2013年02月27日

明細書の要旨を変更するとした事例

事件番号 平成23(行ケ)10401
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光

ウ 本件発明における「無線電話通信システム」が備える「交換システム」は,特許請求の範囲の記載において,システムを構成する内部機器等の具体的構成を限定するものではないが,一定の形状や構造を有する実体を有することが前提となっていることは明らかである。
 また,本件発明における「送信」及び「受信」という文言も,本件特許の特許請求の範囲の記載における「伝える」「送り」「受信する」「送り出し」「送信する」「受信される」という各文言と同様に,「外へ(送信)」及び「外から(受信)」という意義を当然に含んでいるということができる。出トラヒックに関する「セルによってサービスされる無線電話に向かって出て行く音声呼トラヒックを受け取り,これに応じて個々の呼の出トラヒックを運ぶパケットを統計的に多重化された形式で前記セルに接続された少なくとも1つのリンク上に送り出」すとの記載における「受け取り」及び「送り出し」についても,「外部からの受信」及び「外部への送信」を意味するものと解されるから,本件構成についても,同様に解するのが相当である。
 したがって,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項(発明特定事項)を記載すべき特許請求の範囲の記載において,送信及び受信の主体が一定の形状や構造を有する意義を持つ「交換システム」であると記載されている以上,「交換システム」による「送信」及び「受信」は,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われるというべきである。

エ 以上によると,本件構成における「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムから送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムで受信されるように入トラヒックを当該交換システムが送信する時刻を制御する手段」については,これを「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」を意味するものと解するのが相当である。
 そして,本件発明2は,本件発明1を引用し,第2の手段がさらに出トラヒック及び入トラヒックの「コピー」に係る所定の機能を担う第3の手段を備える構成に限定するものであるから,同様に,上記手段を有するものである。

・・・
したがって,プロセッサからボコーダに送信される時刻を制御する技術的事項を開示するにすぎない本件当初明細書には,交換システムの出口から送信する時刻を制御することは記載されておらず,また,当業者が,本件当初明細書の記載から,本件構成に係る技術内容が記載されているものと理解することはできないというべきである。

イ 以上によると,本件当初明細書の発明の詳細な説明に記載された時刻の制御は,「交換システム」の「出口」から「送信」する「時刻」を制御するものではないから,本件構成は,本件当初明細書の記載の範囲内のものということはできず,本件補正は,本件当初明細書の要旨を変更したものというほかない。
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2013年02月24日

独占的販売店等を通じて輸入された外国法人が商標を付した商品(商標法50条の趣旨)

事件番号 平成24(行ケ)10250
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
商標法50条

イ 商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(商標法1条)。したがって,商標法上の保護は,商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であり,一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないか,又は発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなるものと解される。商標法50条は,そのような不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し,かつその存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることになるところから,請求によりこのような商標登録を取り消す趣旨の制度である

 商標権は,国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり,属地主義の原則に支配され,その効力は当該国の領域内においてのみ認められるのが原則である。もっとも,商標権者等が商品に付した商標は,その商品が転々流通した後においても,当該商標に手が加えられない限り,社会通念上は,当初,商品に商標を付した者による商標の使用であると解される。そして,外国法人が商標を付した商品が,日本において独占的販売店等を通じて輸入され,国内において取引される場合の取引書類に掲載された商品写真によって,当該外国法人が独占的販売店等を通じて日本における商標の使用をしているものと解しても,商標法50条の趣旨に反することはないというべきである。

ウ よって,本件においては,商標権者である原告が,原告の時計に本件使用商標を付し,日本国内において,独占的販売店であるドウシシャを通じて上記時計に関する取引書類に本件使用商標を付した商品写真を掲載してこれを展示したものであるから,本件商標と社会通念上同一の商標を使用(商標法2条3項8号)していたということができる。
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2012年11月03日

主引用例の変更と防御権の担保

事件番号 平成24(行ケ)10056
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子、齋藤巌
特許法159条2項で準用する特許法50条

(4) 主引用例の差替えについて
ア 一般に,本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって,拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは,主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,原則として,法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。

イ 前記(2)ウ,(3)ウのとおり,本件においては,引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって,本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じる。
 拒絶査定の備考には,・・・と記載されていることから(甲17),審判合議体も,主引用例を引用例2から引用例1に差し替えた場合に,上記認定の差異が生じることは当然認識していたはずである。

ウ ・・・
 そうすると,引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって,引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において,容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになる。

エ 本件において,新たに主引用例として用いた引用例1は,既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが,原告は,いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり(甲1,16,20),引用例1についての意見は付随的なものにすぎないものと認められる。
 そして,主引用例に記載された発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と本願発明との相違点を検討することはあり得るものの,引用例1を主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。
 また,本件において,引用例1を主引用例とすることは,審査手続において既に通知した拒絶理由の内容から容易に予測されるものとはいえない。
 なお,原告にとっては,引用発明2よりも不利な引用発明1を本件審決において新たに主引用例とされたことになり,それに対する意見書提出の機会が存在しない以上,出願人の防御権が担保されているとはいい難い

 よって,拒絶査定において周知の技術事項の例示として引用例1が示されていたとしても,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるといわざるを得ず,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情が存在するとはいえない。
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2012年10月21日

分割出願の要件、訴訟過程での実験結果の提出

事件番号 平成23(行ケ)10391
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治

(2) 分割出願においては新たな特許出願はもとの特許出願の時にしたものとみなす(特許法44条2項)とされていることから,分割出願に記載された発明に係る技術的事項は,原出願の明細書に記載されていることを要する

