2013年10月03日

特許発明の解釈に包袋禁反言を適用した事例

事件番号 平成25(ネ)10030
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月 平成25年08月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 田中芳樹、荒井章光
特許発明の特許請求の範囲の解釈

ア 控訴人は,本件手続補正書の「3−1)」及び「3−2)」は,・・・,原本性を証明してもらうためのデータを,原本性を証明する処理のために受け取ることを否定する陳述ではないから,ダイジェスト照合によって実現しているサービスに,原本性を証明してもらうためのデータを受け取り保管することを加えることをもって,構成要件6及び7の充足性を否定する根拠とはならない旨主張する。

 しかしながら,・・・,控訴人は,本件特許の拒絶査定不服審判において,本件発明は,「伝達情報」等を発信者装置A及び受信者装置Bから内容証明サイト装置Cに送信せず,「伝達情報」を内容証明サイト装置Cが保管しないことによって,引用文献等記載の発明と異なり,通信量(情報量)が多くならず,多くの情報量を保管する構成でもなく,公証人等による伝達情報への不正関与の可能性を高くしないという効果を奏すると陳述し,本件発明は,控訴人のかかる陳述を踏まえた上で,特許査定がされたものであるから,本件発明の構成要件6及び7の意義は,契約当事者双方が契約書の「原本」を管理し,内容証明サイト装置は原本が改ざんされていないことを伝達情報のダイジェスト又は伝達情報を暗号化した暗号情報のダイジェストのみに基づいて検証することで証明するサービスであると解するのが相当である。

 したがって,原本性を証明するためのデータではなく,原本性を証明してもらうためのデータであれば,「伝達情報」を受け取り保管することもできるとする控訴人の主張は採用することができない。

posted by ごり at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年10月14日

先使用による通常実施権を認めた事例

事件番号 平成23(ワ)29049
事件名 特許権に基づく製造販売差止等請求事件
裁判年月日 平成24年09月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 志賀勝、高野輝久
特許法79条

(4) サンテック用スカーフカッターに係る発明は,本件発明と同一の発明であると認められるところ,その発明をした被告の従業員を具体的に特定することはできないものの,被告はその発明をした従業員からこれを知得して,本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしていたものである。そして,被告が当時本件発明の内容を知っていたこと窺わせるような証拠は全くないから,このことに鑑みれば,被告は,本件発明の内容を知らないでその発明をした従業員からこれを知得したものと認められる。
そうすると,被告は,本件特許権について,先使用による通常実施権を有する。
posted by ごり at 19:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年10月09日

発明の要旨の認定−発明特定事項の技術的意義の認定事例

事件番号 平成23(行ケ)10405
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、古谷健二郎
特許法70条2項、特許法29条2項

1 取消事由1(補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定についての誤り)について
(1) 審決の当否について
 栞本体の形状に関して,補正後の請求項1には,「折山を有する折り曲げ可能な縦長状」のものであること,及び,「前記栞本体は前記折山によって二分された」ものであることが特定されている。これらの発明特定事項の技術的意義は一義的に明確で,誤記も存在しない。したがって,本願明細書や図面を参酌すべき特段の事情は存在しないから,補正発明の要旨は,原則どおり,特許請求の範囲の記載,すなわち本件補正後の請求項1の記載に基づいて認定すべきものである。そうすると,補正発明と引用発明とを対比する際,補正後の請求項1に記載された発明特定事項との関係において構成の異同を認定すれば足り,そこに記載されていない事項を考慮する余地はない。
 審決は,補正後の請求項1に記載された発明特定事項との関係において,栞本体につき「補正発明は『折山を有する折り曲げ可能な縦長状の』及び『折山により』二分され,と特定されているのに対し,引用発明は,湾曲部を有し,湾曲部で短延面(2)と長延面(3)が区分されているものの,補正発明のような折山を有するものとはいえず,折り曲げ可能な縦長状のものともいえない点」を相違点1として挙げている。この相違点1の認定は,特許請求の範囲の記載に則ったものであり,審決の認定に違法はない。
posted by ごり at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年10月08日

特許発明の用語の意義の解釈事例

事件番号 平成23(行ケ)10253
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳、武宮英子
特許法70条1項、特許法29条2項

