2013年05月26日

確認の利益が認められないとされた事例

事件番号 平成24(ワ)2303
事件名 ドメイン名使用差止請求権不存在確認請求事件 
裁判年月日 平成25年02月13日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏,西村康夫

 すなわち,被告は,本件ドメイン名の登録に関し,原告とJPRSと間の法律関係を規律する本件登録規則(及びそれと一体をなす本件紛争処理方針及び本件手続準則)に則して,登録契約内容の変更(登録の移転)を求めているものであり,その主張する事由は,米国シティバンクの本件各商標に由来する権利又は正当な利益ではあるが,被告自身が本件各商標について,商標権や専用使用権を有することを主張するものではない

 したがって,仮に,本件訴訟において被告に本件各商標についての商標法上の使用差止請求権が存在しないことを確認してみても,被告が本件各商標について米国シティバンクから許諾を得ているという事実関係が本件ドメイン名の登録の移転を基礎付け得るものである以上は,原告の本件ドメイン名の登録に関するJPRSとの間の契約関係に基づく地位についての不安,危険は除去されないものといわざるを得ない。
 そして,原告と被告との間には,本件訴訟提起以前において,本件裁定に係る申立て以外に紛争はなかったのであるから,本件各商標の商標権に基づく本件ドメイン名の使用差止めという紛争は存在しなかったというほかはない。

 そうすると,本件は,判決をもって法律関係の存否を確定することにより,その法律関係に関する法律上の紛争を解決するものではないから,確認の利益が認められない

 この点,・・・,本件ドメイン名を使用する権利があることの確認を求めるのが相当であったと解される。なお,当裁判所は,原告に対し,本件ドメイン名を使用する権利があることの確認を求めるか否かを釈明したが,原告は訴えの変更をしなかったものである。

(3) 以上のとおり,本件訴えは,確認の利益がなく不適法であるから,却下を免れない。
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2013年04月10日

時機に後れた攻撃防御方法であるとした事例

事件番号 平成24(ネ)10030
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成25年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文 、裁判官 岡本岳,武宮英子

(イ) 以上のように,原審の受命裁判官は,第1回弁論準備手続期日において控訴人らに対し無効論の準備をするように指示し,控訴人らは,本件訴訟の提起(・・・)から2か月以上後の平成21年2月6日付け第1準備書面により,本件特許1及び本件特許2の請求項1,3,5について最初の無効主張を行い,同年6月12日付け準備書面(4)により請求原因に追加された本件特許2の請求項7,8については,追加から約3か月後である同年9月18日付け第8準備書面により最初の無効主張を行っている。そして,平成22年2月5日の第8回弁論準備手続期日において,受命裁判官は,本件各特許について無効理由の追加は原則として認めないとし,同年6月14日(本件主張期限)の第11回弁論準備手続期日におい当事者双方により技術説明が実施され,原審裁判所は,以後,侵害論についての主張立証の追加は認めないとしたものである。
 上記原審の審理経過によれば,原審裁判所が侵害論についての主張立証の追加は認めないとした平成22年6月14日(本件主張期限)は,本件訴訟の提起から1年6か月以上後で,本件特許2の請求項7,8が請求原因に追加されてから約1年を経過し,しかも,受命裁判官が無効理由の追加は原則として認めないとした第8回弁論準備手続期日からも4か月以上を経過しているのであるから,侵害論の主張を制限する期間として短すぎるとは認められない
 ・・・
 また,控訴人らは,505号明細書は米国特許明細書であるから,提出が後れたことはやむを得ないものであった旨主張する。しかしながら,本件主張期限(平成22年6月14日)は本件訴訟の提起から1年6か月以上後である上,505号明細書を主引用例とする無効主張が記載された第25準備書面の提出及び505号明細書の証拠申出がされたのは,更にその10か月以上後の平成23年5月9日であって,米国特許明細書であることを考慮しても,その提出がこの時期に至ったことにやむを得ない事情があったと認めることはできず,控訴人らの主張は理由がない。
 ・・・
 原審追加無効主張(・・・)及びこれらに係る上記各証拠は,いずれも本件主張期限から6か月以上も経過した後に提出されたもので,提出が当該時期となったことにやむを得ない事情は認められないから,控訴人らは,少なくとも重大な過失によりこれらの主張立証を時機に後れて提出したものというべきであり,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものと認められる。したがって,原審追加無効主張を時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下した原審裁判所の判断に,誤りはない。
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2013年02月11日