 そこで,本件発明が,原出願の明細書に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて検討する。
 ・・・
 ・・・【0047】の記載に接した当業者は,【0047】の「フォトルミネセンス蛍光体」について,本件組成に属する蛍光体に限定されないと理解するとまでは容易に認め難い。

エ この点に対し,被告は,本件組成に属しない蛍光体についても,効果が得られる場合がある旨の実験結果(乙1)を提出する。しかし,分割が許されるためには,原出願の明細書に本件発明についての記載,開示があること(当業者において,記載,開示があると合理的に理解できることを含む。)を要するから,訴訟過程で提出された上記実験結果(乙1)をもって,前記の結論を左右することはできないというべきである(仮に,被告の主張,立証が許されるとするならば,原出願の明細書に本件発明について,何ら記載,開示がないにもかかわらず,第三者が,本件組成に属しない蛍光体に,効果が得られた旨の発見をした場合に,そのような蛍光体を包含する分割出願を,当然に許容することになって,不合理が生じる。)。
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2012年03月18日

拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与える理由

事件番号 平成23(行ケ)10406
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 特許法は,審判官が,拒絶査定不服審判手続において,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合には,審判請求人に対して,拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならないと規定する(平成14年法律第24号による改正前の特許法159条2項,50条)
 同条が,審判官において,査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に,相当の期間を指定して,意見書提出の機会を付与した理由は,審判請求人に意見を述べる機会を与えることによって,審判官の誤解などに基づいた判断がされることを,できる限り防止して,審判請求人に不利な審決がされることを回避することにあり,同規定は,審判請求人のための手続的な保障規定といえる。また,意見書提出のための相当の期間を定めることも,上記の手続的な保障を実質ならしめるためのものであると解される。

 上記の観点から検討する。本件においては,平成23年3月23日付けの拒絶理由通知に対する意見書の提出期限は,当初同年6月30日とされたが,原告からの合計3か月の期間延長申請に対して許可がされたことにより,同年9月30日まで延長された。しかるに,本件審判においては,上記提出期限より約2か月前である平成23年7月25日付けで審理終結通知がされ,同年8月9日付けで上記拒絶理由を理由として本件審決がされた。したがって,本件審決は,実質的に意見書提出の機会を付与することなくされたものであり,手続違背の違法があるといえる。

 この点,被告は,本件審決の審決書が送達される約1か月前である同年7月25日に,審理終結通知書が原告に対して発送されているから,原告に,意見書提出の意思があったのであれば,審理終結通知書が発送された時点で,特許庁に対して,確認,上申書提出などの行為をなし得たはずであると主張する。しかし,被告の主張は,意見書提出の機会を付与すべきと定めた特許法の上記の趣旨に反する主張であり,採用の余地はない
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2012年03月11日

優先権主張(法41条1項)が認められなかった事例

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120301084713.pdf
事件番号 平成23(行ケ)10127
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

3 取消事由3(本件発明3,4に係る新規事項の追加の有無の判断の誤り,無効理由6関係)について
 ・・・特許出願(第1基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先1,甲16)にも,・・・特許出願(第2基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先2,甲17)にも,・・・特許出願(第3基礎出願)に係る明細書3(図面を含む。優先3,甲18)にも,・・・螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの(例えば甲16の段落【0016】,図2),傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされていない
 本件発明3の構成のうち,「その旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定した,」との構成すなわち第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定したとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号特許法等の一部を改正する法律附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件発明3についての特許法29条の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月10日を基準として発明の新規性を判断すべきである。

 原告は,基礎出願に係る明細書及び図面のすべての記載を総合すれば,「旋回溝の傾斜角度を通常の角度よりも小さいものとすることで,クランプロッドの旋回用ストロークを小さくしたクランプ」との技術的事項が開示されているものということができるし,本件発明3にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との限定は,上記「通常の角度よりも小さい」との技術的事項を明確にするものであるなどと主張する。
 しかしながら,本件発明3にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との限定(発明特定事項)は,具体的な数値範囲を限定するものであるところ,基礎出願に係る各明細書添付の図2は,寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことからも明らかなとおり,ガイド溝の構造を示すために用いられる模式図にすぎず,これから傾斜角度の具体的な数値範囲を読み取ることはできない。また,本件発明3のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。
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2011年12月18日

法159条2項による50条ただし書きの適用の是非

事件番号 平成23(行ケ)10034
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 確かに,本件特許出願に係る本件審判手続において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合は,出願人に拒絶理由を通知し,意見書の提出機会を与えるのが原則である(法159条2項,50条)。
 しかし,法159条2項は,出願人に対する拒絶理由の通知を要しない場合を規定する法50条ただし書について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号(拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求の日から30日以内にするとき)の場合において法53条1項により当該補正について却下決定する場合を含むものと読み替える旨規定している。また,法159条1項は,拒絶不服審判においては,決定をもって補正を却下すべき事由を規定する法53条1項について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号の場合を含むものと読み替える旨規定しているのであって,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない場合にも当該補正は却下されることとなる(法17条の2第5項,特許法126条4項参照)。その結果,法文上,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明について,独立して特許を受けることができないものとして当該補正を却下するときには,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合であっても,出願人に対して拒絶理由を通知することは求められていないこととなる。
 また,法163条1項,2項は,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内補正があったときに行われる審査官による前置審査において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも,法50条ただし書や53条1項について,それぞれ上記同様の読替えをする旨規定している


