2013年02月11日

未承認国の国籍を有する者のPCTに基づく国際出願の特許を受ける権利の承継

事件番号 平成23(行コ)10004
事件名 手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治

1 事案の概要
 北朝鮮に居住する北朝鮮国籍を有するAらがPCTに基づいて行った本件国際出願について,Aらから本件発明に係る日本における一切の権利を譲り受けた原告が,日本の特許庁長官に対して国内書面等を提出したところ,特許庁長官から,本件国際出願は日本がPCTの締約国と認めていない北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされたものであることを理由に,本件手続却下処分を受けたため,原告は,原審において,被告に対し,同処分の取消しを求めて訴えを提起した。
 原審は,本件手続却下処分に取消事由はないと判断し,原告の請求をいずれも棄却した。
 参加人は,原告から本件発明に係る特許出願に関する権利と共に本件訴訟を追行する地位を譲り受けたと主張して,被告を相手方として本件訴訟手続に承継参加するとともに,控訴を提起した。当審における手続中に,原告は訴訟手続から脱退したため,原告,被告間の訴訟は終了し,原告,被告間の訴訟につき言い渡された原審の判決は当然に失効した。
 ・・・
第3 当裁判所の判断
 ・・・
(2) 特許を受ける権利の特定承継は,特許出願前においては,当事者間の合意のみでその効力が生じ,承継人による特許出願が第三者に対する対抗要件とされているのに対し,特許出願後においては,特許庁長官への届出を要する旨規定されている(特許法34条1項,4項)。
 本件において,本件発明に係る特許を受ける権利の承継について,特許庁長官への届出がされた事実はない(弁論の全趣旨)。しかし,本件は,
@ 本件国際出願により,我が国においてその国際出願日に特許出願がされたとみなすことができるか否かが主要な争点であり,
A 特許庁長官の主張を前提とするならば,仮に,本件発明に係る特許を受ける権利の承継に係る届出がされたとしても,本件書面と同様の理由によって,手続却下がされることが明らかな場合
である


 このような場合においては,承継に係る届出がされたとの事実がなくとも,本件発明に係る特許出願に関する権利及び本件訴訟を追行する地位を,原告から譲り受ける旨の合意をした参加人は,本件手続却下処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有すると解するのが相当である。
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2012年12月16日

発明者の認定事例

事件番号 平成21(ワ)33931
事件名 発明対価等請求事件
裁判年月日 平成24年11月22日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 志賀勝,裁判官 小川逸
特許法35条

イ 発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうところ(特許法2条1項),特許を受ける権利を原始的に取得する発明者とは,特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担した者をいうと解するのが相当である。
・・・
(イ) そして,前記ア認定の事実によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の「・・・A・・・」する構成,同請求項2の「・・・B・・・」との構成は,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれも原告やG等の研究によって公知であったものであり,また,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の芯材「の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設け」る構成,同請求項2の「複数の強化用繊維を混合粉末流動層に導入して,各強化用繊維間に混合粉末が包含された芯材を形成し,次いで該芯材を熱可塑性樹脂で被覆して芯材の周囲に柔軟なスリーブを設ける」との構成も,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれもアトケム発明の出願公開によって公知であったものである。

(ウ) 以上によれば,本件発明に係る技術的思想の特徴的部分は,前記の両公知技術を組み合わせたところにあるものと認められる。前記ア認定の事実によれば,この組合せを着想し,試作によってC/C複合材料用のプリフォームドヤーンを製作する見通しを付けたのは,被告Bだけであるから,被告Bが本件発明の発明者であり,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認められない
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2012年10月08日

特許を受ける権利の発生時点、従業員の退職と特許を受ける権利の帰属

事件番号 平成23(ワ)40316
事件名 職務発明の再譲渡請求事件
裁判年月日 平成24年09月12日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏、森川さつき
特許法35条

1 争点(1)(原告は,本件発明につき特許を受ける権利を有するか。)につい
て。
 ・・・
(3) この点に関し,原告は,特許庁における特許権設定登録前の時点においては,特許を受ける権利の承継予約が可能であるにすぎず,発明者である従業者が会社都合により退職した時点で上記承継予約は無効となる旨主張する。

 しかし,特許を受ける権利は,当該発明の完成と同時に発生し,当該発明の発明者に原始的に帰属するものであって,使用者等は,その発明が職務発明である場合には,契約や勤務規則その他の定めにより,予め,当該発明につき特許を受ける権利が使用者等に承継される旨を定めることができると解されるところ,本件において,沖電気が,「従業員等の発明取扱規程」において,職務発明につき特許を受ける権利を承継する旨定めていること及び本件発明につき特許を受ける権利が,上記定めに従い,原告から沖電気に承継されたことは前記(1)及び(2)でみたとおりである。本件発明につき特許を受ける権利の譲渡(承継)は,上記時点で完了しているものと解されるのであって,特許法35条の趣旨を考慮しても,上記譲渡(承継)が,発明者の退職によって無効となるものと解することはできない
 ・・・

2 争点(2)(不法行為の成否及び損害額)について
(1) 争点(1)に関する当裁判所の判断のとおり,本件発明につき特許を受ける権利は,原告から沖電気に有効に譲渡されたものと認められるところ,前記前提事実(2)カのとおり,被告は,沖電気から本件発明につき特許を受ける権利を承継し,特許庁に出願人名義変更届を提出したものであり,これにより,本件発明につき特許を受ける権利及び特許出願人たる地位は,被告に帰属したものと認められる。

 そうすると,被告は,本件発明に関し特許を受ける権利の権利者として,その管理処分を任意に行うことができるものというべきであり,特許法35条等の趣旨を勘案しても,被告が,その従業員の退職に当たり,当該従業員の職務発明につき,特許を受ける権利を返還したり,当該従業員を出願手続に関与させたりするべき義務は認められず,また,この点に関する定めを就業規則におくべき義務が被告にあるものとも認められない
 そうすると,被告の就業規則に原告の主張するような不備は認められず,また,本件発明の特許出願手続における前置報告書,審尋,拒絶理由通知書等を通読させ,これらにつき意見を述べる機会を設けなかったとしても,原告との関係で,違法性を有するものとは認められない。
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2011年05月04日

支払時期の規定がない場合の補償金請求権の消滅時効の起算点

事件番号 平成21(ワ)26849
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成23年04月21日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大鷹一郎

(1) 消滅時効の完成の有無
ア 原告の本件発明1に係る相当の対価の請求は,沖電線が本件特許権1の上記設定登録日から上記存続期間満了日までの間被告の許諾により本件発明1を実施したことに基づく実施料相当額をもって被告が本件発明1により受けるべき利益(特許法旧35条4項)であると主張するものであるから,被告各規程の定める実績補償に係る相当の対価を請求するものということができる。そして,実績補償に関しては,平成2年被告規程2が適用される。

 ところで,従業者等は,勤務規則等により,職務発明についての特許を受ける権利を使用者等に承継させたときは,相当の対価の支払を受ける権利を取得し(特許法旧35条3項),その対価の額については,特許法旧35条4項により勤務規則等による額が同項により算定される額に満たないときは算定される額に修正されるが,その対価の支払時期については,そのような規定はない
 そうすると,勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきであるから,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となり(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決民集57巻4号477頁参照),また,勤務規則等にそのような条項がない場合には,勤務規則等により支払うべき対価が発生したときが相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である。