ア 本願明細書の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりであり,その「リン光ドーパント材料」の「リン光」については,「黄燐を空気中に放置し暗所で見るときに認められる青白い微光」等の意味があり(甲9),一義的に定まらないから,その技術的意義は,本願明細書の発明の詳細な説明を参照して認定されるべきである。そして,上記(1) 認定の事実によれば,本願明細書の段落【0016】に「用語“リン光”は有機分子三重項励起状態からの発光を称し」(上記(1)ア )と記載されることから,本願発明の「リン光」とは,有機分子の三重項励起状態のエネルギーから直接発光する現象を指すものと理解され,この解釈は,当該技術分野における一般的な用法(同ウ)に沿うものである。
 ・・・
 一方,引用発明の発光材料は,・・・と記載されることから(上記(1)イ ),三重項励起子のエネルギーを希土類金属イオンに移行させ,当該イオンの励起状態から発光させるものであって,三重項励起状態のエネルギーを直接発光させるものではないと解される。そうすると,引用発明における発光は,本願明細書で定義され,当該技術分野における一般的な用法による「リン光」と同義とはいえない。
 ・・・
 上記アのとおり,引用発明は,三重項励起子エネルギーを希土類金属イオンに移行させて発光するという機構に基づく発光素子であるのに対して,本願発明は,当該技術分野で通常用いる意味での「リン光発光材料」の発光分子上で励起子を直接捕捉するものであるから,両者の発光機構は異なる。また,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用発明の構成が,導電性有機材料及び希土類金属の有機金属錯体が使用された発光素子において,発光効率が高くかつ有効寿命の長い有機エレクトロルミネッセント素子を提供することを目的として採用されたものであり,当該素子に特有の構成であるから,引用例1において,その発光材料を,別の発光機構のものに変更する動機付けはないというべきである。
posted by ごり at 22:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

発明の技術的範囲の解釈事例

事件番号 平成23(ネ)10074
事件名 特許権侵害不当利得返還請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香、知野明

 原判決は,被告両製品は,本件発明の構成要件Aを充足しているとは認められず,本件発明の技術的範囲に属するものとはいえないとして,原告の請求を棄却し,これに対し,原告がこの判断を不服として控訴したものであるが,本件においては,原審段階から,構成要件Aの充足性のみならず,構成要件Eの充足性が争点となっていた。
 当裁判所は,被告両製品は,本件発明の構成要件Eを充足せず,本件発明の技術的範囲に属さないから,本件控訴は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。

1 構成要件Eの解釈
 本件発明の構成要件Eは
「該成分(a)及び(b)は,該成分(a)における酸基または酸誘導体基が該成分(b)の微粉状の反応性充填剤とイオン的に反応し,セメント反応を受け得るように選ばれることを特徴とする重合可能なセメント混合物
というもの
である。この点,本件発明に係る明細書の「本発明は,一方では歯及び骨基質に対する良好な接着力及び組織適合性のような,ポリカルボン酸とサリチレートとを主成分とするセメントの本質的に有利な特徴を有し,他方では低い溶解性と大きな機械的強度のような,複合材料の有利な特徴を有し,複合材料と共重合することができ,はっきりした分野現象(判決注・「分解現象」の誤記と解される。)を示さない新規な歯科用混合物を開発すると云う課題に基づいている。」(甲2・4頁7段33行〜39行)との記載に照らすと,構成要件Eにおいて,「成分(a)」は,その不飽和部分により互いに重合可能であるとともに,その酸基又は酸誘導体基が成分(b)とセメント反応をなすように選択されたものであることを要すると解される
 以下,被告両製品が,上記構成要件Eを充足するか否かについて検討する。
 ・・・
(4) 以上のとおり,被告両製品と本件発明は,歯科用アイオノマー系樹脂液体成分へのアプローチとしては別のタイプに分類される技術に基づいており,被告両製品は,エステル化反応を必要とせずに硬化するものであり,その液体成分中で経時的にエステル化が生じることがあるとしても,それは本来意図された反応ではなく,二重結合を有するポリカルボン酸は偶発的に生じた不純物にすぎないものといえる。そうすると,被告両製品は,偶発的にエステル化し,二重結合を有するポリカルボン酸が生ずる可能性があるとしても,その不飽和部分が互いに重合可能であるとともに,その酸基又は酸誘導基が成分(b)とセメント反応をなすように選択された成分(a)を含むものとはいえず,本件発明の構成要件Eを充足しない

原審 東京地方裁判所 平成20年(ワ)第32331号
posted by ごり at 21:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年08月21日

発明の要旨の認定(特許法70条1項)

事件番号 平成23(ネ)10057
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成24年08月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明,裁判官 八木貴美子,小田真治
特許法70条1項,2項

(1) 発明の要旨の認定について
ア 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について,特許法70条1項は「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」と,同条2項は「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」と,規定する。
 特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画していると解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。
 本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法に限定されることなく,他の製造方法をも含むものとして解釈・確定されることは許されない。

 もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,同法36条6項2号にも反しないと解される場合もある。そして,上記のような事情が存在することが立証された場合にあっては,発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されると解すべきである。

 そして,これを,特許権侵害訴訟における立証責任の分配の観点から整理すると,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,特許請求の範囲は,その記載文言どおりに解釈するのが原則であるから,「発明の技術的範囲が特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されない」旨を主張する者において,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,その旨の立証を尽くすことができないときは,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定すべきことになる。
posted by ごり at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年08月10日

