2011年06月05日

共有者の一部によってなされた拒絶査定不服審判請求

事件番号 平成22(行ケ)10363
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(1) 特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず(特許法38条),その共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならない(同法132条3項)
 また,特許を受けようとする者は,特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならず(同法36条1項),拒絶査定に対して不服審判を請求する者は,当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないとされている(同法131条1項)。したがって,共有者の全員が一人の代理人に対して拒絶査定不服審判の請求を委任し,その代理人が,共有者のために拒絶査定不服審判を請求する際には,審判請求書に請求人として共有者全員の氏名を記載することが求められる

(2) 上記規定によれば,審判請求書には審判請求人全員の氏名を記載しなければならないのであるが,他方,共有に係る権利の共有者全員の代理人から審判請求書が提出された場合において,共有者全員が「共同して請求した」といえるかどうかについては,単に審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく,その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して,総合的に判断すべきである。

 ところで,・・・,代理人が,共有者全員から拒絶査定不服審判請求について委任を受けているにもかかわらず,共有者の一部の者のみを代理して拒絶査定不服審判を請求することは,あえて不適法な審判請求をすることとなり,そのような行為は,不自然かつ不合理である・・・。そうだとすると,その代理人から審判請求書を受理する特許庁としては,代理人がこのような不合理な行為を行うやむを得ない特段の事情が推認される場合はさておき,そのような事情がない限り,審判請求書の記載上,共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合があったとしても,そのような審判請求書は,誤記に基づくものであると判断するのが合理的である。

(3) 上記の観点から,本件について検討する。前記のとおり,
○1 原告らは,いずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しない者であり,特特許管理人によらなければ特許法に基づく諸手続を行うことができず,しかも,特許管理人は原則として一切の手続について本人を代理するという包括的な代理権を有していること(特許法8条1項,2項),
○2 原告らは,本願発明に係る特許法に基づく諸手続をX弁理士に委任しており,同弁理士は原告らの特許管理人であったこと,
○3 特許庁は,特許出願過程において,・・・,原告A及び原告Bが発明者であると共に出願人でもあると理解した上,国内書面の特許出願人の欄を補正するよう手続補正を指令し,これに応じて,X弁理士は,・・・,錯誤により出願人を間違えた旨付記した上,原告A及び原告Bを国内書面の特許出願人に追加する旨の手続補正を行ったこと,
○4 特許庁は,・・・本件拒絶査定書には,特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と記載し,代理人にX弁理士の氏名を記載したこと等の事実が認められる。

 以上の事実を総合すれば,弁理士が本件審判請求書を提出することによってした審判請求は,審判請求書の記載上,原告サン ケミカルの名称のみ表記され,原告A及び原告Bの氏名は表記されていないがX弁理士に原告ら全員のためにする意思があることは明らかであり,しかも,特許庁においても,その意思は,十分に知り得たものというべきである。
 したがって,本件審判請求は請求人が原告ら3名であるにもかかわらず,本件審判請求書には請求人として原告サン ケミカルのみが記載されている場合であるから,同法131条1項の定める方式について不備があることとなる。このような場合,審判長は,同法133条1項に基づき,原告らの代理人たるX弁理士に対して,相当の期間を定めてその補正をすべきことを命じなければならなかったといえる。
・・・
 なお,・・・特許法や特許法施行規則において,代理人による特許出願の場合に委任状の提出は義務付けられておらず,委任状の提出を要しない実務慣行の存在も推認・・・,特許庁も・・・委任状の提出を求めることはなく,X弁理士が同原告らの代理人であるとして出願手続を進めてきていること等の経緯に照らすならば,原告A及び原告Bから同弁理士に対する包括委任状が提出されていない事実をもって,本件審判請求が,原告らの共同意思に基づく請求であることを否定する根拠とはならない。なお,日本国内に住所又は居所(法人にあっては営業所)を有する者が代理人に拒絶査定不服審判の請求を委任する場合は,特別の授権を要し(特許法9条),その代理権の授与は書面をもって証明しなければならないが(同法施行規則4条の3),特許管理人であるX弁理士は,包括的な代理権を有しており,拒絶査定不服審判を請求するに当たっても特別の授権は必要ないことからすると,原告A及び原告Bの包括委任状が特許庁に提出されておらず,そのため,本件審判請求書の提出物件の目録にも同原告らの包括委任状の番号は記載されていなかったとしても,そのことをもって,原告A及び原告Bには本件審判を請求する意思がないことの根拠にもならない。

<類似:平成21年11月19日 知的財産高等裁判所 平成21(行ケ)10148

2009年11月23日

共有者全員がした審判請求かどうかを総合的に判断すべきとした事例

事件番号 平成21(行ケ)10148
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年11月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 取消事由1及び2について
(1) 特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならず(特許法132条3項),また,審判を請求する者は,当事者及び代理人の氏名及び住所その他所定の事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない(同法131条1項)と規定されている。その趣旨は,特許を受ける権利の共有者が拒絶査定不服審判を請求するにあたっては,その全員がそれぞれ審判の請求をする意思のあることを,審査手続における経緯と離れて改めて請求書に表示する要式行為として明示することを求め,これにより,審判請求人がだれかを一律に確定しようとしたものと解される。したがって,特許を受ける権利の共有者全員の代理人が,共有者のためにその審判を請求するには,審判請求書の請求人欄に,当事者として共有者全員の氏名を記載すべきものであることはいうまでもない。
 他方,特許を受ける権利の共有者の代理人が行った審判請求において,それが共有者全員の「共同して請求」したものに当たるかどうかについては,単に,審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく,その請求書の全趣旨を合理的に探求し,当該特許出願について特許庁側の知り得た事情等をも勘案して,総合的に判断すべきものである。

 共有に係る特許を受ける権利についての審判請求のように,共有者の全員が共同して請求することが法律上の要件とされている場合において,共有者の全員それぞれからそのための委任を受けている代理人が,共有者の一部の者のためにのみ審判請求をし,その余の共有者のためにはこれを行わないときは,共有者全員の利益を害することになり,自ら審判請求の手続要件の欠缺をもたらし,拒絶査定を確定するにも等しいのであるから,代理人がこのような行動に出ることは合理的にみて考えられないことである。