イ 被告は,平成2年被告規程2の12条1項は,実績補償の支払時期について,実績補償の請求権を特許権の権利満了までの5年ごとに分割し,それぞれの期間の経過をもって支払時期が到来することを定めたものであり,・・・,最終期間の終期の翌日である平成8年9月30日が本件発明1に係る相当対価請求権の消滅時効の起算日となるものであるが,上記起算日から既に10年の時効期間が経過しているから,原告が主張する本件発明1に係る相当対価請求権はすべて消滅時効が完成している旨主張する。
・・・
 以上の諸点と本件特許権1が平成7年9月10日に存続期間満了により消滅していることを総合考慮すると,本件発明1に係る実績補償請求権の5年ごとの区分の最終期間に対応する支払時期は,遅くとも,被告が主張する平成8年9月30日までに到来していたものと認めるのが相当である。
 そうすると,原告主張の本件発明1に係る相当対価請求権(実績補償請求権に係る部分)の消滅時効の起算点は,上記の平成8年9月30日と解されるから,上記相当対価請求権は,同日から10年を経た平成18年9月30日の経過により消滅時効が完成したものと認められる。
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2011年02月20日

超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法

事件番号 平成20(ワ)22178
事件名 特許権承継対価請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


(1) 原告らは,被告は,・・・,本件各発明について,他社に実施許諾をせずに,自社で独占実施(自己実施)してきたところ,被告の本件エアコンの売上高のうち,本件熱交換器に係る部分には,被告が法定通常実施権(特許法35条1項)に基づく実施を超えて本件各特許権に基づいて独占的に売り上げることができた超過売上高が含まれており,その超過売上高に係る実施料相当分(想定実施料)が,「独占の利益」すなわち特許法旧35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益」に当たるといえるから,特許法旧35条3項,4項の規定に従って定められる本件各発明に係る相当の対価は,(本件エアコンの売上総額)×(本件エアコンにおける本件各発明の寄与度)×(超過売上高の合)×(想定実施料率)×(1−被告の貢献度)の算定式(原告算定式)によって算定すべきである旨主張する
 ・・・
 この「超過利益」の額は,従業者等が第三者に当該発明の実施許諾をしていたと想定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられるので,超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法にも合理性があるものと解される。
 したがって,本件においては,原告らが主張するように,超過売上高を認定し,その部分に係る利益(独占の利益)をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」とし,これと被告の貢献の程度(「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度)を考慮して相当の対価の額を認定することは許されるものと解される。
 ・・・
(2) 本件各発明の技術的優位性の有無
エ ・・・,競合他社は,熱交換器のフィンパターンに関し,本件各発明の代替技術を有していたものと認められるところ,本件においては,本件各発明がこれらの代替技術よりも熱交換効率の向上その他の効果等の点において技術的に優位であったことを認めるに足りる証拠はない

(3) 本件各発明を実施したエアコン製品の市場における優位性の有無
 ・・・
(ア) 被告のエアコン製品の市場シェアについて
 ・・・
c 以上によれば,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,被告のエアコン製品の市場シェアの増加をもたらしたものと認めることはできない。また,被告のエアコン製品の市場シェアの各数値に照らしても,本件各発明を実施した被告のエアコン製品が市場を独占しているような状況や競合他社を凌ぐような状況にあったものとは認めがたい。
 したがって,被告のエアコン製品の市場シェアから,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,エアコン製品の市場における優位性を獲得したものということはできない
 ・・・
(イ) 被告のエアコン製品の売上げ及び利益の増加について
 原告らは,本件各発明を実施したことにより,熱交換器,ひいてはエアコン全体が従来の製品より大きく性能が向上し,被告が本件各発明を実施したエアコン製品(本件エアコン)を市場に投入してから,被告の売上高及び利益が増加し,エアコン製品の市場における優位性を獲得した旨主張する。
 しかしながら,超過売上高の有無を判断するに当たっては,自社の従来製品との性能との比較ではなく,あくまで競合他社と比較した場合の優位性が問題となるというべきであり,また,売上高及び利益の増減には,市場規模全体の増減も影響することに鑑みると,競合他社との優位性の比較は,結局のところ市場シェアの割合に反映されるものと解される。
 そして,被告のエアコン製品が市場シェアにおいて優位性が認められないことは前記(ア)のとおりであるから,原告らの主張は,その主張自体採用することができない。
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2010年09月12日

開放的ライセンスポリシーを採用し、複数の代替技術が存在しても超過利益はあるとした事例

事件番号 平成20(ネ)10082
事件名 職務発明対価請求控訴事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

2 独占の利益の有無について
(1) ア 勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払いを求めることができると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第3小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。

 そして,使用者等が,職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも,当該特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことからすると,同条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体をいうのではなく,その全体の額から,通常実施権の実施によって得られる利益の額を控除した残額(本判決も便宜上これを「独占の利益」,「超過利益」などということとする。)と解すべきである。
 また,改正前特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的 実施による利益を得た後の時点において,これらの独占的実施による利益をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として当然に想定されているものと解される。

イ 本件では,被控訴人は,少なくとも競業他社の一部に対し,本件各特許の実施を許諾しているものと認められるところ,控訴人は,被控訴人が本件各特許を自ら実施しているとして,それによって得た利益を相当対価算定の根拠として主張している。このような場合,使用者等が,当該特許権を有していることに基づき,実施許諾を受けている者以外の競業他社が実施品を製造,販売等することを禁止することによって得ることができたと認められる収益分をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」というべきである。

ウ 使用者が被用者から譲り受けた特許発明の実施につき,実施許諾を得ていない競業他社に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当該特許権の保有と競業他社の排除との間に因果関係が認められる必要があるところ,その存否については,
@ 特許権者が当該特許につき有償実施許諾を求める者には,すべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,又は特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,
A 当該特許の実施許諾を得ていない競業他社が一定割合で存在する場合でも,当該競業他社が当該特許発明に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,
B 包括ライセンス契約又は包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに, 
C 特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別の時期に,他の代替技術も実施しているか等
の一切の事情を考慮して判断すべきである。

 ところで,当該特許発明の価値が非常に低く,これを使用する者が全く想定し得ない場合や,代替技術が非常に多数あるため,市場全体からみて当該特許の存在が無視できるような特段の事情がある場合を除き,単に開放的ライセンスポリシーが採られており,当該特許発明と同等の代替技術が存在するというだけでは,程度の差はともかく,依然として当該特許発明を譲り受けた使用者に「超過利益」はあるというべきである。

 また,ある市場において,当該特許発明のほか,代替技術となり得る複数の技術が存在する場合,技術の優劣等の格別の事情が認められなければ,原則として同市場に占める当該特許発明の割合に応じた「超過利益」が認められるというべきである。ちなみに,当該要証事実の性質等によっては,当該特許発明と代替技術との優劣を的確に判断することは,技術内容や市場原理等に対する理解の難しさもあって,困難を極める認定問題であり,安易に立証責任の所在を定めて,悉無律によって決することは,不公正な結果を招来しやすくし,妥当ではない

