性半導体メモリにおいて,互いに隔てた領域に配置されたトランジスタに比べて,隣接した領域に配置されたトランジスタの方がその特性が揃えやすく,互いに隣接した領域にトランジスタを配置させることは技術常識であるといえるから,メモリセルを2つの選択線により選択する場合には,2つの選択線をメモリセルを挟んで配置する方法(先願発明)か,2つの選択線を隣接して配置する方法(本願発明)のいずれかを用いることが自然である。なお,甲4の第3図,乙1の図6,乙2の第6図に示されるように,不揮発性半導体メモリにおいて2つの選択線を隣接して配置することは,ごく普通に行われていることであるといえる

 そうすると,先願明細書,図1には,メモリセルの2つの選択線は,メモリセルを挟んで配置させている態様のみが示されているけれども,先願発明の内容としては,2つの選択線を隣接して配置する方法を除外しているものではないと理解するのが相当である

(2)  以上のとおり,本願発明において,メモリセルを2つの選択線で選択する場合に,2つの選択線を隣接して配置するとの構成は,先願発明の技術的範囲に含まれるとみるべきであり,当業者が必要により適宜選択すべき技術的事項にすぎず(本願明細書における図4の従来技術や,甲4の第3図の実施例として,2つの選択線を隣接して配置することが,何らの説明もなく記載されていることも,上記の判断の裏付となる。),また,選択線を隣接して配置したことによる格別顕著な効果もない。したがって,本願発明において,2つの選択線を隣接して配置する構成を採用したことは,本願発明と先願発明との相違点ということはできない。』
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2006年12月03日

特許法29条の2のクレーム解釈

事件番号 平成18(行ケ)10110
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年11月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一


『訂正審判請求書添付の訂正明細書のもの(下線部分が訂正箇所)
【請求項1】
 画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ符号化パターンである2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段と,
選択的に,入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する付加手段と,
 前記付加手段からの信号に基づき記録媒体上に画像を形成する手段とを有し
 前記付加手段は,
a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,
b)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加しない場合,前記入力画像信号をそのまま出力する,
 ことを特徴とする画像形成装置。』


『(3) 原告は,符号化とは,「ある情報を別の表現体系へ対応づける」ことであり,処理の実態は変換であって,符号化パターンは,記号等とは異なる次元の情報であり,これにより,その作用効果にも差が生じるものであって,先願発明には,訂正発明の「2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段」がないと主張する。
しかしながら,符号とは,一般に,記号の一形態を意味するものと理解されるものであって,このことは,「符号」が,「〔1〕・・・〔2〕情報を表現するための記号の配列。コードという。一般に0と1の記号が使われる。・・・」(オーム社発行の「情報技術用語大辞典」(甲8)),「情報を表現する通報の集合に対し,あらかじめ約束された規則に従って対応付けられた記号列(符号語)の集合。
各記号列は1次元的に記号を連ねて構成される。符号を構成する個々の記号列を符号語という。・・・」(電子通信用語辞典(甲9))と定義されていることからも明らかである。そして,原告の主張する作用効果の差は,符号として記号を用いる際に,予め約束された規則によって,符号として用いる記号にどの程度の秘匿性や暗号性を持たせるかということに帰するのであって,当業者が必要に応じて適宜決めればよい技術的な設計事項にすぎない。』


『,この記載によれば,先願発明は,CPUが画像メモリ内の画像データを加工しているということができる。
しかしながら,先願発明でも,上記(3)のとおり,繰返し出力の周期に対応して,記号を重ねる位置を特定し,記号を重ねる場合には,記号の2次元ビットマップ情報に基づき,局所的に切り替えて,記号を重ねるための信号を出力しているのであり,また,上記1(2)のとおり,画像メモリの出力信号が,レーザドライバに送られて半導体レーザを駆動し,印刷出力を行っているのである。
このように,先願発明は,局所的に切り替えて加工した画像データを最終的に印刷出力しているのであるから,CPU1170と画像メモリ1116からなる構成により,訂正発明の「a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,b)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加しない場合,前記入力画像信号をそのまま出力する」との処理を行っていると解される。そして,訂正発明の付加手段が,まず,局所的に切り替えて画像メモリ内で加工を行い,その局所的に切り替えて加工された画像データを記録媒体に出力するという先願発明の構成を,排除することまでは特定していない。』
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2006年03月04日

クレームの解釈と数値限定の場合の同一性の判断

◆H17. 2.17 東京高裁 平成16(行ケ)83 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条2項