先使用による通常実施権が認められた事例

事件番号 平成24(ネ)10016
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年07月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 部眞規子,齋藤巌
先使用による通常実施権(特許法79条)

(1) 先使用に係る発明の成否について
 先使用による通常実施権が成立するには,まず,これを主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで,当該特許出願に係る発明と同一の発明をしていること,あるいは,発明をした者から知得することが必要である(特許法79条)。
 そして,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作であり(同法2条1項),一定の技術的課題(目的)の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが,発明が完成したというためには,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,またこれをもって足りるものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。
(2) そこで,以上の観点から,被控訴人製品に係る発明が完成していたか否かを検討すると,前記前提となる事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
 ・・・
(5) 通常実施権の成否について
 前記(2)イ(ア)のとおり,大阪ガスは,遅くとも,本件特許の優先権主張日の約8年前である平成11年3月頃から,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを製造していることからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであることは明らかであるということができる。また,前記(2)ア(ウ)のとおり,被控訴人は,大阪ガスから被控訴人製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。
 したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。
posted by ごり at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年02月19日

プロダクトバイプロセスクレーム−大合議判決と特許庁基準の比較

大合議判決と特許庁審査基準との比較

<所感>
 普通に物として特定できるのにあえてプロダクトバイプロセスクレームとした場合には、特許請求の範囲の特定どおり解釈した方が解釈原則を曲げないので筋がよい。不真性プロダクトバイプロセスクレームの解釈は大合議判決の方が良い。不真性→真性の立証責任を出願人に負わせることで広い権利範囲を得ることと立証責任の負担とのバランスがとれる。

 問題としては、
(1) 「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であること」の立証が困難ではないかということ、
(2) 物として特定できることの反証が示された場合に権利範囲が変動し、無効(拒絶)理由の有無も変わることから、予測可能性、権利の安定性を欠くこと。
(3) 出願人が立証をせずあるいは審査官が直ちに不真性プロダクトバイプロセスクレームとして特許査定を与えた後、権利行使の場面で権利者が真性プロダクトバイプロセスクレームの立証をした場合に審査を経ていない権利範囲で権利行使が可能となる点で、予測可能性、権利の安定性を欠くこと。
があげられる。
 ただし、(1)については疎明すればよしとすること、(2)、(3)についてはまず審査に当たりプロダクトバイプロセスクレームの場合には必ず「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であること」を立証させる運用とすることで、容易に解決できるのではないか。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(大合議判決)はここ
posted by ごり at 16:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

技術常識を考慮した特許請求の範囲の用語の解釈

事件番号 平成23(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(イ) 原告は,本件補正発明においては,審決が引用発明1のデータ端末とコンピュータにそれぞれ対応させた「ウエブ・ブラウザ12」と「コンピュータ・ネットワーク装置22」とは「遠隔アクセス」する関係にある。「ウエブ」とは,インターネットまたはワールドワイド・ウエブと呼ばれる国際的なネットワークのようなコンピュータ・ネットワークを意味しているのに対し,引用発明1におけるデータ端末はコンピュータに収容されており,あるいはせいぜいLAN(構内通信網)6を介して接続されていることから,引用発明1は,「遠隔アクセス」を想定していないと主張する。

 しかし,原告のこの点の主張も,以下のとおり採用できない。すなわち,本件補正後の請求項1には,「遠隔アクセス」について,「ウエブ・ブラウザを用いて遠隔アクセスできるコンピュータ・ネットワーク装置によってアクセスするために,」との記載及び「前記電話番号情報の表示のためにウエブ・ブラウザを用いてコンピュータ・ネットワーク装置を遠隔アクセスし;」との記載はあるが,「遠隔アクセス」の内容は特定されていない。LAN上のサーバに情報を記憶しておき,ウエブ・ブラウザからサーバの該情報にアクセスして,ウエブ・ブラウザ上で該情報を表示することは,企業内ネットワークにみられるように,本願の優先日前において,当該技術分野では常套手段であるから,ウェブ・ブラウザを用いて「遠隔アクセス」することが記載されていても,その「遠隔アクセス」が,インターネットを介して接続される遠隔なアクセスに限定されるものではない
posted by ごり at 10:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年02月12日

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈(大合議)

事件番号 平成22(ネ)10043 判決要旨はここ
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 飯村敏明、塩月秀平、滝澤孝臣、東海林保

(2) 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について
ア 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について,法70条は,その第1項で「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とし,その第2項で「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」などと定めている。したがって,特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。

 特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。

 そうすると,本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。

 もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,法36条6項2号にも反しないと解される。そして,そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。

