2013年09月09日

独立特許要件の特許法29条1項3号が不意打ちか争われた事例

事件番号 平成24(行ケ)10348
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年08月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 大鷹一郎 ,荒井章光


もっとも,本件拒絶査定には,・・・との記載があり,上記記載の括弧書きの部分は,・・・「q」が「0」であることを前提とするものではなく,この点において「q」が「0」であることを前提とする本件拒絶理由通知とは異なるものといえる。しかしながら,上記記載の括弧書きの部分は,原告が・・・意見書(乙3の1)で「・・・引用文献5の化合物を除くためにR3の定義の中でアリールを削除し…。」(2頁)と主張したのに対応して,そのような補正によっても拒絶理由が解消されないことを述べたものにすぎず,本件拒絶査定が本件補正前の請求項1について本件拒絶理由通知記載の拒絶理由と同じ拒絶理由があることを指摘したとの上記認定と相反するものではない

ウ 一方,本件審決は,本願補正発明1は,引用発明(引用例の化合物20)と同一であり,特許法29条1項3項に該当するので,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないと判断したものであるところ,本件補正後の請求項1記載の「アリール」,「アルキル」,「アリールアリキル」等の定義に照らすと,本願補正発明1が同号に該当するとの理由は,本件拒絶査定における拒絶理由と同一であると認められる。

エ ・・・
 したがって,本件審決で本件補正を却下した本件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法50条本文に反するとの原告の主張は,その前提を欠くものとして理由がない。

(2) その他の手続違反の有無
ア 原告は,
@ ・・・本件審尋書(甲9)が引用する「《前置報告書の内容》」には,本件補正後の請求項1に記載された発明が独立して特許を受けることができない理由として,特許法旧36条6項1号,2号に規定する要件を満たしていないことのみが記載され,特許法29条1項に関する記載がないことによれば,前置審査をした審査官と原告との間には,本件補正により,「特許法29条1項3号の拒絶理由は解消している」との判断について了解が成立し,本件審尋書による審尋をした審判官も,同様の判断をしていた
A 本件審決における本願補正発明1が特許法29条1項3号に該当するとする理由は,本件拒絶査定の拒絶理由と異なるにもかかわらず,本件審決の審決書が原告に送達されるまで原告に対して指摘されておらず,本件審決は,不意打ちで本件補正を却下したものである,
B ・・・,原告は,「《前置報告書の内容》」に記載された特許法旧36条6項1号,2号の拒絶理由については意見を述べることができたが,「《前置報告書の内容》」に記載のない特許法29条1項3号の拒絶理由については意見を述べる機会すら与えられなかったから,本件審判手続は,特許出願人である原告に対して極めて不公正なものであって,適正手続違反に該当するなどと主張する。

しかしながら,本件審尋書(甲9)は,特許法134条4項に基づく審尋の方法として原告に送付されたものであり,その書面の性質上,前置審査をした審査官と原告との間に原告が主張するような合意が成立していることを示すものとはいえず,また,本件審判事件を審理する審判体の見解や判断を示すものではないから,原告の上記@の主張は理由がない。

 次に,前記(1)認定のとおり,本件審決における本願補正発明1が特許法29条1項3号に該当するとの独立特許要件違反の理由は,本願補正発明1が引用発明(引用例の化合物20)と同一であるというものであって,本件拒絶査定における同号の拒絶理由と同一であり,しかも,本件拒絶理由通知においても指摘されていたものであるから,本件審決が上記独立特許要件違反を理由に本件補正を却下したことは原告に対する不意打ちとはいえず,原告の上記Aの主張も理由がない。

 さらに,原告は,本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定における引用発明(引用例の化合物20)と同一であることを理由とする特許法29条1項3号の拒絶理由について意見を述べる機会を与えられ,現に上記拒絶理由に対して平成21年6月19日付け意見書を提出して意見を述べたり,同日付け手続補正及び本件補正を行っているのであるから,原告の上記Bの主張もまた理由がない。
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2013年04月14日

特許法102条1項と同条3項の関係

事件番号 平成21(ワ)23445
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾

 そして,特許法102条1項は,侵害者の侵害行為がなければ権利者が自己の物を販売することができたことによる得べかりし利益(逸失利益)の損害額の算定方式を定めた規定であって,侵害者の侵害行為(特許権の実施行為)がなかったという仮定を前提とした損害額の算定方式を定めた規定であるのに対し,同条3項は,侵害者の特許権の実施行為があったことを前提として権利者が受けるべき実施料相当額の損害額の算定方式を定めた規定であって,両者は前提を異にする損害額の算定方式であり,一つの侵害行為について同条1項に基づく損害賠償請求権と同条3項に基づく損害賠償請求権とが単純に並立すると解すると,権利者側に逸失利益を超える額についてまで損害賠償を認めることとなり,妥当でないというべきであるから,原告日環エンジニアリングの上記損害賠償請求権(同条1項の類推適用に基づく損害額の損害賠償請求)と原告キシエンジニアリングの上記損害賠償請求権(同条3項に基づく損害額の損害賠償請求)とは,その重複する限度で,いわゆる不真正連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。
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特許権者が第三者に通常実施権を設定した場合の独占的通常実施権者の地位

