2012年07月22日

意匠の要部の認定事例−複数の意匠が既登録の配設態様を要部としない事例

事件番号 平成24(行ケ)10042
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
意匠法3条1項3号

 本願意匠において,全体としてみて,いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点については,本願意匠の出願前に日米において複数登録されていることを斟酌すると,それだけでは取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な形態であるとはいえず,本願意匠においては,繰返しの単位を構成する三つの溝の,具体的な形状,配列,位置関係等が,取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な部分(要部)であると認めることができる。
 ・・・
 上記のとおり,本願意匠の三つの溝は,溝縁が直線であり,端部に向けて溝幅が細くなることから,看者に対し,一方の先端がとがった細い直線により構成され,無機的であり,かつ,非常にすっきりとして,サイドウォールから赤道に向けて流れる印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。これに対し,引用意匠の三つの溝は,全体として,基本的に溝幅に変化がないことも相まって,看者に対し,同じ幅の溝が曲線的にねじ曲がった印象,例えていえば,先端の丸まった筒状の細菌あるいは細胞をまとまりなく配した印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。

 なお,両意匠は,略同方向に傾斜した三つの溝を1単位とする形状(模様)が,タイヤの赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設されている点が共通するが,この点は,既に説示したとおり,公知意匠との関係で,本願意匠の要部には当たるとはいえない。
 ・・・
 以上を総合すると,本願意匠は,共通点を考慮したとしても,全体として取引者・需要者に引用意匠と異なる美感を生じさせるものと認めるのが相当であって,引用意匠とは類似しない。
posted by ごり at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2012年07月12日

「販売することができないとする事情」を認めた事例

事件番号 平成23(ワ)247
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年06月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎
意匠法39条1項(特許法102条1項)

エ 「販売することができないとする事情」の存否等
 ・・・
c 前記a及びbの認定事実を総合すると,仮に被告による被告製品の販売がされなかった場合には,被告製品の購入者の多くは,Docomo,SoftBank等の携帯電話用の被告製品と同種の接続ケーブルが一体となった代替品を選択した可能性が高いものと認められる。
 また,本件登録意匠と類似する被告意匠は,被告製品の購入動機の形成に寄与していることが認められるものの,その購入動機の形成には,被告意匠のほか,被告製品がDocomo,SoftBank等の携帯電話用の専用品であることが大きく寄与し,被告製品の色彩等(本体と接続ケーブルが同一色である点を含む。)も相当程度寄与しているものとうかがわれるから,被告意匠の購入動機の形成に対する寄与は,一定の割合にとどまるものと認められる。

 以上によれば,原告製品と被告製品の形態の違い,被告製品と同種の代替品の存在,被告製品の購入動機の形成に対する被告意匠の寄与が一定の割合にとどまることは,被告製品の譲渡数量の一部に相当する原告製品を原告において「販売することができないとする事情」(意匠法39条1項ただし書)に該当するものと認められる。

 そして,上記認定の諸点を総合考慮すると,意匠法39条1項ただし書の規定により控除すべき上記「販売することができないとする事情」に相当する数量は,被告製品の販売数量(前記ア)の9割と認めるのが相当である。
posted by ごり at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2012年01月12日

売上げに対する意匠の寄与と実施料率の認定事例

事件番号 平成22(ワ)13746
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

b 意匠法39条3項に基づく請求について
 前記aのとおり,CVQ−2000の販売により被告大倉が得た利益額は不明であるが,その売上額は,仕入価格である税込み28万5600円に販売台数である593台を乗じた1億6936万0800円を下回らないと認められる。
 そして,既に述べたとおり,一般の取引を念頭に置いた場合,本件意匠は売上げにほとんど寄与しないと考えられるから,その実施料率も低いと考えられ,2%を相当と認める
したがって,意匠法39条3項により算定される原告の損害は,338万7216円となる。
posted by ごり at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2011年10月02日

意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する場合

事件番号 平成22(ワ)9966
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年09月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
裁判長裁判官 森崎英二

ウ 販売することができないとする事情(意匠法39条1項ただし書)
 被告らは,被告大創による被告商品の譲渡数量は,@ 被告商品の価格,A 販売ルートの違い,B 競合品の存在,C 本件意匠の寄与度など,被告商品固有の事情により販売された部分があるとし,これが意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する旨主張するので,以下,そのような事情の存否について個別に検討する。

(ア) 被告商品の価格について
 被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。・・・,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。
 そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。

(イ) 販売ルートについて
被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。
 もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。
したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。

(ウ) 競合品について
 資生堂の商品(乙4)は,・・・,本件意匠の要部と構成を共通にしている。
 したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1〜3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。

(エ) 本件意匠の寄与度について
 原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。
 ところが,被告商品は,・・・,結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はない
・・・。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。
 さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。
 ・・・
 したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。

(オ) 結論
 これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。
posted by ごり at 22:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2011年01月16日

意匠法4条の解釈−期間外に提出された新規性喪失の例外証明書

事件番号 平成22(行コ)10004
事件名 異議申立棄却決定取消請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第2 事案の概要(略称は,原判決の略称に従う。)
1 本件は,原審において,控訴人が,意匠登録出願に関し,意匠法4条3項に規定する新規性喪失の例外証明書を,同条項に規定する「意匠登録出願の日から30日以内」の最終日の翌日に提出したところ,特許庁長官から,・・・,平成21年2月20日付けで手続却下の処分(本件却下処分)を受けたので,これに対する異議申立てをしたが,同年8月28日付けで異議申立てを棄却する決定(本件棄却決定)を受けたため,本件却下処分の違法を主張して,本件棄却決定の取消しを求めた事案である。