(3) しかるところ,本件特許出願の経緯をみると,・・・。
 以上のとおり,前置報告書や本件審判において周知例2が引用されたののは,本補正により,請求項1について,「突出部の少なくとも一つは,支持部材の底面に形成されたトラックに摺動的に取り付けられるともに,トラックに沿ってどこにでも選択的に位置決めされてトラックに締結される」との構成に減縮された結果であるところ,原告らは,平成18年2月28日付け補正による「突出部の少なくとも一つは,支持部材に摺動的に取り付けられている」との構成(請求項9)について,平成20年4月9日付けで拒絶理由通知がされた後も,実質的に同様の構成(請求項1)で特許を受けようとし続け,拒絶査定を受けた結果,初めて本件補正によりその構成を減縮したものである。

(4) 以上の経緯に鑑みると,本件審判手続において,周知例2について新たに拒絶理由通知をしないまま本件審決に至ったことが,原告らに対して不当なものであったということもできない

<今年(平成23年)の関連・類似の事例>
拒絶査定の理由とは異なる理由の審決
拒絶査定不服審判請求時の補正を独立特許要件を欠くとして却下した手続きが適正手続違反とされた事例
審尋への回答書の当否を示さず、補正案による補正の機会を与えないことは裁量権の逸脱か
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2011年11月07日

拒絶査定不服審判請求時の補正を独立特許要件を欠くとして却下した手続きが適正手続違反とされた事例

事件番号 平成22(行ケ)10298
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 したがって,拒絶査定不服審判請求に際して行われた補正については,いわゆる新規事項の追加に該当する場合や補正の目的に反する場合だけでなく,新規性,進歩性等の独立特許要件を欠く場合であっても,これを却下すべきこととされ,その場合,拒絶理由を通知することは必要とされていない

 ところで,平成6年法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。審査段階と異なり,審判手続では拒絶理由通知がない限り補正の機会がなく(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。),拒絶査定を受けたときとは異なり拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決(拒絶審決)を受けたときにはもはや再補正の機会はないので,この点において出願人である審判請求人にとって過酷である

 特許法の前記規定によれば,補正が独立特許要件を欠く場合にも,拒絶理由通知をしなくとも審決に際し補正を却下することができるのであるが,出願人である審判請求人にとって上記過酷な結果が生じることにかんがみれば,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念を欠くものとして,審判手続を含む特許出願審査手続における適正手続違反があったものとすべき場合もあり得るというべきである。

(4) 本件においてされた補正却下に関する事情として,
@ 本件補正の内容となる構成が補正前の構成に比して大きく限定され,すなわち,・・・を中心に具体的構成を特定するものであって,補正発明の構成に係るものであるが,この新たな限定につき現に新たな公知文献を加えてその容易想到性を判断する必要のあるものであったこと,
A 審尋で提示された公知文献はそれまでの拒絶理由通知では提示されていなかったものであること,
B 審尋の結果,原告は具体的に再補正案を示して改めて拒絶理由を通知してほしい旨の意見書を提出したこと,
C 後記2で判断するとおり,新たに提示された刊行物2の記載事項を適用することは是認できないこと,
などの事実関係がある。
 本件のこのような事情にかんがみると,拒絶査定不服審判を請求するとともにした特許請求の範囲の減縮を内容とする本件補正につき,拒絶理由を通知することなく,審決で,従前引用された文献や周知技術とは異なる刊行物2を審尋書で示しただけのままで進歩性欠如の理由として本件補正を却下したのについては,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けたものとして適正手続違反があるとせざるを得ないものである。

 本件においては,審判においても,減縮的に補正された歯車の具体的構成に対し,その構成を示す新たな公知技術に基づいて進歩性を否定するについては,この新たな公知技術を根拠に含めて提示する拒絶理由を通知して更なる補正及び意見書の提出の機会を与えるべきであったというべく,この手続を経ることなく行われた審決には瑕疵があり,当該手続上の瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすべき違法なものであるから,原告主張の取消事由1には理由がある。

(つぶやき)刊行物2が適用可能でCがなければどう判断されたのだろうか。
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2010年12月19日

意見書を提出する機会に関する判断事例(特許法159条2項,50条)

事件番号 平成22(行ケ)10124
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

当裁判所は,以下のとおり,審決には,新たな拒絶理由通知をして原告に意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,同手続を怠った瑕疵があり,審決は,特許法159条2項,50条に違反するものと判断する。
 ・・・
拒絶査定の記載内容
 審査官がした平成19年3月5日付け拒絶査定(甲13)の記載内容は,次のとおりである。
「・・・上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図5】や,・・・号公報の【図3】や,・・・号公報の【図5】には,流量計と信号処理回路との間に保護回路を設けることが示されている。また,上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図2】や段落・・・には,信号処理回路の流量計と反対側の回路接続部に,ツェナーバリアユニット等の保護回路を設けることが記載されている。
 よって,拒絶理由通知に対する補正後の請求項45〜50の六発明は,上記公知技術の寄せ集めの域を出ていない。」
・・・

2 判断
 本件では,審決において,本願発明と引用発明との相違点1に係る「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術的構成は,周知技術であり(甲2ないし4),本願発明は周知技術を適用することによって,容易想到であるとの認定,判断を初めて示している

