2011年09月11日

すでに確定した訂正を再度認めてしまった事例

事件番号 平成22(行ケ)10361
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第2 事案の概要
・・・
 本件特許の請求項1〜3については,前件無効審判請求において訂正請求がされ,請求項1については前件第2次審決において,請求項2及び3については前件第1次審決において,それぞれ訂正が認められ,訂正が認められた請求項に係る審決はそれぞれ確定している。したがって,これらの訂正による本件特許の請求項1〜3に係る発明(本件発明1〜3)は,次のとおりとなる(本件特許の請求項4については,本件訴訟の対象ではない。)。

 ところで,特許庁は,本件審決において,訂正を認める前件第1次審決が確定していた本件特許の請求項2及び3について,さらに平成21年10月13日付け訂正を認める旨の判断をしているが,平成21年10月13日付けの訂正は,前件無効審判請求における訂正と同内容であるから,既に訂正を認められている以上,再度の訂正を認める必要はなかった。
 また,本件特許の請求項1についても,同内容の訂正を認めた前件第2次審決が本件審決後に確定したことにより,結果的に,重ねて訂正を認めたことになる


<手続きの経緯のまとめ>
順序
1  H.18.02.10 特許第3767993号登録(cl.1-4)
2  H.20.05.20 第1次無効審判請求(cl.1-4)
3  H.21.04.28 第1次無効審判請求に対する第1次審決
         cl.1-3の訂正を認め、cl.1無効、cl.2-4維持。原告・被告は敗訴部分を出訴。
5  H.21.09.04 被告はcl.1に訂正請求(*)
6  H.21.10.08 被告がcl.1の判断の取消を求めた訴訟の決定(cl.1無効を取消、差戻)
8  H.22.03.29 原告がcl.2-4の判断の取消を求めた訴訟の判決(cl.4維持を取消)−>確定
9  H.22.10.19 第1次無効審判請求に対する第2次審決
         cl.1の訂正(*)認め、維持。

4  H.21.07.22 第2次無効審判請求(cl.1-4)
7  H.21.10.13 cl.1-3について訂正請求
10  H.22.10.29 第2次無効審判請求に対する審決。訂正認める。cl-3維持。cl4無効。

2011年04月10日

当初明細書等に明示的に表現されていない数値への限定

事件番号 平成22(行ケ)10234
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年03月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(エ) 次に「330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正する点について検討する。
訂正事項a(ii)の「・・・該石膏廃材を,・・・粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」という事項は,本体内部での石膏廃材の加熱に関し,粉粒体温度を330℃以上500℃以下になるように数値範囲を限定するものであるから,訂正前の数値限定の範囲の上限値を「840℃以下」から「500℃以下」に変更するものである。
ところで,上記「500℃」という値は当初明細書等に明示的に表現されているものではない。そこで,上記「500℃」という値が,当初明細書等に記載された事項から自明であるといえるかどうかが問題となる

しかし,
 「500℃」という特定温度は,もともと訂正前の「330℃以上840℃以下」の温度の範囲内にある温度であるから,上記「500℃」という温度が当初明細書等に明示的に表現されていないとしても,・・・,実質的には記載されているに等しいと認められること,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨が記載され(・・・),当初明細書等の【表2】には,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることからすれば,具体例の温度自体にも開示に幅があるといえること,したがって,具体的に開示された数値に対して30℃ないし50℃高い数値である近接した500℃という温度を上限値として設定することも十分に考えられること,また,訂正後の上限値である「500℃」に臨界的意義が存しないことは当事者間に争いがないのであるから,訂正前の上限値である「840℃」よりも低い「500℃」に訂正することは,それによって,新たな臨界的意義を持たせるものでないことはもちろん,500℃付近に設定することで新たな技術的意義を持たせるものでもないといえるから,「500℃」という上限値は当初明細書等に記載された事項から自明な事項であって,新たな技術的事項を導入するものではないというべきである。

2010年10月30日

法126条3項の趣旨

事件番号 平成22(行ケ)10024
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 特許法134条の2第5項により準用する同法126条3項は,訂正が許されるためには,いわゆる訂正の目的要件を充足するだけでは足りず,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であることを要するものと定めている。法が,いわゆる目的要件以外に,そのような要件を定めた理由は,訂正により特許権者の利益を確保することは,発明を保護する上で重要ではあるが,他方,新たな技術的事項が付加されることによって,第三者に不測の不利益が生じることを避けるべきであるという要請を考慮したものであって,特許権者と第三者との衡平を確保するためのものといえる

 このように,訂正が許されるためには,いわゆる目的要件を充足することの外に,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であることを要するとした趣旨が,第三者に対する不測の損害の発生を防止し,特許権者と第三者との衡平を確保する点にあることに照らすならば,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かは,訂正に係る事項が,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載があるか否かを基準に判断するのではなく,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(すなわち,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決,同平成22年(行ケ)第10019号平成22年7月15日判決参照。)。

2010年09月06日

無効審判請求の対象でない請求項を含む訂正請求がされた場合

事件番号 平成21(行ケ)10389
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)について
(1) 判断の誤りの有無と審決の結論への影響
 実用新案登録無効審判請求について,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,実用新案登録無効審判手続における実用新案登録の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。

 そうすると,2以上の請求項を対象とする無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない
 そして,この理は,無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立登録要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない

 本件においては,・・・,審決には,上記説示した点に反する判断の誤りがある。

 しかし,・・・,審決は,請求項1,2及び5についての再訂正が認められたとしても,再訂正考案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとし,再訂正考案1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨判断しており,その点の審決の判断に誤りはないから,上記の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことはない。

2010年08月24日

特許無効審判事件の係属中の複数の請求項に係る訂正請求

事件番号 平成21(行ケ)10304
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 【請求項1】(旧)の訂正(削除)を認めなかった判断の適否(取消事由1)について
 上記第3,1(2)記載のとおり,訂正事項(1)は【請求項1】(旧)を削除するものであるのに対し,訂正事項(2)は,【請求項2】(旧)を【請求項1】(新)に繰り上げて,その内容を変更するものである。
 これにつき,審決は,訂正事項(1)及び(2)を一体として訂正事項aと整理し,訂正事項aについて,特許請求の範囲の減縮や明りょうでない記載の釈明を目的とするものではなく,また,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでもないので,そのような訂正事項aを含む本件訂正を全体として認めない旨の判断をした(審決6頁16行〜7頁6行,8頁5行〜17頁22行)。

