2012年12月02日

選択肢の一つを必須とする訂正を、実施例を上位概念化した新規事項の追加であるとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10431
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井光
特許法134条の2第1項及び特許法134条の2第5項が準用する同法126条3項

ア 平成23年6月8日法律第63号による改正前の特許法(以下「特許法」という。)134条の2第1項ただし書は,特許無効審判の被請求人による訂正請求は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限ると規定している。
 また,同法134条の2第5項が準用する同法126条3項は,「・・・。」と規定しているところ,ここでいう「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

イ 本件明細書の前記(1)エ(イ)及び(ウ)の記載によれば,本件発明の「α」の具体例として,A及びBが,「β」の具体例として,Cが,多種類の化合物とともに羅列して列挙されていたということができる。
 また,本件明細書には,実施例1ないし13並びに比較例1及び2が記載されているところ,・・・,実施例10として,「α」であるAと,「β」であるCとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが,・・・,実施例11として,「α」であるBと,「β」であるC及びDとからなるグラフト共重合体鎖を導入した重合体粒子からなる液晶用スペーサーが,それぞれ開示されていたものということができる。

 しかしながら,本件明細書には,「α」がA又はBを必須成分として含むこと及び「β」がCを必須成分として含むことについては,何ら記載も示唆もされていない。これらの物質は,多種類の化合物とともに任意に選択可能な単量体として羅列して列挙されていたものにすぎず,他の単量体とは異なる性質を有する単量体として,優先的に用いられるべき物質であるかのような記載や示唆も存在しない。

 すなわち,本件発明の具体的態様である実施例1ないし13のうち,実施例10及び11やその他の記載によると,「前記α」としてA又はBを任意に選択することが可能であること及び「γ」としてCを任意に選択することが可能であることが開示されているものということはできるが,本件明細書において,A又はB,及びCは,多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎないものであるから,本件明細書の記載をもってしても,上記各構成が必須であることに関する技術的事項が明らかにされているものということはできない
・・・

ウ 以上のとおり,本件明細書の全ての記載を総合しても,「前記α」としてA又はBが必須であること及び「γ」としてCが必須であること並びにA又はB,及びCと,これらの物質にそのほか任意に重合性ビニル単量体を付加した構成とがいずれも機能上等価であることに関する技術的事項が導き出せない以上,訂正事項1及び2により,多種類の他の化合物と同列に例示されていたにすぎないA又はB,及びCを必須のものとして含むように本件発明を訂正することは,本件明細書の実施例10及び11を上位概念化した新規な技術的事項を導入するものというべきであり,許されるものではない

* 筆者注
(記号の意味)
α:長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体の一種または二種以上
β:該重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上
γ:前記他の重合性ビニル単量体の一種または二種以上

A:ラウリルメタクリレート
B:ステアリルメタクリレート
C:メチルメタクリレート
D:2−ヒドロキシブチルメタクリレート

(侵害訴訟の知財高裁判決)
事件番号 平成23(ネ)10080
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年11月14日
posted by ごり at 09:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法134条の2

2012年10月21日

「明りょうでない記載の釈明」に一応該当するとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10263
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治
旧特許法134条の2第1項ただし書3号所定の「明りょうでない記載の釈明」