 ところで,審決が,拒絶理由通知又は拒絶査定において示された理由付けを付加又は変更する旨の判断を示すに当たっては,当事者(請求人)に対して意見を述べる機会を付与しなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情がある場合はさておき,そのような事情のない限り,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項,50条)。
 そして,意見書提出の機会を与えなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情が存するか否かは,容易想到性の有無に関する判断であれば,本願発明が容易想到とされるに至る基礎となる技術の位置づけ,重要性,当事者(請求人)が実質的な防御の機会を得ていたかなど諸般の事情を総合的に勘案して,判断すべきである。

上記観点に照らして,検討する。
 本件においては,
@ 本願発明の引用発明の相違点1に係る構成である「・・・」は,出願当初から・・・などと特許請求の範囲に,明示的に記載され,平成19年2月7日付け補正書においても,「・・・」と明示的に記載されていたこと(・・・),
A 本願明細書等の記載によれば,相違点1に係る構成は,本願発明の課題解決手段と結びついた特徴的な構成であるといえること,
B 審決は,引用発明との相違点1として同構成を認定した上,本願発明の同相違点に係る構成は,周知技術を適用することによって容易に想到できると審決において初めて判断していること,
C 相違点1に係る構成が,周知技術であると認定した証拠(甲2ないし4)についても,審決において,初めて原告に示していること,
D 本件全証拠によるも,相違点1に係る構成が,専門技術分野や出願時期を問わず,周知であることが明らかであるとはいえないこと,
E 原告が平成19年2月7日付けで提出した意見書においては,専ら,本願発明と引用発明との間の相違点1を認定していない瑕疵がある旨の反論を述べただけであり,同相違点に係る構成が容易想到でないことについての意見は述べていなかったこと等の事実が存在する。

 上記経緯を総合すると,審決が,相違点1に係る上記構成は周知技術から容易想到であるとする認定及び判断の当否に関して,請求人である原告に対して意見書提出の機会を与えることが不可欠であり,その機会を奪うことは手続の公正及び原告の利益を害する手続上の瑕疵があるというべきである。
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2010年03月14日

明細書の要旨変更の判断事例

事件番号 平成20(ワ)8086
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(1) 明細書の要旨変更について
ア 旧特許法40条は,「願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の設定の登録があつた後に認められたときは,その特許出願は,その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。」と規定するところ,同条にいう「明細書又は図面」の「要旨」(以下,単に「明細書の要旨」という。)とは,特許請求の範囲に記載された技術的事項をいうものと解される。

 そして,
 発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であること(特許法2条1項参照)及び
 平成5年法律第26号による改正前の特許法41条が「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と定めていること
に照らして,その技術的事項の解釈に当たっては,明細書における発明の詳細な説明欄の記載や図面を総合的に考慮すべきである

 また,明細書の要旨が変更されているかどうかを判断するに当たっては,特許請求の範囲の記載の文言上の形式的な対比のみに限定されず,実質的に見て,補正後の特許請求の範囲に記載された技術的事項が,当初明細書に記載された技術的事項の範囲内といえるか否かによって判断すべきものと解される。

・・・

2 争点(2)−イ(要旨変更による出願日繰下げを前提とする新規性及び進歩性の欠如)について
(1) 本件発明の要旨
 発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することかできないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかである等の特段の事情がない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。
 そして,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に照らして,本件発明につき,このような特段の事情があるとは認められないから,本件発明の要旨は,前記第2,1(2)アの特許請求の範囲(下記に再掲する。)に記載されたとおりであると認められる
・・・

(2) 本件公開公報に基づく本件発明の新規性又は進歩性の欠如についてア1で認定したとおり,本件特許出願は,第2回補正の手続補正書が提出された平成9年8月11日にしたものとみなされることから,平成2年5月18日に特許出願公開がされた本件公開公報(乙2の2)は,平成11年法律第41号附則第2条12項により本件発明に適用される同法による改正前の特許法29条1項3号(以下「旧特許法29条1項3号」という。)の「刊行物」に該当することとなる。
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2010年02月27日

特許法44条1項の要件の判断事例

事件番号 平成21(行ケ)10352
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年02月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

 すなわち,特許法44条1項の要件を充足するためには,本件特許発明が,原出願に係る当初明細書,特許請求の範囲及び図面に記載されているか否かを判断すれば足りる
 これに対して,審決は,本件特許発明が,原出願に係る当初明細書,特許請求の範囲及び図面に記載されているか否かを判断するのではなく,審決が限定して認定した「原出願発明構造」と,本件特許発明を対比し,本件特許発明は,「原出願発明構造」における構成中の「底板に側板を連設して形成されていること」が特定されていないことを理由として,本件特許発明が,原出願当初明細書等に記載されていないとの結論を導いた。

 しかし,審決の判断は,
@ 原出願当初明細書等の全体に記載された発明ではなく,「原出願発明構造」に限定したものと対比をしなければならないのか,その合理的な説明がされていないこと,
A 審決が限定的に認定した「原出願発明構造」の「底板に側板を連設して形成されていること」との構成に関して,本件特許発明が特定していないことが,何故,本件特許発明が原出願当初明細書等に記載されていないことを意味するのか,その合理的な説明はない


審決の判断手法及び結論は,妥当性を欠く。
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2010年01月24日

分割要件を満足しないとした事例

事件番号 平成20(行ケ)10276
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年01月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