原判決は,本件棄却決定の取消しを求める本件訴えにおいては,行政事件訴訟法10条2項の規定により,本件棄却決定の違法事由として控訴人が主張し得るのは,本件棄却決定の固有の違法事由(瑕疵)に限られるところ,控訴人は,本件却下処分の違法を理由として本件棄却決定の取消しを求めるものであって,本件棄却決定に取消しの理由となるべき違法事由があるとは認められないから,本件棄却決定は適法であるとして,控訴人の請求を棄却した。
 なお,原判決は,念のため,控訴人の主張する本件却下処分の違法についても検討し,これを適法であるとした。
 控訴人は,これを不服として控訴するとともに,当審において,原審における主張を踏まえて,本件却下処分の取消しを求める請求を追加した。
・・・

第4 当裁判所の判断
・・・
2 争点2(本件却下処分は取り消されるべきものか否か)につい
・・・
 この点について,控訴人は,当審において,旧規則41条は,例外証明書の提出期間を出願時と定めたものであって,旧特許法,旧規則においても,例外証明書の提出期間等が明文で定められていたものである,最高裁昭和45年判決は,「最長想定出願期限」,「最長想定証明書提出期限」なる概念を前提としている,例外証明書の提出期限が,旧特許法ではなく,旧規則により規定されているとの一事をもって,最高裁昭和45年判決を無視し,意匠法4条に関し,杓子定規の文理解釈をすると,意匠法4条改正による出願人の保護強化の趣旨を没却させるなどと主張する。
 しかしながら,旧規則41条は,例外証明書を願書に添付することを定めたのみで,その提出期限まで明文で定めていなかったからこそ,最高裁昭和45年判決が指摘するとおり,出願自体が許される期間までであれば,上記証明書の追完を認める余地があるにすぎず,最高裁昭和45年判決は,意匠法4条のように,出願自体に一定の期間を設けた上で,さらに出願時から一定期間について例外証明書の提出期間を定めた場合において,出願が許される期間と例外証明書の提出期間とを通算して,明文規定により許された期間を逸脱した「最長想定証明書提出期限」なる概念を前提としたものということはできない
 また,意匠法4条は,6か月の出願期間に加え,出願から30日の例外証明書提出期間を設けているところ,出願期間の範囲内において,出願人自らが出願日を任意に選択し得るのであるから,その出願日から30日以内に例外証明書の提出を要求したからといって,出願人の保護に欠けることはない。
posted by ごり at 15:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2009年09月13日

意匠の類否判断において考慮すべきでない特徴

事件番号 平成21(行ケ)10051
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


3 審決の理由及び本訴における被告の主張について
(1)・・・

(2) 被告は,成形ロールの分野においては,凹部の形状が,円形状でないものも存在するから,本願意匠と引用意匠とは,凹部の円形状を選択した点に共通の特徴があり,その点を重視すべきであると主張する

 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。仮に,凹部の円形形状を選択した点に,本願意匠と引用意匠の共通点があることを前提としたとしても,そのことが,本願意匠と引用意匠との類否の判断に当たって,凹部の配列などその他の特徴点を考慮に入れるべきでないことの根拠にはならない

 また,被告は,成形ロールにおける意匠の類否は,成形ロールそのものが起こさせる全体的な美感の観点から判断すべきであり,そのような観点に照らすならば,凹部間の平坦部の差異に着目すべきではなく,凹部の集合体として観察するのが相当であると主張する

 しかし,被告のこの点の主張も失当である。
 すなわち,専ら機能的な理由により,凹部の配置が制約を受け,特定の配置,間隔しか選択できないような事情が存在するような場合には,凹部の特定の配置等に特徴があったとしても,その特徴を考慮すべきでないということができるが,本願意匠及び引用意匠において,そのような特段の事情は,主張,立証がされていないから,被告の主張は採用の限りでない。
 確かに,成型ロール等の機械の分野において,その需要者が,凹部の配置等によって惹起される美感等を重視して,当該製品を購入するか否かを決定する例は,少ないであろうことは容易に推認されるが,そのような実情があったとしても,類否の判断に当たり,成形ロールの全体の形状のみを考慮に入れるべきであって,凹部の配置,間隔,パターン等の特徴を考慮に入れるべきではないとする根拠にはならない。
posted by ごり at 10:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2009年04月20日

特許法施行規則30条の「同時に」を「同一日に」と拡張する特例法施行規則14の趣旨 条

事件番号 平成20(行コ)10002
事件名 却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成21年03月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

1 本件の経過
 本件は,控訴人が意匠登録出願と同時に,パリ条約による優先権主張の手続をしないで,その後の上記出願日中に,優先権主張に必要な事項を追加した手続補正をし,さらに後日,適法な優先権主張があることを前提とした優先権証明書の提出書を提出したのに対し,特許庁長官が控訴人に対し,上記手続補正及び同優先権証明書の提出書に係る各手続をいずれも却下する処分(以下「本件各処分」という。)をしたため,控訴人が被控訴人に対し,上記手続補正を却下した処分には意匠法15条1項で準用される特許法43条1項の解釈・適用を誤った違法があり,この違法な却下処分の存在を前提とした上記優先権証明書の提出書を却下した処分には意匠法60条の3の適用を誤った違法がそれぞれあると主張して,本件各処分の取消しを求める事案である。


・・・
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」(原判決19頁19行〜24頁22行)に記載のとおりであるから,これを引用する。
 ・・・

(3) 特例法施行規則14条に基づく主張について
 控訴人は,特例法施行規則14条を根拠に意匠法15条が準用する特許法43条1項の「同時に」は「同一日に」を解釈すべきである旨主張するので以下検討する。