(2) 判断
ア 訂正事項2は,本件明細書の段落【0015】中の「,エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO),ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)」を削除したものである。
・・・
(イ) 化学辞典等によると,「コンプレクサン」の意味については,@ ・・・(岩波理化学辞典第3版,化学大辞典3),A・・(入門キレート化学),B ・・・(第3版化学用語辞典),C・・・(標準化学用語辞典)とがあり,これらによると,当業者間で「コンプレクサン」の意味が一義的に明確であるとはいえない
 なお,「大辞泉 第1版」(甲2)には,「コンプレクサン」はキレート試薬の総称であるとの記載があるが,これは一般向けの説明にすぎず,当業者がこれに基づいて「コンプレクサン」の意味を理解するとは認め難く,同辞典に基づいて「コンプレクサン」の意義を確定することは相当ではない。
・・・
(ウ) 上記辞典等の説明をも参酌して,本件明細書の段落【0015】記載の化合物につき検討すると,・・・。したがって,訂正事項2により,上記ホスホン酸の2つの化合物を削除したとしても,段落【0015】に列挙された化合物には,・・・,上記@ないしCの「コンプレクサン」のいずれの説明とも符合しない化合物が含まれている
 以上によると,訂正事項2により,本件明細書の段落【0015】に例示された化合物から,本件明細書における「コンプレクサン」の意義が明確になるとまではいえない。しかし,訂正事項2は,少なくとも上記@ないしCの「コンプレクサン」には該当しない化合物を一部削除するものであるという点では,旧特許法134条の2第1項ただし書3号所定の「明りょうでない記載の釈明」に,一応該当するといえる。
・・・
 なお,上記のとおり,本件明細書の段落【0015】の記載は,コンプレクサン化合物の例示にすぎないのであるから,訂正事項2に係る訂正によって,本件発明の要旨に変更を来すものとはいえない。以上を前提として,以下の取消事由の判断においては,本件訂正明細書の記載に基づいて,検討することとする。
posted by ごり at 19:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法134条の2

2009年05月29日

要旨変更についての判断事例

事件番号 平成20(行ケ)10151
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年05月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 本件補正の違法性を看過して請求項1に係る発明を認定した誤り(取消事由1)について
 当裁判所は,審決が,本件補正は134条の2第5項で準用する131条の2第1項の規定を充足しているとして,本件補正後の訂正請求書による本件訂正を認めた上で,請求項1に係る発明の内容を認定した点に誤りはないから,取消事由1は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

 134条の2第5項で準用する131条の2第1項本文が,請求書の補正は要旨変更を伴うものであってはならないとした趣旨は,訂正許否の判断についての審理の遅延の防止にあるから,本件補正が訂正請求書の要旨の変更に当たるか否かは,上記の観点により,実質的に判断すべきである。

 なお,原告は,「補正前の訂正請求書によって訂正された発明」と「補正後の訂正請求書によって訂正された発明」の各技術的思想を対比して,各技術的思想に相違があるか否かによって判断すべきであると主張するが,同主張は採用の限りでない

 本件補正(別紙1)は,訂正請求書に記載された本件補正前の第1ないし第5訂正事項のうち,第2,第3訂正事項を撤回するものであるが,第2,第3の訂正事項は,いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,同訂正事項が撤回されたとしても,訂正請求書の内容が変更されたと解する余地はなく,訂正の許否の判断について審理の遅延を招くことはない
 このような事情に照らすならば,本件補正は,訂正請求書の要旨を変更するものというべきではない。したがって,本件補正は134条の2第5項で準用する131条の2第1項の規定を満たしており,これを適法であるとした審決の判断に誤りはない。
posted by ごり at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法134条の2

2008年06月15日

訂正の適否の判断事例および審決の理由不備

事件番号 平成20(行ケ)10053
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第4 当裁判所の判断
1 本件訂正の適否について
(1) 特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項該当性について
ア 訂正が,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができ,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができる(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。

 以上を前提として,訂正事項1及び5について,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであるか否かを検討する。

イ ・・・

ウ 本件明細書の前記イの各記載によれば,・・・が,それぞれ記載されている(前記イ(オ))と認められる。

 すなわち,本件明細書には,@「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」することが記載され(【請求項1】),Aワイヤの取付位置として,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」が記載され(段落【0017】,【0021】及び【0022】),Bワイヤの取付構造(方法)として,「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」すること,この袋の内部にワイヤを挿通させることが記載されている(段落【0019】)といえる。

 そうすると,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」して,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」にワイヤを取り付けるに当たり,「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成」し,この袋の内部にワイヤを挿通させるようにすることは,本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,当業者であれば,本件明細書の記載から自明である事項として,認識することができるというべきである。

 被告は,本件明細書の段落【0019】は,専ら「衣服の身頃」に関する記載である旨主張するが,上記説示に照らし,採用することができない。

(2) その余の点について
ア 本件審決は,訂正事項1及び5は,特許請求の範囲の減縮を目的にしたものでなく,かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていないと判断したが,そのように判断した理由を具体的に示しておらず,理由不備の違法がある

