2013年05月07日

特許権者が特許発明を実施していなくても,同法102条2項を適用することができるとした事例

事件番号 平成24(ネ)10015
事件名 特許権侵害差止等本訴,損害賠償反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成25年02月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 塩月秀平,芝田俊文,土肥章大,知野明

(ア) 特許法102条2項を適用するための要件について
 特許法102条2項は,「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,・・・,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。このように,特許法102条2項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって,その効果も推定にすぎないことからすれば,同項を適用するための要件を,殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。

 したがって,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり,特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。そして,後に述べるとおり,特許法102条2項の適用に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである
 ・・・
 上記認定事実によれば,・・・,原告は,コンビ社を通じて原告製カセットを日本国内において販売しているといえること,被告は,イ号物件を日本国内に輸入し,販売することにより,コンビ社のみならず原告ともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競業関係にあること,被告の侵害行為(イ号物件の販売)により,原告製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる。
 以上の事実経緯に照らすならば,原告には,被告の侵害行為がなかったならば,利益が得られたであろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。

 これに対し,被告は,特許法102条2項が損害の発生自体を推定する規定ではないことや属地主義の原則の見地から,同項が適用されるためには,特許権者が当該特許発明について,日本国内において,同法2条3項所定の「実施」を行っていることを要する,原告は,日本国内では,本件発明1に係る原告製カセットの販売等を行っておらず,原告の損害額の算定につき,同法102条2項の適用は否定されるべきである,と主張する。

 しかし,被告の上記主張は,採用することができない。すなわち,特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,上記(ア)で述べたとおり,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照らすならば,同項を適用するに当たって,殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえない。上記(ア)のとおり,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。

 したがって,本件においては,原告の上記行為が特許法2条3項所定の「実施」に当たるか否かにかかわらず,同法102条2項を適用することができる。また,このように解したとしても,本件特許権の効力を日本国外に及ぼすものではなく,いわゆる属地主義の原則に反するとはいえない。

2012年11月11日

特許法101条2号の「日本国内において広く一般に流通しているもの」の適用事例

事件番号 平成23(ワ)6980
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年11月01日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾
特許法101条2号

(2) 特許法101条2号
 ・・・
ウ 一方,被告は,ハ号スタイラスにつき,間接侵害(特許法101条2号)の除外要件である「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たる旨主張する。

 確かに,ハ号スタイラスの用途は,これを備え付けた場合に本件特許発明の技術的範囲に属することになるイ号検出器及びロ号検出器に限定されているわけではなく,本件特許発明の技術的範囲に属さない内部接点方式の位置検出器とも適合性を有するものではある(甲2〜4)。

 しかし,結局のところその用途は,位置検出器にその接触体として装着することに限定されており,この点,ねじや釘などの幅広い用途を持つ製品とは大きく異なる。また,そのような用途の限定があるため,実際にハ号スタイラスを購入するのは,位置検出器を使用している者に限られると考えられる。
 このような事情を踏まえると,ハ号スタイラスは,市場で一般に入手可能な製品であるという意味では,「一般に流通している」物とはいえようが,「広く」流通しているとは言い難い。また,そもそもこのような除外要件が設けられている趣旨は,「広く一般に流通しているもの」の生産,譲渡等を間接侵害に当たるとすることが一般における取引の安全を害するためと解されるが,上記のように用途及び需要者が限定されるハ号スタイラスにつき,取引の安全を理由に間接侵害の対象から除外する必要性にも欠けるといえる。
 したがって,ハ号スタイラスは「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらず,この点に関する被告の主張は採用できない。

(3) 小括
 以上によると,被告によるハ号スタイラスの製造,販売は,本件特許発明との関係において,平成22年12月6日以降,特許法101条2号の規定する間接侵害の要件を満たすものといえる。

間接侵害の成立を認めた事例

事件番号 平成23(ワ)24355
裁判年月日 平成24年10月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田史,石神有吾
特許法101条2号

(2) 以上のとおり,被告製品1又は被告製品2を装着した原告製プリンタは,本件訂正発明2の技術的範囲に属するところ,被告各製品は,物の発明である本件訂正発明2の「その物の生産に用いる物」であって,共通バス接続方式を採用しつつも,インクタンクの搭載位置間違いを検出するという本件訂正発明2による「課題の解決に不可欠なもの」に該当するといえるから,被告による被告各製品の輸入及び販売について,特許法101条2号の間接侵害が成立するというべきである。