<争点1>
 審決は、本件記録紙を「インクを用いない記録ペンすなわち尖針などで印字(尖針による引掻き記録)できる『記録紙』」と認定したが、そのように限定する根拠はないか
<判示1>
 本件記録紙において、本件隠蔽層の隠蔽性の低減は、本件隠蔽層の水性ポリマー粒子の中空孔などに起因する微細孔の光散乱を低減させることにより行われるものであるから、記録エネルギーを作用させる手段は、「インクを用いない記録ペンすなわち尖針など」に限定されるものではなく、微細孔における光散乱を所定程度に低減させることができるように調整したものであれば、他の記録エネルギーを作用させる手段、例えば、このような微細孔における光散乱に起因する隠蔽層を有する記録紙に慣用されている「タイプライター」(引用例〔甲24〕3欄第2段落)等によっても可能であることは明らかである。
そうすると、本件明細書(甲1)の特許請求の範囲【請求項1】の記載から、本件記録紙の記録方法については、上記のとおり「本件隠蔽層の隠蔽性を所定程度以下に低減させられ得るものであれば足りる」ものであることが、これに接する当業者において一義的に明確に理解できるものであるというべきところ、一見してその記載が誤記であることが本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどのリパーゼ事件最高裁判決のいう特段の事情は認められない。

<追加的判示事項>
数値限定発明の同一性の判断に当たっては、数値限定の技術的意義を考慮し、数値限定に臨界的意義が存することにより当該発明が先行発明に比して格別の優れた作用効果を奏するものであるときは、同一性が否定されるから、上記数値限定によって先願発明との同一性が否定されると判断するには、その前提として、本件発明1の数値範囲が臨界的意義を有するものであるか否かを検討する必要があるというべきである。しかしながら、審決は、本件発明1の上記?@、?Aの数値範囲の臨界的意義を何ら検討していない他の重要部分(追記)
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先願の公開前に特許査定された本願に特許法29条の2の適用はあるか

◆H18. 1.25 知財高裁 平成17(行ケ)10437 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条の2

<概要> 
 事実関係が、1 先願発明の特許出願、2 本件発明の特許出願、3 本件発明についての特許査定、 4 先願発明につき出願公開、5 本件特許の設定登録という順序でされた場合、本願発明と同一の先願発明で特許法29条の2を理由として無効とすることはできるか。
<争点>
○ 審査において拒絶理由が存在しないことを判断する時期は査定時であり、設定登録日ではなく、また、審判制度において判断されるべきは、査定の是非であり、設定登録の是非でないか、
○ 本件発明が、査定時において特許法29条の2の適用要件を満たすものではなく、特許査定がなされた後、後発的に特許法29条の2に該当することとなった発明に該当する場合、特許法123条1項2号は,査定時に,「その特許が…第29条の2,…の規定に違反してされたとき。」に無効審判を請求することができることを規定するのみであり、「特許がされた後において、その特許が29条の2の規定に違反することになったとき」に無効審判を請求できること(後発的無効理由)を規定するものではないから、それによっては特許を無効とすることはできないか、

