2012年12月23日

自然法則を利用していないとした事例

事件番号 平成24(行ケ)10134
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 高部眞規子,齋藤巌
特許法2条1項

(1) 自然法則の利用について
 特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定するところ,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在である以上,人の特定の精神活動,意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには自然法則の利用とはいえない。
 したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,専ら,人間の精神的活動を介在させた原理や法則,社会科学上の原理や法則,人為的な取り決めや,数学上の公式等を利用したものであり,自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には,そのような技術的思想の創作は,同項所定の「発明」には該当しない

(2) 本願発明の構成について
 前記1(1)の@ないしDの構成は,「省エネ行動シート」という図表のレイアウトについて,軸(・・・)と,これらの軸によって特定される領域(・・・)のそれぞれに名称を付し,意味付けすることによって特定するものであるから,各「軸」及び各「領域」の名称及び意味,という提示される情報の内容に特徴を有するものである。
 そして,図表の各「軸」,及び軸によって特定される「領域」に,それぞれ・・・という名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利用するものではなく,本願発明の「省エネ行動シート」を提示された人間が,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することを可能とするものである。
 また,本願発明の「省エネ行動シート」は,人間に提示するものであり,何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして,人間に提示するための手段として,紙などの媒体に記録したり,ディスプレイ画面に表示したりする態様などについて,何らかの技術的な特定をするものではないから,一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない

(3) 本願発明の課題と作用効果について
 ・・・
 本願発明の上記作用効果は,一方の軸と,他方の軸の両方向への広がり(面積)を有する「領域」を見た人間が,その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し,把握することができること,さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば,その「領域」の意味を理解することができる,という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することは,専ら人間の精神活動に基づくものであって,自然法則を利用したものとはいえない

<筆者メモ>
(判決の要点)
○ 法2条1項の解釈へのあてはめにおいて、認知のメカニズムを利用したレイアウト(を有するシート)は技術的思想であるが、自然法則を利用していないとしている。
○ 自然法則を利用していないとする理由は、人間への提示であること、提示手段に一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存しないということである。こういうからには情報の人間への提示、または、情報の提示手段に技術的特徴がない場合、は自然法則を利用していないとの前提があるはず。
○ 作用効果が心理学的な法則を利用した専ら人間の精神活動に基づくもので自然法則を利用していないことを理由の一つとしている。
(疑問点)
・ 作用効果は発明の特定事項ではない。作用効果の自然法則利用性を検討した点は不自然ではないか。この結論なら、発明特定事項が(読取装置の技術的特性に対応する等していないので)自然法則を利用しておらず、専ら心理学的な法則を利用したレイアウトに過ぎない、とした方がよかったのではないか。
・ 心理学的な法則(認知メカニズム)は人間の脳の化学反応等により引き起こされており、化学反応等の自然法則を利用しているとも言える。判決は法2条1項の「自然法則」をどう解釈し、どこで線引きしたのか。精神活動でも人によってまちまちな好き・嫌いなどと、ほとんどそうなるという認知メカニズムとでは異なり、前者は「専ら心理学的な法則を利用した」と言えるが後者は違うのではないか。
・ 情報の人間への提示、情報の提示手段に技術的特徴がない場合、は自然法則を利用していないとの前提は正しいか。
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2009年01月25日

医療行為として実施される発明の成立性

事件番号 平成20(行ケ)10299
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年01月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一


2 本願に係る発明の要旨
(1) 本件補正前
 本件補正前の平成17年9月6日付けの手続補正書(甲9の2)に記載の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,次のとおりである。
「2〜20ガウスの微弱磁気を有する保健衛生用品を,傷口,又は化膿部に装着使用することを特徴とする,細胞再生方法。」