 そうすると,代理人がこのような不合理な行為を行うのもやむを得ないとする特段の事情がない限り,当該審判請求は,たとえ,外観上共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合であっても,実際には,共有者の全員のためにしたものと推認するのが相当である

(2) 本件においては,前記1認定のとおり,
 原告らは,いずれも日本国内に住所又は居所を有しない韓国法人であり,○○弁理士は,原告両名から拒絶査定不服審判の請求を含む包括的な事項についての代理人であった(前記1(1)(3))。そして,
 本件拒絶査定の書面には原告三星(外1名)及び○○弁理士の記載があったところ,○○弁理士は,本件審判請求書に,請求人欄には原告三星のみの識別番号及び名称を,代理人欄には○○弁理士の名前を記載し,原査定を取り消し本願は特許をすべきものであるとの審決を求める旨の記載をした
ものである(前記1(6)(7))。

 このような事実関係の下においては,○○弁理士による本件審判請求書を受理した特許庁としては,○○弁理士が,原告両名のために審判を請求する代理権を有する者であることを知り得たのであるから,代理人がこのような不合理な行為を行うのもやむを得ないとする特段の事情が認められない本件においては,本件審判請求書の記載上は,原告チェイルのためにすることが明記されてはいないけれども,実際には,原告両名のためにしたものと推認され,代理人による本件審判の請求の法律的効果は,本人たる原告両名に帰属すると解すべきである

(3) そうすると,本件審判の請求は,原告両名によるものであるにもかかわらず,本件審判請求書の審判請求人の欄には原告三星のみが記載されていたのであるから,特許法131条1項の規定に定める方式についての不備があることになる
 よって,審判長としては,同法133条1項に基づき,相当の期間を指定してその表示の補正をすべきことを命じるべきであり,補正を命じれば,○○弁理士において原告チェイルの記載を追加したものと推認される。しかるに,審判長は,上記補正を命じることなく,直ちに本件審判の請求を却下したものであって,本件審決は違法である。

2007年09月29日

審判請求書却下の処分前通知の期限

事件番号 平成19(行ケ)10111
事件名 審判請求書却下決定取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 その他
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『第2 事案の概要
原告らは,平成6年12月9日に後記特許の出願をしたところ,平成17年3月2日付けで特許庁から拒絶査定を受けた。そこでこれを不服として平成17年4月14日付けで審判請求をしたところ,その審判請求書には,請求の理由として,審判請求に至るまでの手続の経緯と拒絶査定の要点のみを記載し,実質的理由は「おって別紙にて補充」するとしていたことから,審判長が平成19年2月8日付けで特許法133条3項に基づき審判請求書を却下する決定をしたため,原告がその取消しを求めた事案である。』

『第4 当裁判所の判断
 ・・・
 3 本件決定処分の違法性の有無
(1) 原告らは,本件補正指令は,その後約1年8か月にわたり特許庁が手続補正書の提出を猶予してきたことによりその効力を失ったものであり,本件決定をするに当たっては,改めて補正指令をする必要があり,これがされていない本件決定は違法であると主張するので,以下検討する。
 法131条1項は,「審判を請求する者は,次に掲げる事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない。1 当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所2 審判事件の表示3 請求の趣旨及びその理由」と規定して,審判請求人はその請求書に「請求の理由」を記載することを求めている。
 一方,法133条1項は,「審判長は,請求書が第131条の規定に違反しているときは,請求人に対し,相当の期間を指定して,請求書について補正をすべきことを命じなければならない。」と規定して,審判長は,請求書の記載が法131条の規定に違反しているときは相当の期間を指定して補正を命ずべきことを定めている。

 本件において,原告らのなした本件審判請求にかかる審判請求書には,別紙のとおり,原査定を取り消すべき理由につき全く記載がなされていなかったことから,審判長Bは,上記2(6)のとおりの本件補正指令を行い,30日以内に原査定を取り消すべき理由を記載した手続補正書の提出を求めたものである。

 そして,その後も上記2のとおり,審判長名義で原告らに対し上記手続補正書の提出を促す通知書(却下処分前通知書)を出すなどし,またE,F,G各担当書記官らも電話で原告X3と再三にわたり連絡をとり,手続補正書の提出を求めたが,結局その提出がされないことから,審判長が補正を命じた期間内にその補正をしないとして,法133条3項に基づき本件決定がなされたものである。

 以上の経緯によれば,本件補正指令に定められた期間に補正をしないとして法133条3項に基づき本件審判請求書を却下した本件決定は適法というべきである。

(2) 原告らは,その後約1年8か月もの期間が経過したこと,担当書記官らが提出を猶予してきたことにより本件補正指令は効力を失ったと主張するが,上記経緯に鑑みれば,E,F,G各担当書記官らも,原告X3も,本件補正指令により原告らに手続補正書の提出の義務があることを前提として,その提出の時期につき折衝をしてきたものであって,本件補正指令が効力を失ったものとは到底認められない。また,各書記官が原告X3に対して話した上記内容によって本件補正指令の効力が失われるものでないことも明らかである。原告らの主張は失当である。

(3) また原告らは,手続補正書を提出すべき本件補正指令に基づく期限は各担当書記官らの提出猶予の回答により延長されたとも主張する。
 しかし,上記で認定のとおり,原告X3の説明は,その度何日後あるいは何日以内に手続補正書を提出する等の内容であったため,各担当書記官は原告X3が自ら区切った期限を遵守することを前提としたうえで,その意思をできるだけ尊重しつつ手続補正書の提出を求めたものにすぎず,これら各担当書記官らが原告X3に伝えた内容によって,原告らが手続補正書を提出することが可能となる時まで補正期限が法的に延長されたとみることはできない

(4) 次に原告は,却下決定は裁量行為であって義務はなく,本件の経緯に鑑みれば本件決定を下す合理性も必要性もない旨主張するが,上記認定の経緯から明らかなとおり,原告らは本件審判請求の請求の理由について審判請求書に全く記載せず,その補正を求められてもこれを記載した手続補正書を提出しなかったものであるから,本件決定を行う必要性があり,また合理性もあるというべきであり,原告らの主張は失当である。』

2007年08月11日

届け出の効力の発生時期

事件番号 昭和60(行ケ)184
裁判年月日 昭和62年05月07日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 蕪山嚴 竹田稔 濱崎浩一)