 しかしながら,特許無効審判事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がなされている場合,その許否は訂正の対象となっている請求項ごとに個別に判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に合致しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないと解するのが相当である(特許異議に関する最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。

 そうすると,【請求項1】(旧)に関する訂正事項(1)と【請求項2】(旧)に関する訂正事項(2)とは各別に判断されるべきであるところ,訂正事項(1)は上記のとおり【請求項1】(旧)を削除するだけのものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

 したがって,上記のような理由付けで訂正事項(1)の訂正を認めなかった審決には誤りがあることになり,取消事由1は理由がある。

2010年08月08日

「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲」の意義

事件番号 平成22(行ケ)10019
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 はじめに
 本件特許は,平成4年7月13日に出願されたものであるから,その訂正審判請求の可否は,平成6年改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)126条1項に基づいて判断されるところ,同項には,
「特許権者は,第百二十三条第一項の審判が特許庁に係属している場合を除き,願書に添付した明細書又は図面の訂正をすることについて審判を請求することができる。ただし,その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,かつ,次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
・・・」

と規定されている。
 審決は,本件訂正審判請求について,「訂正事項aは,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である『歯部』について『内周側が連結された』とあったのを『内周側が絶縁性樹脂を介して連結された』と限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当」(審決書4頁15行〜18行)すると認定し,本件訂正が,いわゆる訂正の目的要件に適合することを認めている(この点は,当事者間に争いはない。)。
 その上で,審決は,内周側が絶縁性樹脂を介して連結されたとする本件訂正が,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」のものであるか否かを判断している。

 そうすると,本件訂正前の請求項1記載の発明における「内周側が連結された歯部」は,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」と「内周側が絶縁性樹脂を介さないで連結された歯部」との両方を含んでいたことについて,本件訴訟において,当事者間に争いはないことになる。

2 「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲」の意義について
 旧特許法126条1項は,訂正が許されるためには,いわゆる訂正の目的要件(本件では特許請求の範囲の減縮)を充足するだけでは足りず,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であることを要するものと定めている。法が,いわゆる目的要件以外に,そのような要件を定めた理由は,訂正により特許権者の利益を確保することは,発明を保護する上で重要ではあるが,他方,新たな技術的事項が付加されることによって,第三者に対する不測の不利益が生じることを避けるべきであるという要請を考慮したものであって,特許権者と第三者との衡平を確保するためのものといえる。
 このように,訂正が許されるためには,いわゆる目的要件を充足することの外に,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であることを要するとした趣旨が,第三者に対する不測の損害の発生を防止し,特許権者と第三者との衡平を確保する点にあることに照らすならば,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であるか否かは,訂正に係る事項が,願書に添付された明細書又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載があるか否かを基準に判断するのではなく,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(すなわち,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決参照)。

3 本件訂正について
 ・・・
(1) 事実認定
 ・・・
(2)判断
ア 本件訂正前の本件特許明細書の上記記載中の本件発明の作用・効果等の記載に照らすならば,
@ 本件発明を特徴づけている技術的構成は,特許請求の範囲の記載(請求項1)中の「・・・とを有するモールドモータにおいて」までの部分にあるのではなく,むしろ,これに続いて記載されている「前記コイルの巻装形状を,・・・台形状とし,かつ,・・・たことを特徴とするモールドモータ。」との部分にあると解されるところ,本件特許明細書の「内周側が連結された歯部」との構成は,前段部分に記載されていること,
A そして,「歯部」は,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」のみに限定された範囲のものであったとしても,「内周側が絶縁性樹脂を介さないで連結された歯部」を含む範囲のものであったとしても,本件発明の上記作用効果,すなわち,歯部間におけるコイルのスペースファクタを高くし,コイルの冷却を良好にすることにより,モータ特性を向上させ,モータの全長を短くするとの作用効果との関係においては,何らかの影響を及ぼすものとはいえないことが,それぞれ認められる。

イ ・・・
 また,審決では,本件訂正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当すると判断しており,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」も本件訂正前の請求項1記載の発明に含まれることを認めているのであって,本件においては,本件訂正がされたからといって,第三者に不測の損害を与える可能性のある新たな技術的事項が付加されたことを,想定することは困難である。

2010年05月01日

分割出願の適否の訂正時の判断基準(訂正前か訂正後か)

事件番号 平成21(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(分割要件の有無)について
(1) 分割出願の適否の判断基準
 本件審決は,本件訂正の適否について判断するに当たり,本件訂正は本件訂正前発明を本件訂正後発明に訂正するものであるが,本件訂正前発明が原出願発明の分割出願に係る発明であるため,本件訂正後発明における技術的事項,すなわち,本件訂正後事項と原出願事項とを比較検討して,本件訂正後事項が原出願事項の範囲内のものではないとし,その結果,本件出願は分割出願として適法なものではないから,本件出願の出願日が原出願日に遡ることはなく,本件出願の現実の出願日を基準にすると,本件訂正後発明は進歩性がなく,本件訂正は独立特許要件を欠くとしたが,
本件審決のその判断を前提に,原告は,本件訂正後事項は原出願事項の範囲内であるとし,他方,被告は,その範囲外であるとして,本件審決の判断の当否を争っている

 しかしながら,本件訂正の適否について本件訂正後発明が独立特許要件を具備するか否かを判断する必要がある場合には,その進歩性の判断の基準時として,本件出願の出願日を確定する必要があるところ,本件出願は分割出願であるから,本件出願が適法な分割出願であれば,原出願の出願日である昭和55年3月14日に遡って出願したとみなされる(改正前44条2項)ので,原出願日が基準時となるのに対し,適法な分割出願でなければ,本件出願の現実の出願日が基準時となるのであって,その基準時を確定するためには,まずもって本件出願が分割出願として適法なものであったか否かを検討する必要がある。

 しかるところ,本件出願が適法な分割出願であったというためには,分割出願の発明の構成に欠くことができない技術的事項,すなわち,本件訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件訂正前発明」という。。)の構成に欠くことができない技術的事項(以下「本件訂正前事項」という。)が原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項であること,すなわち,原出願事項の範囲内であることが必要であって,原出願事項の範囲内であるか否かを検討する対象となるのは,本件訂正後事項ではなく,本件訂正前事項でなくてはならない