イ ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもある。前記アで述べた観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになるから,これを区別して検討を加えることとする。そして,前記アによれば,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。

 また,特許権侵害訴訟における立証責任の分配という観点からいうと,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である。
・・・

2 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものかについて
 法104条の3は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定するが,法104条の3に係る抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨は,上記特許無効審判請求手続において特許庁(審判体)が把握すべき請求項の具体的内容と同様に認定されるべきである。
・・・
 上記の観点から本件を検討するに,本件特許には,上記○1にいう不可能又は困難であるとの事情の存在が認められないことは前述のとおりであるから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定に際しても,特許請求の範囲に記載されたとおりの製造方法により製造された物として,その手続を進めるべきものと解され,法104条の3に係る抗弁においても同様に解すべきである。

<筆者注>
並行する審決取消訴訟はここ。プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について同趣旨を判示。
特許法180条の2の規定に基づき求められた特許庁長官の意見において特許庁の審査基準が解説(得られる結論はさておき、解釈は本判決と異なる。)されている。(判決第40頁〜第61頁)
(変更履歴付き(第64頁に痕跡あり。)のファイルがPDFに変換されているためか、判決の字が小さくやや読みにくい。)

大合議判決と特許庁審査基準との比較はここ
posted by ごり at 21:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

判決中の特許請求の範囲の用語の明細書を参酌した解釈と文言解釈との対比

事件番号 平成23(ネ)10013
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

・【請求項1】
カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホストコンピュータと,該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機とから成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,
 前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,・・・前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,
 前記端末機が,・・・前記座席表示情報を表示する表示手段と,
を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。
 ・・・
イ 発明の詳細な説明
 ・・・
(2) 上記記載によれば,本件各特許発明は,「券情報」と「発券情報」という2種類の情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報が2種になるために通信回線の負担が1種の場合に比べて2倍になってしまうとともに端末機の記憶容量と処理速度も2倍になってしまうという従来技術の問題点を課題として,これを解決すべく,管理センターに備えられるホストコンピュータにおいて,「券情報」及び「発券情報」に基づき,かつ,「座席管理地の座席レイアウト」に基づいて,1つの表示情報である「座席表示情報」を作成し,これをホストコンピュータから座席管理地に備えられる端末機に伝送し,当該端末機が,これを入力して,その表示手段(ディスプレイ等)において表示するという構成を採用することによって,前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウンが図られ,本発明のシステムの構築を容易にするという効果を達成した発明であると認めることができる。
 したがって,本件各特許発明の「座席表示情報」とは,ホストコンピューターにおいて,「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」といった個々の情報を1つの情報に統合することによって,これを端末機に送信すれば,端末機において他の情報と照合する等の格別の処理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報と認めるのが相当である。
・・・

 控訴人は,原判決が「他方で,本件明細書には,端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視することができるものとすることに関する記載はない」と説示されていることを理由として,このような認定は,本件明細書の記載のみに基づき行われているものであって,本件各特許発明の特許請求の範囲の記載に基づかない実施例限定解釈であって不当である旨主張する。

 しかし,本件各特許発明の1−B及び1−C並びに2−B@及び2−Cには,それぞれ「該ホストコンピューターが・・・」「・・・前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する・・・」と記載されているのであって,その文言解釈上,「座席表示情報」は,端末機に送信される以前に,ホストコンピューターにおいて「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」に基づいて表示される1つの情報として統合処理される情報であると解釈するのが相当であるから,本件各特許発明が「端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示」するものでないことは,特許請求の範囲の文言上明らかである。
posted by ごり at 11:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2012年02月05日

特許発明の特許請求の範囲の用語の解釈事例

事件番号 平成23(ネ)10056
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第2 事案の概要
・・・
3 ・・・,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(下線部は,平成22年8月26日の訂正審決確定により追加された部分である。また,A〜Dの項目は原判決が付したものである。)。
【請求項1】
A ISDNに接続した番号調査用コンピュータにより,使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる調査対象電話番号について回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し,網から得られる情報に基づいて有効な電話番号をリストアップして有効番号リストを作成する網発呼プロセスと,
B ・・・リスト配布プロセスと,
C ・・・クリーニング処理プロセスと,
D を含んだことを特徴とする電話番号リストのクリーニング方法。