『 前記当事者間に争いのない事実によれば、本件特許出願については、昭和五六年五月八日出願公告(昭和五六年特許出願公告第一九四九二号)されたところ、特許異議の申立てがなされたが、特許庁審査官は昭和五七年三月一六日特許異議の申立ては理由がないとの決定とともに本件特許出願につき特許をすべき旨の本件特許査定をしたものである
 ところで、特許査定は、当該特許出願について特許権を付与すべきことを定める行政処分であつて、文書をもつて行い、かつ、理由を附することを要する(特許法第六三条第一項)が、特許査定には、理由のほかに特許出願の番号、発明の名称、特許請求の範囲に記載された発明の数、特許出願人及び代理人の氏名、査定の結論、査定の年月日を記載し、審査官がこれに記名押印しなければならず(特許法施行規則第三五条)、特許庁長官は特許査定があつたときは、右査定の謄本を特許出願人に送達しなければならないと定められている(特許法第六三条第二項)。一般に相手方の受領を要する行政処分については、処分の告知が相手方に到達することによつて処分の効力が発生するのを本則とするから、特許査定は特許出願人に対しその謄本の送達がなされたときに効力が発生するものと解すべきである

 これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第二号証によれば、本件特許査定には、「特許出願の番号」特願昭五二ー一三一五二七、「特許庁審査官」D、「査定の年月日」昭和五七年三月一六日、「発明の名称」セルフロツクねじ部材、「特許請求の範囲に記載された発明の数」一、「特許出願人」B、「代理人」C、「出願公告」昭和五六年五月八日(特公昭五六―一九四九二号)と記載され、かつ「この出願については、拒絶の理由を発見しないから、この出願の発明は、特許をすべきものと認める。」と記載され、D名下にDの印が押捺されていることが認められ、本件特許査定謄本が昭和五七年六月一五日特許出願人である訴外Bの代理人Cに送達されたことは、当事者間に争いがない。

 そこで、本件特許査定謄本が特許出願人に送達されたことによつて特許査定の効力を生じたかについて検討すると、原告が本件特許査定後その謄本の送達前である昭和五七年四月一六日訴外Bから特許を受ける権利を譲り受け、同月二七日特許庁長官に対し本件名義変更届を提出したことは前示のとおりである

原告は、昭和五七年四月二七日付けで特許庁長官に対して提出した本件名義変更届について特許庁長官は特許法施行規則第五条の規定にのつとり右届の合式性及び内容充足性について審査し、同年七月二八日これを認容して右届を受理したから、本件名義変更届は同日その効力が発生した旨主張する
 なるほど、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件名義変更届の第一頁には、主査の「本件の名義変更は差支えないかお伺する昭和五七年七月二八日」との伺文言が存し、体裁上伺に対する決裁印と目される「課長●●」なる印が押捺されていることが認められる。

 しかしながら、特許出願後の特許を受ける権利の承継は、意思表示のみでは効力を生じず、特許庁長官への届出が効力発生の要件とされており(特許法第三四条第四項)、その届出は、特許法施行規則様式第七に定める「特許出願人名義変更届」によりしなければならず(同規則第一二条)、特許庁長官はこれが適法になされたものであるかについて審査し、その届出に重大な瑕疵又は方式上の不備があり、それが補正によつて治癒され得ないような場合に、その届出を却下する意味において不受理処分をし、当該書類を返却することができるが、届が適法になされたものと認められたときは、格別の措置はとられず、特許庁に当該書類を提出したときに、届出の効力を生じるものというべきである
 けだし、この届出の効力発生時期については、特許法に特別の規定が設けられていないから、民法の意思表示の効力発生時期に関する一般原則(同法第九七条第一項)を準用し、当該名義変更届に関する書類が特許庁に到達したときにその効力を生じると解するのを相当とするからである
 したがつて、本件名義変更届第一頁に存する前記の文言及び押印は、特許庁における審査の経過を示すものにすぎず、本件名義変更届につき不受理処分がなされていないことは、弁論の全趣旨に徴し明らかである以上、本件名義変更届は昭和五七年四月二七日に届出の効力を生じたものというべきである。これに反する原告の前記主張は失当とすべきである。』

拒絶理由の手交をして特許査定後、当該拒絶理由の指定期間内にされた分割出願(控訴審)

事件番号 平成9(行コ)58
裁判年月日 平成9年10月01日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 牧野利秋 石原直樹 清水節)

『1 法の規定上、願書に添付した明細書又は図面の補正が可能な時期は、特許査定が確定するまでに限られるものと解すべきことは原判決説示(原判決二一頁一一行から三〇頁一行まで)のとおりであるところ、法四四条一項は、「願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り」分割出願をすることができるものとしているのであるから、分割出願をすることができる時期も原出願の特許査定が確定するまで、すなわち、出願人に対する特許査定謄本の送達時までに限られるものと解すべきことは同項の解釈上当然であり、法は、分割出願という法的利益に対し、時期的な面においては、明細書又は図面についてする補正と同様の範囲においてのみ、その実現の機会を与えているものと解すべきである

 一方、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることが、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であり、したがって、拒絶査定をする場合には、指定期間の経過を待ってこれをすることが出願人の利益を保護するために必要であるが、特許査定をする場合に、なお指定期間の経過を待たなければならない理由はなく、指定期間の経過前であっても、特許査定及びその査定謄本の送達ができるものと解すべきことは、原判決説示(原判決三二頁一行から三四頁七行まで)のとおりであり、指定期間の経過を待たなければ特許査定ができないとする規定は法に存在しない。その限りでは、出願人の与り知らぬ審査官の時期的裁量を伴う手続行為によって、補正及び出願分割の終期が定まることは、法の予定しているところであるといわなければならない

 控訴人は、分割出願制度は補正手続制度とリンクし、機能的に補完し合う関係にあり、そうだとすれば、法五〇条の趣旨及び分割出願制度の立法趣旨は、出願人の分割出願の法的利益をも保護するものであり、したがって、単に原出願の手続のみを考慮して、指定期間経過前の査定(特許査定又は拒絶査定)が許されるか否かを論ずるのは誤りである旨主張する。しかし、前説示から明らかなとおり、法は、将来分割出願がされることを見越してまで、特許出願につき特許査定をするべき場合に査定を遅らせることを要求しているものではない。』