事件番号 平成21(ワ)23445
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾

c これに対し被告は,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日付けでその旨の登録がされていることからすると,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の独占的通常実施権者であるとはいえないし,また,晃伸製機が同年9月5日に本件発明1を改良した発明の特許出願をしていることからすると(乙58),晃伸製機は本件発明1を利用していることは明らかであるから,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の実施について事実上独占しているということもできない旨主張する。
 確かに,証拠(甲1,10,55)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日に,晃伸製機を通常実施権者として,「範囲」を「地域日本国内,期間本契約の締結の日から本件特許権の存続期間満了まで 内容 全部」とし,「対価の額」を「無償」とする通常実施権の設定登録が経由されたことが認められる。

 一方で,前掲証拠によれば,原告キシエンジニアリングと原告日環エンジニアリングが平成15年7月18付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)を作成した当時の両原告の代表取締役社長であったBは,平成17年3月25日に晃伸製機に上記通常実施権の設定がされた当時も,引き続き原告日環エンジニアリングの代表取締役に在職し,上記通常実施権の設定及びその設定登録を了承していたことが認められる。
 そして,特許法77条4項は,専用実施権者は,特許権者の承諾を得た場合には,他人に通常実施権を許諾することができる旨規定しており,同規定は,専用実施権者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても専用実施権を有することに影響を及ぼすものではないことを前提としているものと解されるものであり,かかる規定の趣旨に鑑みれば,特許権者が独占的通常実施権を許諾した後に,その独占的通常実施権者の了承を得て,第三者に通常実施権を設定した場合には,通常実施権が設定されたからといって直ちに当該独占的通常実施権者の地位に影響を及ぼすものではないというべきである。

 また,本件においては,原告キシエンジニアリングが原告日環エンジニアリング及び晃伸製機以外の第三者に本件特許権1の実施権を許諾していることをうかがわせる証拠はなく,また,晃伸製機が本件特許権1の特許発明の実施品を現実に販売していることを認めるに足りる証拠もないことに照らすならば,晃伸製機に対する上記通常実施権の設定によって,原告日環エンジニアリングによる本件独占的通常実施権1に基づく本件特許権1の実施についての事実上の独占が損なわれたものということはできない

 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
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2013年03月10日

民法416条の類推適用を受ける「通常生ずべき損害」

事件番号 平成22(ワ)44473
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成25年01月24日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 志賀勝,小川卓逸

 本件JVは,被告方法を使用するに当たり,少なくとも,本件特許権があることを認識することができたにもかかわらず,これを認識することなく,被告方法を使用して本件特許権を侵害したことを推認することができるから,本件JVには,本件特許権の侵害について,過失があったものと認められる。そして,被告は,建築,土木工事等を業とする株式会社であるとともに(弁論の全趣旨),本件JVの構成員であるから,商法511条1項により,被告JVが本件特許権の侵害によって負う不法行為に基づく損害賠償債務につき,連帯債務を負うというべきである(最高裁平成6年(オ)第2137号同10年4月14日第三小法廷判決民集52巻3号813頁参照)。
 ・・・
 これらの事実を総合すれば,本件JVが本件特許権を侵害せずに本件各工事を工期内に完成させるには,技研施工に対して鋼管杭の打込みに係る下請工事を発注するしかなかったものと認められるから,原告技研は,本件JVの不法行為がなければ,技研施工が本件JVから鋼管杭の打込みに係る下請工事を受注し,粗利から変動経費を控除した限界利益の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益のうち,本件特許権の共有持分の割合に相当する利益を得ることができたが,本件JVの不法行為により,上記利益を得ることができなかったものである。

 原告技研は,本件各工事全体の限界利益の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益の全部が原告技研の逸失利益であると主張する。
・・・
 これらによると,本件発明の作用効果を発揮するのは,構成要件A,D及びEの部分であり,本件特許権の価値も当該部分にあるといえるから,当該部分に対応する鋼管杭の打込工事の限界利益の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益のみが民法416条の類推適用を受ける「通常生ずべき損害」に当たるというべきである。また,本件特許権は,原告らの共有に係るから,原告技研は,自己の持分に応じてのみ損害賠償請求権を行使することができるものである(最高裁昭和39年(オ)第1179号同41年3月3日第一小法廷判決・裁判集民事82号639頁参照)。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
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2012年12月09日