けだし,本件訂正後発明の進歩性について判断するのは,本件訂正の適否を検討するためであるところ,原出願日を基準にその判断をすることが可能であるのは,本件出願が適法な分割出願であった場合であることを前提とするが,本件においては,その分割出願の適否もまた問題となっているからである。

<侵害訴訟>
事件番号 平成20(ネ)10083
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成22年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2010年03月06日

設計的事項に類する周知の構成の1つへの限定は新規事項の追加に当たるか

事件番号 平成21(行ケ)10133
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


そうすると,本件訂正のうち,特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項2】について
「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との限定を加える部分は,
本件特許出願時において既に存在した「台板の上部に振動装置を設けるとともに,下面中央部に嵌合部を設ける」という基本的な構成を前提として,「振動装置の油圧モーターが油圧式ショベル系掘削機側にある」という当業者に周知の構成のうちの1つを特定するとともに,「台板」と「振動装置」の関係について,同様に当業者に周知の構成のうちの1つである「四角形の台板の上に油圧モーターが隠れるように振動装置を配置するという構成」に限定するものである。

 そして,上記イ(ア)ないし(ク)で認定した技術状況に照らすと,上記周知の各構成はいずれも設計的事項に類するものであるということができる。

 したがって,本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。

2009年09月06日

個別の請求項ごとの訂正許否の判断の要否

事件番号 平成21(行ケ)10004
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤り)につい

(1) 無効審判における複数の請求項に係る訂正の請求
 昭和62年法律第27号による特許法の改正によりいわゆる改善多項制が,そして,平成5年法律第26号による特許法の改正により無効審判における訂正請求の制度がそれぞれ導入され,特許無効審判の請求については,2以上の請求項に係るものについては請求項ごとにその請求をすることができ(特許法123条1項柱書き後段),請求項ごとに可分的な取扱いが認められているところ,特許無効審判の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,この請求項ごとに請求をすることができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることに照らすと,特許無効審判請求がされている請求項についての特許無効の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに個別に行うことが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されることになる(前掲最高裁平成20年7月10日判決参照)。

 そして,特許無効審判の請求がされている請求項についての訂正請求は,請求書に請求人が記載する訂正の目的が,特許請求の範囲の減縮ではなく,明りょうでない記載の釈明であったとしても,その実質が,特許無効審判請求に対する防御手段としてのものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることからして,請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものである。

(2) これを本件についてみるに,特許無効審判請求に係る本件審判において,請求人である被告は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確であるなどとの無効理由を主張したこと(甲20),これに対し,被請求人である原告は,被告主張の無効理由を回避するために,特許無効審判における訂正の請求として,本件特許の請求項1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25につき本件訂正請求を行ったこと(甲18,22)が認められ,本件訂正請求は,特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであることが明らかである。

(3) そうすると,本件訂正請求は,請求項ごとに個別に行われたものであった以上,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものといわなければならない。
 そして,本件訂正請求は,直接的には本件特許に係る請求項のうち1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25の訂正を求めるものであるが,前記第2の2のとおり,本件特許は,請求項1ないし26から成り,請求項2ないし26はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用する従属項であるから,請求項1について訂正を求める本件訂正は,請求項1を介してその余の請求項2ないし26についても訂正を求めるものと解さなければならない

2009年04月18日

誤記の訂正を目的とする訂正が否定された事例

事件番号 平成20(行ケ)10216
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年03月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 取消事由3(請求項17に係る訂正を認めた誤り)について
原告は,訂正前明細書の特許請求の範囲の請求項17の記載から「スペーサによって互いの間隔を保持され」を削除する訂正は,誤記の訂正を目的とするものということはできず,また,実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから,訂正要件を充足しないと主張するので,検討する。

(1) 特許請求の範囲の記載について
 訂正事項e−2は,「走行レール」に関して,訂正前明細書の請求項17における「上記調整板上に位置決めされ,スペーサによって互いの間隔が保持された上記走行レールと,」との記載から,「スペーサによって互いの間隔が保持され」との記載を削除し,「上記調整板上に位置決めされた上記走行レールと,」に訂正するものである(前記第2,2(1)オ)。
 訂正前明細書の請求項17は,車両が走行する走行レールの据付構造に関する発明を記載したものであり,同発明では,走行レールは複数条存在すると解するのが自然であるところ,同請求項の記載は,「スペーサによって互いの間隔が保持された」複数条の走行レールが,「調整板上に位置決めされ」ているという技術的事項が特定されているものと解することができる。
 そうすると,訂正前明細書の請求項17の記載が誤記であると認めることはできない。


(2) 発明の詳細な説明の記載について
ア 訂正要件の成否は,誤記の訂正を目的とする訂正の場合にあっては,願書に最初に添付した明細書又は図面を基準として判断すべきである(特許法134条の2第5項,126条3項参照)ところ,本件特許の願書に最初に添付した明細書(以下,図面と併せ,「当初明細書」とい
う。乙5)には,次の記載がある。
・・・

オ 以上検討したところによれば,当初明細書には,「走行レール」に関し,「スペーサによって互いの間隔が保持された」事項が記載されていたと解することができる。
 そうすると,当初明細書の発明の詳細な説明の記載に照らしても,訂正前明細書の請求項17における「スペーサによって互いの間隔が保持され」との記載が誤記であると認めることはできない

・・・

(4) 小括
 上記検討したところによれば,訂正前明細書の請求項17における「スペーサによって互いの間隔を保持され」という記載を削除する訂正事項e−2は,誤記の訂正を目的とするものとは認められず,また,同訂正事項より,請求項17に係る発明は「スペーサによって互いの間隔を保持され」ていないものを含むことになるから,実質上,特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものというべきである

 そして,訂正事項e−2は,単に形式的なものではなく,請求項17に係る発明の技術的範囲に実質的影響を及ぼすものであるから,審決が,請求項17についての訂正(訂正事項e)を認めたこと,また,請求項17についての訂正と不可分の関係にあることが明らかな段落【0023】についての訂正(訂正事項j)を認めたことは,誤りというべきであるが,無効審判の請求がされている請求項に係る特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は,各請求項ごとに個別に請求することが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきであり,また,訂正が誤記の訂正のような形式的なものであって,特許請求の範囲に実質的影響を及ぼさないものであるときも,同様と解されるから,本件訂正におけるその余の訂正事項の適否の判断には影響しないものというべきである(最高裁判所平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日第一小法廷判決・裁判所時報1463号262頁,最高裁判所昭和53年(行ツ)第27号,第28号昭和55年5月1日第一小法廷判決・民集34巻3号431頁参照)。

2009年01月03日

技術的意義が不明な周知の構成を導入する訂正

事件番号 平成20(行ケ)10254
事件名     審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  塚原朋一

2 取消事由2(新規事項追加に関する判断の誤り)について
 本件事案にかんがみ,まず,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正事項2)が新規事項の追加に当たるかについて判断する。

(1) まず,特許法126条3項にいう「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」との文言について,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項」とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということができる

 もっとも,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項は,通常,当該明細書,特許請求の範囲又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書,特許請求の範囲又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであるということができる。

(2) そこで本件訂正(訂正事項2)について見ると,そもそも訂正事項2は,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との構成を採用しようとするものである。

 しかるに,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)を精査しても,「種類ごとに異なる色に着色」することが,半透明部分を形成することと関連して,どのような技術的意義を有するかについて当業者が読み取ることができる記載部分が存在するとは認められず,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総合しても,「種類ごとに異なる色に着色」することが,半透明部分を形成することと関連して,どのような技術的意義を有するかについて当業者が導くことができるとは認められない。この点,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】には,「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれているが,各半透明部分32aおよび33aにはこの有色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキによる背景印刷は全面に対して行われ,最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は各半透明部分32aおよび33aを除く領域に対して行われている。」との記載があるが,これも,各シンボルがリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれていることを示すものにすぎない。

 したがって,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総合しても,当業者が,本件訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「種類ごとに異なる色に着色」するという構成を採用することの技術的意義について導くことができるとはいえず,本件訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「種類ごとに異なる色に着色」するという構成を採用することの技術的意義は不明というほかない。
 そうすると,たとえ属性ごとに各図柄を色で塗り分けること自体は周知の事項であるとしても,そのような技術的意義が不明である構成を新たに導入することについてまで,同様に周知の事項であるということはできない

 以上によれば「特定図柄の半透明, に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正事項2)は,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということはできず,新規事項の追加に当たるといわなければならない。

2008年11月30日

訂正請求による訂正の効果は請求項ごとに個別に生じるか

事件番号 平成20(行ケ)10093
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

第5 当裁判所の判断
 本件審決には,取消事由1に係る違法が存在するものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

 すなわち,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制が導入され,平成5年法律第26号による改正により,無効審判における訂正請求の制度が導入され,平成11年法律第41号による改正により,特許無効審判において,無効審判請求されている請求項の訂正と無効審判請求されていない請求項の訂正を含む訂正請求の独立特許要件は,無効審判請求がされていない請求項の訂正についてのみ判断することとされた
 このような制度の下で,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生ずるものというべきである

 特許法は,2以上の請求項に係る特許について請求項ごとに特許無効審判請求をすることができるとしており(123条1項柱書),特許無効審判の被請求人は,訂正請求することができるとしているのであるから(134条の2),無効審判請求されている請求項についての訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる無効審判請求に対する,特許権者側の防御手段としての実質を有するものと認められる。このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないとするならば,無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるといえる。
 このように,無効審判請求については,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,各請求項ごとに無効審判請求の当否が個別に判断されることに対応して,無効審判請求がされている請求項についての訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきと考えるのが合理的である

 以上のとおり,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。


 そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない
 そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない

 本件においては,請求項1に係る発明についての特許について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項1のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項2以下の請求項についても訂正請求がされたところ,本件審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,本件訂正は認められないとした上で,請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,本件審決には,上記説示した点に反する違法がある。したがって,原告主張に係る取消事由1は,理由がある。


同趣旨を判示するもの
事件番号 平成20(行ケ)10094 ,事件番号 平成20(行ケ)10095
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

訂正審判における「一体説」と「請求項基準説」

2008年11月25日

無効原因の存否に関する攻撃防禦に係る手続き

事件番号 平成19(行ケ)10315
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

6 取消事由5(手続上の瑕疵)について
原告は,本件無効審判の手続に瑕疵があると主張するので,この点について検討する。
(1) 原告は,本件訂正により「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定し,」という構成が新たに追加されたのに,これに対する無効理由の主張,証拠の提出の機会が与えられないまま本件無効審判の審理が終結されたのは違法であると主張する

(2) ところで,特許の無効審判の係属中に当該特許の訂正審判の審決がされ,これにより無効審判の対象に変更が生じた場合には,従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるときを除き,審判官は,変更されたのちの審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならない(最高裁第一小法廷昭和51年5月6日判決・裁判集民事117号459頁参照)。
そして,特許の無効審判の係属中に訂正請求がされた場合についても,上記と同様に解すべきである。
そこで,上記の観点から,本件無効審判の手続において従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるかどうかについて検討する。
・・・

(4) 以上によれば,本件無効審判の手続において,原告は「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅(W)よりも小さい値に設定した」などの構成に対する無効理由の主張の中で,クランプロッドの外周部に形成される旋回溝の傾斜角度を15度にすることは本件特許の出願前に周知の技術である旨の主張をしていたことが認められる。

 ところで,本件訴訟において原告が訂正発明1の「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定し,」という構成に対する主張として述べているのは,@甲13文献(特開平8−33932号公報)に上記構成が示されている,A旋回ストロークを小さくして旋回式クランプをコンパクトに造ることは,本件特許の出願前に周知の技術的課題であった,B甲21発明と同形式のクランプ装置のカタログ(甲40)や甲25(米国特許第4620695号明細書)に照らせば,旋回溝の傾斜角度を10度から30度の範囲に設定することは本件特許の出願前に周知の事項であった,などというものである。