 なお,企業は,経済的に自己の利益を最大化することを目指して行動するものであって,各企業が,当該特許発明を自社実施するか,一部又は全部を他社に実施許諾するかは,利益最大化のための手段として,最良の選択か否かの問題にすぎない。

 そうであれば,自社実施の場合であっても,それによる利益の一定部分は「超過利益」に該当するものと解すべきである。

<原審>
事件番号 平成19(ワ)10469
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

 以上検討したところによれば,被告は,本件各特許につき,開放的ライセンスポリシーを採用していたこと,本件各発明の代替技術が存在し,両者の間に作用効果等の面で顕著な差異が存在すると認めることができないこと,クロスライセンス契約の相手方が,本件各発明を実施しているとは認められないこと,被告自身も本件各発明の代替技術を実施していたこと等を総合考慮すると,被告の競業他者が本件各発明を実施していないことが本件各特許の禁止権に基づくものであるという因果関係を認めることはできない。
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2010年08月01日

旧35条の補償金請求に新35条の論理で抗弁した事例

事件番号 平成18(ワ)27879
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成22年07月08日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

1 争点1(被告取扱規程に基づいて支払われた対価額を超える対価請求の可否)について
(1) 被告は,
@ 被告取扱規程は,特許法旧35条3項,4項の趣旨及び内容に照らして,勤務規則として合理性を有し,原告に対する法的拘束力を有している,
A 被告取扱規程に基づく本件発明の実績に対する対価及び優秀社長賞の決定は,実質かつ慎重な審理を経て行われ,手続面及び実体面からみて相当性を有している
として,
原告は,被告取扱規程に基づいて被告が支払った本件発明の特許を受ける権利の承継に係る対価額を超えて対価を請求することはできない旨主張する


 ところで,特許法旧35条3項は,「・・・。」と規定し,同条4項は,「前項の対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」と規定している。

 これらの規定によれば,特許法旧35条3項の相当の対価の額は,同条4項の趣旨・内容に合致するものでなければならないというべきであるから,勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が同条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁(オリンパス事件最高裁判決)参照)。

 これを本件についてみるに,前記争いのない事実等によれば,被告取扱規程は,被告と被告の従業員が組織する労働組合であるキヤノン労働組合との間で締結された労働協約における労使協議会の協議事項とする旨の規定あるいは委任規定に基づいて,労使協議を経て,被告によって制定及び改正されてきたものであるから,被告取扱規程は,特許法旧35条3項の「契約,勤務規則その他の定」にいう「勤務規則」に当たものと解される。

 しかるに,「勤務規則」により定められた対価の額が特許法旧35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができることは上記のとおりである。
 また,仮に被告が主張するように被告取扱規程に基づく本件発明の実績に対する対価及び優秀社長賞の決定が実質かつ慎重な審理を経て行われたとしても,そのことから直ちに被告が支払った対価額が特許法旧35条4項の規定に従って具体的に算定される対価の額に合致するということはできない

 したがって,・・・,原告は被告が支払った上記対価額を超えて対価を請求することはできない旨の被告の上記主張は,理由がない。

(2) これに対し被告は,オリンパス事件最高裁判決は,職務発明規程が,使用者等によって「一方的に」定められ,かつ,「いまだ職務発明がされておらず,承継されるべき特許を受ける権利等の内容や価値が具体化する前に,あらかじめ対価の額を確定的に定め」ていた場合において不足額請求を認めた事案であるのに対し,
 被告取扱規程は労働協約に依拠して労使協議の上制定・改正されたものである点,
 被告取扱規程においては職務発明が「実績により会社に貢献したと認められ」て初めて「実績対価」の額が決定され,対価の上限額が設けられておらず,かつ,異議申出と再評価申請の権利が発明者に与えられている点
において,本件は,オリンパス事件最高裁判決と事案を著しく異にするから,同最高裁判決の射程範囲外であって,同最高裁判決は本件に適用されるべきではない旨主張する


 そこで検討するに,オリンパス事件最高裁判決中には,「いまだ職務発明がされておらず,承継されるべき特許を受ける権利等の内容や価値が具体化する前に,あらかじめ対価の額を確定的に定めることができないことは明らかであって」と判示する部分があるが,この部分は,職務発明がされる前に対価の額を確定的に定めることができないとの一般的な事情を述べて,勤務規則等により定められた対価の額が特許法旧35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,その不足額を請求することができることの理由としたものであって,不足額を請求することができる場合の要件を判示したものではないものと解される。

 したがって,本件はオリンパス事件最高裁判決の射程範囲外である旨の被告の上記主張は,採用することができない。
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2010年02月07日

超過利益の算定方法

事件番号 平成20(ワ)14681
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成22年01月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

第3 当裁判所の判断
1 旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」について旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることのできる独占的実施による利益をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的実施による利益を得た後の時点において,その独占的実施による利益の実績をみて法的独占権に由来する利益の額を事後的に認定することも,同条項の文言解釈として許容されると解される。

 また,使用者等は,職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継することがなくても当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有することにかんがみれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,自己実施の場合には,単に使用者が有する通常実施権(法定通常実施権)に基づいて得るべき利益をいうものではなく,これを超えて,使用者が従業員等から特許を受ける権利を承継し,その結果特許を受けて発明の実施を排他的に独占し又は独占し得ることによって得られる独占の利益と解すべきである。
 そして,ここでいう「独占の利益」とは,自己実施の場合には,他者に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が上げた利益,すなわち,他者に対する禁止権の効果として,他者に許諾していた場合に予想される売上高と比較してこれを上回る売上高(以下,この差額を「超過売上高」という。)を得たことに基づく利益(以下「超過利益」という。)が,これに該当するものである。

 この超過利益については,超過売上高に対する利益率なるものが認定困難である一方,その額は,仮に本件特許発明を他者に実施許諾した場合に第三者が当該超過売上高の売上げを得たと仮定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられることからすると,超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法によることが許されるものと解される。
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2009年03月15日

包括クロスライセンス契約と利益の額の算定方式

事件番号 平成19(ネ)10021
事件名 補償金請求控訴事件
裁判年月日 平成21年02月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


5 争点3−1(一審被告の包括クロスライセンス契約と利益の額の算定方式)
について
(1) 総説
ア ライセンス契約により得た利益の額
 特許権者が単数の特許について競業他社とライセンス契約を締結した場合,当該契約により得られる実施料収入は,当該特許に基づいて使用者が得る独占の利益であるというべきであるから,これを旧35条4項の「その発明により使用者が得ることができる利益の額」とみることができる。
 また,複数の特許発明が単一のライセンス契約(実施許諾)の対象となっている場合には,当該発明により「使用者が受けるべき利益の額」を算定するに当たっては,当該発明が当該ライセンス契約締結に寄与した程度を考慮すべきである。