同一の引用例からの進歩性を肯定した場合の平成23年改正前の特許法181条2項の判断

事件番号 平成24(行ケ)10119
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
平成23年改正前の特許法181条2項

第3 当裁判所の判断
上記のとおり,本件審決は,無効審判請求を成り立たないものとした審決である。その後,被告から特許請求の範囲を減縮する訂正審判請求がなされたが,当裁判所は,平成23年改正前の特許法181条2項の差戻決定をすることなく審理を継続していたところ,本件訂正審決が確定したことにより,訂正前の特許請求の範囲に基づいてなされた審決は,結果的に発明の要旨認定を誤ったこととなった

 もっとも,特許庁は,本件訂正審決において,本件審決において第1訂正発明と対比された引用例と同一の引用例との対比において独立特許要件が認められると判断している。そうすると,第2訂正発明と上記引用例記載の発明との同一性ないし容易想到性判断についての特許庁の判断は,本件訂正審決により示されており,この点につき特許庁の判断が先行しているものと解する余地がある

 しかし,本件審決と本件訂正審決においては,本件特許に係る発明と引用例との一致点及び相違点の認定,新規性ないし進歩性に係る判断の対象が実質的にも変更されている(別紙1ないし4参照)。
 すなわち,本件審決においては,第1訂正発明における「前記目標値が変化したときに」の意義について,・・・「前回の目標値」と「今回の目標値」を比較し,変化したときと理解できるとして,・・・これを相違点として挙げて,第1訂正発明は,引用発明1と同一の発明ではなく,引用発明2,及び引用例1,甲3ないし5に記載された周知技術に基づき容易に想到できたものとはいえないとして,無効請求は成り立たないとしたものである。
 他方,本件訂正審決では,第2訂正発明において,「今回の目標値」と比較される「比較対象」は,・・・「前回の出力値」であるとして,この点を引用例1,2との相違点とはせず,新たに付加された構成要件について相違点を挙げて,第2訂正発明は,引用発明1と同一の発明ではなく,引用発明1ないし2に基づき容易に想到できたものでもなく,独立特許要件を充足するとして,第2訂正を認めたものである。

 そうすると,本件訂正審決において,本件審決における引用例と同一の引用例との対比において独立特許要件が認められるとの判断がされているとしても,本件無効審判請求について,新たに付加された構成要件も含めて,再度,特許庁の審理を先行させるのが相当であるから,本件審決は取り消されるべきである
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2012年11月11日

禁反言の法理の適用を否定した事例−最も重要な相違点と付随的な相違点

事件番号 平成23(ワ)24355
裁判年月日 平成24年10月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田史,石神有吾

 ・・・原告は,本件前訴において,「本件特許発明の構成が備える最も重要な機能」は,「各インクタンクを所定の位置(例えば受光手段の正面位置)で発光させることにより,インクタンクが正しい位置に搭載され,かつ正しく機能していることを確認できること」,すなわち,「光照合処理」(前記(ウ)b)を採用した点にあり,この点が,設定登録時の請求項1及び5に係る各発明あるいは本件各訂正発明と被告主張の引用文献記載の発明との最も重要な相違点であると主張していたものと認められ,「ユーザーへの報知も発光部によって実現する機能」は,「多様な利用価値」の一つとして付随的な相違点として主張していたにすぎないものとうかがわれる。

 したがって,被告が指摘する「原告第1主張書面」ないし「原告第5準備書面」の記載箇所をもって,原告が,本件前訴において,本件訂正後の請求項1及び3の「光」の用語を可視光に限定して解釈すべきことを明示していたということはできないし,また,このような限定解釈を前提に被告が本件前訴で主張した本件特許の無効理由を回避しようとしたということもできない

 以上によれば,原告が本訴において本件訂正後の請求項1の「光」に赤外線も含まれると主張することは禁反言の法理に照らし許されないとの被告の上記主張は,理由がない。
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2012年10月29日

特許請求の範囲の用語の明細書中の定義

事件番号 平成24(ネ)10018
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年10月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子

 しかしながら,特許請求の範囲は,特許法施行規則24条の4により様式第29の2により作成しなければならないとされ,様式第29の2において,「用語はその有する普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する。ただし,特定の意味で使用しようとする場合において,その意味を定義して使用するときは,この限りでない。」(備考9)とされているから,請求項に記載された用語(発明特定事項)の意味内容が明細書及び図面において定義又は説明されている場合は,その用語を解釈するに当たってその定義又は説明によることとなる。そして,本件明細書2には,「本明細書において,「上半身部品」とは,腰より上の部分をいい,「下半身部品」とは腰から下の部分(腰部含む)をいうものとする」(【0001】)と記載され,「上半身部品」と「下半身部品」が定義されているから,本件発明2の「上半身部品」及び「下半身部品」の意味は,上記定義によることになる。控訴人の上記主張は,本件明細書2に定義された用語の意味に反するものであり採用することができない。