しかるに,本件無効審判の手続において原告が主張した内容は,甲13文献,甲21文献,甲25等を引用した上で,旋回溝の傾斜角度を10度から30度の範囲に設定することが周知の事項であり,旋回ストロークを小さくすることが周知の課題であったことを述べるものであり,特に甲13文献については,図1,図2の記載を参照しつつ螺旋溝の傾斜角度について具体的に言及しているものである

 そうすると,本件無効審判の審理が終結された時点においては,旋回溝の傾斜角度の点を含め,無効理由につき十分な主張,立証が尽くされていたものと認めることができるから,本件無効審判の手続においては,従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるというべきである。

2008年11月09日

訂正審判請求における判断対象の不可分一体性

事件番号 平成19(行ケ)10283
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

4 訂正審判請求における判断対象の不可分一体性について
(1) 前記第2の1に記載したとおり,本件特許に係る請求項は全4項であったところ,本件訂正審判請求は上記請求項中の1及び2に係るものであり,請求項2〜4については,特許取消決定が確定した結果,本件訂正審判請求のうち,請求項2に係る部分は訂正の対象を欠くものとして無効であり,結局,本件訂正審判請求は,本件特許の請求項1に係るものとなった。また,本件特許の請求項3及び4に係る部分についても特許取消決定が確定したため,本件特許は請求項1に係る発明を対象とするものとなった。

 ところで,特許庁は,前記第1の3に記載したとおり,本件特許の請求項1及び2に係る訂正審判請求である本件訂正審判請求について,訂正審判請求の対象となっていない請求項3及び4についても独立特許要件の具備の有無について審査すべきものとする立場を採っているところである。本件訂正審判請求については,上記のとおり,本件特許のうち,請求項1以外の各請求項に係る部分の特許取消決定は確定したため,請求項1に係る本件発明のみについての訂正の適否を検討すれば足りるものとなったが,以下,念のため,特許庁の上記取扱いについても検討しておくこととする

(2) 平成6年法律第116号附則6条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成6年改正前」という。)の特許法126条3項は「第一項ただし書第一号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」と規定し,同条1項ただし書第1号は「特許請求の範囲の減縮」を掲記するところ,同条3項の上記「訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明」とは,「特許請求の範囲の減縮をした後の発明」であって,「減縮されていない発明」を含むものではないというべきである

 もっとも,上記文言は,文理上,「訂正後における特許請求の範囲に記載されている全ての事項により構成される全ての発明」と解釈する余地があるが,特許法における訂正の審判の位置付けに照らすと,このように解釈することはできないというべきである

 すなわち,平成6年改正前の特許法126条が定める訂正の審判は,主として特許の一部に瑕疵がある場合に,その瑕疵のあることを理由に全部について無効審判請求されるおそれがあるので,そうした攻撃に対して備える意味において瑕疵のある部分を自発的に事前に取り除いておくための制度である。他方,特許法153条3項は「審判においては,請求人が申し立てない請求の趣旨については,審理することができない。」と規定しており,訂正の審判においては,訂正を許すべきか否かが判断の対象となり,(その限度で同条1項及び2項に基づいて職権で広範囲に審理できるものの,)求められた訂正の可否を超えて判断することは許されないのである

 仮に,特許権者が,複数の請求項の一部の請求項について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を求めて訂正審判を請求した場合において,その訂正の可否を,一旦査定・登録された,訂正を求めていない他の請求項に係る発明についての独立特許要件の具備の有無にも係らしめるというのであれば,訂正審判請求がされるたびに,特許庁は,全請求項について審査を繰り返すことになってしまうほか,特許権者が権利行使の準備等のために必要と考えている訂正について,適時に判断を得ることができない結果ともなり得るし,制度についてのこのような理解は,ひいては,特許権者が訂正したいと考えている請求項のみについて,第三者をして形式的な無効審判を請求させた上,当該審判手続において訂正請求をすることによって実質的に必要な訂正の効果を確保しようとするなど,制度の不健全な利用を招来するおそれすらある。

 したがって,平成6年改正前の特許法126条3項において,独立特許要件の存在が求められる発明は,「特許請求の範囲の減縮をした後の発明」であるというべきであり,審決の判断中,本件訂正において訂正の対象とされていない請求項3,4に記載された発明について独立特許要件の有無を検討した部分は,審決の結論を導くために必要なものではなく,そもそも本訴における審理の対象となり得ないものであったというべきである

 なお,平成20年7月10日最高裁第一小法廷判決(平成19年(行ヒ)第318号)は「特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない。」と判断したものであるが,
 その前提として,特許査定及び訂正審判請求と訂正請求の法的性質が異なることを示すために,
「訂正審判に関しては,特許法旧113条柱書き後段,特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。」と説示するほか,
訂正請求の中でも,本件訂正のように特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するということはできない。」
と判示している。

 しかしながら,上記判示中において「一体不可分」とされているのは,あくまでも「複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求」であり,「新規出願に準ずる実質を有する」との判示も,訂正が求められている請求項については,訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく新たな特許出願があったのと同様に考えることができることを述べていると理解すべきものであって,訂正が求められていない請求項を含む全ての請求項について特許性の有無を再審査することまで求められるものでないことは明らかである

2008年08月10日

訂正要件の判断にあたっての請求項の分節

事件番号 平成19(行ケ)10362
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年08月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 取消事由1(訂正の適否の審理に関する手続違背の有無)について
(1) 原告の主張は,要するに,審決は本件訂正の内容を複数の訂正事項に分説し,各分説ごとに訂正の要件を充足するかどうかの判断をしたが,本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかどうか,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるかどうかについての判断は請求項に記載された発明全体を対象としてなされるべきであるから,分説された訂正事項ごとに判断するという審決の判断手法は誤りである,というものである

(2) しかし,訂正が特許法134条の2第1項ただし書並びに同条5項の規定により準用する同法126条3項及び4項の規定に適合するかどうかを判断するに当たっては,訂正前の記載と訂正により変更された内容とを対比することが必要である。

 そして,訂正により変更された内容が多岐にわたる場合には,その内容につき適宜の分説を行って,訂正前の記載の該当部分との対比を行うことも,判断手法の1つとして合理性を有するものである。

(3) そして,本件訂正のうち特許請求の範囲に係る部分について審決が行った分説は,別添審決書記載のとおりであり,その分説はいずれも適切なものであり,これらの分説による対比検討を総合した結果,各請求項全体としても,本件訂正が特許法134条の2第1項ただし書並びに同条5項の規定により準用する同法126条3項及び4項の規定に適合するとしたことも適切である。