・・・

第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被告サービスは,少なくとも本件特許発明の構成要件Aを充足せず,禁反言の法理の関係で本件特許発明と均等とは認められないものと判断する。
・・・
2 控訴人の当審主張について
 本件特許発明の特許請求の範囲においては,(使用されている)「すべて」の市外局番及び市内局番という文言が用いられているのであって,範囲の広狭がある場合には,最も広い範囲を指すと解するのが自然であり,逆に,これを「調査対象となる一定の地域」に限定する記載はない
 本件明細書(甲1,47)の記載をみても,・・・と記載されるように,全国を対象として調査するものである。なお,控訴人が主張の根拠とする記載(段落【0011】〜【0013】,【0026】)は,全国を調査する一環として,ある地域を分担したパソコンによる調査方法を説明したものであって,控訴人の主張するような,一定の地域に限定して調査を行う旨の記載であるとは認められない。
・・・
したがって,構成要件Aの「使用されているすべての市外局番および市内局番」とは,調査対象となる一定の地域において使用されているすべての市外局番及び市内局番を意味するという控訴人の主張は,採用することができない。


原審 事件番号 平成21(ワ)35411
posted by ごり at 17:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年11月17日

請求項の用語が誤記であると認められなかった事例

事件番号 平成23(行ケ)10189
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 上記記載によれば,本願発明は,塩化マグネシウムを利用することで,牛,鶏,豚等の生物の細胞を活性化する方法に関する発明であると認められる。なお,原告は,本願発明における「食品」は「飼料」の誤りである旨主張するが,特許請求の範囲に「食品」と記載されていることから,明白な誤記であるとまでいうことはできないので,上記主張は認めることはできず,いずれにしても,この点が本件訴訟の結論に影響を及ぼすものではない。
posted by ごり at 23:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年11月13日

請求項の用語の意義を、請求項中の他の構成の意義を踏まえ確定した事例

事件番号 平成22(ワ)23188
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年10月19日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

 しかし,本件発明における課題解決手段からみて,「直接隣接する」とは,カラー部分の障害による吸引孔とカフ上端部との離間を回避する手段を講じることによって達成されるものであるから,カラー部分の存在による障害をいかなる構成によって回避したかという点の考察と無関係に,「直接隣接する」の具体的な意義を決定することは相当ではない

 したがって,構成要件Cの「直接隣接する」の意義は,カフとカラーとの関係を具体的に示した構成要件Eの内容と切り離してこれを理解することはできないものというべきである。

(オ) そこで,構成要件Eをみると,「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨張しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨張しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した」ものである。すなわち,カフとカラーとの関係に関する構成としては,
@ カフの近位端が裏側に折り重ねられていること,
A 近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないように構成されていること,
に特徴がある。
 言い換えると,本件発明は,カフのカラー部分との関係でのカフの膨張態様に特色のある発明であり,カフの近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないようにされていること,カフの膨張しうる部分が近位カラー部分の先端まで到達している構成とされた発明である。

 以上の明細書の記載及びその課題解決のためのカフとカラー部分との関係について示した構成要件Eの記載に照らして,「直接隣接する」の技術的意義を検討すると,本件発明は,従来技術において,カフ上端部の分泌物を吸引するについて,カラーの延在部よりも上部に吸引孔を設けざるを得ず,その結果,吸引孔とカフ上端部の位置が遠ざけられ,そのためカフ上端部の分泌物を十分吸引できなかったのを,カラーに被せるようにカフを膨らませ,気管をシールすることによって,カラー部分の存在によるカフ上端部からの吸引孔の離間を回避し,カフ上端部と吸引孔の近接を可能にしたことにあると認めるのが相当である。

 したがって,「直接隣接する」の意義は,カラー部分の存在による吸引孔とカフ上端部との離間が防止されていること,すなわち,カラー部分の存在によりカラー部分を隔てて吸引孔とカフ上端部が隣接することが回避されていることを意味するものと介される。したがって,カフの近位端と吸引孔の間の空隙の有無が直ちに「直接隣接する」か否かの評価に結び付くのではなく,カラー部分に重なるようにカフが膨らむ構成によって,カラー部分の距離がそのまま吸引孔を設けることの障害となっていた従来技術と比較して,カフの上端部(近位端)と吸引孔の間の空隙を短縮することができているのであれば,「直接隣接する」と評価することができるものというべきである。

(所感)用語の意義の認定にあたり、明細書の該当用語に対応する構成の課題を読み込み検討に用いているが、当該明細書の対応する(実施例の)構成を直接参酌して用語の指し示す範囲を確定していない。そしていわば原因と結果の関係にある請求項の他の構成を参酌して、用語の意義を確定している。
 こうすれば、明細書が過度に参酌されて用語の意義が(用語の文言解釈から不自然に変更され)予測可能性を失なうことはない。これは良い解釈法だと感じる。
posted by ごり at 19:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年10月10日

特許請求の範囲の記載の解釈−文言解釈の限界を超える解釈を否定した事例

事件番号 平成22(ワ)38409
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年09月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 阿部正幸

d(a) また,原告らは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明の実施例には,レールが建物2の外壁に設置されており,目地プレートが建物2の床面に支持されているわけではないものも記載されているから(図20,23),被告製品のように,目地プレートが建物2の床面に支持されているわけではなく,建物2の外壁に設置されたレールによって支持されている構成も,目地プレートの「他端部が前記渡り通路用開口部の床面に左右方向にスライド移動可能に取付けられ」ているものに当たると主張する。