イ 念のため,上記の点について判断する。
 訂正事項1は,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】における「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」との記載を,「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って,衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して,袋を形成し」と訂正することを内容とするものであり,「袋を形成」する箇所を,「衣服の身頃,襟,襟口,ポケット又はポケットフラップの周縁」から「衣服の襟,ポケット又はポケットフラップの周縁」に限定するとともに,「袋」を「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して・・・形成」したものに限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは,明らかである

 また,上記のとおり訂正することにより,発明の実施態様は限定されるものの,発明の課題ないし目的が異なるものとなるわけではなく,全く別個の発明と評価されるものではないから,実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものということはできない

・・・

ウ 上記検討したところによれば,本件審決が,本件訂正は,訂正事項1及び5を含むから,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていないと判断したことは,誤りというべきである。』
posted by ごり at 21:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法134条の2

2008年06月05日

除くクレーム事件全体ダイジェスト

事件番号 平成18(行ケ)10563
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

1.「明細書又は図面に記載した事項」について
1.1 解釈

『すなわち,「明細書又は図面に記載した事項」とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ,「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる
 そして,同法134条2項ただし書における同様の文言についても,同様に解するべきであり,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。』

『・・・特許法29条の2は,・・・,同法同条に該当することを理由として,・・・特許法123条1項1号に基づいて特許が無効とされることを回避するために,無効審判の被請求人が,特許請求の範囲の記載について,「ただし,…を除く。」などの消極的表現(いわゆる「除くクレーム」)によって特許出願に係る発明のうち先願発明と同一である部分を除外する訂正を請求する場合がある。
 このような場合,,特許権者は,特許出願時において先願発明の存在を認識していないから,当該特許出願に係る明細書又は図面には先願発明についての具体的な記載が存在しないのが通常であるが,明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書が適用されることに変わりはなく,このような訂正も,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」する訂正であるというべきである。』

1.2 本件への当てはめ
『ウ 本件へのあてはめ
上記アのとおり,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができるというべきところ,
 上記イによると,本件各訂正による訂正後の発明についても,成分(A)〜(D)及び同(A)〜(E)の組合せのうち,引用発明の内容となっている特定の組合せを除いたすべての組合せに係る構成において,使用する希釈剤に難溶性で微粒状のエポキシ樹脂を熱硬化性成分として用いたことを最大の特徴とし,このようなエポキシ樹脂の粒子を感光性プレポリマーが包み込む状態となるため,感光性プレポリマーの溶解性を低下させず,エポキシ樹脂と硬化剤との反応性も低いので現像性を低下させず,露光部も現像液に侵されにくくなるとともに組成物の保存寿命も長くなるという効果を奏するものと認められ,引用発明の内容となっている特定の組合せを除外することによって,本件明細書に記載された本件訂正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから,本件各訂正が本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり,本件各訂正は,当業者によって,本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。

 したがって,本件各訂正は,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであると認められる。』

1.3 審査基準について
1.3.1 補正事項が明細書に明記されている場合(積極的に記載されている場合)
『そうすると,これら「基本的な考え方」の個別の記載は,いずれも上記アにおいて説示した「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」との文言の解釈とも整合的に理解することができるものである。
 さらに,審査基準は,上記記載部分に続く「4.特許請求の範囲の補正」の「4.2 各論」の項において,「補正が許される例」として「発明特定事項の一部を限定する補正」の2つの例(「請求項の『記録又は再生装置』という記載を『ディスク記録又は再生装置』とする補正」,「請求項の『ワーク』という記載を『矩形ワーク』とする補正」)を挙げており,一定の技術的事項(「ディスク形式以外の記録又は再生装置」,「矩形以外のワーク」)を除外する補正を許容するものとしているが,これらの例のように特定の技術的事項に係る記載を追加する補正において,明細書等に補正事項そのものが記載されている場合には,特段の事情のない限り,このような補正が新規な技術的事項を導入しないものであると認めることができる。』