2012年10月28日

特許発明の寄与率を10%とした事例

事件番号 平成23(ワ)3850
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年10月11日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾
特許法102条1項

以下の事情からすれば,本件特許発明の寄与率は,10%とするのが相当である。
(1)本件特許発明の有用性
ア 本件特許発明の技術的意義
・・・
そして,前述したところによれば,本件特許発明の本質的特徴は,このような用途を要する補強リブにより突条を保護し,ピンホールの発生を防止したところにあることが認められる。

イ 代替技術の存否
・・・
そうすると,乙10発明は,本件特許発明と同様の課題を解決するための発明であるとはいえるものの,その実施状況や効果について認めるに足りる証拠もないから,本件特許発明を代替するものといえるかは不明である。

ウ 本件特許発明の作用効果
 証拠によれば,原告が原告製品の製造販売を開始した平成8年より前の平成7年度におけるクレーム総数●●●件のうち折り溝部からの漏れは●●件であったこと(甲26),これに対し,平成11年度における折り溝部からの漏れに関するクレームは●件であり,クレーム総数に占める割合は●●●●%であったこと(甲27の2)が認められる。これらのことからすれば,本件特許発明は,ピンホールの発生を防止するという課題解決において,相応の効果を奏するものであることが認められる。
 もっとも,原告製品及び被告製品の1年当たりの販売数量と対比すると,上記クレーム件数は,総数としてみても極めて数が少ないものである。

(2) 原告による宣伝広告
 証拠(甲23の1ないし25の2)によれば,原告は,原告製品の販売広告において,折り畳み自在であること,軽量であること,その他容器の信頼性を高める工夫がされていることなどとともに,本件特許発明によるピンホールリスクの低減効果についても相当の割合を割いていることが認められる。
 また,軟質プラスチック折り畳み容器自体は,比較的単純な構造のものであり,原告も約42年間にわたり製造販売を継続してきたこと(甲28)などからすれば,相当に成熟した技術分野であること,そうした状況において他の競合製品と差別化するために,本件特許発明が相応の価値を有することは認められる。
 他方において,上記原告の宣伝広告の内容から明らかなとおり,原告製品又は被告製品の購入に当たっては,ピンホールリスク以外の様々な要因についても考慮されることが認められるし,原告の宣伝広告においても,本件特許発明によるピンホールリスクの低減効果については「細部機能改良」の項に記載されていること及び前記(1)ウで検討したところからすれば,本件特許発明の販売における寄与について,過大に評価することはできないものというべきである。

(3)被告による宣伝広告
 証拠(甲3)によれば,被告が,「20リットル改良品(20A)のご提案について」と題する書面を顧客らに送付したこと,同書面は,被告現行品から本件特許発明に関する構成を備えた被告製品に改良したことを報告し,購入を促す内容のものであることが認められる。
 このことからすれば,被告製品についても本件特許発明の実施による販売への寄与があったものと推認される。
 前記(3)のとおり,原告製品又は被告製品の購入に当たっては,ピンホールリスク以外の様々な要因についても考慮されるものであるとしても,被告製品における本件特許発明の販売における寄与率についても,原告製品における寄与率と同等のものと解するのが相当である。

2011年07月03日

法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義

事件番号 平成22(行ウ)527
事件名 特許料納付書却下処分取消請求事件
裁判年月日 平成23年07月01日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

2 特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義について
 特許法112条の2は,上記1のとおり,追納期間が経過した後の特許料納付により特許権の回復を認めることとした規定であるが,同条は
@ 拒絶査定不服審判(特許法121条2項)や再審の請求期間(同法173条2項)を徒した場合の救済条件や他の法律との整合性を考慮するとともに,
A そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであり,
B 失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなること
を踏まえて立法されたものであることに鑑みれば,同条第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合をいうものと解するのが相当である。
 また,当事者から委託を受けた者に「その責めに帰することができない理由」があるといえない場合には,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号3039頁参照)。