(b) しかしながら,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項),「床面」とは,「壁面・天井などに対して,床。床の表面」を意味するものであり(広辞苑第6版2864頁),「取り付ける」とは,「機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置したりする。」ことを意味するものである(同2048頁)。また,「設置」とは「設けて置くこと。」(特許技術用語集第3版105頁)を,「装置」とは「取り付けて置くこと。備えつけること。」(同113頁)を,それぞれ意味するものである。
 したがって,構成要件Cの「床面に…取付けられ」という用語を普通の意味で解釈すると,被告製品のように目地プレートを建物の外壁に設置する場合は,これに当たらないものと解される

(c) また,特許請求の範囲に記載された用語は,願書に添付した明細書の記載すなわち発明の詳細な説明等の記載や図面を考慮して解釈するものとされているところ(特許法70条2項),本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載が存在する。
・・・

(d) 上記発明の詳細な説明の記載等によれば,本件発明において,目地プレートの一端部を渡り通路の目地部側端部の床面上に前後方向にスライド移動可能に支持し,他端部を渡り通路用開口部の床面に左右方向にスライド移動可能に取り付けること(構成要件C),及び,一対のスライド側壁の一端部を渡り通路の目地部側の側壁に前後方向にスライド移動可能に取り付け,他端部を渡り通路用開口部が形成された外壁に左右方向にスライド移動可能に取り付けること(構成要件D)の技術的意義は,従来の渡り通路の目地装置では,地震等での左右の建物の大きな前後左右方向の揺れ動きを吸収することができず,床用目地装置と壁面用目地装置との接続が難しいなどの欠点があったのに対し,上記構成を採ることにより
@ 左右の建物が地震等で前後左右方向に揺れ動いた場合に,目地プレート及び一対のスライド側壁がその動きに追従して移動し吸収することができるため,目地プレートや一対のスライド側壁が損傷するのを防止することができ,安全に長期間使用することができること,
A 構造が簡単で,大きな前後方向の揺れ動きに追従することができること,
B 構造が簡単なため,容易に設置することができ,安価に製造することができること,などの効果を得ること
にあるものと認められる


 そして,構成要件Cの「床面に…取付けられ」の意義を上記(b)の通常の意味どおりに解し,目地プレートの他端部を,建物の外壁ではなく通路用開口部の床面に取り付けることによっても,上記本発明の第1の実施の形態(段落【0008】〜【0016】,図1〜9)のように,従来技術の上記欠点を解消し,上記効果を実現することができるといえる

 そうすると,本件明細書において,「特許請求の範囲」における目地プレートの他端部の取付けに関する記載内容と,本件発明の実施の形態を示す図面とが整合しない点があるとしても,「床面に…取付けられ」という記載について,これを「外壁に…取付けられ」という場合を含む意味に解釈することは,文言解釈の限界を超えるものとして,許されないというべきである
また,本件明細書の他の記載を見ても,構成要件Cの「床面に…取付けられ」に関して,上記(b)の通常の意味と異なり,床面だけでなく外壁に取り付けられることを含む意味で使用する旨を定義する記載は存在しない。

 原告らの主張は,採用することができない。

*所感 自由競争の原則の例外を特許法は規定している。競業者に過度の監視負担を課したり、予測可能性を下げて萎縮効果を生じさせるように70条を解釈すべきではない。この観点から特許請求の範囲の「文言解釈」を明細書の発明の詳細な説明の些細な分析により書き換えることは許されないと考える。筆者はこの観点からこの判決を支持したい。
posted by ごり at 22:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年09月11日

特許請求の範囲の用語の解釈事例(切餅事件)

事件番号 平成23(ネ)10002
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年09月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 構成要件Bの充足性について
ア 「載置底面又は平坦上面ではなく」の意義について
 当裁判所は,構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,「側周表面」であることを明確にするための記載であり,載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部(以下「切り込み部等」ということがある。)を設けることを除外するための記載ではないと判断する。
・・・

(ア) 特許請求の範囲の記載
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,」(構成要件B)と記載されている。
 上記特許請求の範囲の記載によれば,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分の直後に,「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」との記載部分が,読点が付されることなく続いているのであって,そのような構文に照らすならば,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は,その直後の「この小片餅体の上側表面部の立直側面である」との記載部分とともに,「側周表面」を修飾しているものと理解するのが自然である。