1.3.2 補正事項が明細書に明記されていない場合(消極的に記載されている場合)
『しかしながら,上記アにおいて説示したところに照らすと,「除くクレーム」とする補正が本来認められないものであることを前提とするこのような考え方は適切ではない。すなわち, 「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではない

 したがって,「除くクレーム」とする補正についても,当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,最終的に,上記アにおいて説示したところに照らし,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになるのであり,「例外的」な取扱いを想定する余地はないから,審査基準における「『除くクレーム』とする補正」に関する記載は,上記の限度において特許法の解釈に適合しないものであり,これと同趣旨を述べる原告の主張は相当である。』


2.特許請求の範囲の記載における商標の使用と「特許請求の範囲の減縮」
2.1 技術的明確性
『(3) 特許請求の範囲の記載における商標の使用と「特許請求の範囲の減縮」について
 ・・・訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるということができる。
 そして,本件訂正後の特許請求の範囲の記載には「TEPIC」という登録商標が使用されていることから,本件訂正後の特許請求の範囲の記載によって特定される本件各発明の内容が技術的に明確であるということができるかどうかが問題となる

イ 本件各訂正には,「(D)『1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物』である多官能エポキシ樹脂(TEPIC:日産化学(株)製,登録商標)」との記載部分が含まれるが,上記(2)イのとおり,本件各訂正は,先願発明と同一であるとして特許が無効とされることを回避するために,先願発明と同一の部分を除外することを内容とする訂正であるから,本件各訂正における「TEPIC」は,先願明細書の実施例2に記載された「TEPIC」を指すものであると認められる
 そうすると,本件各訂正における「TEPIC」は,先願明細書に基づく特許出願時において「TEPIC」の登録商標によって特定されるすべての製品を含むものであるということができるから,その限度において,「TEPIC」との登録商標によって特定された物が技術的に明確でないということはできない。

 なお,一般に,登録商標による物の特定が必ずしも技術的に明確であるということはできず,本件各訂正における「TEPIC」が,具体的にどの「TEPIC」を指すものであるかについても,本件訂正後の本件特許に係る明細書の記載のみから明らかであるということはできないところ,上記明細書の記載に接した第三者が特許請求の範囲に記載された発明の内容を理解するためには,本件各訂正に係る「TEPIC」が先願明細書の実施例2に記載された「TEPIC」であることが,明細書中に明示されることが本来望ましい

 本件においてこのような明示を行うためには,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正して,先願明細書の実施例2に記載された発明を除外するために特許請求の範囲の記載が訂正された旨を明示することが必要となる。

 そして,このような訂正は,特許請求の範囲の記載の訂正に伴って,発明の詳細な説明の記載について,明りょうでない記載の釈明を目的として行うものであるということができるところ,上記(2)アにおいて説示したところに照らすと,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもないということができる。

 しかしながら,前記の審査基準に依拠する特許庁の従来からの実務において,このような訂正が「明細書又は図面に記載された事項の範囲内において」するものではないとされていたことから,特許権者である被告はあえてこのような訂正を請求せず,特許請求の範囲の記載の訂正において「TEPIC」とのみ記載して除外部分を特定したものと考えられる。

 そして,上記のとおり,本件各訂正における「TEPIC」は,先願明細書の実施例2に記載された「TEPIC」を指すものと認められることからすると,上記のとおり本来望ましい方法によらなかったことを理由として,本件訂正が不適法であるとまでいうことはできない。』