我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合

事件番号 平成23(行コ)10004
事件名 手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治


 一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決民集第65巻9号3275頁)。

 上記の観点から検討するに,
@ 我が国のPCT加入の効力発生日は昭和53年10月1日であるのに対し,北朝鮮のPCT加入の効力発生日は昭和55年7月8日であり,我が国について既に効力が生じている多数国間条約において,後に未承認国である北朝鮮が加入していること,
A PCTは,多数の国において特許出願を行うことの煩雑さ,非効率さや,特許庁が同一の発明について重複業務を行うことの非効率さを解決するために,国際出願制度を創設し,同盟国の間で特許出願,その出願に係る調査及び審査における協力を図ること,並びに同盟国において特別の技術的業務の提供を行うことを主な目的とした条約であり,パリ条約19条における「特別の取極」に該当し(乙8,13),したがって,PCTは,締約国における工業所有権の保護を図るものであり,これを超えて,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではないと解されること,
B 我が国の政府は,北朝鮮を国家承認しておらず,我が国と北朝鮮との間には,国際法上の主体である国家の間の関係は存在しないとの見解を有していること(乙6の1,6の2及び弁論の全趣旨)が認められる。
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2012年11月13日

閑話休題−特許審査順番待ち期間の推移の単純予測

順番待ち.jpg
* 数字は特許出願に係る数字で、2011年までの数字は特許等HP統計情報 年次報告書等から引用。
* 黄色部分は筆者が前年の数字を用いて仮に設定
* 「順番待件数」は、審査請求されて審査を待つ特許出願の数。
* FAはファーストアクションと同義で最初の審査のこと。「FA期間」は最初の審査までの審査順番待ち期間(月数)。
* この予想では2013年末には審査請求数が25万5千件にもかかわらず審査順番待ち件数が19万8千件であり、2013年に審査順番待ち期間を11ヶ月は達成可能か。
* 黄色部分の順番待増減は、審査請求件数−ファーストアクション件数としたが、例年この数より2万件程度おおく減少している。堅めの予測となっている。
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2012年10月17日

均等論第2要件の判断事例

事件番号 平成24(ネ)10035
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人、齋藤巌

イ 第2要件
 前記のとおり,本件発明1は,従来方法では,各視線上に位置するボクセル毎の色度及び不透明度を互いに積算する演算過程の高速化を図るために,一部のボクセルに関するデータを間引いて演算を行っていたため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することができなかったことに鑑みて発明されたものである。本件発明1は,・・・「全ての前記平面座標点毎の色度および不透明度を該視線毎に互いに積算する」ことにより,・・・,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別することが可能な可視画像を生成し得る医療用可視画像の生成方法を提供することを目的とするものである。

 これに対し,被告方法においては,・・・積算処理は・・・閾値に達した時点で打ち切られるため,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現する観点からは,画質に対して悪い影響を与えるものである。被告方法による可視画像の生成は,本件発明1の方法によるほど生体組織を明確に区別するという作用効果を奏するものとはいえないものと解される。

 したがって,被告方法は,本件発明1の目的を達し,同一の作用効果を奏するとまではいえないものであるから,均等の第2要件を欠くものである。
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均等論第5要件の判断事例

事件番号 平成24(ネ)10035
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人、齋藤巌


ウ 第5要件
(ア) 前記(1)のとおり,本件明細書によれば,従来技術は一部のボクセルに関するデータを「間引いて」演算を行っていたため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することができなかったことから,上記課題を解決する手段として,本件発明1は,「全ての」前記平面座標点毎の前記色度及び前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,当該積算値を当該各視線上の前記平面座標点に反映させることを特徴とするものである(【0006】〜【0008】)。

 仮に控訴人が主張するように,従来技術に係る「間引いて」の反対語が「間引かずに」ということであれば,出願人において特許請求の範囲に「間引かずに」と記載することが容易にできたにもかかわらず,本件発明1の特許請求の範囲には,あえてこれを「全て」と記載したものである。このように,明細書に他の構成の候補が開示され,出願人においてその構成を記載することが容易にできたにもかかわらず,あえて特許請求の範囲に特定の構成のみを記載した場合には,当該他の構成に均等論を適用することは,均等論の第5要件を欠くこととなり,許されないと解するべきである。
(イ) 以上のとおりであるから,仮に控訴人の主張を前提とすると,客観的にみて,意識的に「全て」に限定したものと解され,均等の第5要件も充足しないこととなる。
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2012年10月14日

優先権主張の取り下げによる翻訳文提出期間の延長の主張

事件番号 平成24(行コ)10002
事件名 決定処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子、齋藤巌
特許法184条の4第1項