 特例法施行規則は,それまで書面で行われていた特許等関係法令の規定による手続を電子情報処理組織を使用して行う(以下「オンライン手続」という。)ことを可能にするための特例法の施行細則を定めるものであるところ,乙第6号証によれば,その立法過程において以下のような検討がされ,特例法施行規則12条及び14条が制定されたものと認めることができる。
 特例法の立法当時,特許等関係法令上「同時に」に行うものと規定されていた手続は,
@ 出願審査の請求と同時にする手続の補正(特許法17条の2第1号,但し,平成6年法律第116号により削除された。),
A 出願の分割と同時にする手続の補正(特許法44条1項1号,特許法施行規則30条),
B 新規性喪失の例外の規定の適用を受けたい旨を記載した書面の提出,
C 国内優先権主張の手続(特許法42条の2第4項,なお法改正に伴い現在は特許法41条4項),
D パリ条約に基づく優先権主張の手続(同法43条1項)及び
E 補正却下後の新出願の規定の適用を受けたい旨の書面の提出(昭和60年改正前特許法53条6項,4項)
の各場合があったところ,BないしEの各手続については,「同時に」の通常の意味及びいずれの場合も願書等の上にその旨を記載することによりその手続を省略することができるものとされていたことを勘案し,特例法施行規則12条においてオンライン手続による願書等の中にその旨を記録することにより行うものと定めた
 これに対し,@については出願審査請求書及び手続補正書,Aについては出願ともとの特許出願手続の手続補正書の2つの書面の同時提出がそれぞれ必要になるところ,複数の送信を同時に受信できない,すなわち時間的に「同時に」を実現できないという特例法の立法当時の技術的制約の中で,上記の2つの手続を「同時に(行った)」ものとするための法的手当てが必要になり,さらに,オンライン手続と従来の書面提出等による手続が併存し得る事態に対する法的手当てが必要となり,これらの事態に対処するために特例法施行規則14条が制定され,その1項において「当該二の手続については連続して入力を行わなければならない」とし,その2項において「二の手続のうちの一の手続を電子情報処理組織を使用して行い,他の手続を書面の提出により行うときは,当該二の手続については同日にしなければならない」とされた

 以上によれば,本件においては前記第2の1に記載したようにパリ条約に基づく優先権主張の手続をオンライン手続により行う場合であるから,特例法施行規則12条により意匠登録出願の願書中にその旨を記録して行う必要があるところ,控訴人はオンライン手続で送信した願書中にその旨の記録をすることなく,その約2時間後にオンライン手続で上記出願につきパリ条約に基づく優先権の主張をする旨の送信を行ったことは当事者間に争いがないところであるから,かかる手続が特例法施行規則12条に違反することは明らかである。

 控訴人は,意匠法15条が準用する特許法43条1項の「同時に」が「同一日に」を含むものと解釈し得る根拠として特例法施行規則14条を援用するのでこの点を検討するに,確かに同条項は前述したAの場合について特許法施行規則30条が規定する「同時に」を「同一日に」と手続を行い得る時間的範囲を拡張したものであるが,これは前述したオンライン手続で送信された情報を同時受信できないという特例法制定当時の技術的制約及びオンライン手続と書面提出手続の併存という2つの手続を「同時に(行う)」といういずれも特許法等の要請の実現を困難ならしめる例外的事情の存在に基づくものであるから,かかる事態はオンライン手続の導入,すなわち特例法の立法に際して当然に予想された事態であり,上記事態に対処する限度における立法的措置はその委任の範囲内にあるものというべきであるところ,特例法施行規則14条は,その規定内容に照らすと,上記事態に対処するために「同時に」の時間範囲を必要最小限度の範囲内に留めた合理的な立法的措置ということができ,これが特例法の委任の範囲内にあることは明らかというべきである。

 そして,既に説示したとおり,国民に履践を求める手続規定においては,特段の事情がない限り,言葉の通常の意味において解釈されるべきところ,「同時に」とは「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま。まさにその時。いちどきに」といった意味であり,より長い時間的範囲を意味する「同一日に」とは区別して理解されるのが通常であるから,上記のような例外的事態に対処するための特例法施行規則14条を根拠に,これを例外的事情のない上記のBないしEのような場合においても上記の通常の意味を超えて「同一日に」と拡大して解釈することが相当でないことは明らかというべきである

 したがって,特例法施行規則14条を根拠とする控訴人の主張を採用することはできない。
posted by ごり at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

特許法43条1項の「同時に」の解釈

事件番号 平成20(行コ)10002
事件名 却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成21年03月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

1 本件の経過
 本件は,控訴人が意匠登録出願と同時に,パリ条約による優先権主張の手続をしないで,その後の上記出願日中に,優先権主張に必要な事項を追加した手続補正をし,さらに後日,適法な優先権主張があることを前提とした優先権証明書の提出書を提出したのに対し,特許庁長官が控訴人に対し,上記手続補正及び同優先権証明書の提出書に係る各手続をいずれも却下する処分(以下「本件各処分」という。)をしたため,控訴人が被控訴人に対し,上記手続補正を却下した処分には意匠法15条1項で準用される特許法43条1項の解釈・適用を誤った違法があり,この違法な却下処分の存在を前提とした上記優先権証明書の提出書を却下した処分には意匠法60条の3の適用を誤った違法がそれぞれあると主張して,本件各処分の取消しを求める事案である。
 ・・・

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」(原判決19頁19行〜24頁22行)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 特許法43条1項の「同時に」の解釈について
ア 控訴人は,法律上の文言の解釈は,その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味から,目的的かつ合理的に解釈されるべきであり,原判決が,特別の事情が認められない限り,「同時に」という文言を「同一日に」と解釈することは許されないとしたことは,緻密な個別条項解釈の作業努力を放棄した文言解釈というほかなく,合理性を欠く不当なものであると主張する

 しかしながら,引用に係る原判決の説示するとおり(21頁24行目から22頁6行目まで),言葉の通常の意味として「同時に」と「同日に」は時間的接着の程度において明らかに異なる概念として理解されていること,両語が有するかかる通常の意味を踏まえて意匠法等において「同時に」と「同日に」とを使い分けて使用していることからすれば,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈することは,そのように解すべき特別の事情が認められない限り許されないというべきである。