イ 包括クロスライセンス契約により得た利益の額
 包括クロスライセンス契約は,当事者双方が多数の特許発明等の実施を相互に許諾し合う契約であるから,当該契約において,一方当事者が自己の保有する特許発明等の実施を相手方に許諾することによって得るべき利益とは,相手方が保有する複数の特許発明等を無償で実施することができること,すなわち,相手方に本来支払うべきであった実施料の支払義務を免れることであると解することができる。
 したがって,包括クロスライセンス契約においては,相互に無償で実施を許諾する特許発明等とそれが均衡しないときに支払われる実施料の額が総体として相互に均衡すると考えて契約を締結したと考えるのが合理的であるから,相手方が自己の特許発明を実施することにより,本来,相手方から支払を受けるべきであった実施料の額及び相手方から現実に支払われた実施料の額の合計額を基準として算定することも許されると解される。

(2) エレクトロニクス業界における包括クロスライセンス契約
ア エレクトロニクス業界における包括クロスライセンス契約の意義
 エレクトロニクスの分野においては,一つの製品に数千にも及ぶ技術が使用されていることもまれではなく,個々の特許権を個別に行使することはその侵害の有無の調査においても,多大なコストを要する。また,個々の特許権を個別に行使することとなれば,関係各社が自社の特許をそれぞれ行使し合う結果となり,社会全体としてみると,製品化が事実上不可能となる。
 したがって,お互いの特許権をまとめて許諾し合い,製品化を実現し,一社での限定された生産能力を超えて大量に製品を販売できるようにするというのが合理的な選択行動であり,エレクトロニクス業界においては,ある一定期間中にお互いに自己の保有する関連特許すべてを許諾し合う包括クロスライセンス契約を締結することが多い(乙211)。
 ・・・

イ エレクトロニクス業界における包括クロスライセンス契約における個々の特許の寄与度
 このような包括クロスライセンス契約を締結する場合,その交渉において,多数の特許のすべてについて,逐一,その技術的価値,実施の有無などを正確に評価し合うことは事実上不可能であるから,相互に一定件数の相手方が実施している可能性が高い特許や技術的意義が高い基本特許を相手方に提示し,それら特許に相手方の製品が抵触するかどうか,当該特許の有効性及び実施品の売上高等について協議することにより,相手方製品との抵触性及び有効性が確認された代表特許と対象製品の売上高を比較考慮すること,及び,互いに保有する特許の件数や出願中の特許の件数も比較考慮することにより,包括クロスライセンス契約におけるバランス調整金の有無などの条件が決定されるものである(乙211。以下,単に提示された特許を「提示特許」といい,提示特許のうち,相手方製品との抵触性及び有効性が確認された特許を「代表特許」という。)。
 そうすると,エレクトロニクスの業界のように,数千件ないし1万件を超える特許が対象となる包括クロスライセンス契約においては,相手方に提示され代表特許として認められた特許以外の特許については,数千件ないし1万件を超える特許のうちの一つとして,その他の多数の特許と共に厳密な検討を経ることなく実施許諾に至ったものも相当数含まれるというべきであるから,このような特許については,当該包括クロスライセンス契約に含まれている特許の一つであるということだけでは,上記「利益の額」を算定に当たって当然に考慮すべきであるということにはならない
 ただし,代表特許でも提示特許でもなくとも,ライセンス契約締結当時において相手方が実施していたことが立証された特許については,ライセンス契約締結時にその存在が相手方に認識されていた可能性があり,また,特許権者が包括クロスライセンス契約の締結を通じて禁止権を行使しているものということができるから,このような相手方実施特許については,代表特許でも提示特許でもなくとも,上記「利益の額」を算定するに当たって考慮することができるというべきである。
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旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」

事件番号 平成19(ネ)10021
事件名 補償金請求控訴事件
裁判年月日 平成21年02月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


4 争点3(本件各特許発明により一審被告が受けるべき利益の額)について
 当裁判所は,本件における旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,次のとおり算定すべきものと解する。
(1) 旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益あるいは第三者からの実施料収入による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的実施による利益を得た後,あるいは,第三者に当該発明の実施許諾をし実施料収入を得た後の時点において,これらの独占的実施による利益あるいは実施料収入額をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として許容される

(2) 使用者等は,職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継することがなくとも当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有することに鑑みれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,自己実施の場合は,単なる通常実施権(法定通常実施権)を超えたものの承継により得た利益と解すべきである。そして,特許を受ける権利については,特許法65条の定める補償金請求権ないしは特許登録後に生じる法的独占権に由来する独占的実施の利益あるいは第三者に対する実施許諾による実施料収入等の利益であると解すべきである

(3) ここでいう「独占の利益」とは,上記のとおり,@特許権者が自らは実施せず,当該特許発明の実施を他社に許諾し,これにより実施料収入を得ている場合における当該実施料収入がこれに該当し,また,A特許権者が他社に実施許諾をせずに当該特許発明を独占的に実施している場合(自己実施の場合)における,他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が挙げた利益,すなわち,他社に対する禁止権の効果として,他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較してこれを上回る売上高(以下,売上げの差額を「超過売上げ」という。)を得たことに基づく利益(法定通常実施権による減額後のもの,以下「超過利益」という。)が,これに該当するものである。

 もっとも,特許権者が,当該特許発明を実施しつつ,他社に実施許諾もしている場合については,当該特許発明の実施について,実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことによる超過利益が生じているとみるべきかどうかについては,事案により異なるものということができる。すなわち,@特許権者は旧35条1項により,自己実施分については当然に無償で当該特許発明を実施することができ(法定通常実施権),それを超える実施分についてのみ「超過利益」の算定をすることができるのであり,通常は50〜60%程度の減額をすべきであること,A当該特許発明が他社においてどの程度実施されているか,当該特許発明の代替技術又は競合技術としてどのようなものがあり,それらが実施されているか,B特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針を採用しているか,などの事情を総合的に考慮して,特許権者が当該特許権の禁止権による超過利益を得ているかどうかを判断すべきである。
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オリンパス事件最高裁判決の不足額請求の要件?

事件番号 平成19(ネ)10021
事件名 補償金請求控訴事件
裁判年月日 平成21年02月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) その余の一審被告の主張に対する判断
 一審被告は,オリンパス事件最高裁判決(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決)について,
@使用者等が「相当の対価」の額を勤務規則等で「一方的に」定めた場合で,かつA当該勤務規則等が「いまだ職務発明がされておらず,承継されるべき特許を受ける権利等の内容や価値が具体化する前に,あらかじめ対価の額を確定的に定め」ている場合にのみ適用されるものであると主張する
が,同判決は,要旨「使用者等があらかじめ定める勤務規則その他の定めにより職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が同条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができる。」と判示したものであって,旧35条3項及び4項に基づく対価の請求に,一審被告が主張するような上記要件が必要であるとしたものではない

 同判決において「いまだ職務発明がされておらず,承継されるべき特許を受ける権利等の内容や価値が具体化する前に,あらかじめ対価の額を確定的に定めることができないことは明らかであって」と判示する部分があるが,これは,職務発明がされる前に対価の額を確定的に定めることができないとの一般的な事情を述べて上記不足額を請求することができる理由としたものであって,不足額請求の要件を判示したものでないことは明らかである。
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職務発明により生じた外国の特許を受ける権利

事件番号 平成19(ネ)10021
事件名 補償金請求控訴事件
裁判年月日 平成21年02月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