2008年06月01日

複数の訂正事項の不可分処理の根拠と射程

事件番号 平成19(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『エ ところで,原告のなした本件特許の訂正の申立ては,訂正の拒否が異議事由の有無と一体として審理される特許異議申立ての手続中の訂正請求(平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第2項)ではなく,特許法126条に基づく訂正審判請求である。

 そして上記訂正審判請求は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる」(126条1項本文)・「訂正審判を請求するときは,請求書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を添付しなければならない」(131条3項)・「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定登録がされたものとみなす」(128条)等とされていることから明らかなとおり,特許出願に準じた法的性質を有するうえ,特許法には請求項ごとに訂正の可否を決すべき旨の規定もないから,訂正審判において一部の訂正を許す審決をすることの可否を論じた最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(民集34巻3号431頁。前述した昭和55年最高裁判決)は,いわゆる改善多項制を導入した昭和62年の特許法改正後においてもそのまま妥当すると解される

 したがって,本件訂正審判請求のように,原明細書等の記載を複数個所にわたって訂正するものであるときは,原則として,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべきであり,これを請求人において複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解するのは妥当でない

 上記のような不可分処理は客観的・画一的審理判断をむねとする特許庁における訂正審判制度の要請から導かれる結論であるから,客観的・画一的処理の要請に反しない場合,例えば上記昭和55年最高裁判決も明言するように,@訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるとき,A請求人において複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは,それぞれ可分的内容の訂正審判請求があるとして審理判断をする必要があると解される

オ そこで,以上の見地に立って本件事案について検討する。

・・・

(3) 上記(1)及び(2)によれば,原告からなされた平成18年9月13日付けの本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1〜7を新請求項1〜7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。
 本件における上記のような扱いは,原告が削除を求めた新請求項3・5・7は,その他の請求項とは異なる実施例(「本発明の異なる形態」,「実施例2」)に基づく一群の発明であり,発明の詳細な説明も他の請求項に関する記載とは截然と区別されており,仮に原告が上記手続補正書で削除を求めた部分を削除したとしても,残余の部分は訂正後の請求項1・2・4・6とその説明,実施例の記載として欠けるところがないことからも裏付けられる
というべきである。

 そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。』

2008年05月26日

審決が部分的に確定するのを看過した事例

事件番号 平成19(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『(3) ところで,一次審決は,原告の無効審判の請求に対し,「訂正を認める。特許第3681379号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特許第3681379号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(甲第12号証の11)をしたものである(なお,請求項2に係る発明は,上記訂正の対象となっていない。)。
 そして,原告は,一次審決のうちの「特許第3681379号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」とした部分に対し,出訴期間内に審決取消しの訴えを提起しなかったのであるから,一次審決のうちの本件発明2についての無効審判請求を不成立とした部分が,独立して既に確定したことは,特許法123条1項柱書き後段に照らして明らかであり,もとより,一次審決に対し被告が提起した審決取消しの訴えや,一次審決に対する取消決定の対象となっているものではない


 しかるに,本件審決の説示には,本件発明2について,無効事由の有無を審理した上,無効事由がないと判断した部分があるが,上記のとおり,一次審決のうち,本件発明2についての無効審判請求を不成立とした部分は,独立して既に確定しているのであるから,本件審決において,本件発明2についての無効判断をすることはもはやできないものというべきであり,そうすると,本件審決の説示中,本件発明2についての無効事由の有無を審理判断した部分は,全く意味のないものと考えざるを得ない

 したがって,本判決は,本件審決の上記部分を対象とするものではないことを,念のため付言しておく。』

2008年02月24日

特許請求の範囲の減縮についての判断事例

事件番号 平成18(行ケ)10439
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第5 当裁判所の判断
 当裁判所は,以下のとおり,
@本件訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記,誤訳の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものではなく,特許法134条の2第1項各号のいずれにも該当しない不適法なものであるから,本件特許の請求項1及び6に係る発明は,本件訂正前のもの(本件発明1及び6)として特定されるべきであり,
A本件発明1及び6は,引用発明及び引用例2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由は理由がないと判断する。

1 取消事由1(本件訂正の訂正要件充足性の判断の誤り)について
 本件訂正中の訂正事項hは,インクタンクのラッチレバーについて,「・・・」との構成を付加した訂正である

 確かに,上記文言を付加したことによって,形式的には,特許請求の範囲を限定することになる。しかし,訂正事項hは,その内容を実質的に検討すると,訂正事項の記載が明確でないのみならず,訂正明細書の「発明の詳細な説明」欄における実施例に関する記載及び図面を参酌してみてもなお,後記「ポップアップ機能」を実現するための構成を明確に示していない
 結局,本件訂正は,訂正事項hが付加され,インクタンクの発明であるにもかかわらず,ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま構成要素として含んだことによって,特許請求の範囲(請求項1)を全体として不明確とするものであるから,特許請求の範囲の減縮に当たるか否か判断することすらできないものであって,結局,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正ということはできず,また,誤記,誤訳の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正ということもできない。
その理由は,以下のとおりである。

・・・

(2) 本件訂正の許否についての判断
(ア) 以上認定した事実を前提として,本件訂正の許否について判断する。
 すなわち,まず,訂正事項hにより,インクタンクのラッチレバーについて,
「第2係合部と第2係止部とが係合状態にあるときは内側に弾性変位した状態となる一方,操作部がインクタンク本体側に押されて第2係合部と第2係止部との係合が解除されると,ラッチレバーの復元力で第2係合部と下端部との間の部分がホルダの内壁に当接して装着する際とは逆の方向にインクタンクを回転させ,インクタンクの他側面側が持ち上がった状態となるよう前記下端部から外側上方に向かって傾斜している」
と構成を付加したことが,特許請求の範囲の記載の減縮を目的としたものといえるか否かについて判断する。