2.2 商標の使用について
『ウ また,平成2年通商産業省令第41号による改正前の特許法施行規則24条は,明細書の様式に関し,「願書に添附すべき明細書は,様式第十六により作成しなければならない。」と定めており,様式16は,明細書の記載の様式について,「登録商標は,当該登録商標を使用しなければ当該物を表示することができない場合に限り使用し,この場合は,登録商標である旨を記載する。」としているところ,その趣旨は,商標登録制度においては,登録商標とこれによって特定される物の性状や組成の対応関係が担保されておらず,登録商標による物の特定は必ずしも一義的に明確であるとはいえないことから,一般に,明細書の記載における登録商標の使用について,極めて例外的な場合に限定して許容されるものと位置づけることにあるということができる。
 本件各訂正の内容は,上記(2)イのとおり,本件訂正前の各発明から引用発明と同一の部分を除外するために,除外の対象となる部分である引用発明の内容を,本件訂正前発明1及び2の成分であって,これらのいずれについても多種の物質又は製品が該当し得るところの成分(A)〜(D)及び同(A)〜(E)ごとに分説し,先願明細書の実施例2の特定の物質又は製品の記載を引用しながら,消極的な表現形式(いわゆる「除くクレーム」の形式)によって特定しているものであり,引用発明と同一の部分を過不足なく除外するためには,このような方法によるほかないと考えられることから,本件各訂正において,引用発明を特定する要素となっている「TEPIC」との商標の記載を使用して除外部分を表示したことが,上記規則24条に反するものということはできない。』

posted by ごり at 07:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法134条の2

2007年09月21日

審決の部分的な確定

事件番号 平成18(行ケ)10421
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


『4 付言
本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判の審理に資するため,確定効の範囲等に関し,以下のとおり補足して述べる。
(1) はじめに
ア 特許が2以上の請求項に係るものであるときには,その無効審判は請求項ごとに請求することができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らすならば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに形式的に確定する。審決の形式的な確定は,当該審決に対する審決取消訴訟の原告適格を有するすべての者について,出訴期間が経過し,当該審決を争うことができなくなることによって生ずる(特許法178条3項)。そうすると,2以上の請求項に係る特許についての無効審判において,一部の請求項に係る特許について無効とし,残余の請求項に係る特許について審判請求を不成立とする審決がされた場合には,それぞれ原告適格を有する者(審決によって不利益を受けた者)が異なるため,各請求項に係る審決部分ごとに,形式的確定の有無及び確定の日等が異なる場合が生じ得る。無効審判請求を不成立とした審決部分は,請求人側のみが取消訴訟を提起する原告適格を有するのであるから,請求人側に係る出訴期間の経過によって,審決部分もまた形式的に確定することになる
イ 審決の取消しの判決又は決定の確定により,審判手続が再開され,特許法134条の3第1項又は2項の規定により指定された期間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求がされたものとみなされる場合があるが,その場合には,特許法134条の2第4項の規定による先にした訂正の請求のみなし取下げの効果もまた,請求項ごとに生じる(知財高裁平成19年6月20日決定・平成19年(行ケ)第10081号審決取消請求事件,知財高裁平成19年7月23日決定・平成19年(行ケ)第10099号審決取消請求事件参照)。 
 そして,特許無効審判請求の審決について,審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分については取消訴訟が提起されず,特許を無効とした請求項に係る審決部分についてのみ取消訴訟が提起され,かつ,所定の期間内に訂正審判請求がされ,特許法181条2項の規定に基づき,特許を無効とした請求項に係る審決部分が取り消された後,再開された審判手続において,特許法134条の2第4項の規定により特許を無効とした請求項に係る先にした訂正の請求は取り下げられたものとみなされる場合がある。
 これに対して審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分は形式的に確定しているので,当該請求項に係る先にした訂正の請求は特許法134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされることはなく,再開された審判手続において,当該請求項に係る新たな訂正の請求がされているときは,当該請求項に係る特許無効審判請求を不成立とした確定審決が存在することを前提として,いわゆる独立特許要件の有無についても判断すべきことになる(特許法134条の2第5項の規定により読み替えて準用される126条5項)。