イ 控訴人は,被控訴人自身が,その広告等(甲48〜54)において,「胸部骨格から上の部分に相当する部分(外皮)を「上半身パ−ツ」,腹部骨格から下の部分に相当する部分(外皮)を「下半身パ−ツ」と称していながら,本件訴訟において限定的に解釈すべきであると主張することは,いわゆる禁反言の法理に反し許されないとも主張する。
 被控訴人の上記広告等において,胸部骨格から上の部分に相当する部分(外皮)を「上半身パーツ」,腹部骨格から下の部分に相当する部分(外皮)を「下半身パーツ」と称していることが証拠上認められるが,そうであるからといって,上記アの説示に照らして,本件明細書2を解釈する際に,同広告等における用語の使用例に従わなければならない理由はない。被控訴人の主張が禁反言の法理に反するものということはできず,控訴人の上記主張も理由がない
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2012年09月30日

特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法

事件番号 平成23(行ケ)10315
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、古谷健二郎
特許法159条2項,特許法50条、特許法29条2項

 審判段階では,本件拒絶理由通知書(甲7)によって,本願発明は下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の通知がされた。
 ・・・
この拒絶理由通知では,刊行物1(甲16)に記載された発明が主引用発明であり,刊行物2(甲10)に記載された発明は副引用発明として主引用発明への組み合わせが検討され,刊行物3,4は周知例として引用されている。
 本件拒絶理由通知書においても,特開2000−243132号公報(甲13)は示されておらず,突起部間の距離及び突起部の高さに関しては,「凸部間の距離をどのような値とするのかは,必要とされる導電接続の安定性,導電性粒子の直径,凸部の高さ等を考慮して当業者が適宜決定し得たものである。」と述べるにとどまる
 ・・・
(5) 相違点3に関する判断について
 審決が主引用発明として刊行物記載の発明を認定した刊行物(甲10)には,突起部を有する導電性粒子が記載されているが,甲10にはこの粒子の突起部間の距離に関しては記載されていない。そして,審決は,突起部間の距離の具体的数値に関して,甲13の記載のみを引用し,仮定に基づく計算をして容易想到性を検討,判断している。

 審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることは,以下に示すように本件出願前から普通に行われている技術事項である。例えば」,として,甲13の記載を技術常識であるかのように挙げているが,その技術事項を示す単一の文献として示しており,甲13自体をみても,回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることが普通に行われている技術事項であることを示す記載もない
 ・・・
 してみると,審決は,新たな公知文献として甲13を引用し,これに基づき仮定による計算を行って,相違点3の容易想到性を判断したものと評価すべきである。

 すなわち,甲10を主引用発明とし,相違点3について甲13を副引用発明としたものであって,審決がしたような方法で粒子の突起部間の距離を算出して容易想到とする内容の拒絶理由は,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから,審判段階で新たにその旨の拒絶理由を通知すべきであった。しかるに,本件拒絶理由通知には,かかる拒絶理由は示されていない。
 そうすると,審決には特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法があり,この違法は,審決の結論に影響がある。
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2012年09月04日

発明の容易想到性を判断する前提としての発明の要旨認定

事件番号  平成23(行ケ)10317
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年08月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子

 発明の容易想到性を判断する前提としての発明の要旨認定は,原則として特許請求の範囲の記載に基づいてされなければならないところ,その用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用しなければならない(特許法施行規則24条の4様式第29の2)。

 本件審決は,「嵌着」の意味を,広辞苑に記載された「嵌める」の意味とともに,訂正請求2による訂正後の明細書(以下,「訂正後明細書」という。甲54の2)段落【0033】の記載を参酌して,「くぼみに入れて固定し着ける」ことを意味すると解釈したものであるが,その解釈の方法は,「嵌着」の用語が「嵌めて着ける」ことを意味することは文言上明らかであるところ,同文言上の意味が上記段落【0033】から読み取れる「嵌着」の意味「くぼみに入れて固定し着ける」と整合することを確認したものと理解することができ,妥当なものというべきである。
 そして,甲13の3,4及び甲17の3,4には,内部の骨格に外皮を単に被せる構成しか開示されていないから,原告の主張は理由がない。


特許法施行規則24条の4
第二十四条の四  願書に添付すべき特許請求の範囲は、様式第二十九の二により作成しなければならない。
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2012年08月14日

請求期間を徒過した出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求

事件番号 平成23(行ウ)728
事件名 出願取下げを削除する手続補正書却下の処分に対する処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 東海林保、裁判官 田中孝一,足立拓人
特許法195条9項,10項,11項