・・・

第4 当裁判所の判断
・・・

2 本願発明が特許を受けることの可否について
 審決は,「本願発明が,実際に細胞を再生するものであるか否かはさておき,本願発明は,実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえる」ことから,「特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当しない」としたものであるところ,原告は,審決の上記認定判断について何ら取消事由を主張するものではなく,本願発明に対する原告主張の取消事由(本願発明が治療等の効果を有するというもの)は,審決の結論に影響しないものである。

 そして,本願発明につき,実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえるから特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当せず特許を受けることができない,とする審決の認定判断は是認することができる。

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2008年03月09日

演算回路上のアルゴリズムにかかる発明の成立性

事件番号 平成19(行ケ)10239
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『2 原告は,本願発明が法2条1項に規定された「発明」に該当しないとした審決の判断に誤りがあると主張するので,以下この点について検討する。
(1) 法2条1項は,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定し,法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と規定する。
 すなわち,法により特許として保護の対象とされる発明は,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることを要し,これを欠くときは,その発明は特許を受けることができないと解される。
そこで,本願発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するかについて検討する。
・・・

(3) 以上によれば,本願発明1〜3における「ビットの集まりを生成する装置」とは,nビットの集まりを入力してℓビットに短縮された演算結果を出力する装置であり,その過程においてハッシュ法,すなわち,「長い長さのデータを短い長さのデータとして表現する技術」(上記3(2)ア)が用いられているものである。

 ここで用いられるハッシュ法は,「n」というデータを一定の法則に従って短縮化して表現しようとする場合に不可避的に発生する短縮表現の衝突(n1というデータを短縮した値m1と,n2というデータを短縮したm2が等しくなってしまうこと)の確率を可能な限り小さくするという数学的な課題を有し,本願発明は,そのための計算手順(アルゴリズム)として,いずれも・・・という各演算を含むものである

 したがって,本願発明1〜3はいずれも数学上の計算式,すなわちハッシュ関数として表現可能なものであり,実際にも,発明の詳細な説明においては,本願発明1は「h(m)=((m+a)2 mod p)mod 2ℓ」(数式(6)),本願発明2は「h(m)=(((m+a)2+b) mod p)mod 2ℓ」(数式(7)),また本願発明3は,K「h(m 1・・・・・m K)= Σ(mi+ai) mod p mod 2 (数式2 ℓ 」i=1(8))として,いずれも数学的な計算式として表現されているところである。

(4) ところで,上記数学的課題の解法ないし数学的な計算手順(アルゴリズム)そのものは,純然たる学問上の法則であって,何ら自然法則を利用するものではないから,これを法2条1項にいう発明ということができないことは明らかである。また,既存の演算装置を用いて数式を演算することは,上記数学的課題の解法ないし数学的な計算手順を実現するものにほかならないから,これにより自然法則を利用した技術的思想が付加されるものではない

 したがって,本願発明のような数式を演算する装置は,当該装置自体に何らかの技術的思想に基づく創作が認められない限り,発明となり得るものではない(仮にこれが発明とされるならば,すべての数式が発明となり得べきこととなる。)。

 この点,本願発明が演算装置自体に新規な構成を付加するものでないことは,原告が自ら認めるところであるし,特許請求の範囲の記載(前記第3,1(2))をみても,単に「ビットの集まりの短縮表現を生成する装置」により上記各「演算結果を生成し」これを「出力している」とするのみであって,使用目的に応じた演算装置についての定めはなく,いわば上記数学的なアルゴリズムに従って計算する「装置」という以上に規定するところがない

 そうすると,本願発明は既存の演算装置に新たな創作を付加するものではなく,その実質は数学的なアルゴリズムそのものというほかないから,これをもって,法2条1項の定める「発明」に該当するということはできない

3(1) これに対し原告は,デジタル演算回路又はプロセッサの本来的ハードウェアの性質上,乗算回数が実質的に計算時間を決定することから,そのような計算時間を減らすことは,ハッシュ化の実際の応用(装置)にあって要望される技術的課題であるとし,本願発明の技術的作用効果は,上記課題に対応した装置において計算時間を短縮させたことにあるなどと主張する