(2) 取消事由1(分割要件についての判断の誤り)について
ア本件発明1の構成要件(D)の「被覆」について
(ア) 本件発明1の構成要件(D)の「被覆」は,前記(1) の明細書の記載を考慮すれば,あくまでも容器内壁が「フルオロエーテル組成物」によって被覆状態になったということを意味する

 ところで,「被覆」という用語は,一般的な技術用語として捉えると,本件発明の実施例3及び7のような,液状物質で一時的に覆われた「被覆」状態だけでなく,塗料を塗布し,乾燥ないし硬化して恒常的な塗膜とした「被覆」や,予め形成されたシートを貼り付けた「被覆」も包含するものと認められるところ,本件発明では,本件明細書中に「被覆」の具体的な説明や定義もないから,「ルイス酸抑制剤」から形成される「被覆」には,上述のような広範な「被覆」が包含されることとなる

 ところが,前記第3の1(1) ア(イ) において原告が主張するように,原出願明細書等に「被覆」という用語が記載されている箇所は,実施例3に関する段落【0040】及び実施例7に関する段落【0056】だけである。

 このうち,段落【0040】には,・・・,本件発明に係る「被覆」には該当しない実施例というべきであり,本件発明とは関係がないというほかない。

 また,段落【0056】には,・・・,この段落【0056】の記載を前提としても,「被覆」の態様は回転機に2時間掛けるという特殊な態様に限定されている上,「ガラス容器」以外の容器の内壁に「水」以外のルイス酸抑制剤を被覆することは何ら開示されていない。

 このように,段落【0040】及び【0056】に記載されているのはルイス酸抑制剤の一例としての「水」であり,しかも,いずれの場合もセボフルランに溶解していることが前提とされているのであるから,当業者が,出願時の技術常識に照らして,セボフルランに溶解していない水以外のルイス酸抑制剤で容器の内壁を「被覆」することでセボフルランの分解を抑制できるという技術的事項がそこに記載されているのと同然であると理解できるとはいえない

 したがって,原出願明細書等に,「水飽和セボフルランを入れて,ボトルを回転機に約2時間掛けること」という態様の「被覆」以外に,ルイス酸抑制剤の量に応じて,適宜変更可能な各種の態様を含む広い上位概念としての「被覆」が実質的に記載されているとはいえない

 以上のとおり,原出願明細書等には,構成要件(D),すなわち,「該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程」は記載されておらず,その記載から自明であるともいえないから,分割要件を満足するとした審決の判断は誤りである。
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2009年12月30日

要旨変更の判断事例(直接表現されていなくとも自明である技術的事項の判断事例)

事件番号 平成21(行ケ)10131
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

3 本件補正が要旨変更に当たるとの判断の誤りについて
(1) 要旨変更に関する判断基準
 明細書の要旨の変更については,平成5年法律第26号による改正前の特許法41条に「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定されていた。

 上記規定中,「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきところ,

 上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明である技術的事項であれば,特段の事情がない限り,「新たな技術的事項を導入しないものである」と認めるのが相当である。
 そして,そのような「自明である技術的事項」には,
  その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,
  当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができ,
その技術的事項が明細書に記載されているのと同視できるものである場合も含む
と解するのが相当である。

 したがって,本件において,仮に,当初明細書等には,・・・とすることが直接表現されていなかったとしても,それが,出願時に当業者にとって自明である技術的事項であったならば,より具体的には,その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができるものであったならば,本件発明3を追加した本件補正は,要旨変更には該当しないというべきである。そこで,以下,本件補正が上記要件に該当するか否かを検討する。

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2009年12月20日

地震ロック分割出願事件−分割の適法性の判断事例−

事件番号 平成21(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 取消事由2(分割要件違反の判断の誤り)について
(1) 原告は,審決が,「…原出願当初明細書における,図1乃至図4に示された地震時ロック装置,図20に例示された『ロック装置』の位置,及び,図25に例示された『T位置』を組合わせて一つの発明とし,これを原出願から分割して,新たな特許出願(本件特許出願)とすることは,少なくとも,地震時ロック装置の取り付け位置の点で,原出願当初明細書に記載されていない事項を本件特許発明の構成要件として含むものと思量されるから,分割要件に違反するものといわざるをえない。」(19頁25行〜31行)等として,本件特許発明に係る出願は分割要件違反であると判断したのは誤りである旨主張する

ア 本件特許出願の原出願の当初明細書(甲2の8。公開特許公報〔特開平10−30372,甲1〕も同じ。以下「原出願の当初明細書」という。)には,以下の記載がある。
 ・・・

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば,原出願の当初明細書(甲2の8)には,「比較のためのロック装置(従って本発明ではない)」として本件明細書(甲18)の図1〜図4と同内容である図1〜4が示され,そのため図面の説明としても「比較のための地震時ロック装置の断面側面図」,「同上作動状態図」とされている。
 しかし,上記によれば,原出願の当初明細書においては,図18ないし図24の地震時ロック装置においては,取り付け位置として,T,B,S1,S2及びS3位置が選択可能であるとされている(段落【0009】)が,図1〜4で示される比較のための地震時ロック装置については,これをT位置に取り付けることについては記載がされていないということができる。

イ (ア) 一方,本件特許の出願時(原出願からの分割出願時,平成16年6月7日)の明細書(以下「本件当初明細書」という。甲2の15)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
・・・
(イ) また,本件当初明細書(甲2の15)の図面には,・・・。
・・・