 確かに,・・・控訴人主張は,一般的な法律解釈の方法としてそれ自体否定されるものではないが,特許法43条1項のような国民に一定の行為の履践を求める手続に関する規定においては,手続を利用する一般国民が言葉の通常の意味により理解することができることが特に強く要請されるのであり,言葉の通常の意味ないしは用法において「同時に」と「同日に」とは明らかに意味が異なるものとして理解されていること,立法者は,正に控訴人主張に係る「その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味」をも考慮した上で法律の条項における文言を定め,意匠法等において文言上「同時に」と「同日に」とを使い分けているのであるから,控訴人主張に係る「その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味」は法律の条項における文言の選択において既に考慮済みであるといえること等に鑑みれば,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈することは,手続の利用者である一般国民の理解や立法者の意思に反するものというべきであり,特段の事情がない限り許されないことはむしろ当然であると言わなければならない。
 ・・・
posted by ごり at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2009年04月19日

一群のイラストが翻案物にあたるかの判断事例

事件番号 平成19(ワ)7877
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成21年03月26日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次


第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告各イラストは原告各イラストを複製し又は翻案したものであるか)について
・・・
(3) 被告各イラストは原告各イラストについての原告の著作権を侵害するものか
 著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作することをいう。
 したがって,被告各イラストが原告各イラストを複製又は翻案したものというためには,被告各イラストが原告各イラストの特定の画面に描かれた女性の絵と細部まで一致することを要するものではないが,少なくとも,被告各イラストに描かれた女性が原告各イラストに描かれた女性の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることを要するものというべきであり(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁,同平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照),その結果,被告各イラストの女性が原告各イラストの女性を描いたものであることを想起させるに足りるものであることを要するものというべきである
 したがって,原告各イラストの著作権者である原告において,被告各イラストが原告各イラストを複製又は翻案したと主張している本件においては,被告各イラストが原告各イラストに依拠して作成されたことを前提として,それが原告各イラストを複製したものか又は翻案したものかを区別することに実益はなく,少なくとも,原告各イラストのうち本質的な表現上の特徴と認められる部分を被告各イラストが直接感得することができる程度に具備しているか否かを検討することをもって足りるというべきである。以下においては,そのような観点から検討することとする。

(4 ) 被告各イラストは原告各イラストに依拠したものであるか
ア そこで,まず,被告らが原告各イラストに依拠したものであるか否かについて検討する。ここでいう「依拠」とは,ある者が他人の著作物に現実にアクセスし,これを参考にして別の著作物を作成することをいう。

イ ところで,原告著書に描かれている原告各イラストは極めて多数にのぼり,被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのうちどのイラストに依拠して作成されたものであるかを個別に特定して主張立証することは著しく困難である。他方,原告著書のように,同一のコンセプトに基づき,かつ同一の特徴を有する人物をひとつのキャラクターとして多様に表現する場合,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストに依拠しながら,その本質的な表現上の特徴を直接感得できるようなイラスト(すなわち,同一のキャラクターを表現していると認められるイラスト)を新たに創作するものと解される。したがって,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストを原著作物とする二次的著作物と見られる場合が多いと考えられる。

 二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない(前掲最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決)から,第三者が二次的著作物に依拠してその内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとしても,その再製した部分が二次的著作物において新たに付与された創作的部分ではなく,原著作物と共通しその実質を同じくする部分にすぎない場合には二次的著作物の著作権を侵害したものとはいえない。
 しかし,二次的著作物に依拠したとしても,これにより原著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとすれば,二次的著作物を介して原著作物に依拠したものということができ,原著作物の著作権を侵害することになる。また,一話完結の連載漫画などとは異なり,原告著書のように1冊の著書に多数のキャラクターがイラストとして描かれている場合に,どのイラストをもって原著作物とし,どのイラストをもって二次的著作物とするかを判然と区別することは困難である

 以上の点を考慮すると,本件において,原告としては個々の被告各イラストについて,原告各イラストのうち被告らが実際に依拠したイラストを厳密に特定し,これを立証するまでの必要はなく,原告各イラストのうちのいずれかのイラストに依拠し,そのイラストの内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製し又はそのイラストの表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作したことを主張立証することをもって,原告各イラストの著作権侵害の主張立証としては足りるというべきである。

ウ 以上の点を前提に,被告各イラストが原告各イラストに依拠して作成されたものであるか否かについて判断するに,・・・,原告各イラストのうちのいずれかのイラストを参考にして個々の被告各イラストを描いたことが認められるから,被告各イラストが原告各イラストに依拠して描かれたものであることを優に認めることができる。

(5 ) 被告各イラストは原告各イラストを複製又は翻案したものか
ア 上記(4)のとおり,原告としては,個々の被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのうちどのイラストに依拠して作成したものであるかを具体的に特定することは必ずしも必要でないが,個々の被告各イラストが個々の原告各イラストを複製又は翻案したか否かを判断するためには,最低限,個々の被告各イラストが依拠したと考えられる原告各イラストを選択し,特定した上で,個々の被告各イラストが,このように特定された個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴を直接感得することができるか否かを検討する必要がある。したがって,まず,個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴がどこにあるのかを検討する必要がある

 そして,この点を検討するに当たっては,個々のイラストを他のイラストとは切り離してそれ自体からその本質的な特徴は何かを検討するのではなく,原告各イラスト全体を観察し,原告各イラストを通じてそのキャラクターとして表現されているものを特徴付ける際だった共通の特徴を抽出し,これをもとに個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴がどこにあるかを認定すべきものと解される。なぜなら,原告各イラストは,原告が別紙原告イラスト目録で挙げるだけでも127点の多数に及ぶものであるところ,これらの各イラストは同一の女性(キャラクター)を表現するものとして同一のコンセプトの下に描かれたものであるから,そのキャラクターを特徴付ける共通の特徴を見いだすことができるのであり,その特徴は,まさに個々の原告各イラストの本質的な表現を特徴づけるものとみるのが相当だからである。もちろん,キャラクターなるものは,そのイラストの具体的表現から昇華した人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということはできない(前掲最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決参照)から,キャラクター自体に著作物性を認めることはできない。しかし,個々の原告各イラストの本質的な表現上の特徴が何かを検討する際に各イラストに共通する表現上の特徴を考慮することは,キャラクター自体に著作物性を認めることではないから,これを考慮することに何らの問題はないというべきである。