しかし,原告の主張する上記技術的課題は,デジタル演算回路ないしプロセッサという装置自体が有する課題であって,演算される数式自体の有する課題ではないところ,計算装置の要する計算時間を短縮するために計算式を変更しても,当該演算装置自体の演算処理能力が改善されるものでないことは明らかである。

 原告の上記主張は,複雑なアルゴリズムよりも平易なアルゴリズムの方が演算時間が短かくて済むという,いわば数学的な常識を述べたものにすぎず,原告の主張する課題は依然として解決していないのであるから,失当といわなければならない。

 なお原告は,本願発明は物理的な電気回路装置であり,かつ,当該アルゴリズムはコンピュータのような有限時間で動作する物理的構造上で実行されるからこそ上記技術的作用効果を有する点で,コンピュータ構造の本来的に有するハードウェア資源の物理的性質そのものに係るとして,本願発明が自然法則を利用した技術的思想に当たることになるとも主張するが,
 原告の上記主張は,数学的なアルゴリズムであってもコンピュータで演算を実行することで時間が短縮されれば発明になるというに等しく,自然法則を利用しない単なる数式を発明から除外する法2条1項の趣旨を没却するものであって,採用することができない。


(2) また原告は,「装置」の発明としての本願発明の具体的構成は,示された演算内容に応じて規定される演算回路として特許請求の範囲に明確に記載されている旨主張する。

 しかし,前記2(3)及び(4)のとおり,特許請求の範囲には数学的なアルゴリズムと,それを実現するものとして単に「装置」と記載されているのみであって,当該数学的アルゴリズムをデジタル演算装置で演算するための具体的な回路構成が記載されているものではない
 また原告の上記主張は,特許請求の範囲にデジタル論理演算を意味する演算内容を記載すれば,これに対応した一般的なデジタル論理演算回路(布線論理回路と蓄積プログラム論理回路)によるプログラムが特定されるというものであるが,特許請求の範囲に記載された数学的アルゴリズムがデジタル論理演算回路に置換可能であるとしても,それはプログラム可能な数式一般の持つ特性にすぎず,既存の演算装置に新たな技術的思想に基づく創作が付加されることを直ちに意味するものではない

 その意味で,特許請求の範囲に原告主張のデジタル論理演算回路による演算内容が記載されたことは,前記2(4)に述べたところを左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・
(4) 以上のほか,原告は,審決が審査基準に基づき判断したことは,審査基準に記載されていない場合の発明該当性の判断を看過するもので,審理不尽の違法があるなどと主張するが,審決は上記2(4)で述べたところと同旨の理由をもって本願発明の「発明」該当性を否定したものと認められるから,そこに審理不尽の違法は認められない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。』
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2006年04月21日

発明と特許発明

事件番号 平成15(行ケ)170
裁判年月日 平成16年02月23日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  篠原勝美

(注目判示)
特許法は,同法2条1項において,上記のとおり「発明」の定義を定めているが,これとは別に,同条2項に「特許発明」の定義規定を置いていることからみると,同法2条1項にいう「発明」は,必ずしも特許要件を備えるほど高水準のものに限られないことは明らかである。したがって,同法2条1項は極めて一般的な概念規定と解すべきであり,同法29条1項3号の「発明」に関していえば,当業者が,刊行物に記載されている技術的思想の内容を理解して容易にその実施をし得る程度に,当該技術的思想の内容,すなわち,その構成が具体的に開示されているものと認められれば足り,必ずしも特許要件を備えるほど高水準のものであることを要しない

(感想)
 実用新案登録公報の引用例が「発明」に当たらないから引用できないとの主張を採用したなかったもの。
 発明のレベルは、
 特許発明>発明のうち高度のもの>発明
であることを明示した判決。ちなみに、特許法2条2項は、
 「この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。」
となっている。
posted by ごり at 22:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法2条1項