(2) 本件手続の経緯
ア本件手続の経緯は,前記第2の1のとおりであり,特許庁は,平成17年6月28日,「特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(第1次審決)をし,これに対して,原告が,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分の取消しを求めて審決取消訴訟を提起し,併せて,本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求をした。なお,第1次審決中の審判請求不成立部分について,被告(審判請求人)からの審決取消訴訟の提起はなかった。知的財産高等裁判所(第2部)は,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分を取り消す旨の決定をした。差戻し後の事件について,所定の期間内に訂正の請求がされなかったため,上記訂正審判請求の請求書に添付された訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面を援用した本件訂正の請求がされたものとみなされた。そして,特許庁は,平成18年8月15日,「訂正を認める。特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(本件審決はその一部)をした。
イ 本件手続について見ると,第1次審決中「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決部分については,被告(審判請求人)において取消訴訟を提起することなく出訴期間が経過したのであるから,同審決部分は形式的に確定した。しかるに,特許庁は,本件特許の請求項5に係る無効審判請求が形式的に確定していないとの前提に立った上で,当該請求項についても審判手続で審理し,「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」旨の判断をした。上記審判手続のあり方は,著しく妥当を欠くというべきである。 けだし,本件特許の請求項5については,無効審判請求に係る無効理由が存在しないものとする審決部分が確定したことにより,原告は,形式的確定の利益を享受できる地位を得ているのであるから,それにもかかわらず,他の請求項に係る特許を無効とした審決部分について取消訴訟を提起して,当該請求項について有利な結果を得ようとしたことにより,かえって無効審判請求を不成立とする請求項5についてまで,不安定な地位にさらされることになることは著しく不合理だからである
(3) まとめ
本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判においては,上記の点を踏まえた審理,判断がされるべきである。』
posted by ごり at 09:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法134条の2

2007年07月01日

訂正請求のみなし取下げ(特許法134条の2第4項)の解釈

事件番号 平成19(行ケ)10081
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年06月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『(1) 本件のように,2以上の請求項に係る発明についての特許を無効にすることを求める特許無効審判において,特許権者による訂正請求を認めた上で,一部の請求項に係る発明についての特許を無効とし,残りの請求項に係る発明についての特許の無効請求を不成立とする審決がされた場合に,審決のうち無効不成立とした請求項に係る部分について取消訴訟が提起されなかったときには,審決が認めた訂正の帰趨が問題となる。
すなわち,上記の場合において,特許法181条2項の規定による審決の取消しの決定により,審決のうち特許を無効とした請求項に係る部分が取り消されて,審判手続が再開されたときに,同法134条の2第4項に規定する訂正請求のみなし取下げとの関係で,当該審決において認められた訂正のうち無効不成立とされた請求項に関する部分については,訂正が確定したものと解するのか,あるいは同項の規定により取り下げられたものと解するのかが問題となる

そこで,本決定により差し戻された事件について,今後行われる審判における審理に資するため,本件訂正の帰趨につき付言する。

(2) 本件訂正は,本件明細書の特許請求の範囲のうち請求項4のみを訂正するものであって,その余の請求項を訂正するものではなく,また,本件審決によれば,特許請求の範囲以外の訂正事項(・・・)はいずれも請求項4の訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものとされているから,本件審決は,専ら請求項4との関係で本件訂正を認めたものというべきである。
 そして,本件審決は,本件訂正が認められることを前提として,本件特許の請求項4に係る発明についての無効審判請求を不成立としたものであるから,本件審決中「訂正を認める。」との部分と,「特許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分は,一体不可分の関係にあるというべきである
 しかるところ,被告(審判請求人)は,本件審決中「特許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分については取消訴訟を提起していないから,本件審決中の上記部分は,出訴期間の経過により確定した。

 けだし,特許が2以上の請求項に係るものであるときには,無効審判は請求項ごとに請求することができるものとされているのであるから(特許法123条1項柱書),2以上の請求項について無効審判が請求されて審決においてこれに対する判断がされた場合にあっては,当該審決は,各請求項についての判断ごとに可分な行政処分として,それぞれが取消訴訟の対象となるものであり,それぞれ別個に確定するというべきであるからである

 審決は,行政処分であり,その取消しを求める訴えは,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起することができるのであり(行政事件訴訟法9条参照),2以上の請求項に係る特許についての無効審判において,一部の請求項に係る発明についての特許を無効とし,残りの請求項に係る発明についての特許の無効請求を不成立とする審決がされた場合には,特許法178条2項の規定する当事者,参加人又は参加を申請してその申請を拒否された者のうち,審決中,特許を無効とされた請求項に係る部分については被請求人(特許権者)側のみが,無効請求が不成立とされた請求項に係る部分については請求人側のみが,取消訴訟を提起することができる。そして,審決のうち,それぞれの部分について特許法178条3項に規定する期間内に上記の者から取消訴訟が提起されなかったときには,当該部分は確定するものと解することとなる。