第2 事案の概要
1 本件は,原告らが,自ら行った特許出願について出願取下書を提出した後,特許庁長官に対し,同特許出願の審査請求手数料に係る既納手数料返還請求書を提出し,また,同出願取下書の全文を削除する旨の手続補正書を提出したところ,いずれも特許庁長官から却下処分を受けたことから,これらの処分が違法であると主張して,被告に対し,同手続補正書に係る却下処分の取消し(第1事件)及び同既納手数料返還請求書に係る却下処分の取消し(第2事件)をそれぞれ求める事案である。
・・・

第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件補正書却下処分の適法性)について
(1) 前記第2,2(1)ウのとおり,本件特許出願は,原告らが平成21年9月24日付け本件取下書を提出したことにより取り下げられているから,それに伴って,特許庁における本件特許出願に係る手続は終了したものと解される。
 そうすると,その後に,原告らが本件取下書の全文を削除するとして提出した本件補正書は,特許庁に係属していない手続について補正をしようとするものであるから,特許法17条1項本文に反する不適法なものであり,かつ,その補正をすることができないものであった
と認められる。
 したがって,特許庁長官が特許法18条の2第1項に基づき本件補正書に係る手続を却下した処分(本件補正書却下処分)は,適法というべきであって,同処分の取消しを求める原告らの主張は理由がない。
・・・
2 争点(2)(本件返還請求書却下処分の適法性)について
・・・
(2) この点に関して,原告らは,被告が本件審査請求料を返還しないことが不当利得に該当する旨主張するが,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料の額は,法定どおりの適正額であったのであるから,その納付が法律上の原因を欠くものとはいえず,被告がこれを収受し,原告らに返還しないことが不当利得に当たるとは認められない。

 また,原告らは,原告らが出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求権を過失で行使しなかったことが過誤であるから,過誤納に関する特許法195条11項の規定に基づいて返還請求ができるとも主張するが,同条項の「過誤納」とは,過大な額の手数料が納付された場合や,手数料を納付すべき理由がないのに手数料が納付された場合など,その手数料の納付が当初から法律上の原因を欠き,納付した手数料を被告が収受することが不当利得となるような場合をいうものと解されるところ,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料は適正額であり,それが不当利得に該当することはないのであるから,これを同条項の「過誤納」に当たると解する余地はない

 このことは,特許法が,過誤納に係る規定(特許法195条11項)とは別に,出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求について,同条9項の規定を設けていることからも明らかである。
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2012年07月22日

意識的除外の判断基準−均等論

事件番号 平成24(ネ)10012
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年07月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
意識的除外がされたと認定し均等侵害を否定

 特許発明の出願人が,特許出願手続において,被疑侵害方法,本件でいえば説明書記載方法が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認し,又は外形的にそのように解釈されるような対応に至った場合には,出願人は,説明書記載方法を特許請求の範囲から意識的に除外したものとして,説明書記載方法が均等なものと主張することはできないと解すべきである。この見地に立って,以下の事実関係からみれば,本件特許においては,出願手続において,第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より小さいものを意識的に除外したものと解すべきであり,説明書記載方法が本件特許発明1の方法と均等な方法であると認めることはできない

原審 東京地方裁判所平成22年(ワ)第43749号 裁判長裁判官 岡本岳
「この減縮補正は,拒絶理由通知が指摘した引用文献1〜3に記載された2つの空間(スリット部)は水平方向の幅が同一であり,本件特許発明の構成上の特徴を開示していないことを主張してされたものであるから,当該拒絶理由を回避するためにされた補正と認められる。・・・,上記(3)オの補正において,第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より大きいものに限定されたことにより,外形的には,これとは逆の第1のスリットの水平方向の幅が第2のスリットの水平方向の幅より小さいものを本件特許発明1に係る特許請求の範囲から意識的に除外したものと解さざるを得ない。」
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2012年07月14日

特許法153条2項の趣旨

事件番号 平成23(行ケ)10313
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣
特許法153条2項

ウ 特許法153条2項は,審判において当事者が申し立てない理由について審理したときは,審判長は,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。これは,当事者の知らない間に不利な資料が集められて,何ら弁明の機会を与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたものである。

 したがって,特許法153条2項にいう「当事者の申し立てない理由」とは,新たな無効理由の根拠法条の追加や主要事実又は引用例の追加等,不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなりあらかじめ通知を受けて意見を述べる機会を与えなければ著しく不公平となるような重大な理由をいうものであって,特定の引用例に基づいて当該発明が容易に想到できるか否かの判断の過程における一致点や相違点の認定は,上記「当事者の申し立てない理由」には当たらないと解される。

 よって,審決における特定の引用例との一致点や相違点の認定が,審判手続における当事者の主張するそれと異なっていたとしても,そのことをもって直ちに同項に違反するものとはいえない。また,特許無効審判の判断の過程において,当事者の一致点や相違点に係る主張に拘束されるものではない。
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2012年06月18日