 すなわち,特許権者は,特許料の納付について,特許権者自身が自ら又は雇用関係にある被用者に命じて行うほか,特許料の納付管理事務を第三者に委託して行うこともできるところ,特許権者は,いずれの形態を採用するか,また第三者に委託する場合にいかなる者を選定するかについて,自己の経営上の判断に基づき自由に選択することができるものであり,特許権者自らの判断に基づき第三者に委託して特許料の納付を行わせることとした以上,委託を受けた第三者にその責めに帰することができない理由があるとはいえない状況の下で追納期間を徒過した場合には,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるということはできないからである。

特許法101条4号の趣旨、解釈

平成23年06月23日 知的財産高等裁判所 平成22(ネ)10089
特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

イ 特許法101条4号について
 特許法101条4号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施する物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであるところ,同号が,特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を,「その方法の使用にのみ用いる物」を生産,譲渡等する行為のみに限定したのは,そのような性質を有する物であれば,それが生産,譲渡等される場合には侵害行為を誘発する蓋然性が極めて高いことから,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその効力の実効性を確保するという趣旨に基づくものである。このような観点から考えれば,その方法の使用に「のみ」用いる物とは,当該物に経済的,商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。

 被告装置1は,前記のとおり本件発明1に係る方法を使用する物であるところ,ノズル部材が1o以下に下降できない状態で納品したという被控訴人の前記主張は,被告装置1においても,本件発明1を実施しない場合があるとの趣旨に善解することができる

 しかしながら,同号の上記趣旨からすれば,特許発明に係る方法の使用に用いる物に,当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても,当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が,その物の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認められない限り,その物を製造,販売等することによって侵害行為が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから,なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解するのが相当である。

 被告装置1において,ストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく,かつノズル部材をより深く下降させた方が実用的であることは,前記のとおりである。そうすると,仮に被控訴人がノズル部材が1o以下に下降できない状態で納品していたとしても,例えば,ノズル部材が窪みを形成することがないよう下降しないようにストッパーを設け,そのストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが物理的にも不可能になっているなど,本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら,本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を,被告装置1の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって,被告装置1は,「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。

2010年03月13日

侵害品のうち特許権の侵害となる部分

事件番号 平成21(ワ)5610
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

そして,本件発明は,プレートを載置することができる,流し台のシンクに関するものであって( ・・・),本件侵害品のうち,本件特許権の侵害となるのは,シンク部分のみであるから,被告が本件侵害品の製造,販売をして,本件特許権を侵害したことにより受けた利益の額は,本件侵害品の製造,販売により被告が得た利益のうちシンクに係る部分であると解すべきである。

 また,被告は,前記粗利の額である1万8000円が,本件侵害品の製造,販売により被告が得た利益のうちシンクに係る部分であることを認めていることから,これが,特許法102条2項に規定する,被告が特許権の侵害行為により受けた利益の額と認めるのが相当である。

2010年02月21日

法103条の過失推定規定の非適用の主張

事件番号 平成19(ワ)2076
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年01月28日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次


4 争点4(本件特許権侵害についての被告の過失の有無)について
(1) 被告は,第1次訂正及び本件訂正は本件特許権の存続期間満了後になされたものであり,本件特許権の存続期間中は本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく本件特許権は全く公示されていない上,登録時の特許請求の範囲の記載に基づく本件特許には無効理由の存在がうかがわれるとして,本件特許権の存続期間中の被告の行為について,特許法103条の過失推定規定は適用されないと主張する

(2) 特許法103条が,他人の特許権又は専用実施権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定する旨規定している趣旨は,特許発明の内容が特許公報,特許登録原簿等により公示されており,業として製品の製造販売を行っている業者においてその内容を確認し得ることが保障されているから,業者が製品を製造販売し又は製造方法を使用するなどの際に,公示された特許発明の内容等を確認し,上記行為が他人の特許発明を実施するものであるか否か,すなわち,他人の特許権又は専用実施権を侵害するものでないか否かを慎重に調査すべきことを期待し得るのであり,業者に対してかかる注意義務を課し得ることを基礎として,その調査を怠って漫然と他人の特許発明を実施し,その特許権を侵害することになったときは,通常の不法行為における過失の立証責任を転換し,その業者の過失の存在を推定したものであると解される。