ウ 上記イのとおり,本件特許出願にかかる本件当初明細書(甲2の15)においては,図1〜図4で示されるロック装置をT位置に取り付けるものとされているところ,上記ア(エ)において検討したとおり,原出願の当初明細書(甲2の8)には,本件当初明細書と同一の図1〜図4で示される「比較のための地震時ロック装置」については,これをT位置に取り付けることについて,記載がされていなかったものである。

 そうすると,本件特許出願は,原出願の当初明細書には記載されていない本件特許発明1に係るロック装置をT位置に取り付ける事項を含むものであるから,特許法44条1項に規定する適法な分割出願とすることはできない。そうすると,本件特許出願について,本件分割前の原出願の出願日(平成8年5月27日)への遡及を認めることは出来ず,その基準時は本件特許の出願日(分割出願の日)である平成16年6月7日となる。

<同一特許の侵害訴訟控訴審>
平成21年12月10日 平成21(ネ)10040 裁判長裁判官 中野哲弘
非侵害かつ権利乱用の抗弁成立(審決取消訴訟と同趣旨)

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複数引用例から主引用例を選択した審決の手続違背の有無

事件番号 平成20(行ケ)10492
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 審査段階における実質的な拒絶理由通知の有無
 上記(1)のとおり,本件拒絶理由通知は,本件補正前の請求項1に係る発明が,審決引用例を含む6つの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを拒絶の理由とするものであった。

 これに対し,原告は
  本件拒絶理由通知書発送の日の約半年後に,主として「テンプレート・マッチング」に係る本件補正を行った上,同補正の日に提出した本件意見書において,これらの刊行物のそれぞれにつきその開示内容を摘示した上,いずれの刊行物にも本願発明の構成(テンプレート・マッチング)についての記載又は示唆がないから,本願発明は,これらの刊行物のいずれか1つに記載された事項に基づいた場合であっても,また,これらの刊行物に記載された事項を組み合わせた場合であっても,当業者が容易に発明をすることができたものではないなどの意見を述べ

  さらに,本件拒絶理由通知書の発送の日の約1年4か月後に提出した本件審判請求理由書においても,審決周知例に係る主張を付加するほかは,本件意見書に記載した意見と同旨の主張を繰り返すなどしたというのであるから,
 当業者である原告は,本件拒絶理由通知に対する意見書の提出期間内に,審決引用例に記載された発明の内容並びに本願発明と審決引用例に記載された発明との一致点及び相違点について十分検討し,また,当該相違点に係る構成の容易想到性に関しても,周知事項等に係る上記(1)アの記載をも参考にしながら,この点について十分検討した上,これらの各点についての反論を行うための十分な機会を与えられたものと認めるのが相当である。

 そうすると,本件拒絶理由通知は,本件補正前の請求項1に係る発明が審決引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを理由とするものとして,適法な拒絶理由の通知であったというべきであるから,審査段階において拒絶理由の通知が実質的にされていないとの原告の主張を採用することはできない。


<最近の事例>
平成21年11月18日 平成20(行ケ)10469 塚原朋一裁判長
拒絶理由に摘示されていない周知技術等を用いることが許容された事例

平成21年09月16日 平成20(行ケ)10433 塚原朋一裁判長
本願発明の重要部分に対応する引用例の解釈を変更した審決を違法とした事例
周知技術の引用が特許法50条に反するとした事例

平成21年04月27日 平成20(行ケ)10206 飯村敏明裁判長
通知されていない予備的な拒絶理由
(拒絶査定中の指摘も拒絶理由としている。)
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2009年11月23日

拒絶理由に摘示されていない周知技術等を用いることが許容された事例

事件番号 平成20(行ケ)10469
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年11月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一


4 取消事由4(手続違背)について
(1) 原告は,審決においては,引用例に記載のない「方位の補正」以降の構成につき,周知例1及び2(甲2及び3)をもって補っており,これらを実質的な引用文献として用いているところ,これらを引用する拒絶理由通知はされておらず,審査の過程でも引用文献として挙げられていないから,審決は,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する旨主張するので,以下,検討する。

(2) 審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならず(特許法50条本文参照),同法50条の規定は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する(同法159条2項参照)とされている。
 そして,拒絶理由のうちでも,特に新規性や進歩性については,出願時における周知技術,慣用技術等を考慮することが必要となる場合が多く,拒絶理由の通知に当たって,その基本的な理由(引用文献等)とともに,上記周知技術等をも併せて通知されることも少なくない。
 しかし,拒絶理由に摘示されていない周知技術等であっても,容易想到性の認定判断において,拒絶理由を構成する引用発明の認定や容易性の判断の過程で補助的に用いる場合,あるいは関係する技術分野で周知性が高く技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合であれば,許容されるというべきである。

(3) 審決は,・・・。

(4) 以上のとおり,そもそも,「GPSデータを採用する場合,採用される情報に『位置』の情報が含まれること」は,出願時における周知技術であったといえる上,引用例の記載からも,この点につき読み取ることが可能であるから,この点につき拒絶理由の中で摘示されていなかったとしても,これは,容易性の判断の過程で補助的に用いる場合であり,関係する技術分野で周知性が高く技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合に該当するといえる
 したがって,審査,審判段階で,この点につき拒絶理由通知がされなかったとしても,本件は,当該周知技術を用いることが許される場合に該当するから,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反しないものであり,この点に関する原告の主張は理由がない。
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2009年10月31日