1 控訴人は,要旨,パリ条約に基づく優先権を主張する国際出願の場合,優先権主張が有効か無効か確定しなければ,優先権を主張する国際出願の優先日を確定することはできず,その結果,国内書面や翻訳文の提出期限も決定していないことになると主張し,これを前提として,平成22年1月22日の特許庁長官に対する本件取下書の提出によって,平成19年1月23日を優先日とする優先権主張が取り下げられた結果,本件出願に係る優先日は,本件国際出願の日である平成20年1月23日に繰り下がり,これに伴い,本件出願についての国内書面提出期間の満了日も平成22年7月23日に繰り下がるから,本件出願は法184条の4の要件を満たす合法的な出願であり,本件各処分は違法である旨主張する。

 しかしながら,そもそも,パリ条約に基づく優先権の主張を伴う国際出願において,優先日は,期間の計算上,優先権の主張の基礎となる出願の日をいうのであり(特許協力条約2条(.)(a)),当該優先権の主張が有効であるか否かといった,指定官庁における国際出願の実体審査の結果によって,左右される性質のものではない

 このように,優先日の判断が指定官庁における国際出願の実体審査の結果に左右されるものでないことは,特許協力条約23条が,指定官庁は,同条約22条に規定する国際出願の翻訳文提出期間の満了前に,当該国際出願について実体審査を行うことを禁じ,国際出願の翻訳文提出期間が指定官庁における実体審査の開始前に設定されていることや,法184条の17が,外国語特許出願については,法184条の4第1項の規定よる翻訳文提出手続をした後でなければ,出願審査の請求(特許法48条の3)をすることができないと規定し,特許庁における実体審査を開始する条件として,同法所定の期間内に翻訳文提出手続を完了させることを要求していることからも明らかであり,この点に関する控訴人の主張は採用できない。

関連事件判決 平成24(行コ)10001 平成24(行コ)10003

下級審(関連)判決
平成23(行ウ)542
平成23(行ウ)535
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2012年09月04日

「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」53条の適用

事件番号  平成24(ネ)10026
事件名  特許を受ける権利出願人変更 請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日 平成24年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子

上告審(最高裁判所平成22年(受)第1340号)判決は,本件は,控訴人とその取締役であった被控訴人との間の訴えであるが,控訴人は,「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」施行の際,現に,その定款に株式譲渡制限の定めがあり,また,資本の額が1億円以下であったから,同法施行の際の最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上であった場合を除き,同法53条の適用により監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるとみなされることとなり,上記の定款の定めがあるとみなされる場合には,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定しないこととする旨の定款変更がされ,又は株主総会若しくは取締役会において取締役であった者との間の訴えについて代表取締役以外の者が控訴人を代表者と定められていない限り,本件訴えについて控訴人を代表するのは代表取締役のAというべきである旨判示し,上記第2審判決を破棄し,Aの代表権の有無を含め,更に審理を尽くさせるため,事件を知的財産高等裁判所に差し戻した。
・・・

第3 当裁判所の判断
・・・
2 また,本件全記録を精査しても,本件訴えについて,控訴人を代表する者を,控訴人の代表取締役であるA以外の者とすべき事情は認められない。
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2012年08月14日

商品を買い付けた代表取締役に、登録商標の調査確認をしなかったことについて重大な過失がないとされた事例

事件番号 平成24(ワ)6732
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年07月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 商標権
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾
会社法429条1項

 原告は,被告会社の代表取締役の被告Aは,被告会社の業務執行として,自ら中国に赴くなどして,製造事業者から被告商品を買い付け,輸入を行っていたものであるところ,電化製品の輸入販売事業に関わる者であれば,被告商品に付された被告標章2を見れば,これが他者の商標ではないかとの疑いを持ち,調査確認すべきことは当然であり,被告会社が被告商品を販売する行為が,原告の本件専用使用権を侵害する行為であることを容易に知り得たものであるから,その職務を行うについて悪意又は重大な過失(会社法429条1項)があった旨(請求原因(4))主張する。

 そこで検討するに,会社法429条1項は,取締役等の会社の役員等が,会社に対する善管注意義務及び忠実義務を負うことを前提として悪意又は重大な過失によってこれらの義務に違反する任務懈怠行為を行い,これによって第三者に損害を被らしめた場合において,その損害賠償義務を負うことを定めた規定であると解されるところ,本件全証拠によっても,被告Aにおいて本件登録商標の存在を知りながら,あえて被告会社に被告標章2が付された被告商品を輸入及び販売させたことを認めるに足りない。また,本件登録商標が周知であったことをうかがわせる事情も本件の証拠上認められないことに照らすならば,被告Aにおいて,被告商品に付された被告標章2を見て他者の登録商標ではないかとの疑いを持ち,調査確認をしなかったことについて,過失はともかく,重大な過失があったとまで認めるに足りない

 したがって,被告Aが故意又は重大な過失によって被告会社に対する任務懈怠行為を行ったものと認めることはできないから,原告の上記主張は,採用することができない。
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2012年08月10日