・・・

(3) しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
 訂正審判請求あるいは無効審判における訂正請求は,特許権の消滅後においてもすることができ(特許法126条6項,134条の2第5項),訂正を認める審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなされる(同法128条,134条の2第5項)。
そして,特許請求の範囲の訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでなければならず(同法126条1項,134条の2第1項),かかる訂正要件を満たす適法な訂正が行われる限り,訂正前の特許発明を実施しない製品等が訂正後の特許発明を実施すると解される余地はない

そうすると,業者としては,公示されている訂正前の特許発明の内容等について調査し,自己の製造販売する製品等が同特許発明を実施するものではないことを確認していれば,当然に,訂正後の特許発明を実施するものではないことを確認したことになるから,訂正後の特許発明の内容が公示されていなかったとしても,公示されている訂正前の特許発明の内容を調査することにより訂正後の特許発明を実施することを回避し得ることになる。
 したがって,訂正後の特許発明を実施する行為が,その公示される前にされたものであったとしても,その注意義務を軽減する理由はない

以上からすれば,訂正後の特許権を侵害した者は,訂正がなされる前の侵害行為についても特許法103条により過失が推定されると解すべきである。

この点,被告は,訂正前の特許に無効理由の存在がうかがわれる場合には特許法103条の過失推定規定は適用されないとも主張する。しかし,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づく特許に無効理由があったとしても,訂正審判請求あるいは無効審判における訂正請求が行われて無効理由が回避される可能性があり,このことは,容易に予見し得るというべきである。
したがって,特許法103条により過失を推定するためには,自らの行為が特許発明の技術的範囲に属する実施行為であることの予見可能性があれば足りると解すべきであって,訂正前の特許に無効理由があったとしても,それだけで特許法103条による過失の推定が覆ると解することはできない(・・・。)。

2009年05月06日

実施料の金額を超える賠償の請求の事例

事件番号 平成18(ワ)11429
事件名 特許権侵害差止等
裁判年月日 平成21年04月07日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次


【原告の主張】
・・・
ウ 損害額
・・・
(イ) 被告は,本件特許権が成立する前に,自ら実施権の許諾を原告に申し入れ,本件実施契約が締結されたものである上,本件特許権の成立後も,被告以外のメーカーに対して実施許諾されるなど,本件各特許発明は放熱シートの分野における極めて技術的価値の高い発明である。
 さらに,本件実施契約では特許権成立後の実施料率が3%とされているところ,被告は自らの意思で本件実施契約を解約しておきながら,漫然と実施行為(侵害行為)を継続しているのであり,仮に,損害賠償としての実施料相当額が上記約定額と同等にとどまるのであれば,ライセンス契約を尊重しようというインセンティブが働かず,侵害行為を助長する。
 よって,損害賠償としての実施料相当額は,実施契約上の約定実施料をかなり上回らなければ不合理であり,本件においては売上高の8%が相当である。

【被告の主張】
・・・
(イ) 損害額
本件実施契約期間外における実施料相当額の損害金は,せいぜい5%が妥当である。なぜなら,被告の行為は悪質とはいえず,また,本件実施契約における約定実施料率(3%)と比べて,5%という数字は67%もアップしているからである。


第4 当裁判所の判断
・・・
(3) 損害額
 上記 のとおり,平成15年10月1日から平成20年5月末日までのGR−nの販売額は7942万5336円であるところ,上記 のとおり,平成15年10月1日の販売額(8万9765円)については約定実施料算定の基礎とすべきであるから,本件実施契約終了後に被告が販売したGR−nの販売額は7933万5571円(\79,425,336-\89,765=\79,335,571)と認めるのが相当である。
 また,原告は特許法102条3項による損害の額の推定を主張するところ,前記当事者間に争いのない事実等 において認定したとおり,被告は,原告と本件実施契約を締結しながら,平成14年7月17日,被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属さないとして,実施料の支払を拒絶し,同年12月13日には,本件実施契約を解除する旨の意思表示をしたものであること,本件実施契約における実施料率が販売額の3%とされていたことなどに照らすと,販売額の6%に相当する金額である476万0134円(1円未満四捨五入)をもって,「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭」と認めるのが相当である

 以上より,本件実施契約終了後のGR−nの販売に係る原告の損害額は476万0134円となる。



2008年06月08日

足裏電極事件(控訴審)