(イ) 発明の詳細な説明の記載
・・・

b 上記発明の詳細な説明欄の記載によれば,本件発明の作用効果として,・・・,が挙げられている。そして,本件発明は,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,焼き上がり時に,上側が持ち上がることにより,上記@ないしCの作用効果が生ずるものと理解することができる。
 これに対して,発明の詳細な説明欄において,側周表面に切り込み部等を設け,更に,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると,上記作用効果が生じないなどとの説明がされた部分はない。本件明細書の記載及び図面を考慮しても,構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,通常は,最も広い面を載置底面として焼き上げるのが一般的であるが,そのような態様で載置しない場合もあり得ることから,載置状態との関係を示すため,「側周表面」を,より明確にする趣旨で付加された記載と理解することができ,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を設けることを排除する趣旨を読み取ることはできない

c これに対し,被告は,本件発明は,切餅について,切り込みの設定によって,焼き途中での膨化による噴き出しを制御できるという効果(効果@)と,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるという効果(効果A)を共に奏するものであるが(本件明細書段落【0032】),切餅の平坦上面又は載置底面に切り込みが存在する場合には,焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなるため,忌避すべき状態になることから(本件明細書段落【0007】),本件発明における効果Aを奏することはないと主張する
しかし,被告の主張は,採用の限りでない。

 すなわち,本件発明は,上記のとおり,切餅の側周表面の周方向の切り込みによって,膨化による噴き出しを抑制する効果があるということを利用した発明であり,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるという効果は,これに伴う当然の結果であるといえる。載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けたために,美観を損なう場合が生じ得るからといって,そのことから直ちに,構成要件Bにおいて,載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けることが,排除されると解することは相当でない

 また,当初明細書(甲6の2)の段落【0021】には,作用効果に寄与する切り込みの形成方法が記載され,同明細書の段落【0043】,【0045】には,周方向の切り込み等は,側周表面に設けるよりは作用効果が十分ではないが,平坦頂面における場合でも同様の作用効果が生じる旨記載され,図6(別紙図5)が示されていたことに照らすと,周方向の切り込み等による上側の持ち上がりが生ずる限りは,本件発明の作用効果が生ずるものと理解することができ,載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けないとの限定がされているとはいえない。さらに,本件明細書段落【0007】の記載は,米菓で採られた噴き出し抑制手段の適用における問題点を記載したものであり,本件発明において,周方向の切り込み等による,上側の持ち上がりによる噴き出し抑制手段を採用するに当たり,載置底面又は平坦上面に切り込み等を設けるか否かについて,本件明細書に何らかの言及がされていると解する余地はない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。


<所感>
 技術的には本判決の言うとおり側周面に切り込みがあれば平坦上面に切り込みがあっても本願所定の効果を奏する。しかし明細書([0007])では平坦上面に切り込みがあると焼き上がりが忌避すべき状態となるという課題を挙げており、この点と請求項の用語の自然な解釈を重視すれば地裁の解釈の方が良いように思う。技術面を重視すると高裁の判断も良いが、当業者の予測可能性を害するように感じる。当業者はこれほどまでには読み込めない。

 ところで引用された明細書記載からすると「平坦上面」は、切餅(「方形」の特定がなければ丸餅も含む。)の平坦な上面を指すようにとれる。丸餅の場合、方形の切餅の立直側面である側周に該当する部分は丸餅の裾野の広いスロープ部分(このスロープが引用最終段落の平坦頂面に当たるのではないか。なお、スロープ部分であっても切り込み位置があまり上だと意味がないことは明らかである。)となり、丸餅の頭頂部に平坦面があればそれが平坦上面である。これは、当初明細書の[0043],[0045],図6にも沿った解釈である。(この解釈は高裁とは異なる。)また、[0007]には「忌避すべき・・切餅や丸餅への実用化はためらわれる」と強い表現で記載されている。これらを踏まえると最後の引用段落の理由は説得力が弱い。

 地裁判決はここ
 関連判決はここ
posted by ごり at 19:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年05月01日

特許請求の範囲の用語の認定事例

事件番号 平成22(行ケ)10239
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・したがって,本件補正発明にいう「論理インデックスの組」の意義は,一義的に明らかであるとはいい難い。

 そこで,本件補正明細書の記載を参酌すると,・・・に認定のとおり,本件補正明細書では,「論理インデックスの組」を集合として捉えていることが明らかであり(【0022】),また,処理エンジンは,論理インデックス「#107」,「#106」,「#104」及び「#100」のうちの「任意の組」が名称辞書の論理インデックス・セットの中にあるか検索することとされているところ(【0036】),これら4つの論理インデックスからの任意の選択に当たり,論理インデックス間の優先順位や特定の配列順序が適用されるとみるに足りる記載はないから,ここで「論理インデックスの組」とは,「#107」,「#106」,「#104」及び「#100」の4つの論理インデックスから任意の複数の論理インデックスを選択してこれを組み合わせたものと解することができる
 したがって,本件補正発明にいう「論理インデックスの組」は,原告らの主張するように,特定の順序を有しないで論理インデックスが組み合わされた場合を含むことは否定し得ない。