イ そして,そのような観点から原告各イラストに共通して現れている特徴を観察すると,原告各イラストの基本的なコンセプトは,前記のとおり,「独り暮らしをする若い女性」であり,上記(1)のアないしオを表現上の特徴として描かれたものであることが認められる。これに対し,被告各イラストは,マンション読本の表紙に,被告イラスト1を含む3人の人物が描かれており,被告イラスト1の女性とその夫,その子である男児が描かれている。・・・。このように,原告各イラストと被告各イラストとは,その性格・環境決定の上で異なるコンセプトをもって描かれたものということができる。

ウ そして,より具体的に原告各イラストの本質的な表現上の特徴は何かについて検討すると,・・・。

エ 以上によれば,結局のところ,原告各イラストを特徴づける本質的な表現上の特徴は,顔面を含む頭部に顕れた特徴ということにならざるを得ない。そこで,原告各イラスト(甲5,12)を総合した場合の際だった表現上の特徴を抽出すると,次のとおりと認められる(・・・。)。
・・・

オ そこで,上記観点から,個々の被告各イラストが原告各イラストの本質的な表現上の特徴を直接感得し得るものであり,これを複製又は翻案したものといえるか否か順次検討する。
・・・

カ小括
 以上のとおり,個々の被告各イラストは,これが依拠したと原告が主張する個々の原告各イラストを複製又は翻案したものとは認められないから「マンション読本」の作成,発行,配布するなどした被告の行為が原告の複製権又は翻案権ないしは自動公衆送信権を侵害したということはできない。
posted by ごり at 11:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2008年11月09日

意匠の類否の判断

事件番号 平成20(ワ)1089
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年10月30日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

ア意匠の類似範囲
 意匠の類否の判断は,当該意匠に係る物品の看者となる取引者,需要者において,視覚を通じて最も注意を惹かれる部分である要部を対象となる意匠から抽出した上で,登録意匠と被告意匠とを対比して,要部における共通点及び差異点をそれぞれ検討し,全体として,美感を共通にするか否かを基本として行うべきものである。そして,上記の判断に当たっては,当該意匠の出願時点における公知又は周知の意匠等を参酌するなどして,これを検討するのが相当である。
・・・

 以上によれば,本件意匠の要部については,正面側ないし背面側から見た吊部及びハンガー本体の形状であって,吊部については,フック部が正面側において円周の左下部が中心角約90度にわたって開放された円弧状をなし,吊下軸部がフック部の最下端に連なり,軸支持部を挿通し,軸支持部が円筒状でその円筒の内部で吊下軸部を支持し,その円筒の外部下端でハンガー本体のワイヤー状の線に前後から挟まれて結合しており,ハンガー本体については,ワイヤー状の線からなる首部が上部に台形状に突出しており,首部に半円状の薄板が懸装され,首部の端から肩支持部に直線状に連なり,肩支持部に連なって先端部が下方に折り曲げたように延在する短い直線状である点であるものと認められる。
・・・

オまとめ
 上記エの本件意匠と被告意匠との差異点のうち,本件意匠では,首部の正面側の上辺のワイヤー状の線に半円状の薄板が取り付けられているのに対し,被告意匠において,首部5の正面側に本件意匠のような薄板が取り付けられていないという点において,被告意匠は,看者に対して本件意匠と異なる美感を与えるものというべきである。

 そして,上記エの本件意匠と被告意匠との共通点のうち,・・・との基本的構成態様は,乙1ないし4意匠にも共通してみられる形状であること,首部が上部に台形状に突出しているとの形状は,乙3意匠にもみられる形状であること,吊部における円筒状の軸支持部は,ハンガー本体の全体の大きさと対比して,特に際立つ存在ではなく,また,その形状が乙4意匠にもみられるものであることに照らすと,上記の共通点は,上記の首部の薄板が欠如するとの差異点を凌駕するほどの影響を看者に及ぼすものとみることはできない。その余の共通点についても,上記の差異点を凌駕するに足るものということはできない。

 以上のとおりであるから,本件意匠と被告意匠とは,相互の共通点の存在にかかわらず,全体として,看者に対して異なる美感を与えるものであると認められる。
posted by ごり at 16:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2008年06月01日

ロゴマークに相当する構成態様の評価

事件番号 平成19(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『ウ共通点及び差異点の評価
 審決は,上記ア,イの共通点及び差異点の認定を前提として,本件意匠と引用意匠1は,基本的構成態様において相違するとともに,各部の具体的構成態様における差異点が相俟って異なった意匠的効果があり,差異点が共通点を凌駕して,意匠全体として異なる美感を起こさせるものであると評価したものである

 しかるところ,当該評価においては,
 差異点のうち,・・・点が,3辺枠か4辺枠かという両意匠の基本的構成態様に係り,かつ,大きな割合を占める底辺部全体の構成態様における差異であって,看者の注意を引くものであると判断され,
 他方,本件意匠と引用意匠1に共通する構成態様である,・・・構成態様(以下「5本の略帯状部に係る構成態様」という。)は公知意匠(7)〜(13)により,ぞれぞれ引用意匠1の公知日以前から広く知られた構成態様であり,新規な創作性があるものではないから,格別看者の注意を引くものではないと判断されている。

・・・

(3) ところで,意匠法にいう「意匠」とは,物品(物品の部分を含む。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであり(意匠法2条1項),同法3条1項3号が,同項1,2号の意匠(公知意匠)と並んで,これに類似する意匠についても意匠登録を受けることができない旨規定しているのは,公知意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき,公知意匠に類似する美感を起こさせるような意匠については,独占的実施権である意匠権を付与するに値しないと考えられるからであり,意匠権の効力が,登録意匠に類似する意匠,すなわち,登録意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき,登録意匠と類似の美感を起こさせる意匠について及ぶものとされている(同法23条)ことと裏腹の関係にあるものである。