必須の構成を発明特定事項から削除した分割出願

事件番号 平成21(行ケ)10049
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願の要件の認定判断の誤り)
 原告は,分割出願に際して本件原出願明細書から削除された構成である「本件連結材」は,細断機の作動時にも非作動時(揺動側壁の開放時)にも,細断機として必要な剛性を確保する上で不可欠な構成要素ではなく,その削除は,新たな技術的意義を追加するものでもないし,当業者であれば,本件原出願明細書において「本件連結材」を有しない発明が記載され,又は「本件連結材」が任意の付加的事項であることが記載されているのも同然であると理解することができるから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり,分割出願の要件を充足する,よって,分割出願の要件を欠くとした審決は,分割出願の要件に係る認定判断を誤ったものであり,違法なものとして取り消されるべきである旨主張する。
 しかし,原告の上記主張は,以下に述べるとおり,理由がない。

(1) 事実認定
 本件原出願明細書(甲2)の【特許請求の範囲】においては,出願に係る細断機が「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」を有する構成が記載されている。また,本件原出願明細書の【発明の詳細な説明】においても,
「【発明の目的】本発明は,メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供することを目的とするものである。」(段落【0002】)
と記載されるとともに,
「【発明の効果】・・・請求項1の発明によれば,前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。また,2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。更に,2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」(段落【0004】)
と記載されている
。さらに,【発明の実施の形態】を説明した【図3】,【図5】及び【図7】においても,「本件連結材」が明確に示されている(別紙「本件原出願明細書図面」【図3】,【図5】及び【図7】の符号12参照)。

(2) 判断
 以上のとおり,本件原出願明細書には,発明の目的を「メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供すること」とし,具体的には「前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。」,また,「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。」,更に,「2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」発明が記載,開示されている。
 そうすると,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」(本件連結材)は,細断機の剛性を大きくするという発明の解決課題を達成するための必須の構成であり,本件原出願明細書には,同構成を有する発明のみが開示されており,同構成を具備しない発明についての記載,開示は全くなく,また,自明であるともいえない

 したがって,本件原出願明細書の特許請求の範囲に記載された,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」との記載部分を本件原出願明細書の「特許請求の範囲」の記載から削除したことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することを意味するから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たしていないから,不適法である。
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2009年09月20日

周知技術の引用が特許法50条に反するとした事例

事件番号 平成20(行ケ)10433
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

ウ さらに,審決は,拒絶理由通知においてなんら摘示されなかった公知技術(周知例1及び2)を用い,単にそれが周知技術であるという理由だけで,拒絶理由を構成していなくとも,特許法29条1,2項にいういわゆる引用発明の一つになり得るものと解しているかのようである。

 すなわち,審決は,相違点1について,・・・,相違点1に係る本願発明の発明特定事項は周知である。」と説示し,また,相違点2についても,・・・,相違点2に係る本願発明のように時間及び深さを決定することは,周知例1及び周知例3の周知技術2を勘案すれば,適宜なし得る設計的事項に過ぎないものである。」,そして,「本願発明は,引用発明,周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明することができたものである」という説示をしているが,誤りである。

 被告主張のように周知技術1及び2が著名な発明として周知であるとしても,周知技術であるというだけで,拒絶理由に摘示されていなくとも,同法29条1,2項の引用発明として用いることができるといえないことは,同法29条1,2項及び50条の解釈上明らかである。

 確かに,拒絶理由に摘示されていない周知技術であっても,例外的に同法29条2項の容易想到性の認定判断の中で許容されることがあるが,それは,拒絶理由を構成する引用発明の認定上の微修整や,容易性の判断の過程で補助的に用いる場合,ないし関係する技術分野で周知性が高く技術の理解の上で当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合に限られるのであって,周知技術でありさえすれば,拒絶理由に摘示されていなくても当然に引用できるわけではない。

 被告の主張する周知技術は,著名であり,多くの関係者に知れ渡っていることが想像されるが,本件の容易想到性の認定判断の手続で重要な役割を果たすものであることにかんがみれば,単なる引用発明の認定上の微修整,容易想到性の判断の過程で補助的に用いる場合ないし当然又は暗黙の前提となる知識として用いる場合にあたるということはできないから,本件において,容易想到性を肯定する判断要素になり得るということはできない。
・・・

エ 以上により,審決には,上述のいずれについても,特許法159条2項で準用する同法50条に反する違法がある。
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2008年10月05日

拒絶理由の形式で通知されていない引用例(防御権行使の機会の有無)

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=07&hanreiNo=36848&hanreiKbn=06
事件番号 平成19(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


1 特許法159条2項に違反する手続の誤り(取消事由1)について
(1) 特許法は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合には,拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない旨を規定する(同法159条2項,50条)。

 同法159条2項の趣旨は,審判官が,新たな事由により出願を拒絶すべき旨の判断をしようとするときは,あらかじめその理由を出願人(拒絶査定不服審判請求人)に通知して,弁明ないし補正の機会を与えるためであるから,審判官が拒絶理由を通知しないことが手続の違法を来すか否かは,手続の過程,拒絶の理由の内容等に照らして,拒絶理由の通知をしなかったことが出願人(拒絶査定不服審判請求人)の防御権行使の機会を奪い,利益の保護に欠けるか否かの観点から判断すべきである

・・・

ク まとめ
上記の手続過程の要点は,以下のとおり整理することができる。すなわち,
(ア) 本願発明の進歩性に関し,原告は,平成17年5月9日付け手続補正(甲6,甲9)の段階から,アンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具えることが進歩性を基礎付ける旨の主張をしていた(前記(2)イ,ウ)。