2 争点1(職務発明により生じた外国の特許を受ける権利の承継についての準拠法及び特許法35条の適用の有無)について

(1) 職務発明により生じた外国の特許を受ける権利等の承継の準拠法につき一審原告が,被告取扱規程により,その職務発明である本件各米国特許発明及び本件ドイツ特許発明に係る特許を受ける権利を一審被告が承継し,一審被告がこれらについて特許出願をし,特許を得たことは,原判決の「第2事案の概要」「1 前提となる事実」のとおりであり,この承継については,その対象となる権利が職務発明についての外国の特許を受ける権利である点において,渉外的要素を含むものであるから,まずその準拠法を決定する必要がある。

 上記承継は,日本法人である一審被告と,我が国に在住して一審被告の従業員として勤務していた日本人である一審原告とが,一審原告がした職務発明について被告取扱規程に基づき我が国で行ったものであり,一審原告と一審被告との間には,原判決も認定するように上記承継の成立及び効力の準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認められる。
 そして,外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか,その対価の額はいくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題は,譲渡の当事者がどのような債権債務を有するかという問題にほかならず,譲渡当事者間における譲渡の原因関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,その準拠法は,平成18年法律第78号として制定された法の適用に関する通則法の第7条(同条の規定は,それ以前の法条である法例[明治31年法律第10号]7条1項とほぼ同じ。上記通則法7条は,附則2条により,遡及適用される。)により,第1次的には当事者の意思に従って定められると解するのが相当である(最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決・民集60巻8号2853頁参照)。

 本件においては,一審原告と一審被告との間には,承継の成立及び効力につきその準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在しているのであるから,特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については,我が国の法律が準拠法となるというべきである。

(2) 外国の特許を受ける権利の承継に対する旧35条3項及び4項の適用につきア外国の特許を受ける権利の承継に対する旧35条3項及び4項の類推適用について

 我が国の特許法が外国の特許又は特許を受ける権利について直接規律するものではないことは明らかであり,旧35条1項及び2項にいう「特許を受ける権利」が我が国の特許を受ける権利を指すものと解さざるを得ないことなどに照らし,同条3項にいう「特許を受ける権利」についてのみ外国の特許を受ける権利が含まれると解することは,文理上困難であって,外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価の請求について同項及び同条4項の規定を直接適用することはできないといわざるを得ない。
 しかし,・・・そうすると,同条3項及び4項の規定については,その趣旨を外国の特許を受ける権利にも及ぼすべき状況が存在するというべきである。
 したがって,従業者等が旧35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である(最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決・民集60巻8号2853頁)。

・・・

 なお,外国特許を受ける権利の対価算定に際し,その減額要素として旧35条1項(いわゆる法定通常実施権)を考慮するのかという論点が残るが,前記のとおり,当該発明をした従業員等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようとする前記の立場を前提とすれば,法定通常実施権を認めない外国特許の場合であっても,少なくとも譲渡対価算定という債権関係の処理としては,旧35条1項の類推適用を肯定した上でその対価を算定すべきものと解するのが相当である。
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2009年01月02日

特許につながる補正に当たっての貢献

事件番号 平成19(ワ)29768
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成20年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官  阿部正幸

 発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい(特許法2条1項),特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないから(同法70条1項),発明者は,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の創作行為に現実に関与した者,すなわち,新しい着想をした者,あるいは新しい着想を具体化した者のいずれかに該当する者でなければならず,技術的思想の創作行為自体に関与しない者,例えば,部下の研究者に対し,具体的着想を示さずに,単に研究テーマを与えたり,一般的な助言や指導を行ったりしたにすぎない者,研究者の指示に従い,単にデータをまとめたり,実験を行ったりしたにすぎない者,発明者に資金や設備を提供するなどし,発明の完成を援助又は委託したにすぎない者は,発明者とならない。
・・・

3 以上の記載によれば,本件発明の課題は,極めて簡単な構造で,半導体レーザの非点収差を補正することにあるということができ,上記本件発明の課題に対応する解決手段は,光学系が本件条件式を満足するレンズを有すること,すなわち,開口数NAが,半導体レーザの非点隔差ΔZ及び波長λとの間で本件条件式に規定される関係を有するレンズを挿入することにより,半導体レーザの非点収差を補正することであると認められる。
 そうすると,本件発明の発明者は,半導体レーザの非点収差を補正するため,開口数NA,非点隔差ΔZ及び波長λとの関係を規定した本件条件式の完成に現実に関与した者であるというべきである。

 本件についてみると,Bは,レンズの収差論を半導体レーザの非点収差の補正の観点から見直し,非点収差を許容範囲に抑えることができるようにレンズの開口数を選択することで,より簡単に半導体レーザの非点収差を補正する,という着想の下に,上記2(3)に記載のとおり,レンズの収差論に基づき,本件条件式を導出したものであり,このことにつき,当事者間に争いはない。
 一方,本件全証拠によっても,原告が,半導体レーザの非点収差の補正の観点からレンズの収差論を見直すとの着想を有していたこと,上記2(3)に記載の本件条件式の導出の過程に現実に関与していたことを認めるに足る証拠はない。

 したがって,本件発明の発明者は,上記具体的着想を有し,本件条件式を導出したBであり,原告を本件発明の発明者であると認めることはできないというべきである
・・・

(4) 原告は,本件発明は,本件補正を行ったことにより本質的な技術的意義を有するに至ったものであるから,非点隔差とモード変化についての高度な知見に基づき,本件補正を行うことに問題はない旨の意見を申し出た原告は,本件発明の発明者というべきである,と主張する

・・・

 被告は,上記審判手続の中で,本件条件式を適用すべき半導体レーザにつき,「・・・,ナローストライプ型の半導体レーザ」に限定する特許請求の範囲の補正をし(乙9の12),同補正の結果,本件発明につき,原査定を取り消し,特許査定をする審決がされた(乙9の11)。

 以上によれば,出願当初の明細書では,本件条件式を適用すべき半導体レーザが限定されていなかったのであるから,本件条件式は,本来,半導体レーザの非点隔差の大小にかかわらず適用することが可能なものであると認められる。また,ナローストライプ型半導体レーザを用いる例は,出願当初の明細書に記載されていたのであるから,本件発明の出願時点において,既にナローストライプ型半導体レーザを用いる発明は完成していたということができる。

 事後的な補正により,本件条件式を適用すべき半導体レーザをナローストライプ型半導体レーザに限定したことをもって,具体的な解決手段の創作行為があったということはできない
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2008年11月09日

職務発明の実績補償金の消滅時効の起算点

事件番号 平成20(ネ)10039
事件名 職務発明の対価請求控訴事件
裁判年月日 平成20年10月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 消滅時効完成の有無
(1) 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(特許法旧35条3項)。対価の額については,同条4項の規定があるので,勤務規則等による額が同項により算定される額に満たないときは同項により算定される額に修正されるが,対価の支払時期についてはそのような規定はない。
 したがって,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,勤務規則等の定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきである。そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。
 そして特許法旧35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,同条により認められた法定の債権であるから,権利を行使することができる時から10年の経過によって消滅する(民法166条1項,167条1項)。