特許法121条2項の「責めに帰することができない理由」

事件番号 平成24(行ケ)10084
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文

1 特許法121条2項は,「拒絶査定不服審判を請求する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができないときは・・・その理由がなくなった日から14日・・・以内でその期間の経過後6月以内にその請求をすることができる。」と規定しており,「責めに帰することができない理由」とは,天災地変のような客観的な理由に基づいて手続をすることができないことのほか,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由をいうものと解される。
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2012年06月10日

指定期間が経過しても請求書の却下決定をせずに請求人に3回確認する運用にならわなかった却下処分の違法性

事件番号 平成24(行ケ)10061
事件名 審判請求書却下決定取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に関する裁量について特許出願について拒絶をすべき旨の査定を受けた者は,その査定に不服があるときは,拒絶査定不服審判を請求することで特許査定又は拒絶査定の取消しを求めることができ(特許法121条1項,159条3項,51条,160条1項),その際,請求の理由等を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない(同法131条1項3号)ところ,審判長は,請求書がこの規定に違反しているときは,請求人に対し,相当の期間を指定して,請求書について補正をすべきことを命じなければならず(同法133条1項),請求人が当該補正命令により指定した期間内に請求書の補正をしないときは,決定をもってその請求書を却下することができるとされている(同条3項)。
 そして,特許法は,審判長が上記決定をすべき時期については何ら規定していないところ,上記補正命令に基づく補正が上記相当の期間内にされない以上,あえて当該決定を遷延させることについて積極的な意義は見出し難い一方で,当該補正が当該相当の期間経過後にされた場合,当該補正を却下して請求書を却下する決定をしなければならない理由も見当たらない。したがって,審判長は,請求書を却下する決定の要件が充足したとしても,直ちに当該決定をしなければならないものではないというべきである
 以上によれば,審判長は,特許法131条1項に違反する請求書について,同法133条1項に基づく補正命令により指定した相当の期間内に補正がされなかった場合,いかなる時期に同条3項に基づく当該請求書を却下する決定をするかについての裁量権を有しており,当該決定は,具体的事情に照らしてその裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り,違法と評価されるというべきである。
 ・・・
イ 他方,特許庁内部では,前記1(5)に認定のとおり,「審判事務機械処理便覧」という文書により,特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に先立って,請求人からの上申書等の有無や却下処分前通知書の発送を確認することとされているほか,請求人から,同条1項に基づく指定期間内に手続補正についての期間の猶予を求める上申書が提出された場合,審判長は,当該指定期間を経過しても直ちに請求書を却下する決定をするとは限らず,あるいはそのような上申書が提出されなくても,特許庁からの郵便はがきによる却下処分前通知又は電話による手続続行の意思の有無の確認を経てから,請求書を却下する決定をする運用が行われている。
 しかしながら,上記「審判事務機械処理便覧」という文書は,あくまでも事務担当者の便益のために特許庁内部における事務処理の運用を書面化したものであるにすぎず,特許法の委任を受けて請求人との関係を規律するものではないし,特許庁内部におけるその余の上記運用も,いずれも特許法に根拠を有する手続ではなく,実務上の運用として行われているにすぎないから,このような運用に従わない取扱いがされたからといって,そのことは,原則として当不当の問題を生ずるにとどまり,直ちに請求書の却下決定に関する時期についての裁量権の逸脱又は濫用となるものではない
 ・・・
ウ 以上によれば,原告は,本件拒絶査定により本件審判における争点を認識しており,当該争点についての立証について,本件審判の請求まで約4か月,本件指令書により指定された補正のための指定期間の満了まで約6か月にわたる準備期間を与えられていながら,その立証準備の状況等について何ら具体的に説明をせずに当該指定期間を徒過していたのであるから,原告が外国法人であって,本件事務所との間の意思疎通について内国人よりも時間と費用を要することや,本件決定に先立って,郵便はがきによる却下処分前通知又は電話による手続続行の意思の有無の確認といった特許庁内部で行われていた運用に従った取扱いがされていなかったこと,そして,そのことから,仮に,本件事務所において自ら補正の理由書を提出するまで本件請求書が却下されることはないと期待していたとすれば,本件審判長がその期待を与えたことを考慮しても,本件審判長は,本件請求書を却下した時点において,当該決定を遷延させ,もって原告のために更に補正のための猶予期間を与える必要はなかったものというほかなく,本件拒絶査定から約7か月後であって当該指定期間の満了から43日後にされた本件決定は,審判長が有する請求書の却下決定をする時期についての裁量権を逸脱又は濫用したものとはいえない。
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2012年05月27日

特許出願の請求項の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定することの適法性

事件番号 平成23(行ケ)10296
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告は,審決は請求項1の発明の進歩性についてのみ判断し,請求項2ないし4の発明の進歩性について判断しておらず,不当,違法であると主張する。