前判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)

事件番号 平成23(行ケ)10333
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣
前判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)

特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理,審決には,同法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返しあるいはその主張を裏付けるための新たな立証を許すべきではなく,取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決民集46巻4号245頁)。

イ これを本件についてみると,前判決は,前審決が認定した引用例1に記載された発明(本件審決が認定した引用発明と同じものである。)を前提として,前審決が認定した相違点5(本件審決が認定した相違点5と同じものである。)に係る本件発明1の構成のうち,
@ ・・・とする構成についても,
A ・・・1.1≦X≦4.3を満足する大きさになるという構成についても,
引用発明との間に相違はないと判断して,引用発明に基づいて容易に発明することはできないとした前審決を取り消したものであるから,少なくとも,引用発明の認定及び相違点5に係る判断について,再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。

 また,前判決は,引用発明から算出した関数Xは,本件発明2のXの数値範囲(1.2≦X≦3.9)及び本件発明3のXの数値範囲(1.3≦X≦3.5)についても充足することを示した上で,本件発明2及び3についても,これを容易に発明することができないとした前審決を取り消したものであるから,前判決は,本件審決が認定した相違点6に係る本件発明2の構成についても,相違点7に係る本件発明3の構成についても,本件発明1と同様に,引用発明との間に相違はないと判断したものということができる。したがって,前判決のこれらの判断についても再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。

 以上によれば,本件審決による引用発明の認定並びに相違点5ないし7に係る判断は,いずれも前判決の拘束力に従ってしたものであり,本件審決は,その限りにおいて適法であり,本件訴訟においてこれを違法とすることはできない。
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2012年06月17日

特許権を破産裁判所及び破産管財人に申告しなかった破産者の損害賠償請求訴訟の原告適格

事件番号  平成23(ワ)38220
事件名  特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年05月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

1 原告適格の有無(本案前の争点)について
(1) 破産手続開始決定があった場合には,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は,破産管財人に専属するから(破産法78条1項),破産財団に関する訴訟は破産管財人が当事者適格を有する(同法44条1項・2項)。
 これを本件についてみるに,原告は,本件破産手続を廃止する旨の決定が確定した日(平成23年12月21日)よりも前である平成23年11月26日に本件訴訟を提起している(前提事実(2)オ,(3)イ)のであり,破産手続廃止の決定は確定しなければ効力が生じないから(破産法217条8項),本件訴訟の提起日においては,本件破産管財人が本件訴訟の当事者適格を有していたと解される。
 そうすると,本件訴訟は,その提起時において,原告適格を有しない者の訴えであったから,不適法な訴えであったといわざるを得ない。

(2) 原告は,その後,本件破産手続が終了し,原告が本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権の管理処分権を回復したから,原告適格の欠缺は治癒された旨主張する。

 そこで検討するに,確かに,破産手続が終了した場合には,・・・,破産者は当該訴訟手続を受継しなければならない(破産法44条4項・5項)。しかしながら,破産管財人の任務が終了した場合であっても,破産管財人は,急迫の事情があるときの必要な処分や財団債権の弁済をしなければならないし(同法90条),新たに配当に充てることができる相当の財産があることが確認されたときは,追加配当を行うことができる(同法215条1項後段)など,破産管財人の管理処分権限が認められる場合がある。
 このような破産法の規定に照らすと,破産手続が終結した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産終結後に当該財産をもって同法215条1項後段の規定する追加配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。・・・(最高裁平成3年(オ)第1334号同5年6月25日第二小法廷判決民集47巻6号4557頁参照)。
 加えて,破産手続が廃止によって終了した場合であっても,破産管財人は財団債権を弁済しなければならない(破産法90条2項)のであるから,破手続が廃止によって終了した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産手続廃止後に当該財産をもって財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。
 これを本件についてみるに,原告は,その陳述書(甲12)において,本件特許権を本件破産裁判所及び本件破産管財人に申告しなかったことを認めている上,本件破産手続の廃止決定以前に本件訴訟の委任状を作成し,その決定の5日後に本件特許権侵害の特許法102条1項の推定による損害額を1億0962万円と主張して本件訴訟を提起した(・・・)のであるから,本件特許権が価値を有する可能性があることを知りながら,本件破産裁判所に対して本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権を申告しなかったと認められる。

 そうすると,原告の重要財産開示義務(破産法41条)の違反によって,本件破産管財人は,本件破産手続の過程において,本件特許権の換価やこれに基づく損害賠償請求権の行使の機会を失い,ひいては本来行うべき財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の機会を失ったというべきであるから,財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定すべき特段の事情があったと認めるのが相当である。
 したがって,本件訴訟においては,口頭弁論終結時点においても,本件破産管財人が原告適格を有するというべきである。
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2012年05月27日