『2 控訴人は、本件のように、いわゆる手交手続によって拒絶理由通知書が控訴人に交付されたケースにおいて、指定期間内に特許査定謄本の送達がされた割合等を承知していないとか、特許査定謄本の送達の場合と、未だ分割出願をする余地を残す出願公告決定謄本の送達の場合とを同列に論ずべきでもないなどとして、出願人に対し、指定期間経過前に早期に特許査定謄本の送達があることを前提として、分割出願の準備を期待するのは酷であると主張する
 しかし、原判決説示(原判決三六頁三行から四〇頁五行まで)のとおり、控訴人は、本件のように出願公告決定謄本の送達後に、手交手続によって拒絶理由通知を受けた場合には、事前打ち合せに基づく手続補正書の提出により、拒絶理由が解消され、指定期間の経過前に特許査定謄本の送達を受けることもありうることは十分予期していたと推認することができ、これをもって控訴人に酷な措置というに当たらない
 控訴人は、審査官が拒絶理由通知書の手交をするに当たって、法五〇条に定める相当の期間として六〇日を指定したことを非難するが、手交手続は出願人の協力を得て行われる制度的な運用方法なのであるから、出願人と事前の打ち合せを経ていたとしても、何らかの理由によって手続補正書の早期提出に齟齬を来す可能性がないとはいえず、そうであれば、相当の期間として十分な日数を定めることは出願人にとって有利な措置であるといえても、これをもって不相当な措置であるとは到底いうことができない。控訴人において分割出願の可能性を考慮していたのであれば、この期間を利用して最適の手段を採ることができたはずであり、これをしなかった責を他に転嫁するような控訴人の主張は採用に値しない。』

原審
事件番号 平成8(行ウ)125
裁判年月日 平成9年03月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

2007年08月10日

看過された補正指令書

事件番号 平成14(行コ)145
裁判年月日 平成09年07月10
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官
(裁判所ホームページに掲載がないようである。)

『三 控訴人は、特許法十八条一項の規定による無効処分は裁量行為であって、手続きの迅速確保の要請と同時に特許法の目的である発明の保護・奨励の要請に応えるように運用されなければならないから、無効処分の効力発生(謄本送達)後であっても同所分が確定するまでは無効処分の理由とされた自由の補正が許されると解すべきである旨主張する
 しかしながら、行政処分の効力は当該処分がなされた時点における事実関係を前提として判断すべきことは原判決が説示するとおりであって、このことは当該行政処分が覇束行為であるか裁量行為であるかに関わりがない
 この点について、控訴人は、本件審判請求のように拒絶査定の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときは審判請求書に記載する「審判請求の理由」は形式的に記載されていれば足りるとする弾力的な運用がなされているし、委任状の不提出が形式的瑕疵であることは言うまでもないが、このように形式的な瑕疵についてまで無効処分確定前の補正が許されないとするのは特許出願人にとって酷にすぎると主張する
 しかしながら、審判手続きにおいては、職権によって当事者が申し立てない理由について審理されることがある(特許法百五十三条一項参照)としても、審判手続きの審理範囲は請求人が主張する審判請求の理由によって第一義的に確定されるものであるから(同法百三十一条一項三号参照)、審判請求の理由は実質的かつ明確に主張されることを要すると解すべきであって、拒絶査定不服の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときのみを例外的に扱うべき合理的な理由は存しない。もとより、控訴人が主張するように、極めて軽微な形式的瑕疵について手続補正を命ずることをせず、また、指定期間経過後であっても無効処分の効力発生以前になされた手続補正を有効なものとして取り扱うことが妥当な場合はあり得るが、審判請求における「請求の理由」の記載及び委任状の提出は、審判手続きにおいて請求人がなすべき重要な手続行為であって、その欠陥を持って極めて軽微な形式的瑕疵とすることは出来ないし、まして、本件無効処分の効力発生後になされた手続補正を有効なものと認めなかった本件不受理処分が裁量権の逸脱・濫用という余地はないから、控訴人の前記主張は採用できない。』

『四 控訴人は、そもそも本件審判請求の理由は十一月七日付け補正書と同時に提出された同日付「上申書」に実質的に記載されているから、本件補正指令書を待つまでもなく、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵は補正されていたと主張している。
 しかしながら、手続きの補正は法令に規定された洋式に則って行うのが審判手続きの適性を確保する所以であるから、これを法令に基づく文書でない「上申書」のような形で行うことは相当といえない。』

『五 また、控訴人は、特許庁は平成八年法律第六十八号による改正法施行後の特許法十八条の規定による手続きの却下についても「処分前の通知」を行う運用をしているが、これは特許庁が何らの通知もせず同条の規定による手続きの却下を行うことが手続きをしたものにとって酷であることを認めているからに他ならず、このような事情は無効処分が確定するまでの間に向こう処分の理由とされた自由の補正が許されるか田舎の判断に当たって考慮されなければならない旨主張する
 しかしながら、成立に争いがない乙第二十二号証の一ないし三によれば、特許庁が改正法施行後の特許法十八条の規定による手続きの却下について行っている「処分前の通知」が法令に基づくものでなく、いわゆる行政サービスとして行うものであることが明らかにされていると認められる。したがって、この手続を経由せずに行われた手続の却下処分が直ちに違法となる理由はないし、そもそも、改正法の施行に伴って新たに開始した実務の趣旨が、法改正前の規定に基づく処分の効力の判断において考慮されるべき理由はないから、控訴人の前記主張も当たらない。』

行政不服審査法による不服申立ての対象とならないもの

事件番号 平成15(行ウ)33
裁判年月日 平成15年08月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『第5 当裁判所の判断
1 「前提となる事実」欄(前記第3)に記載したとおり,本件裁決は,本件補正命令を対象とする本件審査請求を不適法として却下したものである。
2(1) 行政不服審査法は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に対して不服申立てを認めているが(同法1条),それは,この種行為が直接国民の権利義務を形成し,又はその権利義務の範囲を確定するものであるという理由に基づくものであるから,行政庁の行為であっても,その性質上このような法的効果を有しないものは同法による不服申立ての対象とならないというべきである(最高裁昭和42年(行ツ)第47号同43年4月18日第一小法廷判決・民集22巻4号936頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁,最高裁昭和28年(オ)第296号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁参照)。