事件番号 平成20(ネ)10087
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年06月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

原審は平成20(ネ)10087


(当事者は、構成要件を充足するかに加えて、次のように補正制限違反についても争っていた。原審は両者に対して判示していた。)
2 控訴人の主張の要点
・ 補正制限違反について
 原判決は,本件発明(請求項14の特許発明)につき,補正制限違反により特許無効であるとする。しかし,原判決の上記認定判断は,本件発明を正しく理解しないところからくる誤ったものである。
・・・
・ 願書に添付した特許請求の範囲
 願書に添付した特許請求の範囲は,原判決が認定するとおり,請求項1ないし請求項7から成るが,請求項1は,従来公知の足裏用電極を有する脂肪計付体重計に本件出願発明の特徴的部分を成す「第2の電極」(靴,靴下の無い足上部に接触する電極)を付加・配設することによって,従来装置同様に「足裏用電極」によってインピーダンス測定を行ったり,あるいは「第2の電極」によってインピーダンス測定を行うことができるような「体内脂肪重量計」として,以下のとおりの構成を採用したものである。
 ・・・
 そして,請求項2は,第2の電極を設けるアタッチメントとして「足用アタッチメント」を,請求項3及び請求項7は,それぞれ第2の電極をインピーダンス測定装置に電気的に接続する方法として,上記○ア及び○イの二つの電気的接続方法をクレームしているのである。

 上記○アの電気的接続方法をクレームする請求項3の記載によれば「・・・」とあるように,足部に接触する第2の電極からの電気的信号は,「裏面電極」及びこれと接触できる「足裏用電極」を介してインピーダンス測定装置に送られる。
 この場合,被測定者の足部に接触して生体インピーダンスの電気的信号を得るのは「第2の電極」であり,この電気的信号をインピーダンス測定装置まで送る役割を担う「裏面電極」及び「足裏用電極」は上記電気的信号の単なる通り道となるのであるから,いわば,「裏面電極」及び「足裏用電極」は「第2の電極」と「インピーダンス測定装置」を結ぶ電気的回路の途中にある「電気的接点」又は「導線」の役割しか果たしていない


 また,上記○イの電気的接続方法をクレームしている請求項7の記載によれば,「足裏用電極と第2の電極とは切換装置で選択可能に切り換えることを特徴とする請求項1に記載の体内脂肪重量計」とあるように,切換装置によって「第2の電極」を選択した場合,従来装置である「足裏用電極」によるインピーダンス測定は行わず,「第2の電極」によってインピーダンス測定を行う外,「第2の電極」で測定された電気的信号は請求項3とは異なり,「足裏用電極」を介することなく,直接インピーダンス測定装置に送られることになる
 換言すれば,この場合,「足裏用電極」は何の役割も機能も有さない存在ということになり,いわば,輸入自認物件が行っているように,「足裏用電極」は載置台上に設けられてはいるが,その上を蓋等で覆い「足裏用電極」の存在を隠し,かつ,使用を凍結しているに等しい状態となっているのである。

 上記のとおり,本件出願発明の特徴的部分は,「靴,靴下を着用したままで」生体インピーダンスを測定するための「第2の電極」にあるのであるから,正に,「足裏用電極」の使用も存在も必要としない体内脂肪重量計の構成こそが本件出願発明を具現するものといえる。』

(ところが、控訴審では補正制限違反については言及されなかった。大合議判決の基準を当てはめる格好の事例であると思うのに残念だ。)
『第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。

2 争点3(構成要件Bの充足)について
 当裁判所も,輸入自認物件が本件発明の構成要件Bを充足するものではないと判断する。その理由は,次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3「当裁判所の判断」の2のとおりであるから,これを引用する
・・・

ア 控訴人は,原判決が,
@本件発明の構成要件Bの「足用アタッチメント」は「付属品」であり,体重測定装置に取付け,取外し可能であるものを意味すると解すべきであり,
A輸入自認物件は,足首用電極支柱4が体重測定装置1の上面1 a に固定されているから構成要件Bを充足しないとしたことにつき,余りにも形式的「用語」(部材の名称)にとらわれた誤ったものであると主張する