特定の実施例の作用効果と発明の構成に基づく効果

事件番号 平成23(行ケ)10199
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 以上によれば,本件明細書に記載された本件発明の実施例(本件実施例)が達成した8%というEL効率は,発光層のホスト材料としてCBPを採用し,かつ,BCPからなる励起子阻止層を採用した場合に限って得られるものであって,発光層に「芳香族配位子を有するリン光性有機金属イリジウム錯体」を採用したことによって当然に得られるものとは認められず,したがって,当該イリジウム錯体に含まれるfac−Ir(thpy)3を発光層に採用したとしても,そのことによって上記の8%というEL効率が達成されるものとは認められない。

 以上のとおり,本件発明のうち,特定の実施例(本件実施例)が顕著な作用効果(8%というEL効率)を示しているとしても,当該作用効果は,本件発明の構成に基づいて得られたものとは認められないから,本件明細書は,それ自体,本件発明がその構成によって顕著な作用効果を有していることや,ましてfac−Ir(thpy)3を発光層に採用した場合に顕著な作用効果を発揮することを明らかにしているとはいい難い
 ・・・
 よって,本件発明の容易想到性の評価に当たって,本件実施例の有する作用効果を参酌することはできないというほかない。
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相当程度進行した請負契約の解除

事件番号 平成22(ワ)17142
事件名 物件返還等請求事件
裁判年月日 平成24年05月15日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判官 志賀勝(裁判長裁判官 阿部正幸 転補)

 被告代表者は,平成22年3月12日,原告に一方的に被告の仕事を辞めるようにと告げており,これは,本件各請負契約の注文者である被告が原告に対し解除権(民法641条)を行使したものということができる。このように,本件各請負契約は本件各物件が完成する前に解除されているものの,前記1(2),(3)及び後記イ,(2)アによれば上記解除の時点において,本件各物件の製作は相当程度進行していたことが認められるのであり,このような場合においては,既に製作された部分に対する請負契約の解除は許されず,請負人である原告は,被告に対し,本件各請負契約が解除された時点における本件各物件の完成度に応じた出来高に係る請負代金請求権を有すると解するのが相当である。
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2012年05月06日

前訴の既判力が本訴に直接に及ばなくても、前訴の蒸し返しとなり訴訟上の信義則に反するとした事例

事件番号 平成21(ワ)31535
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(2) 検討
ア 前訴と本訴では,原告の請求権を基礎付ける特許権はいずれも本件特許権で同一であるが,前訴は本件特許権に基づく前訴マウスの使用等の差止請求権を訴訟物とするもので,前訴の確定判決により既判力が生じるのは,前訴の控訴審の口頭弁論終結時である平成14年7月9日における上記請求権の存否であるのに対し,本訴は前訴控訴審判決が確定した平成15年3月25日から本訴の提起日までの間における被告の本訴マウスの使用等による本件特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とするものであって,前訴と本訴では訴訟物が異なり,前訴の既判力が本訴に直接に及ぶものではない
・・・
 ・・・ところが,原告は,本訴において,上記争点について,前訴でした主張と同様の主張を行い,本訴マウスが構成要件Bを充足し,ひいては本件発明の技術的範囲に属する旨主張している。前訴1審判決及び前訴控訴審判決が示した構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」についての解釈は判決における理由中の判断であって,本訴はもとより,前訴においても既判力の対象となるものではないが,本訴において,原告が構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の解釈を再び争い,本訴マウスが本件発明の技術的範囲に属すると主張することは,前訴の判決によって原告と被告との間で既判力をもって確定している前訴マウスの使用等による本件特許権に基づく差止請求権の不存在の判断と矛盾する主張をすることに帰し,実質的に,同一の争いを繰り返すものであるといわざるを得ない。 ・・・,民事訴訟法においては,単に新たな証拠が発見されたというのみでは,再審事由とはならず,相手方当事者又は第三者の犯罪その他の違法行為によって攻撃防御の方法の提出を妨げられた場合などに限り,再審事由(同法338条1項5号ないし7号,2項)としている趣旨に照らすならば,上記技術常識を可視的に立証することは前訴当時の技術では不可能であったが,本訴の時点においては,甲8の実験報告書によってその立証が可能になったからといって,前訴の蒸し返しとなる主張を行うことを正当化することはできない。
 したがって,この限りにおいて,原告の上記主張を採用することはできない。