(2) 原告が本件審査請求において不服申立ての対象としている本件補正命令は,特許法133条2項の規定に基づいてされたものであるところ,同項の補正命令は,審判事件に関する手続の方式に関して瑕疵があった場合,これを審判長が指摘し,審判当事者に対してその補正の機会を与え,その補正を促すにとどまるものであって,手続の補正を命ぜられた審判当事者の権利義務を直接形成し,あるいはその権利義務の範囲を確定するものではない
  したがって,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものとはいえない

 手続の補正を命ぜられた審判当事者が補正命令に応じなければ,結果的に特許法133条3項により当該手続が却下されることになるが,当該手続が却下されることになるのは,あくまでも同項の規定に基づく却下決定という処分により発生する効果であり,本件補正命令そのものによる効果ではない。
 審判当事者とすれば,補正命令に不服であるとしても,これに続いてされる手続の却下決定を待って,当該却下処分の取消しを求める手続の中で補正命令の誤りを主張すれば足りるものであって,補正命令につき独立してその取消しを求める利益があるものではない

 なお,行政不服審査法2条1項は,同法にいう「処分」には公権力の行使に当たる事実上の行為で,人の収容,物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれるものと規定しているが,同項にいう事実行為とは,「公権力の行使に当たる事実上の行為」,すなわち,意思表示による行政庁の処分に類似する法的効果を招来する権力的な事実上の行為を指すものであるから(前掲昭和43年4月18日第一小法廷判決参照),本件補正命令がこれに当たらないことは上述した点に照らし,明らかである
 上記のとおり,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものではないから,これと同旨の判断により本件審査請求を不適法なものとして却下した本件裁決に,原告主張のような違法はない。』

『 原告は,本件第2特許出願については,本件第1特許出願時である昭和62年当時の特許法が適用されるため,本件補正書に方式違反はないなどと主張する
 しかし,分割に係る新たな特許出願は,発明の新規性,進歩性(特許法29条),先願(同法39条)の要件については,もとの特許出願の時を基準として判断される(同法44条2項)ものではあるが,あくまでも,もとの特許出願とは別個の独立した特許出願であるから,別段の定めのない限り,その手続については分割に係る新たな特許出願がされた時点における法令の定める方式によるべきものである。したがって,平成9年にされた本件第2特許出願に関する本件補正書に特許法施行規則様式第13に違反する方式上の不備があるとした本件補正命令は,法令を正当に適用したものというべきであり,また,本件補正書に対して特許法133条2項に基づき本件補正命令を発した点も正当である。』

2007年08月05日

審判請求書が却下された後、出願係属中にされた分割出願の帰趨

事件番号 昭和51(行ウ)178
裁判年月日 昭和52年03月30日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 高林克巳 佐藤栄一 塚田渥)

『二 そこで、本件処分が違法であるかどうかについて、判断する。
1 まず、原告は、本件分割出願は原出願に対する拒絶査定の確定前にされたものであつて、特許法第四四条旧第二項の規定に違反せず、適法なものである旨主張するので、検討する

 特許法第四四条旧第二項は、「特許出願の分割は、特許出願について査定又は審決が確定した後は、することができない。」というものであつたが、同項は昭和四五年法律第九一号の特許法を改正する法律によつて削除された。しかし、右改正法附則第一条及び第二条によれば、右改正法は、昭和四六年一月一日から施行されるが、その施行の際現に特許庁に係属している特許出願については、別段の定めがある場合を除いて、その特許出願について、査定又は審決が確定するまでは、なお従前の例によるものとされている。しかして、すでに判示したところからすれば、原告の原出願が右改正法が施行された昭和四六年一月一日当時、現に特許庁に係属していたことは明らかであるから、本件分割出願については、特許法第四四条旧第二項の規定が適用されるものである

 ところで、特許出願について拒絶すべき旨の査定に対して不服がある者は、査定の謄本の送達があつた日から三〇日以内に審判を請求することができ(特許法第一二一条第一項)、さらに、審決に対して不服がある者は訴を提起することができる(同法第一七八条第一、第二項)から、右査定について法定の期間内に審判の請求がされなかつたとき又は法定の期間内に審判が請求されたが、審決がされ、法定の期間内に訴が提起されなかつたとき若しくは法定の期間内に訴が提起されたが、その審理において拒絶査定不服の審判を請求した者に不利な終局判決がされ、不服申立の方法が尽きたときは、右査定は、取り消される可能性がなくなり、確定したということができる。そして、特許出願についての拒絶査定に対して不服がある者が審判の請求をしたが、その審判請求書について、特許法第一三三条第二項により却下の決定がされたときは、たとえ右却下決定に対して取消訴訟が提起されたとしても、右却下決定を適法として維持する旨の判決が確定すれば、右拒絶査定は、遡つて、その謄本の送達があつた日から三〇日を経過したときに確定することになると解される右の理は、民事訴訟において、当事者が上訴期間内に一たん上訴したが、上訴期間経過後に上訴却下の確定判決を受ければ、原判決は上訴期間経過とともに確定したことになるのと同様である

 しかして、本件についてみるのに、すでに判示したとおり、
 原告は、原出願について、昭和四六年五月六日、拒絶査定を受け、遅くとも同年六月二八日には右査定の謄本の送達を受けたが、
 右査定に対して不服があり、同日審判の請求をしたところ、昭和四七年三月二二日付で、その審判請求書について、特許法第一三三条第二項により却下の決定がされたので、東京高等裁判所に対し、右却下決定の取消訴訟を提起し、
 同年一二月八日、原告の請求棄却の判決の言渡を受け、これに対し、最高裁判所に上告し、昭和五〇年七月四日、上告を棄却され、右判決は同日確定したが、原告はこの間、昭和四八年二月一日に本件分割出願をし、
昭和四九年六月一五日に本件処分を受けたのである


 以上の事実によれば、本件処分がされた昭和四九年六月一五日当時、原出願についての拒絶査定に対する審判請求書の却下決定の取消訴訟は最高裁判所に係属中であつたので、いまだ右拒絶査定は確定しておらず、したがつてその確定前である昭和四八年二月一日にした本件分割出願は、特許法第四四条旧第二項により許されるべきものであつたといわなければならず、これを不受理とした本件処分は、違法であるといわなければならない