 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言や,特許出願分割制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決民集62巻7号1905頁参照)。
 なお,拒絶査定を受けた出願人が不服審判請求をするために請求項の数に応じた手数料を納付しなければならないのは,審判においてすべての請求項につき審理・判断の可能性があることに対応するものであって,出願拒絶についての可分的な取扱いと結び付くものではない

 したがって,審決が請求項2ないし4の発明の進歩性について判断をしなかったとしても違法ではなく,原告が主張する取消事由3は理由がない。
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2012年05月05日

優先権主張の利益を享受で きず新規性がないとされた事例

事件番号 平成23(ネ)10069
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 控訴人は,本件特許発明1にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にし」たとの限定も,「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との限定も,基礎出願の明細書及び図面から導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではないとして,これらの構成が特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載された発明に基づ」かないとする原判決は誤りであるなどと主張する。

 しかしながら,・・・基礎出願明細書1(図面を含む。乙2)にも,・・・基礎出願明細書2(図面を含む。乙3)にも,・・・基礎出願明細書3(図面を含む。乙4)にも,クランプロッド5の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの,傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされておらず,本件特許発明1の構成のうち,「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定」するとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号による改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきである。

 この点,控訴人は,当業者であれば基礎出願明細書1の段落【0005】等の記載から基礎出願において従来技術にはない小さな傾斜角度の旋回溝という技術的事項を採用したことを理解できるところ,旋回溝の傾斜角度やガイド溝の具体的な構成を開示するために明細書に添付されたのが,クランプロッドの下摺動部分の展開図である図2であって,当業者は図2から具体的な傾斜角度を理解できるなどと主張する。しかしながら,上記図2には寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことに照らしても,上記図2は装置の部材の概要を示した模式図にすぎず,図面から具体的な傾斜角度を読み取ることができる性格のものではないことが明らかである。また,本件特許発明1のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

 なお,原判決が判示するとおり(62頁),上記図2からガイド溝(旋回溝)間の隔壁の厚さとガイド溝の溝幅の大小関係を一応看取することができるとしても,当業者において「隔壁の最小厚さ」を「ガイド溝の溝幅」よりも小さくするという技術的思想まで看取することは困難であるから,本件特許発明1の「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との構成(発明特定事項)についても,改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでなく,かかる観点からも,本件特許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できないというべきである。

 そして,控訴人が上記平成14年10月2日以前(同年4月8日)に製造・販売を開始した「スイングクランプLH」は本件特許発明1の実施品であるから,本件特許発明1に係る特許(本件特許1)は新規性(特許法29条1項2号)を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである。
 控訴人は,「スイングクランプLH」は,製造装置(製造工程で使用される装置)の一部にすぎず,納入先での分解や改造は禁止されているから,「スイングクランプLH」の製造・販売によって同製品に係る発明が公然実施されたことになるものではないなどと主張する。しかしながら,「スイングクランプLH」の購入者が同製品を分解してその構成を知ることができなかったことを窺わせるに足りる事情は証拠上存しないのであって,控訴人の上記主張を採用することはできない。また,被控訴人らによる新規性欠如の主張や特許法104条の3の抗弁の提出が権利濫用であるということもできない

原審 大阪地方裁判所平成21年(ワ)第1193号 裁判長裁判官 森崎英二
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2012年05月04日

補償金請求権−市場の独占と超過利益、売上総利益の赤字と超過売上高

事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

イ 以上を前提として,本件ジャイロが本件発明1及び5の実施品であること・・・を踏まえ,更に検討する。
 本件発明1は,その効果として,・・・,接着剤が不要で,接着位置や接着層のばらつきなどによる特性のばらつきを回避することができる効果があったと認められ・・・,小型化でも有利であったと解される。また,本件発明5は,その効果として,共振周波数の調整を容易にする効果があったと認められ・・・,共振周波数の調整工程を簡略化できる効果があったと解される。そして,本件ジャイロは,・・・%の市場占有率を維持していた(前記1(3)ア)のであるから,本件発明1及び5の代替技術の存在が否定できないとしても,本件発明1及び5の実施による超過売上高が存在すると認めるのが相当である。また,本件発明1及び5の技術的範囲及び効果に加え,本件ジャイロの市場占有率を考慮すると,超過売上高の割合は40%と認めるのが相当である(・・・。)。