 そして,控訴人は,本件発明における構成要件において重要なのは,靴,靴下を着用したままで生体インピーダンスを測定する非拘束性の「足用電極」(靴下の無い足上部に接触する電極)の有無であって,この電極が体重測定装置への着脱自在な「足用アタッチメント」に設けられているか,あるいは体重測定装置の上面に固定された部材上に設けられているかは,大した問題ではないなどと主張する

イ しかしながら, 「アタッチメント」とは,「器具・機械の付属品」を意味する(広辞苑第4版)ところ,本件明細書には,「足用アタッチメント」をこれと異なる意味で使用する旨の明示又は黙示の定義はされておらず,構成要件Bの「足用アタッチメント」とは,体重測定装置の使用時に,使用者が自由に着脱して使用するような「付属品」をいうものであって,これを取り付けると体重測定装置の固定的な一部材を構成することになるということはできない
・・・
5 結論
 以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,本件製品1ないし8が本件特許権を侵害していると認めることはできず,控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく,原判決は相当であって,本件控訴は理由がない

2007年11月26日

独占的通常実施権者への実用新案法29条2項の類推適用

事件番号 平成18(ワ)6536等
事件名 実用新案権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年11月19日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 実用新案権
裁判長裁判官 山田知司


『5 争点(5)(損害額)について
(1) 以上述べたところからすると,本件で被告が原告らに対して損害賠償責任を負うのは,本件警告の翌日である平成18年2月9日から同年3月24日までの間のイ号物件の販売行為についてであることになる

(2) 原告P1関係について
ア 証拠(乙11,23ないし26。なお乙第24ないし26号証は,乙第11,23及び24号証のうち上記期間における取引を抽出したものである。)によれば,上記期間のイ号物件の売上数(下記のとおり返品分の3個を控除しないもの)は250個で,総売上金額は22万7100円であり,このほかにサンプル,添付(いわゆる「おまけ」)及び不良品の代品による無償交付が19個(乙第24号証の「添付数」欄の15個と乙第26号証の「サンプル又は添付等の個数」欄の4個の合計)あったと認められる。・・・

ウ 原告P1は実用新案法29条3項に基づく損害額の主張をしているところ,本件考案の内容に加え,ペット用爪切りでは各社が種々の特徴点をもって競争を展開していること(甲26),原告P1は原告会社のみに本件実用新案権の実施品の製造販売を許諾してきており,本件警告後に被告が実施許諾を申し入れた(甲7)ときも検討の余地はないとして明確に拒絶したこと(甲8)等の事情を考慮すると,本件における登録実用新案の実施に対して受けるべき金銭の額としては,被告の売上額の7%とするのが相当である。
そうすると,原告P1の受けた損害額は,1万5897円(227,100×0.07)となる。
 また,原告P1に対する関係で,被告による侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額は5000円と認められる。
したがって,原告P1が被告に対して請求し得る損害額は,2万0897円となる。

(3) 原告会社関係について
ア 原告会社は,原告P1から本件実用新案権について独占的通常実施権の設定を受けていたものであるが,独占的通常実施権者も,本件実用新案権の実施による市場利益を独占し得る地位にある点で専用実施権者と変わるところはないから,実用新案法29条2項の類推適用があるものと解するのが相当である。
・・・
エ 以上に基づいて,被告がイ号物件を販売することによって得た利益の額を算定すると,11万9456円となり,これが原告会社の受けた損害の額と推定される。
227,100−(242.8608+72.878)×(250+19)−22,710=119,456
また,原告会社に対する関係で,被告による侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額は1万5000円と認められる。
したがって,原告会社が被告に対して請求し得る損害額は,13万4456円となる。

(4) 原告P1の損害賠償請求権と原告会社の損害賠償請求権との関係
 本件で原告P1は原告会社に対して本件実用新案権の独占的通常実施権を設定しているが,原告会社が原告P1に対して実施料を支払っていることを窺わせる証拠はなく,原告P1が原告会社の代表者で,原告会社が原告P1の個人企業であることからすると,むしろ原告P1は原告会社に対して無償の独占的通常実施権を設定したものと推認される。