 そうすると,本件審決のうち「特許第3749833号の請求項4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分が確定したことに伴って,本件審決中「訂正を認める。」との部分も確定したものと解するのが相当である(特許法134条の2第5項において準用される同法128条参照)。

(3) 以上検討したとおり,本件訂正はすでに確定したものであるから,本決定が効力を生じた後,本件審判の手続が本件特許の請求項1及び2に関する部分について再開され,特許法134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求がされたものとみなされても,本件訂正に関しては同法134条の2第4項の規定によるみなし取下げの効果は生じない
また,別件審判についても,本件訂正が確定していることを前提として,その審理が行われるべきである。

 なお,原告は,訂正審判の請求書において,本件訂正が未確定であることを前提に,訂正審判に係る明細書の請求項4及び段落【0014】,【0032】,【0079】,【0080】につき,訂正事項(C)及び訂正事項(C−1)ないし(C−4)として説明を加えているが,上記のとおり,本件訂正はすでに確定したものであるから,上記請求書における訂正事項(C)及び訂正事項(C−1)ないし(C−4)の記載は意味のないものである。』

『3 本件に関する判断は以上のとおりであるが,この機会に,特許法134条の2第4項の規定によるみなし取下げの効果は,請求項ごとに生じると解すべきことについて,当裁判所の見解を示しておく。

(1) 特許法は,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制を導入するとともに,2以上の請求項に係る特許については請求項ごとに無効審判請求をすることができることとしたが(特許法123条1項柱書),その後,平成5年法律第26号による改正により,無効審判の手続において訂正請求をすることができることとし,さらに,平成11年法律第41号による改正(以下「平成11年改正」という。)により,訂正請求の当否に関し,訂正後の請求項に係る発明(ただし,無効審判請求がされていない請求項に係る発明を除く。)について,いわゆる独立特許要件の判断を行わないこととした。なお,2以上の請求項に係る発明についての特許を無効にすることを求める特許無効審判において,特許権者による訂正請求を認めた上で,一部の請求項に係る発明についての特許を無効とし,残りの請求項に係る発明についての特許の無効請求を不成立とする審決は,平成11年改正において,上記のとおり,訂正請求の当否に関し独立特許要件の判断を行わないこととされたことに伴い,現れるに至ったものである(平成11年改正前の特許法の下では,このような場合,独立特許要件を欠くとして訂正請求が全体として認められず,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて,各請求項の無効理由の存否が判断されていた。)
 このように,2以上の請求項に係る無効審判請求においては,無効理由の存否は請求項ごとに独立して判断されるのであり,個々の請求項ごとの審判が同時に進行しているものとして考えるのが,無効審判制度の趣旨に沿うものである。そうすると,無効審判の審決において認められた訂正の効力についても,個々の請求項ごとに生ずると解するのが相当である
そして,特許法134条の2第4項のいわゆるみなし取下げの規定は,平成15年法律第47号による改正により導入されたものであるが,上記のような無効審判制度を前提としていることは明らかであるから,その効果も請求項ごとに生じると解するのが相当である

(2) なお,いわゆる改善多項制が導入され,請求項ごとに無効審判請求についての判断を行う制度が採用されたため,上記のとおり,2以上の請求項に係る発明についての特許に関して,一部の請求項につき無効審判請求の審決が確定し,あるいは特許請求の範囲等の記載が訂正されることが生ずるが,このような結果が,必ずしも特許登録原簿の記載に反映されていないようにも見受けられる。仮に,特許庁において,無効審決による特許無効ないし訂正の効力が請求項ごとに生ずるとの実務運用がされていないとするならば,それは法の趣旨に反するものといわざるを得ない。』
posted by ごり at 10:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法134条の2