(ウ) ・・・均等侵害の主張を含めて,原告が前訴において自己の攻撃防御を尽くす十分な機会と権能を与えられていなかったことをうかがわせる事情は認められない。

(エ) 一方,被告において,前訴控訴審判決が確定したことによって紛争が解決し,本件発明の各構成要件の充足性を判断する上では前訴マウスの構成と実質的に同一の構成といえるマウスを用いた実験等を行うことは本件特許権を侵害するものでなく,そのような行為を対象とした差止請求や損害賠償請求をされることはないものと期待することは合理的であり,保護するに値するものである。本訴において前訴と同一の争点について審理を繰り返すことは,このような被告の期待に反するものであって,そのための被告の応訴の負担は軽視することはできない。

ウ 以上の諸事情を総合すると,前訴と本訴は,訴訟物を異にし,差止め又は損害賠償の対象とされた被告の侵害行為等が異なり,しかも,本訴は前訴と異なる争点をも含むものであるから,原告による本訴の提起が,前訴の蒸し返しであって,訴権の濫用に当たり,違法であるとまで認めることはできない。しかし,本訴において,前訴における争点と同一の争点である構成要件Bの解釈について前訴と同様の主張をすること及び前訴で主張することができた均等侵害の主張をする点においては,前訴の蒸し返しであり,訴訟上の信義則に反し,許されないというべきである。
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2012年03月16日

可分債権の一部請求を明示して訴えを提起し、残部についての権利行使の意思を継続的に表示している場合

事件番号 平成21(ワ)17204
事件名 職務発明の対価請求事件
裁判年月日 平成24年02月17日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(2) 被告は,原告の請求のうち,当初の請求額である150万円を超える部分(増額部分)の消滅時効は平成10年10月7日から進行し,上記150万円の訴訟提起によってもその時効は中断ぜずに進行を続け,平成20年10月6日の経過をもって時効期間が満了し,被告の消滅時効の援用により増額部分の請求債権は時効消滅したと主張する。
 しかし,数量的に可分な債権の一部につき一部であることを明示して訴えを提起した場合に,当該訴訟手続においてその残部について権利を行使する意思を継続的に表示していると認められる場合には,いわゆる裁判上の催告として,当該残部の請求債権の消滅時効の進行を中断する効力を有するものと解すべきであり,当該訴訟継続中に訴えの変更により残部について請求を拡張した場合には,消滅時効を確定的に中断すると解するのが相当である。

 本件において,原告は,訴状において,相当対価の総額として主張した約20億6300万円から既払額を控除した残額の一部として150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するとしつつ,「本件請求については時効の問題は生じないものと考えられるが,被告からいかなる主張がなされるか不明であるので,念のため,一部請求額を「150万円」として本訴を提起したものであり,原告は追って被告の時効の主張を見て請求額を拡張する予定である」として,本件訴訟手続において,残部について権利を行使する意思を明示していたと認められる。したがって,裁判上の催告により,当該残部の請求債権の消滅時効の進行は,遅くとも上記訴状を第1回口頭弁論期日において陳述した平成19年6月26日に中断し,その後,本件訴訟係属中に原告が訴えの変更により残部について請求を拡張したことにより,当該残部の請求債権の消滅時効は確定的に中断したものというべきであるから,被告の主張には理由がない。

 被告が指摘する最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決民集13巻2号209頁)は,明示的な一部請求における訴え提起による時効中断の効力を判示したものであって,被告の主張を根拠づけるものとはいえない。
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2012年02月26日

優先権主張の取り下げによる翻訳文提出期間の延長の主張

事件番号 平成23(行ウ)535
事件名 決定処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

 原告は,本件取下書の提出によって,本件国際特許出願に関する2007年(平成19年)1月23日を優先日とする優先権主張は取り下げられたものであり,その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がることとなり,ひいては,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も平成22年7月23日に繰り下がることとなる旨主張する。

 そこで,原告による本件取下書提出の効果について検討するに,前記争いのない事実等(1)ないし(3)のとおりの本件国際特許出願に係る事実経過からすれば,
 @ 原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約3条に基づいて,同条約8条に基づくパリ条約による優先権主張(優先権主張日・2007年(平成19年)1月23日(米国における先の出願の特許出願日))を伴う本件国際出願(受理官庁・欧州特許庁)をしたこと,
 A 本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされたこと(本件国際特許出願),
 B 本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったこと
が認められる。

 しかるところ,原告は,当該提出期間の満了日までに上記翻訳文をいずれも提出しなかったのであるから,特許法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなすものとされる。

 そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は,既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していないこととなるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続は,およそ観念することができないというべきである。
 してみると,原告による本件取下書の提出をもって,本件国際特許出願に関する優先権主張の取下げの効果を生じさせるものと認めることはできない。

同様の事件の判決はここ
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2011年12月07日

プロバイダ責任制限法4条1項に基づき発信者情報の開示を認めた事例

事件番号 平成23(ワ)22642
事件名 発信者情報開示請求事件
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