 そこで,以上の見地に立って本件について検討する。

(2)ア 原判決6頁1行〜7頁9行のとおり,本件発明等取扱規則は,被控訴人が従業員のした職務発明について特許を受ける権利を承継した場合の相当対価について,実質的に出願補償,登録補償及び実績補償の3種に区分し,同区分に従いそれぞれ支払をすること,また,これら各補償の支払時期は,出願補償については出願した時点,登録補償については特許権の設定登録がされた時点と規定し,他方,実績補償の支払時期については,「会社が,特許権等に係る発明等を実施し,その効果が顕著であると認められた場合その他これに準ずる場合は,会社は,その職務発明をした従業員に対し,褒賞金を支給する。」(9条)と規定する。そして控訴人の本訴請求債権は,このうち実績補償に関するものである。

イ ところで,実績補償は本件発明等取扱規則9条が定めるように「会社が…発明等を実施し,その効果が顕著である」ときに支払時期が到来するものであるが,会社が発明を実施し,その効果を判定するためには一定の期間経過を必要とすることは道理であるから,上記規則9条は,会社が発明を実施しその効果を判定できるような一定期間の経過をもって実績補償に係る対価請求債権の支払時期が到来することを定めたものと解するのが相当である。

 そこで,どの程度の期間経過をもって実績補償に係る対価請求債権の支払時期と解すべきかであるが,被控訴人により平成13年11月21日から施行された本件特許報奨取扱い規則(甲9)の6条には職務発明者に「営業利益基準」に基づき一定の報奨金が支払われることが,また1条に,上記「営業利益基準」が報奨申請時の前会計年度から起算して連続する過去5会計年度における対象事業の営業利益を基準とするものであることが規定されている。
 同規則は控訴人が被控訴人会社を退社ないし退任した後の平成13年11月21日から施行されたものであるとしても,5年をもって実績評価期間とする部分は,控訴人在職期間中から関係人の間で当然の前提とされていた内容を注意的に明文化したものと認めるのが相当であり,しかも,これが使用者と従業者の双方にとって不当に長いと解すべき事情も見当たらない

 そうすると,本件発明等取扱規則9条における実績補償の支払時期を決する前提となる発明の客観的価値を認定するために必要とされる期間は5年ということになる。

ウ 以上によれば,本件発明等取扱規則9条における実績補償に係る相当対価の支払請求債権は,各職務発明の実施から5年を経過した時点が消滅時効の起算点となるところ,原判決4頁下5行〜5頁13行のとおり,本件発明はいずれも平成5年10月7日に実施されたことが認められるから,本件発明の実績補償に係る相当対価支払請求債権の消滅時効の起算点は,それから5年を経過した平成10年10月7日ということになる。そして,控訴人は平成19年2月1日被控訴人に対しその履行を催告し(甲7の1,弁論の全趣旨),同年5月18日に本訴を提起した(当裁判所に顕著な事実)から,上記消滅時効は上記催告時に中断したことになる。
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2008年10月19日

出願褒賞金及び登録褒賞金を支払った場合の時効の起算点

事件番号 平成19(ワ)10469
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官清水節

2 争点7(消滅時効の起算点(消滅時効の抗弁))について
(1) 本件発明DないしFに係る相当対価支払請求の時効消滅について
ア 相当対価支払請求の可否及び根拠
 原告は,本件発明D及びEについて特許を受ける権利を被告に承継した時点で,被告に対する相当の対価の請求権を取得したものであるから,相当の対価の請求権に関しては,改正前特許法35条3項及び4項が適用されるところ(平成16年法律第79号附則2条1項),勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(前掲最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)。

 また,原告は,アメリカ合衆国において出願された本件発明Fについても,改正前特許法35条3項の類推適用により,被告に特許を受ける権利を承継させたことによる相当の対価の請求権を取得したものと解され,相当の対価の額を定めるに当たっても,本件発明D及びEの特許を受ける権利の承継の場合と同様,改正前特許法35条4項を類推適用すべきであると解される(最高裁平成16年(受)第781号同18年10月17日第三小法廷判決・民集60巻8号2853頁参照)。

イ 消滅時効の起算点
(ア) 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(改正前特許法35条3項)。
 対価の額については,勤務規則等により定められる対価の額が同条4項の規定により算定される額に満たない場合は,同条3項に基づき,その不足する対価の額に相当する対価の支払を求めることができるのであるが,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,その定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきである。
 そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(前掲最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)。

(イ) これを本件についてみると,上記第2,1(3)イのとおり,本件発明考案規定には,被告の従業員が職務発明をした場合には,当該発明について特許を受ける権利を被告に譲渡しなければならないこと(2項(1)),被告は,当該発明を特許出願した場合には,出願表彰褒賞金を支給すること(4条),被告は,特許登録された当該発明の実施,又は実施許諾により,特に顕著な功績が挙がった場合には,1年毎に経営会議において審査の上,褒賞金を支給すること(5条(1)ないし(3)),などが定められており,また,昭和61年5月1日の改訂前の発明考案規定では,登録褒賞金を支払うものとされていた。

 そうすると,本件発明考案規定(改訂前を含む。)は,被告従業員が,被告に対し,職務発明について特許を受ける権利を承継した場合に,被告は,当該従業員に対し,出願褒賞金及び登録褒賞金を支払うこととしており,その支払時期は,特許出願時及び特許登録時であるものと認められる

 これに対し,いわゆる実績補償については,本件発明考案規定によれば,被告は,特許登録された発明が,実施又は実施許諾され,特に顕著な功績が挙がった場合に,経営会議において審査の上,褒賞金(以下「実施褒賞金」という。)を支給するとされているところ(5条(1)),上記のとおり,当該褒賞金の支払時期は,従業者等による実績補償としての相当対価の請求権の行使を可能とし,また,この請求権の消滅時効の起算点となるのであるから,それが,「特に顕著な功績」という抽象的な基準や,経営会議における審査といった被告自身の内部の意思決定によって左右される基準により画されているものと解することは相当でない。そして,同規定が,特許登録された発明が実施又は実施許諾された場合を前提として実施褒賞金を支給すると定めていることに照らすと,従業者等においては,特許登録された発明が実施又は実施許諾される以前に実施褒賞金の支給を求めることは困難であり,相当対価の請求権の行使につき法律上の障害があるものと認められるが,当該発明が実施又は実施許諾された場合には,実績補償としての実施褒賞金の請求権の行使が可能となるものというべきであり,その実施褒賞金の支払時期については,被告において,本件各特許の実施による利益を取得することが可能となり,実施褒賞金を支払う可能性が出てきた時点,すなわち,特許権の設定登録時,当該発明の実施又は実施許諾時のうち,いずれかの遅い時点と解するのが相当である。

(ウ) そこで,上記の各時点につき検討するに,上記第2,1(2)アによれば,本件発明DないしFは,米国において,平成元年10月10日,平成2年1月9日及び平成5年1月19日に,それぞれ設定登録されたことが認められる。