 したがって,同法3条1項3号に係る意匠の類否判断とは,同号該当の有無が問題とされている意匠と公知意匠のそれぞれから生ずる美感の類否についての判断をいうものであり,その判断は,意匠に係る物品の全体(部分意匠については当該部分の全体)に係る構成態様及び各部の構成態様について認定した共通点及び差異点を,それらが類否判断に与える影響を各々評価した上で,それらを総合して行うべきものである。
 そして,その場合に,共通点又は差異点の認定に係る構成態様がよく知られたものであるときは,そのような構成態様は通常ありふれたものであるから,一般に看者の注意を引き難くなり,そのような構成態様に係る共通点又は差異点が類否判断に及ぼす影響も相対的に小さいことが多く,したがって,両意匠の共通点をなす構成態様がよく知られたものであるときは,当該共通点によって両意匠が類似と判断される度合いは低くなることが多いということはできる

 しかしながら,ある物品に係る特定の製造販売者が,その製造販売に係る当該物品の特定の部位に,特定の構成態様からなる意匠を施し,そのような意匠が施された物品が,当該特定の製造販売者の製造販売に係る商品として,長年にわたり,多量に市場に流通してきたため,当該意匠の態様が,その製造販売者を表示するいわばロゴマークに相当するものとして,需要者に広く知られるに至ったような場合においては,当該物品に関する限り,そのような意匠の態様は,広く知られているからといって,看者の注意を引き難くなるものではなく,むしろ,広く知られているために,かえって,その注意を引くものであることは明らかであり,そうであれば,そのような構成態様が共通する場合においては,その共通点が意匠の類否判断に及ぼす影響は,相対的に大きいものとなるというべきである

 しかるところ,上記(2)の認定事実に,甲第4〜第6,第15,第16,第18号証及び弁論の全趣旨を総合すれば,5本の略帯状部に係る構成態様は,原告がその製造販売する運動靴(スニーカー)の側面に施してきたものであって,かかる意匠を施した運動靴が,原告の製造販売する商品として,長年にわたり,多量に市場に流通してきたために,本件意匠の登録出願日前までに,かかる5本の略帯状部に係る構成態様は,原告を表示するいわばロゴマークに相当するものとして,需要者に広く知られるに至っていたものと認めることができる。そして,略変形台形状の外周形状について必ずしも明確に認識することのできない公知意匠(10)の1例が存在するのみでは,かかる認定を覆すに足りず,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

 そうすると,5本の略帯状部に係る構成態様が,広く知られているものであるゆえに格別看者の注意を引くものでないとした審決の評価は誤りといわざるを得ず,かかる構成態様は逆に看者の注意を引くものというべきである

・・・

 そうすると,その余の差異点も含め,本件意匠と引用意匠1との差異点は,上記のとおり,両意匠の最も特徴的な部分であり,看者の注意を強く引くものであると認められる,略変形台形状の外周形状枠内を5等分して,メッシュ地よりなる同幅の略帯状凹部を5本形成し,その各略帯状凹部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させた構成態様における共通点を凌駕するものとはいえず,両意匠が意匠全体として異なる美感を起こさせるものと認めることはできないから,両意匠は類似すると認めるのが相当である。』
posted by ごり at 10:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2008年04月20日

分割直前の明細書に至る補正の効力

事件番号 平成19(行ケ)10321
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『(3) 上記(2)のとおりの本件審査手続の経過に照らせば,原告が,本件原出願に意匠登録を受けようとする意匠として二の意匠が包含されており,意匠法7条に規定する要件を満たさないとの本件原出願に係る第1回拒絶理由通知を受けたため,これに係る拒絶理由を解消するため,すなわち,本件原出願が,意匠登録を受けようとする意匠として一の意匠のみを包含するものとなるよう,本件第1次補正をしたことは明らかであるから,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,本件第1次補正により,第二形態の意匠のみとされ,第一形態の意匠は,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠から除外されたことにより放棄されたものと認めるのが相当である

 また,原告は,本件第1次補正によって意匠登録を受けようとする意匠とされた第二形態の意匠(部分意匠)が,意匠登録を受けようとする部分とその余の部分との境界が不明確であり,意匠法3条1項柱書に規定する意匠に該当しないとの本件原出願に係る第2回拒絶理由通知を受けたため,これに係る拒絶理由を解消するため,第二形態の意匠に係る必要な手続補正として,本件第3次補正をしたものと認めるのが相当である(なお,本件第2次補正は,本件第1次補正において記載漏れのあった軽微な事項の追加に係るものである。)。

(4) そうすると,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,本件第1次補正によって,本件原出願時から第二形態の意匠のみとされ,本件第3次補正も,第二形態の意匠についてされたものであるといえるから,本件出願の時点では,本件原出願における意匠登録を受けようとする意匠は,第二形態の意匠のみであったと認められる。
 したがって,本件原出願は,本件出願の時点では,「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」ではなかったものであるから,本件出願が分割要件を欠くものであったことは明らかであり,その他,本件出願の時点において,同出願が分割要件を満たしていたものと認めるに足りる証拠はない。

2 原告の主張について
原告は,種々の根拠を挙げて,本件出願が分割要件を満たすものであったと主張するので,以下,順次検討する。
(1) 本件出願の時点における本件原出願の内容(意匠登録を受けようとする意匠)を本件原出願の出願時のものと解すべきであるとの主張について

・・・

原告は,「『意匠登録出願の願書の記載又は願書に添付した図面について補正があり,その補正がこれらの要旨を変更するものでないとき,書類等は出願当初から補正後の状態で提出されたものとして取り扱われる。』との審決の解釈に根拠はなく,まして,手続補正により,当初の出願時にさかのぼって,当初の出願手続書類等が手続補正書類等と差し替わるものではないから,本件各補正があっても,本件原出願の内容は,留保された状態にあるというべきである。」と主張する