第3 当裁判所の判断
1 被告の利用者による原告らの送信可能化権の侵害の有無について
 ・・・
イ 「P2P FINDER」について
 「P2P FINDER」とは,・・・インターネット上の著作権侵害検出システムであり,・・・各種P2Pネットワークに接続し,同ネットワークにおいて流通するファイル(ダウンロードされたファイル)及びダウンロード時の情報(送信元となったノードのIPアドレス,ポート番号,ファイルハッシュ値,ダウンロード完了時刻等)を収集,分析等するものである。
 ・・・

ウ クロスワープ社による調査
 クロスワープ社は,原告らから依頼を受け,「P2P FINDER」を使用して,キーワード名を,原告各レコードの実演家である「RADWIMPS」,「西野カナ」,「aiko」,「perfume」,「いきものがかり」,「コブクロ」,「ヒルクライム」及び「浜崎あゆみ」として検索した。
 その結果,前記第2の3[原告らの主張](1)アないしト記載のIPアドレスから本件ファイル1ないし20(以下「本件各ファイル」という。)が送信され,同項記載の時刻に本件各ファイルのダウンロードが完了したことが確認された(以下「本件調査結果」という。)

エ 本件調査結果の信用性
 ・・・
(3) 本件確認試験の結果等によれば,「P2P FINDER」による検索結果,すなわち本件調査結果については,その信用性を疑わせるような事情は見当たらず,信頼を置くことができるものと認められる。
 したがって,本件調査結果に基づき,前記第2の3[原告らの主張](1)アないしトの事実,すなわち,
@ 本件各利用者は,原告各レコードを複製し,この複製に係るファイル(本件各ファイル)をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上,当該コンピュータを,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続したこと,
A そして,本件各利用者は,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件各ファイルを,インターネットに接続している,本件各利用者からみて不特定の他の同ソフトウェア利用者(公衆)からの求めに応じて,インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にしたこと(すなわち,原告らの原告各レコードに係る送信可能化権を侵害したこと),が認められる。

2 発信者情報開示請求の要件について
(1) 被告が本件各利用者による原告各レコードの送信可能化権侵害との関係においてプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当することについては,当事者間に争いがない。
(2) また,前記第2の1(争いのない事実等)の(2)(原告らの送信可能化権)及び上記1で認定した事実によれば,本件各利用者は,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当を受けてインターネットに接続し,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件各ファイルを公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことによって,原告らが原告各レコードについて有する送信可能化権を侵害したことが,明らかであると認められる。
(3) さらに,証拠(甲1の1〜8,甲1の12・13,甲1の17〜26)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,原告ら各自が原告各レコードについて有する送信可能化権に基づき,本件各利用者に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ,本件各利用者の氏名・住所等は原告らに不明であるため,上記請求を行うことが実際上できない状態にあることが認められる。
(4) したがって,原告らには,被告から本件各利用者に係る発信者情報(氏名,住所及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある
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2011年10月09日

PCT出願の却下処分取消訴訟の争点につき、内閣の権限に属するとして内閣の見解に基づき判示した事例

事件番号 平成21(行ウ)417
事件名 手続却下処分取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月15日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

第2 事案の概要
 本件は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)に居住する北朝鮮国籍を有する者が,1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「PCT」という。)に基づいて行った国際特許出願について,上記出願人から上記発明に係る日本における一切の権利を譲り受けた原告が,日本の特許庁長官に対して国内書面等を提出したところ,特許庁長官から,上記国際出願は日本がPCTの締約国と認めていない北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされたものであることを理由に,上記国内書面等に係る手続(以下「本件手続」という。)の却下処分を受けたことから,被告に対し,同処分の取消しを求める事案である。
・・・

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件国際出願は,特許法184条の3第1項所定の「国際出願」として,同項により,日本において「その国際出願日」にされた特許出願とみなすことができるか)について

(1) 我が国が北朝鮮を国家として承認しているかについて
 ア 国家の承認とは,新たに成立した国家に国際法上の主体性を認める一方的行為を意味するものであるところ(乙9),証拠(乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の政府は,我が国がこれまで北朝鮮を国家承認しておらず,したがって,我が国と北朝鮮との間には国際法上の主体である国家の間の関係は存在しない,との見解をとっていることが認められる。また,本件全証拠によっても,我が国がこれまでに北朝鮮を明示又は黙示に国家承認したことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,我が国は北朝鮮を国家として承認していないものと認められる。