(イ) 平成18年3月29日付け拒絶査定(甲10)において,連結部材を円周方向に不連続な複数の円弧状部にすることが従来周知の技術手段であることを示すものとして引用例2(甲2)が挙げられ,連結部材においてアンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具えるという,引用発明2の「突出部材32」,「空間33」,「フック部34」に対応する構成について具体的な指摘がなされた(前記(2)エ)。

(ウ) 原告は,平成18年5月19日付け審判請求書(甲11)において,引用例2について・・・本願発明の如き周方向連続壁を開示するものではないと主張した(前記(2)オ)。

(3) 判断
 上記認定した事実に基づき,審判官が,拒絶理由の通知をしなかったことが原告の防御権行使の機会を奪い,利益の保護に欠けるか否かを判断する。
 前記(2)ク(ア)ないし(ウ)によれば,拒絶査定の理由の実質的な内容は,
@ 本願発明と甲1記載の引用発明1との間に,「・・・」という相違点(審決で認定されたのと同様の相違点(前記第2,3(2)ウ))があること,
A その相違点に係る構成は,甲1記載の引用発明1に,引用例2(甲2)や特開昭63−68159号公報に記載されている周知技術(引用例2に記載された「フツク部34」に係る構造)を適用することにより容易に想到し得ること,であったものと認められる。

 そして,原告は,拒絶査定の理由の実質的な内容が上記のとおりであることを認識した上で,引用例2(甲2)に記載された「フツク部34」と「突出部材32」を検討し,審判請求書(甲11)において,甲2記載の引用発明2と本願発明が相違するという趣旨の反論をしたものと認められる。

 そうすると,当業者が本願発明を引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明することができたという理由が拒絶理由通知等の形式により通知されていないとしても,原告は,拒絶査定によって,その実質的な理由を認識し,それについて具体的に検討した上で反論,補正を行っていると認められるから,出願人である原告の防御権行使の機会を奪うことはなく,その利益保護に欠けることはないと解される。

 したがって,審判官が,当業者が本願発明を引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明することができたという理由を通知しなかったとしても,それが手続の誤りとして違法となることはないというべきである。
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2008年09月21日

拒絶査定の「備考」で言及しない請求項の拒絶審決の手続違背の有無

事件番号 平成19(行ケ)10340
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 取消事由1(意見書提出の機会が与えられなかった手続上の違反)について
 原告は,本件拒絶査定には,請求項1が容易想到であるとの判断のみ記載され,請求項31についての判断は記載されていなかったから,本件の審判手続において,請求項31に関する拒絶理由通知を発するべきであるにもかかわらず,そのような手続をしなかった点において,審判には,意見書及び補正書の提出の機会を与えなかった手続上の瑕疵があり,審決は違法であると主張する
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。
・・・


(2) 判断
 上記認定した手続経緯に基づいて判断する。
 拒絶理由通知においては,その「理由1」において,「請求項1−5,9−15,17−20,24−33について」と明示しているのであるから,審査官が,出願時の請求項31に係る発明について,「理由1」に記載した拒絶理由が存在する旨を通知したことは明らかである

 原告は,請求項31に係る発明についても,同拒絶理由に対して,補正と意見書を提出しているのであるから,拒絶理由に,いかなる請求項に対する拒絶理由を示したかについて,不明確な点はない。

 次に,拒絶査定においては,「この出願については,平成16年4月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」と明示しているのであるから,審査官が,請求項31に係る発明についても,拒絶理由通知(「理由1」)と同一の拒絶理由が存在すると判断したことは明らかであり,拒絶査定には,いかなる請求項に対する拒絶理由を示したかについて不明確な点はない

 この点,拒絶査定では,「備考」として,原告が意見書に記載した点のうち,特に「引用文献1には,・・・請求項1記載の発明の特徴点が記載も示唆もされていない・・・」との主張に対して,上記の拒絶理由で指摘した引用文献1,引用文献2を根拠として,原告の述べた意見書の主張が失当である理由を具体的に記載することによって,原告の主張を排斥している
 しかし,拒絶理由において,このような判断内容が「備考」欄において記載されたからといって,その体裁,内容に照らして,拒絶査定の理由が,請求項1に対する拒絶理由に限定され,他の請求項に対する拒絶理由が解消されたと読まれる合理的な根拠はない
すなわち,拒絶査定の備考欄の記載は,「初期値から1組の疑似ランダムパターンを生成する」「動作の決定論的段階において,テスタから1組の圧縮された決定論的テストパターンを供給する」(判決注下線部は補正箇所)などとの事項を補正した請求項1についてもなおかつ拒絶理由通知に記載された「理由1」と同じ拒絶の理由が存在し,これにより拒絶されるべきものであるとの判断を示したものと理解するのが自然であるから,そのような判断が備考欄に追加付記されたことによって,その余の請求項についての拒絶理由が解消したと理解される余地はない。)。

 のみならず,原告は,審判手続において,請求項31を含む他の請求項13,17,33について,補正をし,各請求項について,進歩性について意見を述べているのであって,原告自身も,拒絶理由が請求項1に限られたものでないと理解していたことが推認される

 以上の経緯に照らすならば,審判手続において,意見書等提出の機会を与えなかったために,実質的に原告の利益保護を欠いたとする手続違背はない。
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