<判示事項> 
 特許法(以下,単に「法」ともいう。)29条の2における「出願公開」という要件は、後願の出願後(当該特許出願後)に先願(当該特許出願の日前の他の特許出願)についての「出願公開」がされれば足りるのであり、後願の査定時に未だ先願の出願公開がされていない場合には、担当の審査官が先願の存在をたまたま知り得たとしても,その時点で査定をする限り、特許査定をしなければならないが、その後にその先願の出願公開がされたときは、法29条の2所定の「出願公開」の要件を満たし、法123条1項2号に該当するものとして特許無効審判を請求することができるものと解するのが相当。  (その根拠)
 (a) 法29条の2は、その文言解釈上、先願の出願公開時期につき、「当該特許出願後」(後願の出願後)ということ以外に何ら限定していない。
 (b) 法29条の2で特許しない趣旨は、後願である当該特許出願は、先願について出願公開がされなかった例外的な場合を除き、社会に対して何ら新しい技術を提供するものではない。
  (c) 実質的に考えても上記のように解釈するのが相当。 仮に、後願(当該特許出願)についての特許査定時までに先願の出願公開がされていない場合には、その後にその出願公開がされたとしても法29条の2の適用の余地はないと解するならば、不当な結果となる。 そもそも、特許査定の時期は、審査請求をどの時点でするか、審査手続がどのように進行するかなど、個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、出願公開の時期も、出願人が出願公開の請求をどの時点でするか、法64条1項前段の出願公開についても事務手続がどのように進むかなど、これも個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、両者の先後関係は、多分に偶然の要素に左右されることは、制度上自明のことである。このような偶然の要素によって特許要件の充足性を左右させることは、特許制度を不安定かつ予測困難なものとするものであって、特許法の予定するものでないと解される。また、そのような不安定かつ予測困難な制度として運用するならば、先願者の防衛的な観点からの手続を誘発することにもなり、法29条の2の企図するところとも背馳することになる。
 (d) 従前の特許法の解説書の記載には、先願の公開が既にされていることを前提に特許の拒絶査定を論じるかのように読めないではないものも存在する。しかし、それは、早期審査制度の運用が開始される前においては、後願の査定時期が先願の公開時期を追い抜く事態を想定し難かったために、先願の公開がされた後に後願の査定時期を迎えるという典型的な事例を念頭において記載されているからにすぎず、後願の査定時までに先願が公開されていなければ、もはや法29条の2の適用の余地はなくなるということを意識的に論じた趣旨であるとは解し得ない。 また、原告は、法123条なども引き合いに出して主張するが、法29条の2を前判示のように解する妨げとなるものではない(後願の特許査定がされた後に先願の出願公開がされた事例であっても、後願の特許査定時には、既に先願が存在しており、それは一部の例外を除きすべて公開されるものであるから、特許要件を欠く原因の本質的部分は存在していたものともいえるのであって、特許査定後に全く新たに発生するような後発的無効事由と同一に論じることは相当ではない。また、法39条1項の事例をも考察するならば、法123条1項2号が特許査定後の事情が付加された無効事由を一切排除するものとは解し難い。)。
  (e) ちなみに、平成10年11月「工業所有権審議会企画小委員会報告書〜プロパテント政策の一層の深化に向けて〜」(中山信弘委員長。特許庁ホームページにて公開されている。)の「【4】申請による早期出願公開制度の導入」という項では、早期審査に付された後願の特許査定後に、先願の出願公開がされるという本件と同じ事案について、法29条の2による特許取消事由が成り立つことを前提に、異議申立期間満了前に先願の早期公開を可能とすることの必要性が報告されており、法29条の2についての前判示の解釈と同旨のものと解される。
 (f) 本件と同様、先願発明の特許出願、後願発明の特許出願、後願発明についての特許査定、先願発明につき出願公開、後願発明の特許の設定登録という時系列的な流れをたどった事案において、異議が申し立てられ(異議2001−73432号)、特許庁は、法29条の2に違反してされたものとして上記特許を取り消す決定をし(平成15年2月6日付け決定)、その決定取消訴訟においても、先願の公開時期については特段問題とされることなく、東京高裁判決により取消決定が維持され、確定したものがある(東京高裁平成16年12月9日判決・同平成15年(行ケ)第107号事件)。

(感想)
 早期審査制度(特許庁の運用による)によって、公開前に審査が行われるようになったために、生じた疑義に裁判所の判断が示された。個人的には、公開前審査は、(1)出願順序あるいは審査請求順序をくずし、(2)出願人の個別の事情によって早く審査を行う不透明性、(3)前述のような法制度の不備から特許を得やすいこと、から早期審査制度を利用する出願人を不合理に優遇するものであると考える。むしろ、その他の出願人が審査が遅れることを了承する場合に、料金を割り引くなどの方法をとるべきではないか
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補正の基準と引用例の認定

◆H18. 2.14 知財高裁 平成17(行ケ)10207 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条の2

<概要>
 平成12年2月10日に設定登録された特許に対して、平成15年8月7日,本件特許の請求項1ないし3項について無効とするとの審判が請求された。特許庁は,これを無効2003−35327号事件として審理した結果,平成16年6月25日,「特許第3031856号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特許第3031856号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をしたが、審決取消し訴訟が提起された。

<争点>
 周知技術であることが直ちに開示があることにつながるとした審決の判断は違法であり、明細書中に開示があるか否かを判断するときには、明細書の補正に関する審査基準と同様に判断すべきであるかどうか。

<判示事項>
 原告が指摘する審査基準は、明細書等の補正に関する運用上の考え方を示したものであって、第1先願発明の技術内容をどのように理解するかということとは直接関係しない。
 また、審決は、単に周知技術であることが、直ちに先願明細書1にインバータの開示があることにつながると判断したものでない。

(感想)
 原告指摘の点は確かに混同しやすいポイントである。個人的には、次のように考える。
 (1)本願または引用例の明細書の記載事項を確定する際には、明細書の記載に接した当業者がどこまでの技術的事項が記載されていると認識(A)するか、かが基準であるが、(2)補正できる範囲は、明細書に記載されているに等しい事項(B)であるかどうか、かが基準である。
 そうすると、ある記載から周知のα技術もβ技術(その他のいくつかの常套手段)も利用できるというときに違いが出る。例えば、引用例の認定であれば、α技術も、β技術も認定できるということになるが、本願明細書の補正の際には、α技術だけ、β技術だけに限定して補正することはできない(なぜなら、その技術だけ限定して使うという技術思想は記載されていないから。)。
 たぶん、こういう理解が正しいのだと思う。
posted by ごり at 19:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法29条の2