 しかしながら,適法な手続補正がされれば,意匠登録出願の内容がその出願時にさかのぼって当該手続補正の内容のとおり変更されることは,意匠法9条の2,17条の2第1項及び17条の3の各規定から当然に導かれる解釈であるから,原告の上記主張は,独自の見解であるといわざるを得ず,採用することができない。

ウ 原告は,「審決は,『意匠登録出願の願書の記載又は願書に添付した図面について補正があり,その補正がこれらの要旨を変更するものでないとき,書類等は出願当初から補正後の状態で提出されたものとして取り扱われ,手続の補正があった時からその効力を有するものであり,手続は暫定的な状態にあるものではない。』と判断したが,手続補正により,当初の出願時にさかのぼって,当初の出願手続書類等が手続補正書類等と差し替わり,前者が取り下げられたり,放棄されたりするとの効果が生じるわけではない。そもそも,手続補正は,『一連の意味を持った手続経緯を有するもの』として,当該手続補正の内容につき『時系列的に出願当初からの効力を持つ』ものであるから,当初の出願の目的及び範囲において,以後も手続補正は可能であり(先行の手続補正は,後行の手続行為を拘束するものではない。),その意味で,手続補正は暫定的なものである。」と主張する

 確かに,適法な手続補正がされても,その後に,再度,適法な手続補正がされれば,前者の手続補正によって変更された意匠登録出願の内容は,後者の手続補正の内容のとおり変更されるのであるが,これは,適法な手続補正の効果として意匠登録出願内容が出願時に遡及して変更されることがあり得ることを意味するに止まり,このような可能性があるからといって,出願内容自体が未確定ないし浮動的なものであることを意味するものとしての「暫定的」なものであるとするのは相当ではない

 そして,原告の上記主張は,結局は,適法な手続補正がされても,当初の意匠登録出願の時点にさかのぼって,その内容が変更されるものではない旨をいうものであるから,上記イにおいて説示したとおり,これを採用することはできない。

・・・

(2) 本件参考図の存在により,本件第3次補正後の本件原出願に二の意匠が包含されているとの主張について
・・・

イ 原告は,「手続補正によりいったん削除した記載であっても,その後の手続補正(回復補正)により,再度,当該記載を加えることは可能であると解され,したがって,本件参考図を,当初の出願書類に添付されていた一組の図面(意匠登録を受けようとする意匠)に補正することも可能であると解されるところ(これは,当業者にとって自明である第一形態の意匠の他の部分の構成態様を念のために補正・補充するものである。),本件出願に当たり,当該手続補正を行った上で,出願の分割(本件出願)を行うというのは,審査官にとっても出願人にとっても迂遠な方法であり,手続経済的合理性を欠くから,本件においては,当該手続補正を経ることなく,出願の分割が可能であったと解すべきである。」と主張する

 しかしながら,前記1(2)のとおりの本件審査手続の経過に照らせば,本件原出願について原告が主張するような手続補正を行うことは,要旨変更に当たるものとして許されない上,意匠法7条の規定にも違反するものであって不適法であることが明らかであるから,当該手続補正が適法に行えることを前提とする原告の主張は,その前提を欠くものとして,失当である。』
posted by ごり at 11:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2008年01月06日

意匠法3条2項の容易性の判断

事件番号 平成19(行ケ)10209等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『・・・
イ 意匠1及び意匠2によれば,包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器が,本願(2)の出願前より公然知られていたことが認められる。
 しかし,本願全体意匠と意匠3を対比すると,前記(1)ウのとおりの美観上の相違があり,また,本願全体意匠は上記アのとおりの各特徴を備えている点に照らすならば,本願全体意匠は,多様なデザイン面での選択肢から,創意工夫を施して創作したもの であるから,意匠3を基礎として,意匠1及び意匠2(容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな公知の包装用容器に係る意匠)を適用することによって,本願全体意匠を容易に創作することができたはいえない。』
posted by ごり at 10:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2007年06月08日

専門家が取引者,需要者である場合の意匠の類否判断

事件番号 平成18(行ケ)10462
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美

意匠の類否判断は,全体的観察を中心に,これに部分的観察を加えて,総合的な観察に基づいてされるところ,意匠全体の支配的な部分を占める構成態様,全体として一つの意匠的なまとまりを形成し,看者に視覚を通じて一つの美感を与える構成態様を軽視し,細部の形状・模様及び色彩などの具体的構成態様のみを重視することはできない

 専門家である看者においては,一般消費者であれば見逃すような細部の差異についてもより正確かつ子細に観察するというところに違いがあるにすぎないのであり,専門家が取引者,需要者であるからといって,直ちに,意匠全体の支配的な部分を占める構成態様,全体として一つの意匠的なまとまりを形成し,取引者,需要者に視覚を通じて一つの美感を与える構成態様を注視せずに,細部の形状・模様及び色彩などの具体的構成態様のみを注視するものではない。』

『2 取消事由2(類否判断の誤り)について
(1) 共通点の評価について
ア 審決は,本願意匠と引用意匠の共通点について,「・・・」(審決謄本2頁第6段落ないし第7段落)と判断したのに対し,原告は,これを争い,両意匠に,機能上要請される形態において共通点があったとしても,それはありふれた形態又は必然的形態であって,専門家である取引者,需要者の注意をひくことはなく,これらの形態部分は意匠の要部とはなり得ないから,これらの形態を類否判断の前提として認定すべきではないのに,審決は,要部となる部分と要部とならない部分を区別せず,単に,両意匠の共通点と差異点を抽出し,共通点と差異点の視覚的効果のみにより類否判断を行ったものであるから,意匠の本質から外れているものであって,誤りである旨主張する。