 ところで,実用新案権者が第三者に専用実施権を設定し,専用実施権者が当該実用新案権を実施している場合,専用実施権者は侵害者に対して実用新案法29条2項に基づく損害賠償を請求することができる。しかし,その場合,実用新案権者としては,自ら実施する権利も,他者に更に実施許諾をする権利も有していないのであるから,同条3項に基づく損害賠償を請求することはできない。その場合に実用新案権者に発生する損害として観念し得るのは,実用新案権者が専用実施権者から得られる実施料が減少したことのみであり,そのような損害が発生するときには,実用新案権者は民法709条に基づく損害賠償を請求することができる。したがって,専用実施権が無償又は定額の実施料で設定されている場合には,当該実用新案権の侵害行為がなされても,実用新案権者に損害は発生せず,実用新案権者は損害賠償請求権を取得しないものと解するのが相当である

 他方,本件のように独占的通常実施権が設定されている場合には,実用新案権者は,独占的通常実施権者との間で他者に実用新案権の実施許諾をしないという債権的な拘束を受けてはいるものの,他者に実用新案権の実施許諾をする権利自体はなお有している。したがって,独占的通常実施権が無償で設定されていても,実用新案権者がなお実用新案法29条3項に基づく損害賠償を請求し得ることはこれを認めることができる。しかし,この場合に,独占的通常実施権者に同条2項の類推適用による損害賠償請求を認め,同時に実用新案権者にも同条3項による損害賠償請求を認めて,両請求権が単純に並立するものと解するときには,前記のような専用実施権が設定された場合以上の逸失利益を権利者側に認めることになり,均衡を失するものというべきである
 また,同条2項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を全く行わなかった場合を想定するものであるのに対し同条3項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を行ったことを前提とするものである点で,両規定は互いに両立しない状況を想定ないし前提しているのであるから,この点からも両請求権が単純に並立すると解することはできない
 これらの点を踏まえると,独占的通常実施権者が有する同条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権と実用新案権者が有する同条3項に基づく損害賠償請求権とは,重複する限度で連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である
 したがって,本件では,原告P1の被告に対する2万0897円の損害賠償請求権と,原告会社の被告に対する13万4456円の損害賠償請求権とは,重複する2万0897円の限度で連帯債権の関係に立つことになる。』

2007年05月27日

無効の抗弁に対する再抗弁の取り扱い

事件番号 平成17(ワ)27193
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設楽隆一

『6 原告の弁論再開申請について
原告は,本件の弁論終結後,平成19年5月9日付け準備書面及び甲39,40の写しを提出し,平成19年2月9日付けで,本件特許2の請求項1について訂正審判を申し立てたこと,及び,これにより近々訂正審決がなされる予定であるので,弁論の再開を希望する旨の上申をしている

確かに,この訂正審判の申立ては,本件特許2の無効の抗弁に対する再抗弁として主張することが可能な事由ではある(平成19年3月6日の口頭弁論期日においても主張し得る事由ではあった。)。しかし,この訂正審判の申立ては,本件訂正請求2に加え,特許請求の範囲に,?@「前記所定のタイミングから計時を開始するタイマが所定時間計時する間に遊技媒体が投入されないときに,遊技がされていない状態であることを検出する状態検出手段」,?A「遊技媒体が投入されると前記特別の遊技音を復して出音させる」を追加するものであるにすぎず,これにより前記無効理由が解消されるとはいえないと思料される

すなわち,・・・のであるから,

これらの訂正は,遊技メダルの投入が一定時間なければゲームをしていないと判断する,あるいは,遊技メダルを投入した時点でゲームをすると判断する点を強調しただけにすぎないものである(・・・。)。

結局のところ,この訂正後の本件訂正特許発明2も,乙18発明も,ゲームの進行に必要な動作が一定時間ない場合に,ゲームを行っていないと判断し,その音量を下げる点に差異はなく,前記のとおり,スロットマシンとパチンコ機とは互いに技術の転用が可能なものであることなど,上記3,4で述べたことを考えると,上記訂正後の本件訂正特許発明2も,前記の乙37発明及び乙18発明等から容易に想到し得たものと思料される。したがって,本件においては,弁論を再開する必要性は認められない。』