 イ これに対し,原告は,1991年9月17日に開催された第46回国連総会は,北朝鮮の国連加盟を承認する決議を全会一致で採択しており,同決議には日本も参加して賛成票を投じているのであるから,これによって,日本が黙示に北朝鮮に国家承認を与えたものとみなされる,と主張する。
 しかしながら,証拠(乙7の1,2)によれば,北朝鮮の国連加盟は無投票で承認されたものであり,我が国は積極的に賛成票を投じたものではないことが認められるから,原告の主張はその前提を欠くものである。また,証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,国連の加盟を容認することと当該国を国家として承認することとは別個のものであり,当該国の国連加盟を容認することをもって当該国を国家として承認したことにはならないものと一般に解されていることが認められる・・・。

 ・・・原告は,日本国政府が昭和37年にモンゴルの国連加盟承認決議に日本が賛成したことがモンゴルの国家承認に当たる旨の国会答弁を出していることから,北朝鮮についても国連加盟承認決議に賛成したことが国家承認に当たると解すべきである旨主張する。しかしながら,ある行為が国家承認に当たるかどうかは承認国側の現実の意思によるものであるから,我が国がモンゴルを国家として承認する意思の下に,同国の国連加盟承認決議に賛成したことをもって国家承認に当たるとの判断を表明したとしても,そのことによって他の国についても,国連加盟承認決議に賛成したことによって直ちにその国を国家承認したことになるとの見解を表明したものということはできない

(2) 未承認国である北朝鮮と我が国との間で,多数国間条約であるPCT上の権利義務関係が生じるかについて
 ア PCTは,我が国,北朝鮮その他の多数の国家が加盟する多数国間条約であり,各国が所定の手続を踏むことにより当該条約に加入することが可能な開放条約である(PCT62条,パリ条約21条)。
 本件では,我が国と北朝鮮との間でPCT上の権利義務関係が生じるか否かが問題となっているところ,ある国から国家承認を受けていない国(未承認国)と上記承認を与えていない国との間において,その両国がいずれも当事国である多数国間条約上の権利義務関係が生じるかという問題については,これを定める条約及び確立した国際法規が存在するとは認められない
 一方,証拠(乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の政府は,国家承認の意義について,ある主体を国際法上の国家として認めることをいうものと理解し,国際法上の主体とは,一般に国際法上の権利又は義務の直接の帰属者をいい,その典型は国家であると理解していること,また,我が国の政府は北朝鮮を国家承認していないから,我が国と北朝鮮との間には国際法上の主体である国家間の関係は存在せず,したがって,未承認国(北朝鮮)が国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,同国を国家として承認していない国家(我が国)との関係では,原則として当該多数国間条約に基づく権利義務は発生しないとの見解をとっていること,が認められる。
 そして,当裁判所は,日本国憲法上,外交関係の処理及び条約を締結することが内閣の権限に属するものとされ(憲法73条2号,3号),我が国及び未承認国を当事国とする多数国間条約上の権利義務関係を我が国と未承認国との間で生じさせるかということも,外交関係の処理に含まれるものといえることに鑑み,上記の政府見解を尊重し,未承認国である北朝鮮と我が国との間に両国を当事国とする多数国間条約に基づく権利義務関係は原則として生じないと解するべきであり,PCTについても,原則どおり我が国と北朝鮮との間に同条約に基づく権利義務関係は生じないものと考える(知的財産高等裁判所平成20年12月24日判決参照(これこれ))。

関連事件:
平成19年12月14日 平成18(ワ)6062 未承認国の著作物の我が国の著作権法による保護の可否
平成19年12月14日 平成18(ワ)6062 外国の団体の我が国の民事訴訟における当事者能力
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2011年09月25日

就業規則が法的規範の性質を有し従業員に対する拘束力を生じる要件

事件番号 平成22(ワ)29497
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年09月14日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

2 争点(2)(被告B及び被告Cに,就業規則所定の秘密保持義務違反及び競業避止義務違反が認められるか)について
(1) 使用者は,就業規則を,常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって,労働者に周知させなければならないとされており(労働基準法106条1項),就業規則が労働者に拘束力を生ずるためには,その内容を,適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する平成15年10月10日最高裁第二小法廷判決最高裁判所集民事211号1頁)ところ,原告は,平成20年6月21日に開催された社員講習会で,社員教育の一環として,就業規則について説明した旨主張し,原告代表者は同旨の供述をするが,・・・,上記講習会で,原告の就業規則について説明がされた旨の原告の主張は直ちに信用し難い。このほか,原告代表者の供述からは,上記講習会のほかに,就業規則を原告従業員に周知させるための手続をとっていることはうかがわれないし,被告B及び被告Cも,就業規則について見聞きしたことはない旨主張しているのであるから,原告の就業規則(甲1)について,その内容を,適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られたものと認めることはできず,上記就業規則につき,法的規範の性質を有するものとして従業員に対する拘束力を生じていると認めることはできない


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