 これに対し,本件発明DないしFの実施又は実施許諾がされた具体的な時期を認めるに足りる的確な証拠はないが(なお,原告が,本件各発明が実施されていると主張するポータブルCDプレーヤー「D−J50」(・・・),上記第2,1(4)エないしカによれば,被告は,原告に対し,本件発明D及びEの実施褒賞金として,平成4年6月8日以前に●(省略)●円を,本件発明Fの実施褒賞金として,平成6年7月7日以前に●(省略)●円を,それぞれ支払ったことが認められるところ,これらの実施褒賞金の支払が被告における発明の実施又は実施許諾と関わりなく行われたとの主張はなく,また,これを認めるに足りる証拠もないから,少なくとも上記各支払期日までの間に本件発明DないしFの実施又は実施許諾が行われたものと推認され,したがって,本件発明考案規定に基づく本件発明DないしFの実施褒賞金の支払時期は,各支払日以前であったというべきである。そして,本件発明DないしFの実施褒賞金についての消滅時効は,上記各支払によりそれぞれ中断し,上記各支払の時点から,再び進行を開始したものといえる

 そうすると,上記各支払の時点から,原告が,被告に対し,本件発明DないしFの実施褒賞金の支払を催告した平成18年12月21日まで,10年以上経過していることが明らかであるから,各支払請求権につき消滅時効が完成しているものと認められる。
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特許権の保有と競業他者の排除との間の因果関係の有無

事件番号 平成19(ワ)10469
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官清水節

1 争点2(独占の利益の有無)について
(1) 総論
勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。
そして,使用者等が,職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも,当該特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことからすると,同条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の額ではなく当該発明を実施する, 権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)の額と解すべきである

本件では,後記(2)エのとおり,被告が,少なくとも競業他者の一部に対し,本件各特許の実施を許諾しているものと認められるところ,原告においては,被告が本件各特許を自ら実施しているとして,それによって得た利益を相当対価算定の根拠として主張している。このような場合においては,使用者等が,当該特許権を有していることに基づき,実施許諾を受けている者以外の競業他者が実施品を製造,販売等を禁止することによって得ることができたと認められる収益分をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」というべきである

なお,改正前特許法35条3項及び4項の規定は,職務発明についての特許を受ける権利の承継時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにすることを趣旨とする規定と解される。
もっとも,特許を受ける権利自体が,将来特許登録されるか否か不確実な権利である上,当該発明により使用者等が将来得ることができる利益を,その承継時において算定することは,極めて困難であることにかんがみれば,その発明により使用者等が実際に受けた利益の額に基づいて,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を事後的に算定することは,「利益の額」の合理的な算定方法の1つであり,同条項の解釈としても当然許容し得るところというべきである。

そして,当該特許発明の実施について,実施許諾を得ていない競業他者に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当該特許権の保有と競業他者の排除との間に因果関係が認められることが必要であるところ,その存否については
@ 特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,
A 当該特許の実施許諾を得ていない競業他者が一定割合で存在する場合でも,当該競業他者が当該特許発明に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,
B 包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに,
C 特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別な時期に,他の代替技術も実施しているか
等の事情を総合的に考慮して判断すべきである

・・・

(4) 小括
 以上検討したところによれば,被告は,本件各特許につき,開放的ライセンスポリシーを採用していたこと,本件各発明の代替技術が存在し,両者の間に作用効果等の面で顕著な差異が存在すると認めることができないこと,クロスライセンス契約の相手方が,本件各発明を実施しているとは認められないこと,被告自身も本件各発明の代替技術を実施していたこと等を総合考慮すると,被告の競業他者が本件各発明を実施していないことが本件各特許の禁止権に基づくものであるという因果関係を認めることはできない
 したがって,被告が,仮に,本件発明AないしCを自己実施しているとしても,それらの禁止権の効果により独占の利益を得ているということはできない。

 以上のとおり,本件発明AないしCについて,被告に「使用者等が受けるべき利益の額」が認められないのであるから,これらの発明についての相当の対価の額も認められず,その余の点について判断するまでもなく,本件発明AないしCについての相当の対価の支払請求は,いずれも理由がないことに帰する。
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2008年03月02日

「使用者等が受け取るべき利益の額」について

事件番号 平成19(ネ)10061
事件名 特許権譲渡対価請求控訴事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


『(7) 原判決69頁11行から70頁19行までを次のとおり改める。
「ア 改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該職務発明に係る特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことから,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を受けた場合には,特許発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益をいう

 そして,使用者等は,特許を受ける権利を承継しない場合であっても無償の通常実施権を取得することの対比からすれば,使用者等が特許を受ける権利を承継して特許発明を自ら実施している場合は,これにより実際に上げた利益のうち,当該特許の排他的効力により第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られた利益,すなわち,使用者等が実際に受ける利益の額から通常実施権を実施することにより得られる利益の額を控除した額をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである(外国の特許を受ける権利の承継による相当の対価の請求についても,改正前特許法35条4項が類推適用される以上,同様に解すべきものといえる。)。

イ 上記第2,1⑺のとおり,本件において,1審被告は,本件発明について,専ら自ら実施し,第三者に実施許諾をしたことはない。
 このように,発明が自社でのみ実施されている場合における独占の利益を算定する方法としては,@本件発明を第三者に実施許諾した場合に得られるであろう実施料収入を想定して算定するという方法やA使用者等が超過売上高から得るであろう利益を算定する方法などが考えられるところである。

 この点,1審原告は,上記@の算定方法に基づいて,第三者に実施させた場合の当該第三者の売上げを1審被告の売上げの2分の1として,その10パーセントとすべきである旨主張する(判決注:当審においては,20パーセントと主張する。)。
 しかし,本件において,1審原告は,本件発明を第三者に実施させて実施料を取得した場合を想定した場合に,当該第三者が取得し得る売上げの多寡に影響を与える諸事情,すなわち,例えば市場全体の規模,動向,実施品であるX線イメージ管の性質,内容,市場における優位性等の諸事情について,具体的な主張,立証をしていない。実施許諾を受けた第三者が,1審被告の売上げの2分の1の売上げを得ることを推認させるような事情も認められない。したがって,1審原告の主張に係る上記@の算定方法を採用することはできない。

 ところで,1審被告は,1審被告の市場シェアを算定し,それに基づいて1審被告の超過シェアを算定する方法を前提として,1審被告の主張に係る市場シェアについては,1審被告におけるX線イメージ管の製造本数及び競業他社の推定製造本数から,1審被告の国内シェアを推測する算定方法によるべきであると主張し,1審被告社内の調査に基づいて1審被告の国外シェアを推測した1審被告従業員の報告書(乙81)を提出している。1審原告の主張に係る算定方法に合理性がない本件においては,1審被告の主張に係る上記Aの算定方法によるのが相当であるというべきである。』

『(9) 原判決77頁2行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「(1) 改正前特許法35条4項には,「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮すべきである旨規定されているが,前記のとおり,特許を受ける権利の承継後に使用者が実施した超過売上高をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合において考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には,使用者等が「その発明がされるについて」貢献した程度のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれるものと解するのが相当である。

 すなわち,「使用者等が貢献した程度」には,その発明がされるについての貢献度のみならず,その発明を出願し権利化し,特許を維持するについての貢献度,実施製品の開発及びその売上げの原因となった販売契約を締結するについての貢献度,発明者の処遇その他諸般の事情等が含まれるものと解するのが相当である。
 発明者の使用者等に対する「相当の対価」の請求権はその特許を受ける権利の譲渡時に発生するものであるが,「相当の対価」の算定の基礎となる「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は特許を受ける権利の承継後に使用者が実施した超過売上高によるものとする以上,その超過売上高が発生するに至った一切の事情を考慮しないとするのは衡平の理念に反するというべきである。」』