(筆者感想)
 裁判所は、通常、「明らかである」とか、「言うべきである」とか、断定調に記載するところ、ここでは、「思料する」に留めている。この後、特許庁で行われる訂正審判に過度に鑑賞しないように配慮したものと思われる。
 一体的に早期に解決するには、訂正審判の訂正内容について、侵害訴訟の方である程度踏み込んで判断せざるを得ないのであるから、両者が併走する場合においては、訂正審判の重みは軽くなっていくことだろう。

 ここ数年、判決の品質は向上しているように感じる。裁判所においては量・質ともに両立して体制の充実が図られ、それが奏功しているようだ。代理人(弁理士)、行政(審査・審判官)は、良いお手本から学び、あるいは、議論を深めることができるだろう。

 それにしても、時代の流れを感じる。今後、特に中間に存在する行政は、その在り方を問われることになるかもしれない。

2006年02月28日

輸入差し止め認定処分の取り消し

◆H18. 1.19 神戸地裁 平成16(行ウ)29 特許権 行政訴訟事件
条文:関税定率法21条1項5号、改正特許法104条の3第1項

【概要】
 原告が石製灯籠用扉及び石製灯籠を輸入しようとしたところ、被告は、特許第3012200号の特許権を侵害するとして、平成17年法律第22号による改正前の関税定率法21条1項5号の輸入禁制品に該当するとの認定処分を行い,本件各物品の輸入を差し止めたため、認定処分の取り消しを求めたもの。
 
【争点1】
 特許権は,無効審決が確定するまでは適法かつ有効に存続し,対世的に無効とされるわけではないこと,特許の有効,無効の判断は第1次的には特許庁にあること、を理由に、本件特許を有効なものと扱い,本件認定処分を行ったことに何ら違法はないか。
 
【判示1−1】
 認定処分取消訴訟を提起しても,同特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の適法性を争えないとすることは,特許権者に過度の保護を与える反面,貨物輸入申告者に不当な不利益を与えるもので,衡平の理念に反するというべきである。

【判示1−2】
 認定処分制度の趣旨は、特許権者その他の知的財産権者の権利を保護する点にある。
 改正特許法104条の3第1項によれば、侵害訴訟において当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は相手方に対しその権利を行使することができないのであるから、特許権に無効理由が存在し、侵害訴訟において、特許権者の権利行使が制限されるような場合にまで、税関長が認定処分を行う必要性も合理性も存しないというべきである。
 
【結論】
 本件特許には,特許法123条1項2号の無効理由が存在し,本件認定処分は違法であるから,取消しを免れない。

(感想)
 取り消しを免れない点については、そのとおりと感じる。しかし、進歩性を否定する際の検討方法が、特殊であると思う。
 検討の概略は、課題と効果から技術的本質を3つ認定し、それぞれの技術的本質について別個に検討し、それぞれが公知技術等から容易に想到できたものであると結論づけるというものである。
  

2006年02月25日

特許権侵害物品と認定する認定処分の取り消し

◆H18. 1.19 神戸地裁 平成16(行ウ)29 特許権 行政訴訟事件

(理由1)特許権侵害物品と認定する認定処分がなされて輸入が差し止められた場合,当該特許権に無効理由が存在していても,無効審決が確定していない限り,当該貨物を輸入しようとする者が,当該認定処分取消訴訟を提起しても,同特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の適法性を争えないとすることは,特許権者に過度の保護を与える反面,貨物輸入申告者に不当な不利益を与えるもので,衡平の理念に反する。
(理由2)認定処分制度の趣旨は,特許権者その他の知的財産権者の権利を保護する点にあるが,当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。
(結論)認定処分取消訴訟において,同認定処分の根拠となった特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の違法を主張することができる。無効が「明らかである」ことが権利制限の要件とする主張は、改正特許法104条の3第1項が無効が「明らかである」ことを特許権者等の権利制限の要件としていないことに照らしても,採用できない。

(感想)この改正特許法104条の3は、平成16年の改正であるが、特許法の改正によらず裁判所法の改正によって、追加されたものである。最初は、特許庁のホームページの「資料室」で改正の経緯を調べたが、改正特許法104条の3を追加した法改正が見つからなかったので、何かの間違いかと思った。
 それにしても、「明らか」の文言がなくなったことは知らなかった。裁判所の実務上はなんらの変更ももたらさないと思うが、改正時にはどのような説明がなされたのだろうか。少し、時間ができたら、調べてみることにしよう。