 (4) これに対し,被告は,独占の利益(超過利益)がない旨を主張するので検討する。
被告は,・・・,本件各特許権によって市場を独占できていないから,無償の通常実施権に基づく実施によるものを超えた利益は存在していない旨主張する。しかしながら,超過利益は発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益であって,市場の独占がある場合に限って超過利益の存在が認められるわけではないから,市場の独占ができていないからといって,超過利益の存在を否定することはできない。・・・
 ・・・
 ウ さらに,被告は,被告ジャイロ事業は,ほぼ毎年度赤字続きで,累積では売上高から売上原価を控除した売上総利益でみても赤字となっており,本件各発明を実施したことにより被告が受けた利益は全く認められない旨主張する
 確かに,・・・,被告ジャイロ事業が赤字であったことがうかがえる。しかしながら,改正前特許法35条4項の「使用者等が受けるべき利益」とは,権利承継時において客観的に見込まれる利益をいうのである。被告の提出する損益計算表(乙23)をみても,損失のある年度ばかりではなく,利益の認められる年度も存在する。そのことからは,本件発明1及び5の実施による事業はおよそ利益の上がらない事業ではなく,市場環境,被告の事業方針等によっては利益を生み出すことのできる事業であることが認められる。
 そして,別紙「CGシリーズ型式別売上金額」のとおり,被告には,本件発明1及び5の実施品の製造・販売により1億円以上の売上が十数年にわたって継続して認められるのである(そのうちの5年は,30億円を超える売上高である。)。そうすると,当該職務発明の実施に係る事業において最終的に損失があったとしても,上記のとおり,超過売上高が存在する本件においては,独占の利益を否定することはできないというべきである。
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補償金請求権−特許登録前の独占の利益(超過売上高)の有無とその割合

事件番号 平成22(ワ)10176
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成24年04月25日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

(5) 最後に,特許登録前の独占の利益について検討するに,被告は,登録前に独占の利益は存在しない旨主張し,登録後の2分の1の独占力を認める考えがあり得てもそれは公開後に限られる旨主張する
 しかしながら,特許登録前であっても,出願公開後は一定の要件を満たせば補償金を請求することができるから(特許法65条),少なくとも出願公開後においては,事実上の独占力があると認められる。もっとも,差止請求権や損害賠償請求権は認められないから,その独占力が登録後と比較して小さいといえるのであって,本件発明1及び5の内容,効果等を考慮すると,その登録前の超過売上高の割合は登録後のものの2分の1と認めるのが相当である(なお,本件特許権1に係る出願公開は平成5年3月30日,本件特許権2に係る出願公開は平成7年1月10日であるから〔甲1及び5の各1〕,本件発明1及び5の実施品の販売はいずれも出願公開以降である〔前記1(2)〕。)。
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2012年05月01日

特許発明の本質的部分とは

事件番号 平成23(ワ)4131
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年04月12日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。
 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。

イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には以下の記載がある。
 ・・・
 そうすると,構成要件Eの「導入面取り部」は,本件特許発明1の課題解決手段である上記Aにおける基本的構成であり,特徴的原理を成すものであることが認められる。換言すれば,本件特許発明1において,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるには,構成要件Eの「導入面取り部」によりロック用留め具をロック位置まで案内することが必要不可欠の構成であり,課題解決の原理そのものであるというべきである。
 これに対し,被告製品では,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるため,構成要件Eの「導入面取り部」の構成によりロック用留め具を係合位置まで移動させる構成ではなく,ロック用留め具そのものを可動突部とすることにより下段コンテナの溝穴と係合させる構成が採用されている。

 したがって,被告製品の課題解決手段は,本件特許発明1の解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものとはいえず,むしろ,異なる原理に属するものというべきである。

 以上によれば,構成要件Eは,特許請求の範囲に記載された本件特許発明1の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分であり,特許発明の本質的部分に当たる。
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2012年03月25日

国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間の経過と国際特許出願の取り下げ

事件番号 平成23(行ウ)542
事件名 決定処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

第3 当裁判所の判断
原告は,
@ 平成22年1月22日に原告が特許庁長官に対し本件国際特許出願に関して本件取下書を提出したことにより,本件国際特許出願における2007年(平成19年)1月23日を優先日とするパリ条約による優先権主張は取り下げられた,
A その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がる,
B その結果,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も,上記国際出願日である平成20年1月23日から2年6月が経過する平成22年7月23日に繰り下がることになる
旨主張する。

 しかしながら,原告の主張は採用することができない。
 すなわち,原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約に基づいてパリ条約による優先権主張を伴う本件国際出願をし,本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされ(本件国際特許出願),本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったにもかかわらず,原告は当該提出期間の満了日までに上記翻訳文を提出しなかった(前記第2の2(1),(2)ア,イ)のであるから,同法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。

 そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していなかったことになるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続を観念することはできないというべきである。

<同様の事件(同一原告)>
 平成23(行ウ)535 平成24年02月16日 東京地方裁判所  裁判長裁判官 大鷹一郎
 平成23(行ウ)514 平成24年02月16日 東京地方裁判所  裁判長裁判官 阿部正幸

<関連事件>
 平成23(行ウ)542、ブログ紹介はここ
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