 しかし、他方、前記事実によれば、その後昭和五〇年七月四日、右審判請求書却下決定の取消訴訟は原告敗訴として、上告棄却により終了したから、原出願についての拒絶査定は、前説明のとおり、遅くとも、その謄本の送達がされた昭和四六年六月二八日から三〇日を経過した同年七月二八日の経過とともに確定したものというべきところ審判請求書却下決定の取消訴訟が上告審に係属中であつて、原出願についての拒絶査定がいまだ確定していない間にされた本件処分は前説明のように違法ではあるが、その瑕疵は、前説明のように原出願についての拒絶査定が遡つて、遅くとも昭和四六年七月二八日の経過とともに確定したことによつて治癒されたものというべきであり、結局本件処分には違法の瑕疵はないものといわなければならない。』

『次に、原告は、本件分割出願を右のように分割出願として取扱うことができないとしても、これを通常の特許出願として受理すべきであると主張するが特許出願の分割を通常の新たな特許出願として取り扱わなければならないとする法律上の根拠はないから、原告の右主張は、理由がない。』


(控訴審判決)
事件番号 昭和52(行コ)20
裁判年月日 昭和52年09月14日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

『一 当裁判所は、本件特許出願不受理処分に違法な瑕疵があるとする控訴人の主張を理由がないものと判断する。その理由は、次に附加するほか、原判決の理由一および二の1(第一二丁表第一行ないし第一五丁裏第九行目)と同一であるから、これを引用する。
二1 控訴人は、本件分割出願を、その出願当時原出願に対する拒絶査定が未確定であつた以上、特許法第四四条旧第二項の規定によつても、適法というべきである旨を主張するが右拒絶査定に対する審判請求書却下決定の取消訴訟についてなされた請求棄却の判決の確定により、右拒絶査定がこれに対する不服申立期間満了とともに遡及的に確定した以上、右分割出願を適法と解すべき法律上の根拠は失われたものといわなければならない

2 次に、控訴人は、本件分割出願は通常の特許出願として受理さるべきであつたと主張する。しかし、そもそも、特許法上、法定期間後になされた特許出願の分割をもつて通常の特許出願とみなすべき旨の特別の規定はないのみならず、同法第四四条(旧第二項による。)の規定に徴すると、特許出願の分割(分割出願)は、原出願に包含された複数の発明の一または二以上を抽出して別出願とし、これを原出願の日に出願したものとみなされる反面、原出願について査定または審決が確定するまでにしなければならないという時期的制約を受ける特殊の出願形式であつて、手続上も特に同条第一項の規定による出願たる旨を表示し、かつ、原出願を表示してされるものである(同法施行規則第二三条第一項)から、これが「新たな特許出願」として通常の特許出願と共通の性質を有するというだけで、右のような時期的制約に違反する不適法な分割出願を通常の出願に転換して審理すべき余地はないものと解するが相当である。』

2007年08月04日

請求書却下決定後で同決定の確定前の手数料納付

事件番号 平成11(行ケ)18
裁判年月日 平成11年03月25日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 清永利亮

『第2 原告は、平成11年1月8日に指定金額の印紙を貼付した手続補正書を提出したから、本件却下決定は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、手続について納付すべき手数料を納付しないとして補正を命ぜられた者は、遅くとも請求書却下決定がされるまでにこれを補正すべきであって、請求書却下決定がされた後は、たとえ同決定の確定前に手数料を納付しても、有効な補正があったということはできないものと解するのが相当である(被告挙示の最高裁第二小法廷判決参照)。したがって、本件却下決定の結論は正当である。
 この点について、原告は、たとえ請求書却下決定がされるまでに手数料を納付しなくとも、同決定の取消訴訟の弁論終結までに手数料を納付すれば審判請求は適法であると解さなければ、手数料不納付を理由とする請求書却下決定に対する取消訴訟の提起を認めている特許法178条1項の規定が空文化する旨主張する。しかしながら、例えば適法にされた手数料納付を看過してされた請求書却下決定に対しては、取消訴訟の提起が認められるのであるから、特許法178条1項の規定が空文化するとはいえず、原告の上記主張は失当である。
 なお、原告は、上記判決の見解は変更されるべきであると主張するが、当裁判所も上記判決の見解に立つものであって、この見解は変更されるべきものとは解されない。』

「請求の理由」があると同視できるとした例

事件番号 平成10(行ケ)312
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成11年11月09日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 永井紀昭

『(2) ところで、実用新案法41条により準用される特許法133条によれば、審判請求書が同法131条1項1号ないし3号(請求の趣旨及びその理由)の規定に違反しているときは、審判長は、請求人に対し、補正を命じなければならないものとされ(同法133条1項)、補正命令を受けた者が指定期間内にその補正をしないときは、決定をもって請求書を却下しなければならないとされている(同条3項。平成8年法律68号により改正されるまでは、同条2項として、「審判長は、請求人が前項の規定により指定した期間内にその補正をしないときは、決定をもってその請求書を却下しなければならない。」とされていた。改正後は、2項が挿入されて3項に繰り下がり、その規定振りは「決定をもってその手続を却下することができる。」となっているが、これは、1項に基づく補正命令に対する旧2項の「請求書を却下しなければならない」という処分と、新2項に基づく補正命令に対する「手続を無効とすることができる」という処分の両者を併せて規定したために、「することができる」となったものであり、1項に基づく補正命令に対応する関係では、従前と同様に「却下しなければならない」ものと解されている。)。