 確かに,訂正明細書に記載された実施例には,ラッチレバー32aを内側に押し込み,ラッチ爪32eとラッチ爪係合穴60jとの係合を解除することによって,インクタンクが持ち上がることが記載されている(原告の主張に合わせ「ポップアップ機能」との語を用いる場合がある。)。
 しかし,同記載に係る「ポップアップ機能」は,あくまでも,ホルダの内壁が,その下端部から外側上方に向かって傾斜した側断面形状を有し,ラッチレバー32aの傾斜はホルダの壁よりも大きくなっていること等,ラッチ爪を含むラッチレバーの具体的形状やホルダの内壁の具体的形状等の相互関係に依存するものであって,インクタンクとして規定された構成のみによって,常に実現するというものではなく,インクタンクとホルダとの間に一定の条件が成立することによってはじめて実現するものにすぎない

 以上のとおり,訂正事項hは,記載自体が明確でないのみならず,発明の詳細な説明欄における実施例に関する記載及び図面を参照してみてもなお,ポップアップ機能を実現する事項に係る構成を明確に示したものと解することはできない
 したがって,訂正事項hにおいて,ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま要素として含んだことによって,本件訂正は全体として,インクタンクの発明であるにもかかわらず,特許請求の範囲の記載(請求項1)を不明確にするものとなったから,特許請求の範囲の減縮に当たるか否かを判断することすらできないものであって,結局,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正ということはできない。
 また,本件訂正は,誤記,誤訳の訂正を目的とする訂正,又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正ということもできない。

(イ) 本件訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものにも当たらないから,特許法134条の2第1項の要件を満たさないものであり,不適法として許されない。本件訂正を許されないとした審決の判断に誤りはなく,本件特許の請求項1,6に係る発明は,本件訂正前の本件発明1,6として特定されることとなる。』

(所感)
 ポップアップ機能のためのインクタンクの構成要素を訂正によって追加したようである。しかし、インクタンクのポップアップ機能はインクタンクの構成のみによって,常に実現するというものではなく,インクタンクとホルダとの間に一定の条件が成立することによってはじめて実現するものにすぎないものであった。
 その結果、特許請求の範囲は、インクタンクのポップアップ機能に関する構成を、ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま含んだものとなったようだ。

 この訂正のように、協働のため必要な相手方の構成要素に明確に言及することなく自らの協働のための構成を記載すること、はよく見かける請求項における特定方法である。ところが、その部分が問題となった場合には、この事件が示唆するように「不明確」とされる可能性が高いと言えそうだ。

 特許請求の範囲を作成する実務の上で配慮を要すべき点であると感じる。

訂正の適否、一部訂正の意志の推認の否定の事例

事件番号 平成19(行ケ)10242
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)について
(1) 誤記訂正目的の有無
原告は,訂正事項gは誤記の訂正を目的とするものであり,理由(1)に係る審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。

ア 訂正前明細書(甲9)の記載
・・・
イ 訂正前明細書における「通気撥水性」の意義
(ア) ・・・
(イ) ・・・
(ウ) 以上のとおりであるから,本件発明における「透液性」のフラップ部材シートは,「通気撥水性」のシートより高度の「透液性」があり,「通気撥水性」のシートを用いた場合よりも蒸れ防止効果が大きいものと解するのが合理的であり,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」との記載は,これを裏付けるものであって,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」との記載のままでは,本件発明の作用効果の説明として不合理であるということはない

ウ 出願の経緯,出願前の技術等
(ア) 本件当初明細書では,「通気撥水性」という語は用いられていなかったが,本件拒絶理由通知書(甲14)を受けて,原告は,次のように補正した。

 すなわち,本件手続補正書により,発明の詳細な説明(段落【0016】)の「・・・。」との記載を,「・・・。」と補正したことが認められる(弁論の全趣旨)。
 また,上記補正の契機となった本件拒絶理由通知書(甲14)の引用に係る引用例3(甲5)には,「股下シート4としては撥水性および通気性を有するものであれば何でも良い」(明細書5頁3行〜4行)との記載がある。

(イ) そうすると,上記補正は,本件発明1における「フラップ部」が,先行例1における「不透液性」シートのみでなく,より透液性が高いと解される「通気撥水性」のシートと比較して,更に高い「透液性」を示す「通気透液性」のシートであることを表現したものであって,本件発明1が,撥水性及び通気性を有するシートと比較して,蒸れの防止効果が優れていることを強調する目的でされたものと理解される。
 すなわち,上記補正では,引用例3における「撥水性および通気性を有する」シートを比較対象として意識したために,「通気撥水性」のシートという語を選択したのであって,「通気防水性」と記載すべきところを「通気撥水性」と誤記したものと解することはできない。

(ウ) 引用例3(甲5)に「股下シート4としては撥水性および通気性を有するものであれば何でも良い」(明細書5頁3行〜4行)と記載されているように,本件特許の出願前から「通気性と撥水性を有するシート」として種々のものが知られていたことが認められる。
 したがって,訂正前明細書に接した当業者は,同明細書の段落【0015】における「通気撥水性のシート」について,「通気性と撥水性を有するシート」を意味するものと理解するというべきであり,これを「通気透水性のシート」の誤記と当然に認識するということはできない

エ 小括
 以上を総合すれば,訂正前明細書【0015】における「通気撥水性」との記載は,「通気防水性」の誤記ということはできない。また,その他,訂正事項gは特許法126条1項に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められない。これと同旨の理由(1)に係る審決の認定判断に誤りはない。』


『2 結論
(1) 訂正事項gと本件訂正全体の許否との関係について
ア 前記1(2)ウのとおり,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」のシートを「通気防水性」のシートと訂正した場合,本件発明におけるフラップ部は,「通気撥水性」シートよりも「透液性」の程度が高いものに限られず,「通気防水性」のシートよりも「透液性」の程度が高ければよいと解釈する余地を生じることになる。
 したがって,本件訂正は,訂正事項gを含むことによって,訂正発明1及び2のいずれの関係においても,本件発明の技術的範囲を拡張又は変更するとの解釈の成立する余地の生じる訂正というべきであるから,訂正事項gは,単なる誤記の訂正にとどまる形式的なものではなく,特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものというべきである。

イ ところで,審判請求書(甲10の1)には,請求の趣旨として,「特許第3009482号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める,との審決を求める。」と記載され,複数の訂正箇所のうちの一部の訂正事項が認められなかった場合,二次的に残余の訂正のみを請求するとの格別の意思を認める合理的な理由もうかがえない。また,訂正事項gが,一部の請求項についてのみに関係を有する事項であると解することもできず,むしろすべての請求項に関係する事項と解するのが合理的である。