 しかしながら,本件補正明細書には,「論理インデックスの組」から複数の論理インデックスが特定の順序で配列された場合が除外されていると見るに足りる記載がない。むしろ,・・・に認定のとおり,本件補正明細書には,「GETRONICS FOODS CO.,LTD AKASAKA」に対応するものとして,「#107,#106,#104,#100」との特定の順序による「論理インデックスの組」が存在する旨の記載がある(【0031】)から,複数の論理インデックスを特定の順序で配列したからといって,当該配列により本件補正発明にいう「論理インデックスの組」ではなくなるというものではない
 したがって,本件補正発明の「論理インデックスの組」は,特定の順序を有しないで論理インデックスが組み合わされた場合のほかに,複数の論理インデックスが特定の順序で配列された場合をも包含するものと認めざるを得ない
posted by ごり at 21:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年04月03日

補正却下の決定についての不服申立て

事件番号 平成22(行ケ)10228
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年03月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 取消事由1について
 原告は,特許法53条3項ただし書きの規定等を根拠として,本件補正を却下する決定については不服申立てができると解すべきであるなどと主張する。

 しかし,特許法53条3項ただし書きは,拒絶査定不服審判を請求した場合には,審判手続において,審査段階でなされた補正却下の当否を争うことができることを前提にしているものであって,その規定から,審判段階でなされる補正却下の当否についての独立の不服申立てが認められるものではない。特許法159条1項により同法53条の規定が準用されることから明らかなように,拒絶査定不服審判の段階でなされた補正却下の決定に対しては,独立の不服申立てをすることはできず(同条3項本文),審決取消訴訟が提起された場合に,その訴訟において補正却下の当否を争うことができるのである。
posted by ごり at 21:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年03月05日

医薬品の「用途」の解釈(存続期間延長登録)

事件番号 平成21(行ケ)10423等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第2 事案の概要
 本件は,特許権の存続期間の延長登録に対する無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,本件延長登録に先だってされた延長登録の理由となった処分の対象物について特定された用途と,本件延長登録におけるそれとが実質的に同一であるか否か,である


第4 当裁判所の判
・・・
5 先の承認処分における用途と本件承認処分における用途の同一性について前記認定によれば,・・・,塩酸ドネペジルが軽度及び中等度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であることが確認されていたとしても,より重症である高度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であるとするには,高度アルツハイマー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジルを投与し,その有効性及び安全性を確認するための臨床試験が必要であったと認められる。

 そして,「用途」とは「使いみち。用いどころ。」を意味するものであり,医薬品の「用途」とは医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や病症等をいうと解され,「用途」の同一性は,医薬品製造販売承認事項一部変更承認書等の記載から形式的に決するのではなく,先の承認処分と本件承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態(病態生理),薬理作用,症状等を考慮して実質的に決すべきであると解されるところ,本件のように,対象となる疾患がアルツハイマー型認知症であり,薬理作用はアセチルコリンセルテラーゼの阻害という点では同じでも,先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり,先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要な場合には,特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当するものとして,重症度による用途の差異を認めることができるというべきである。

 よって,本件においては,前記判示のとおり,疾患としては1つのものとして認められるとしても,用途についてみれば,先の承認処分における用途である「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件承認処分における用途である「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるといえないとして,存続期間の延長登録無効審判請求を不成立とした審決は,その判断の結論において誤りはない。
posted by ごり at 20:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条

2011年02月20日

特許出願に係る発明の要旨の認定

事件番号 平成22(行ケ)10172
事件名 審決取消当事者参加事件
裁判年月日 平成23年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

当事者参加人は,・・・,特許請求の範囲に記載した発明は,発明の詳細な説明に記載したものと同一でなければならないので,本願発明2における
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」は
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻
と同義であって,そのように解すべきと主張する
ので,以下検討する。

イ 特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照 。)
以上を前提とした場合,まず,本願発明2の「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」との記載は,その技術的意義は明確である。

 そして 「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」と「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」とでは,前者が単に蟻の一般的性質を述べたにすぎないのに対し,後者は蟻の所在場所を限定していることになり,その意味が大きく異なるものであって,本願発明2の請求項における前者の記載が明らかな誤記であり,これを後者のように解すべきとする十分な根拠もない
・・・
 このように,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1に対応する部分も,本願発明2に対応する部分も,共に存在することから,本願発明2における「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」との記載が一見して誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるとはいえず,発明の詳細な説明の本願発明1に対応する部分の記載をもって,本願発明2において防除の対象とする蟻を本願発明1と同様に解すべき旨の当事者参加人の主張は採用できない
posted by ごり at 22:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法53〜99条