 (3) 原告は、審判請求書に請求の理由の記載がない場合であるから、審判長は請求人に対し相当の期間を指定して補正を命じなければならなかったのに、これを命じなかった違法がある旨主張するので、本件における審判請求書の請求の理由の記載が特許法131条1項3号に規定するものとして審判長が補正を命じなければならず、もし補正がされないときは却下しなければならない場合に該当するか否かを検討する。
 本件は、前記(1) において認定したとおり、原告のした実用新案登録出願について、特許庁が引用例を示して進歩性の欠如を理由とする拒絶理由通知書を原告に送付し、これに対し、原告は、意見書を提出して詳細に反論したが、拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服の審判を請求したものである。その審判請求書の「請求の理由」欄のうち、「本願考案が登録されるべき理由」としては「詳細な理由は、追って補充する。」とのみ記載され、具体的な理由は記載されていなかったが、「請求の理由」を全体としてみれば、「手続の経緯」及び「拒絶査定の理由の要点」が詳しく記載されている。そして、本件審判請求が実用新案登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求であり、審判請求書の「請求の趣旨」、「請求の理由」欄の記載全体及び拒絶理由通知に対する意見書からすれば、4つの引用例に基づく進歩性欠如を理由とする拒絶査定に対し、本願考案が進歩性を有するから、登録されるべきものであると主張しており、その具体的な理由も審査段階における拒絶理由通知に対する意見書に詳細に記載されていることが明らかである。このような場合には、審査においてした手続は拒絶査定に対する審判においてもその効力を有する旨規定する実用新案法41条、特許法158条の規定の趣旨からしても、また、請求人の審判を受ける権利の保護という観点からしても、請求の理由の記載がないとはいえず、同法131条1項3号の規定に違反しているとは認められないから、同法133条1項にいう補正を命じなければならない場合には当たらないというべきである(なお、本件のように特許法131条1項3号違反とはいえない場合においても、詳細な理由の補充を促す意味での補正を命ずることは何ら差し支えない。しかし、それは、特許法131条1項に基づく補正命令ではないから、それに応じないことに基づいて同法133条3項により却下することはできないものと解すべきである。)。
 これに反する原告の主張は採用することができない。』

「請求の理由」の補充と審判請求の定立2

事件番号 平成14(行ケ)370
裁判年月日 平成15年09月29日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  篠原勝美

『1 取消事由1(除斥期間の経過)について
(1) 本件審判請求及びその後の審判手続の経緯は,次のとおりである(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)。
ア 被告は,商標法47条所定の5年の除斥期間が経過する直前である平成8年11月28日(本件商標権の設定登録日は平成3年11月29日),本件審判請求をした
イ その審判請求書には,「請求人」として被告の名称及び住所が,「被請求人」として原告の名称及び住所がそれぞれ特定して記載されているほか,「請求の趣旨」として「商標登録第2357409号の登録は無効とする。」と記載されるとともに,証拠として,本件商標に係る商標公報及び商標登録原簿の写し(甲2の1,2,審判甲1,2)が添付されていたが, 「請求の理由」については,「本件登録第2357409号商標(以下「本件商標」という)は甲第一号証及び第二号証に示すとおりのもので商標法第4条第1項第8号,同法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから,同法第46条の規定により,その登録は無効とされるべきものである。なお,詳細な理由及び証拠は追って補充する。」とのみ記載されていた(乙1)。
ウ 本件審判請求事件を担当する特許庁審判長(以下,単に「審判長」という。)は,平成9年1月10日付け「手続補正指令書(方式)」により,被告に対し,同指令書発送の日(同月24日)から30日以内に,請求の理由を記載した適正な審判請求書を提出すること等を命じた(乙2)。
エ 被告は,同年2月18日,手続補正書(方式)により,請求の理由を更に具体的に記載して補正し,証拠として審判甲3〜14を添付した審判請求書を提出した(乙3)。
・・・』

『(2) 商標法56条1項において準用する特許法131条1項3号は,審判を請求する者は,請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないと規定し,商標法46条1項は,柱書前段において,商標登録が次の各号の一に該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができると規定し,1号ないし5号において,無効理由を列挙している。他方,商標法47条は,商標登録が同法4条1項8号若しくは11号に違反してされたとき,又は同項15号に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)は,その商標登録に係る無効審判は,商標権の設定登録の日から5年を経過した後は請求することができない旨規定する。
 この除斥期間の定めは,上記のような私益的規定に違反して商標登録がされたときであっても,一定の期間無効審判の請求がなく経過したときは,その既存の法律状態を尊重し,当該商標登録の瑕疵を争い得ないものとして,権利関係の安定を図るとの趣旨に出たものであるから,上記の私益的規定の違反を無効理由とする無効審判の請求人が商標法47条の規定の適用を排除するためには,除斥期間の経過前に,各無効理由ごとに1個の請求として特定された請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出することを要するものというべきである(なお,最高裁昭和58年2月17日第一小法廷判決・判例時報1082号125頁参照)。』

『(3) 本件において,無効審判の請求人である被告が除斥期間経過前である平成8年11月28日に提出した本件審判請求の審判請求書(以下「当初請求書」という。)には,本件商標の商標登録を無効にするとの請求の趣旨が記載され,無効審判の対象となる登録商標が特定されるとともに,請求の理由において,本件商標は商標法4条1項8号,同項11号,同項15号の各規定に違反して登録された旨の記載はあったものの,具体的な無効理由を構成する事実の主張は記載されておらず,もとより,それを裏付ける証拠も一切提出されていなかったものであるから,少なくとも,同項8号及び11号の規定に基づく無効理由に関する限り,当初請求書が提出された時点で,各無効理由ごとに1個の請求として特定された無効審判請求の定立があったものと認めることはできない。したがって,被告が,手続補正書(方式)により,具体的な無効理由を記載した審判請求書を提出した平成9年2月18日の時点で,新たに同項8号及び11号に基づく新たな無効審判の請求を定立したものとみるほかはないが,その時点では,本件商標の商標登録について無効審判請求の除斥期間は既に経過していたことが明らかであるから,結局,補正による新たな無効審判請求の定立は許されないというべきである。

(4) しかしながら,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由については,後記3及び4で判示するとおり,被告がその業務に係る商品に使用する表示が我が国のファッション関連分野における取引者,需要者の間で周知であったとの事情等をも参酌すべきである。すなわち,当初請求書においては,上記(1)イのとおり,請求人である被告の「バレンチノ グローブ ベスローテン フェンノートシャップ」との名称が記載され,請求の理由として,本件商標は商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものである旨,換言すれば,本件商標が他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標である旨が記載されていたのであって,後記3(2)のとおり,被告がその業務に係る商品に使用していた「VALENTINO」,「Valentino」,「valentino」,「ヴァレンティノ」又は「バレンチノ」との表示が,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野における取引者,需要者にとって周知であること,本件商品の指定商品と被告の業務に係る商品とが極めて密接な関連性を有しており,当初請求書が提出された当時においても,取引者の一人である被請求人の原告においては上記表示を当然に知っていたと認められること(弁論の全趣旨),被告の社名に上記「バレンチノ」の語が含まれていること等の事情に照らせば,上記のような当初請求書の記載は,本件商標につき,請求人である被告が,その業務に係る商品に使用する上記の表示との関係で混同を生ずるおそれがある商標である旨の無効理由を記載して主張しているのと同視し得るものというべきであって,このように解しても,原告の防御や法的安定性に欠けるところはない。そうすると,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由については,当初請求書により,実質的に1個の請求として特定された無効審判の請求が定立されていたとみることができるから,当該無効理由に関する限り,本件審判請求は,同法47条の規定による除斥期間を徒過したものとはいえないと解するのが相当である。