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2007年10月21日

食品衛生上の規制の対象となる可能性

事件番号 平成18(行ケ)10182
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年10月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『本願発明1その他本願に係る各発明は,スモークによる処理ではあるものの,COガスを含むガスによる処理に係る発明であるため,食品衛生法上の規制の対象として,公の秩序ないし善良の風俗を害するおそれのある発明(特許法32条)に該当する可能性を否定できない(甲6,7参照)』
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2007年09月01日

「刊行物に発表する」との文言の解釈

事件番号 平成18(行ケ)10559
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年08月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『2 「刊行物に発表する」との文言の解釈の誤りについて
原告は,特許法30条1項の「刊行物に発表」することが「特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物に発表した場合」と解されるべきであったとしても,本件パンフレットによる公開は,原告が自ら主体的に刊行物に発表した場合であるから,本件出願に同項の適用があると主張する
(1) 特許法30条1項の「特許を受ける権利を有する者が…刊行物に発表」することの意義について,原告も引用する最高裁平成元年判決は,発明が公開特許公報に掲載されることが特許法30条1項の「特許を受ける権利を有する者が…刊行物に発表し(た)」ことに該当するか否かが争われた事案において,「特許を受ける権利を有する者が,特定の発明について特許出願した結果,その発明が公開特許公報に掲載されることは,特許法30条1項にいう『刊行物に発表』することには該当しないものと解するのが相当である。けだし,同法29条1項のいわゆる新規性喪失に関する規定の例外規定である同法30条1項にいう『刊行物に発表』するとは,特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物に発表した場合を指称するものというべきところ,公開特許公報は,特許を受ける権利を有する者が特許出願をしたことにより,特許庁長官が手続の一環として同法65条の2の規定に基づき出願にかかる発明を掲載して刊行するものであるから,これによって特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に当該発明を刊行物に発表したものということができないからである。」と判示している。

(2) 最高裁平成元年判決の事案は,我が国又は外国の公開特許公報による公開が特許法30条1項の「特許を受ける権利を有する者が…刊行物に発表し」たことに該当するか否かが争われた事案であり,このような事案において,公開特許公報による公開は,特許庁長官が特許法の規定に基づいて刊行するものであって,特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に当該発明を刊行物に発表したものということができないと判示されている
 事案と判示事項との関係からみれば,最高裁平成元年判決のいう「特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物に発表した場合」には,公開特許公報による公開のように,特許出願手続の一環として制度的に公開される場合は含まれないと解される。また,最高裁平成元年判決は,「主体的」であるか否かについて,個々具体的事案における特許を受ける権利を有する者の意思内容によって判断したものではないから,「主体的」であるか否かは,発明の公開について定めた国内法や外国法の規定の解釈によって制度的に判断すべきもので,特許を受ける権利を有する者の具体的意思によって判断するものではないと解される。仮に,特許を受ける権利を有する者の意思を考慮したとしても,後に発明が公開されることを認識し,公開されることを認容して出願をすることは,最高裁平成元年判決にいう「主体的」に該当しないことも,事案と判示事項から明らかである。

 本件パンフレットによる公開は,国際公開パンフレットによる国際公開であり,国際出願があった場合において,特許協力条約21条の規定に基づき,国際事務局が行うものであること,国際出願においても,国際公開によって補償金請求権が発生し得ること,の2点において,公開特許公報による公開と共通する。また,我が国への特許出願ではない点において,外国の公開特許公報による公開と共通する。
(3) 以上によれば,本件パンフレットによる公開が最高裁平成元年判決のいう「特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物に発表した場合」に該当しないことは,最高裁平成元年判決の判示内容から導き出されるものであると認められる
。』


『3 第三者の不利益についての解釈の誤りについて
 原告は,仮に外国特許公報等に掲載されることを新規性喪失の例外事由として認めたとしても,パリ条約による優先権等の主張の利益と重複する過重な保護を与えることにならず,第三者に不測の不利益をもたらすものでもなく,むしろ,公開公報を他の刊行物と公平に取り扱うことの利益の方が大きいと主張する
(1) 特許法30条1項の趣旨は,特許要件として新規性が要求されているため,特許出願をすることなく,自ら発明を公開した者は,その後に特許を出願しても,自ら発明を公開したことにより特許を受けられない結果になることがあり得るところ,この結果は,発明者,特に特許法の規定を十分知らない技術研究者にとって酷であり,また,発明を公開した者が公開によって不利益を受けることになっては,産業の発達に寄与するという特許法の目的(同法1条)に悖る結果ともなることから,一定の要件を具備した場合には,発明が既に公開されていることを理由に特許出願を拒絶されることがないようにするというものである
また,特許法30条は,29条1項の例外を定めた規定であり,その解釈適用は,例外を定めた趣旨に合致するように,上記のような発明者を救済するために必要な限度で行われるべきであり,発明者を必要以上に保護したり,社会一般に不測の損害を与える結果を招来したりすることがあってはならないと解される
(2) 特許法30条1項の趣旨が上記のようなものであるところからすれば,原告は,本件出願の前に,国際出願を行った(甲第1号証)のであるから,既に特許出願手続に着手したものということができ,この点において,原告は,もはや同項が救済しようとしている技術研究者等に該当しない。』
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2006年05月20日

特許出願は特許法30条の刊行物での発表にあたるか

事件番号 昭和56(行ケ)22
裁判年月日 昭和57年06月22日
裁判所名 東京高等裁判所
特許法30条

(注目判示)
『特許法第二九条第一項第三号にいう「刊行物」と同法第三〇条の「刊行物」を別異に解すべき特段の事由は存しないから、日本国内又は外国において頒布された特許公報が、特許法第二九条第一項第三号にいう「刊行物」に該当すれば、それは当然同法第三〇条にいう「刊行物」でもあると解さなければならない。しかして、日本国内又は外国において頒布された特許公報が第二九条の「刊行物」に該当することは明らかである』

『出願に係る発明が特許公報に掲載されて公表されることは、特許法第三〇条にいう、特許を受ける権利を有する者が、発明を「刊行物に発表」することには該当しない。けだし同条にいう「発表」とは、特許を受ける権利を有する者が自らの発表せんとする積極的な意思をもつて発表することであり、他人が発表することを容認するというような消極的な意思が存在するだけでは同条にいう「発表」とはいえないからである。』

『出願公告は、特許庁長官が特許公報に所定事項を掲載して行なうものであつて(特許法第五一条)、出願人(特許を受ける権利を有する者)の、出願に係る発明を発表しようという積極的な意思に基づいてなされるものではない。特許を受ける権利を有する者が特許出願をするのは、それによつて特許権を取得するか、他人の特許権取得を阻止する(審査請求をしない場合)ことにあり、特許公報による出願公告又は出願公開により、出願に係る発明を発表することを意図してなされるものではないというべきである。
 右の特許公報による発明の公表に関する理は、日本特許公報であつても、米国特許公報であつても異なるところはない。』
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