イ 前記のとおり,意匠の形態の類否については,全体的観察を中心に,これに部分的観察を加えて,総合的な観察に基づき,両意匠が看者に対して異なる美感を与えるか否かによって類否を決するのが相当であるところ,この場合において,まずは,当該意匠の全体と公知意匠の全体とを対比して共通点及び差異点を抽出し,この共通点及び差異点を全体的及び部分的に観察し,これらを総合的に観察して,それらが両意匠の類否の判断に与える影響を評価することにより行うのが通常であり,かつ,合理性があるところである
 そうであるならば,当該意匠の全体と公知意匠の全体とを対比して共通点及び差異点を抽出する段階では,要部となる部分と要部とならない部分を区別しないのは当然であって,抽出した共通点及び差異点の観察の段階において,初めて要部観察等の評価の問題となるのである。
 そうすると,審決が要部となる部分と要部とならない部分を区別せずに両意匠の共通点と差異点を抽出していることを論難する原告の上記主張は,失当というほかない。』

<関連事件>
事件番号 平成18(行ケ)10461
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟

事件番号 平成18(行ケ)10460
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟

事件番号 平成18(行ケ)10463
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
posted by ごり at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

2007年02月01日

部分意匠の予定されていると解釈し得る位置等の差異

事件番号 平成18(行ケ)10318
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美

『イ 意匠登録を受けようとする部分の形状等と,同部分と位置等が大きく異なる部分についての形状等は,仮に,それらの形状等自体が共通又は類似し,物品を共通にしたとしても,美感上,看者に与える印象が異なる場合があるといえるから,部分意匠の類否の判断に当たっては,意匠登録を受けようとする部分とそれに相当する部分が,物品全体の形態との関係で,どこに位置し,どのような大きさを有し,全体に対しどのような割合を占める大きさであるか(「位置等」)についての,差異の有無を検討する必要がある

もっとも,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものであることに照らせば,部分意匠の類否判断において,意匠登録に係る部分とそれに相当する部分の位置等の差異については,上記部分意匠制度の趣旨を没却することがないようにしなければならない

破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,通常考え得る範囲での位置等の変更など,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない

ウ 本件相当部分は,本件カタログの6頁下段最左側のプーリーの意匠の本願意匠に相当する部分であり,そのボス部の先端は,プーリーの前縁より内側の位置にするものであるから,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係において,本願実線部分と本件相当部分が相違するともいえる。

しかし,前記イのとおり,破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,類否判断に影響を及ぼさないものであるところ,前記アのとおり,本願意匠において,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係については,図面記載のものに限定されず,プーリーにおけるありふれたボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係を有するものも予定されているものと認められる。そうすると,本件においては,ありふれたボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係を有するといえる引用意匠に係るプーリーのボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係についても,予定されていると解釈し得るのであり,本願実線部分と本件相当部分の上記位置の差異は,類否判断に影響を及ぼすものではない。』
posted by ごり at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法

部分意匠の図面の波線の意味

事件番号 平成18(行ケ)10317
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

『「物品の部分」の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」ということがある。)であって,視覚を通じて美感を起こさせるものも,「意匠」(意匠法2条1項)であり,部分意匠として,意匠登録を受けることができる。

 部分意匠においては,物品全体の形状等に係る意匠と同様,意匠登録出願の願書には,原則として,意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付する必要があり(意匠法6条1項柱書),願書に添付すべき図面は,意匠法施行規則の様式第6により作成しなければならない(同規則3条)。そして,上記様式第6において,物品の部分について意匠登録を受けようとする場合は,一組の図面において,意匠に係る物品のうち,「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き,「その他の部分」を破線で描く等により意匠登録を受けようとする部分を特定し,かつ,その特定する方法を願書の「意匠の説明」欄に記載するものとし(備考11),実線及び破線の太さ(備考5)などが定められている。

 そして,意匠登録を受けることができる物品については,意匠法施行規則7条において,別表第1の物品の区分が定められているものの,物品において,意匠登録を受けることができる「部分」についての規定はなく,出願人は,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせる形状等からなる部分については,願書の「意匠の説明」欄の記載及び添付図面を用いて(同規則3条所定の様式第6の備考11参照),自ら,意匠登録を受けようとする部分を定めることができると解される。

 ここで,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものなのであるから,破線で示された部分の形状等が,部分意匠の認定において,意匠を構成するものとして,直接問題とされるものではない

 しかし,物品全体の意匠は,「物品」の形状等の外観に関するものであり(意匠法2条1項),一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ないところ,「物品の部分」の形状等の外観に関する部分意匠においても同様であると解されるから,部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。そして,そのように意匠登録を受けようとする部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。また,意匠登録を受けようとする部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を示す大きさであるか(以下,これらの位置,大きさ,範囲を単に「位置等」ともいう。)は,後記2(2)のとおり,意匠登録を受けようとする部分の形状等と並んで部分意匠の類否判断に対して影響を及ぼすものであるといえるころ,そのような位置等は,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない部分意匠は,物品の部分であって,意匠登録を受けようとする部分だけで完結するものではなく,破線によって示された形状等は,それ自体は意匠を構成するものではないが,意匠登録を受けようとする部分がどのような用途及び機能を有するといえるものであるかを定めるとともに,その位置等を事実上画する機能を有するものである

 そして,部分意匠の性質上,破線によって具体的に示される形状等は,意匠登録を受けようとする部分を表すため,当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味がない場合もあれば,当該物品における特定の形状等を示して,その特定の形状等の下における意匠について,意匠登録を受けようとしている場合もあり,部分意匠において,意匠登録を受けようとする部分の位置等については,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮して決すべきである。』

『被告は,部分意匠についての類否判断は,基本的には,通常意匠の類否判断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである旨主張する。

 確かに,部分意匠の類否判断において,意匠登録を受けようとする部分の位置の差異を必要以上に考慮することは,実質的に,破線部分の形状等を部分意匠の内容に取り込んで類否判断等をすることにもなりかねず,部分意匠制度の趣旨を没却することになるものであるが,本件においては,前記(3)のとおり,本願実線部分は,その内容に照らし,それと相いれない,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーに位置するものを予定していないと解するのが相当であって,本願実線部部と本件相当部分の位置の差異は,本願意匠と引用意匠に異なった美感をもたらし,その類否判断に影響を及ぼすものであるから,被告の主張は採用できない。』
posted by ごり at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 意匠法