(5) 以上によれば,本件無効審判請求は,除斥期間内に請求されたものであって,その請求を却下すべきものではないとした審決の判断は,商標法4条1項15号の規定に基づく無効理由に関する限り,結論において相当であり,かつ,審決は,上記第2の3のとおり,同号違反を理由として本件商標の登録を無効としたものであるから,結局,原告の取消事由1の主張は理由がない。』

「請求の理由」の補充と審判請求の定立1

事件番号 平成14(行ケ)551
裁判年月日 平成15年09月29日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  篠原勝美

『(1) 本件審判請求及びその後の審判手続の経緯は,次のとおりである(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)。
ア 被告は,商標法47条所定の5年の除斥期間が経過する直前である平成10年11月30日(本件商標権の設定登録日は平成5年11月30日),本件審判請求をした。
イ その審判請求書には,「請求人」として被告の名称及び住所が,「被請求人」として原告の名称及び住所がそれぞれ特定して記載されているほか,「請求の趣旨」として「商標登録第2595450号の登録を無効にする。」と記載されるとともに,証拠として,本件商標に係る商標公報及び商標登録原簿の写し(甲2の1,2,審判甲1,2)が添付されていたが,「請求の理由」については,「詳細理由は追って補充する。」とのみ記載されていた(乙1)。
ウ 被告は,平成11年1月27日,手続補正書により,審判請求書の請求の理由として,本件商標の内容を特定した上,「本件商標は商標法第4条第1項第8号,同法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから,同法第46条の規定により無効とされるべきものである。」と記載し,更に具体的な請求の理由を記載して補正するとともに,証拠方法として審判甲3〜61を提出した(乙2)。』

『(2) 商標法56条1項において準用する特許法131条1項3号は,審判を請求する者は,請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないと規定し,商標法46条1項は,柱書前段において,商標登録が次の各号の一に該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができると規定し,1号ないし5号において,無効理由を列挙している。他方,商標法47条は,商標登録が同法4条1項8号若しくは11号に違反してされたとき,又は同項15号に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)は,その商標登録に係る無効審判は,商標権の設定登録の日から5年を経過した後は請求することができない旨規定する。
 この除斥期間の定めは,上記のような私益的規定に違反して商標登録がされたときであっても,一定の期間無効審判の請求がなく経過したときは,その既存の法律状態を尊重し,当該商標登録の瑕疵を争い得ないものとして,権利関係の安定を図るとの趣旨に出たものであるから,上記の私益的規定の違反を無効理由とする無効審判の請求人が商標法47条の規定の適用を排除するためには,除斥期間の経過前に,各無効理由ごとに1個の請求として特定された請求の趣旨及びその理由を記載した請求書を特許庁長官に提出することを要するものというべきである(なお,最高裁昭和58年2月17日第一小法廷判決・判例時報1082号125頁参照)。』

『(3) 本件において,無効審判の請求人である被告が,除斥期間経過前である平成10年11月30日に提出した本件審判請求の審判請求書(以下「当初請求書」という。)には,本件商標の商標登録を無効にするとの請求の趣旨が記載され,無効審判の対象となる登録商標は特定されていたものの,請求の理由については,詳細理由は追って補充するとのみ記載され,具体的な無効理由を構成する事実は何ら記載されていないばかりか,商標法46条の定める無効理由のいずれに該当するのかを示す適用条文さえも記載されていなかったものであるから,このような当初請求書の記載をもって,各無効理由ごとに1個の請求として特定された無効審判請求の定立があったものと認めることはできない。したがって,他に特段の事情のない本件においては,被告が,手続補正書により,具体的な無効理由を補正するとともに証拠方法を提出した平成11年1月27日の時点で,新たに特定された無効審判の請求を定立したものとみるほかはないが,その時点では,本件商標の商標登録について無効審判請求の除斥期間が既に経過していたことは明らかであるから,結局,補正による新たな無効審判請求の定立は許されず,本件無効審判請求は除斥期間経過後の請求として不適法であるといわざるを得ない。』

『(4) 被告は,請求の理由が記載されていないという不備は補正できるものであって,商標法56条において準用する特許法135条に定める「不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないもの」には該当しないとし,当初請求書は,方式に違反したものではあっても,その瑕疵は補正により審判請求時に遡及して治癒されたものというべきである旨主張するが,請求書の不備の性質上,補正が許されるか否かの問題と,補正が新たな無効審判請求の定立に該当するか否かの問題とは次元を異にするというべきである。
 上記(3)で判示したとおり,本件においては,当初請求書をもって,各無効理由ごとに1個の請求として特定された無効審判請求の定立があったものとは認められず,手続補正書により補正された時点で新たな審判請求があったと解すべき以上,除斥期間経過後の補正は,除斥期間経過後の新たな無効審判請求の定立にほかならないから,当初請求書の不備の性質自体は補正できる性質のものであったとしても,除斥期間の経過後は,商標法47条の規定によって,新たな無効審判請求の定立に当たる補正は許されなくなると解するのが相当である。

 被告が引用する東京高裁昭和53年9月21日判決・無体例集10巻2号447頁は,「請求の理由は追って補充する。」とのみ記載された無効審判請求書の「請求の理由」は方式違背であるが,この不備は補正される可能性があるから,審判長は,補正を命じ,これに応じなかったときに初めて,商標法56条1項において準用する特許法(平成8年法律第68号による改正前のもの)133条2項に基づく「請求書の却下」(なお,同改正後は同条3項に基づく「手続の却下」)決定をすることができるとして,上記手続を経ることなく直ちに審判請求を却下した審決の判断を違法としたものであり,請求書の不備の性質上,補正が許されるか否かの問題に係るものであって,本件に適切ではない。』