 そして,特許庁が,審判手続において発した平成19年3月16日付け訂正拒絶理由通知書(甲12)には,訂正事項gは,特許法126条1項に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められないから,本件訂正は同号の規定に適合しておらず,訂正は許されない旨が記載されていたにもかかわらず,原告が提出した平成19年4月23日付け意見書(甲13)には,訂正事項gが許されないとしても,二次的に,その余の訂正事項に係る訂正については許されるべきであるとの審決を求めることをうかがわせるに足りる記載は存在せず,また,審判請求書が補正されたことも認められない(弁論の全趣旨)。

 本件における上記の経緯に照らすならば,本件では,訂正事項gに係る訂正が許されないものと判断された場合において,その余の訂正事項について,一部のみの訂正に係る審判を求めているとの合理的な意思を推認することはできない

ウ そうすると,本件において,審決が,訂正事項gについての訂正が許されない以上,本件訂正に係る審判請求が全体として成り立たないと判断した点に違法はない。』


(参考)
http://ip-hanrei.sblo.jp/article/9176988.html

2008年02月16日

認められた訂正の確定時点について

事件番号 平成18(行ケ)10455
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『4 本件訂正発明46について
(1) 前記第2,1記載の当事者間に争いのない事実及び証拠(甲21の1,28,乙5)を総合すると,原告は,無効2003−35518号事件において,平成16年7月21日,請求項46に係る発明について・・・と訂正する内容の訂正請求をしたところ,特許庁は,平成17年6月24日,請求項46に係る発明についての訂正については,誤記の訂正を目的としていることを理由にこれを認めるとともに,訂正後の請求項40及び43に記載された発明についての特許を無効にするとの本件無効審決をし,その後原告は本件無効審決について審決取消訴訟を提起したが,本件訴訟係属中に本件無効審決が確定したことが認められる。

 他方,本件訂正審判請求において,原告は,本件特許の請求項38,40及び46に関して訂正審判を請求しているところ・・・,審判合議体は,本件特許の請求項46に係る訂正について,「誤記の訂正を目的とするものであって,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり,かつ実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。」と判断し,さらに本件訂正発明46の独立特許要件の有無を検討し,・・・として独立特許要件を肯定しながら,本件訂正発明38,40が独立特許要件を欠くことを理由に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたことが認められる。

(2)ア ところで,特許法は,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制を導入したものであるところ,同改正後の特許法の下においては,2以上の請求項に係る特許については請求項ごとに無効審判請求をすることができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らせば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに確定するというべきである。

 そして,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされた請求項について訂正請求がされ,「訂正を認める」とした上で,審判請求を不成立とする審決がされた場合には,訂正請求に係る請求項は,審決のうち当該請求項について審判請求不成立とした部分が確定した時に,当該訂正された内容のものとして確定するというべきである(当庁平成19年6月20日決定(同年(行ケ)第10081号),同年7月23日決定(同年(行ケ)第10099号),同年9月12日判決(同18年(行ケ)第10421号)参照)。

 このように,改善多項制導入後の特許法の下においては,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,請求項ごとに生ずるものであり,その確定時期も請求項ごとに異なり得るものである。

 これを言い換えれば,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続においてされた審決に対する取消訴訟においては,審決の取消しを求める当事者(原告)は,当該訴訟において取消しの対象とされている請求項に係る審決部分に関しては,審決が当該請求項について訂正請求を認めたこと,あるいはこれを認めなかったことを含めて,その当否を争うことが許されるが,当該訴訟において取消しの対象とされていない請求項について審決が訂正請求を認めたこと,あるいはこれを認めなかったことを争うことは許されないということである。

 そうすると,そもそも,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,特許権者から2以上の請求項について訂正請求がされた場合には,審判合議体は,原則として,各請求項ごとに訂正請求の許否を判断すべきものであり,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことを理由として,その余の請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することは,改善多項制の下における特許法の解釈としては,特段の事情のない限り,許されないというべきである。

イ 特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされていない請求項について訂正請求がされ(特許法134条の2第5項後段参照),当該訂正請求につき「訂正を認める」との審決がされた場合は,審決のうち,当該請求項について「訂正を認める」とした部分は,無効審判請求の双方当事者の提起する取消訴訟の対象となるものではないから,審決の送達により効力を生じ,当該請求項は,審決送達時に,当該訂正された内容のものとして確定すると解するのが相当である。

 特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においては,審判合議体は,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が独立特許要件を欠く等の理由により許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することは,特段の事情のない限り,特許法上許されないというべきである。また,この場合において,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求が許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することも,特段の事情のない限り,特許法上許されないものである。

(3) そうすると,本件特許の請求項46は,同請求項を対象とする訂正請求を認めた本件無効審決の送達時において,当該訂正された内容のものとして確定したというべきである
 そして,前記のとおり,当該訂正請求による訂正後の請求項46の内容は本件訂正発明46と同一であるから,本件訂正審判請求のうち請求項46に係る部分は,本件特許の請求項46について,本件無効審決により既に訂正されて確定した内容と同一内容に訂正を求める内容であって,無意味なものである(なお,訂正審判請求書(甲21の1)及び訂正審判請求書手続補正書(甲21の2)の記載に照らし,本件訂正審判請求において,原告が本件特許の請求項46についても訂正を求めていると解さざるを得ないことは,既に前記(1)において説示したとおりである。)。

(4) 本件審決は,本件無効審決に対して原告が審決取消訴訟を提起したことにより,本件特許に係る請求項46の訂正も確定していないとの理解に基づき,請求項46の訂正の許否について審理の対象としているが,これは上記の理解と異なるものであり,是認することができない

 すなわち,本件無効審決のうち請求項46について「訂正を認める」とした部分は本件無効審決の送達と同時に確定しているのであるから,本件訂正審判請求の審理を担当する審判合議体としては,こうした理解に基づいて,請求人(原告)に対し釈明権を行使して,訂正審判請求書の補正により請求項46の訂正部分を削除することを求め,請求人(原告)においてこれに応じない場合には,本件無効審判請求中請求項46に関する部分については,不適法なものとして却下すべきであったものである(特許法135条)。』