2012年08月21日

特許法104条の3の抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨の認定

事件番号 平成23(ネ)10057
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成24年08月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明,裁判官 八木貴美子,小田真治
特許法104条の3,特許法70条1項

(1) 発明の要旨の認定について
ア ・・・

イ 特許法104条の3は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定するが,同条に係る抗弁の成否を判断する前提になる発明の要旨は,特許無効審判請求手続において,特許庁(審判体)が,無効の有無を判断する前提とする発明の要旨と同様に認定されるべきである。
 そして,本件のように,「物の発明」であり,かつ,その特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合における「発明の要旨」についても,前述した特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定と同様に認定されるべきである。すなわち,
@ 発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときは,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと認定されるべきであるが,
A 上記@のような事情が存在するといえないときは,その発明の要旨は,記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。

 この場合において,上記@のような事情が存在することを認めるに足りないときは,これを上記Aの「特許請求の範囲に記載された方法により製造された物」に限定したものとして,当該発明の要旨を認定するのが相当である。
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2011年12月05日

訂正審判請求前又は訂正請求前であっても,訴訟において対抗主張の提出は許されるとした事例

事件番号 平成22(ワ)40331
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月30日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

(6) 時機に後れた攻撃防御方法であるとの原告の主張について
 原告は,無効理由4に係る被告の無効主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから却下すべきと主張する。
 しかしながら,当該無効主張は,平成23年7月13日の第4回弁論準備手続において,同月12日付け被告準備書面(4)をもってなされたものであるところ,同時点では,いわゆる二段階審理における侵害論についての審理中であったから,当該無効主張についての審理がなければ直ちに弁論を終結できる段階になく,上記無効主張により訴訟の完結を遅延させることになるものとは認められない。 ・・・

3 訂正を理由とする対抗主張について
 原告は,平成23年9月22日付け原告第6準備書面をもって,本件訂正発明には無効理由がなく,かつ,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属すると主張し,これに対し,被告は,原告の上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから却下されるべきであると主張する。

 そこで検討するに,原告の上記対抗主張は,前記平成23年7月12日付け被告準備書面(4)をもってなされた無効理由2〜4に対するものであるところ,受命裁判官は第5回弁論準備手続期日(同年8月5日)において,原告に対し,上記無効理由についても審理するので,これに対する反論があれば次回までに提出するよう促し,反論の機会を与えたにもかかわらず,原告は,第6回弁論準備手続期日(同年9月9日)までに上記対抗主張をすることなく,同期日で弁論準備手続を終結することについても何ら異議を述べなかったものである。

 無効理由2及び3は,いずれも既出の証拠(乙2及び乙3)を主引用例とする無効主張であり,無効理由4も,平成14年5月20日付け特許異議申立てにおいて既に刊行物として引用されていた乙6に基づくものであるから,原告は,上記無効理由の主張があった第4回弁論準備手続期日から弁論準備手続を終結した第6回弁論準備手続期日までの間に対抗主張を提出することが可能であったと認められる
原告は,乙6に基づく無効理由4を回避するために訂正請求を行うことができるのは第2次無効審判請求の無効審判請求書副本の送達日である平成23年8月19日から答弁書提出期限である同年10月18日までの期間のみであると主張するが,本件訴訟において対抗主張を提出することはできたものというべきである原告は,対抗主張が認められる要件として現に訂正審判の請求あるいは訂正請求を行ったことが必要とする見解が多数であるとも主張するが,訂正審判請求前又は訂正請求前であっても,訴訟において対抗主張の提出自体が許されないわけではなく,理由がない。)
にもかかわらず,これを提出せず,弁論準備手続の終結後,最終の口頭弁論期日になって上記対抗主張に及ぶことは,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出したものというほかなく,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。
よって,原告の上記対抗主張は,民事訴訟法157条1項によりこれを却下する。
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2011年08月14日

特許法104条の3第1項の抗弁と無効審判における未確定の訂正

事件番号 平成20(ワ)16895
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成23年07月28日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

1 被告は,前記第2の3(1)及び(2)の[被告の主張]のとおり,本件発明は新規性ないし進歩性を欠く(争点1,2)と主張して,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると主張する。
 しかしながら,本件特許については,その無効審判事件において本件訂正の請求がされており,同訂正はいまだ確定していない状況にある。このような場合において,特許法104条の3第1項所定の「当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」とは,当該特許についての訂正審判請求又は訂正請求に係る訂正が将来認められ,訂正の効力が確定したときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。

 したがって,原告は,被告が,訂正前の特許請求の範囲の請求項について無効理由があると主張するのに対し,
@ 当該請求項について訂正審判請求又は訂正請求をしたこと,
A 当該訂正が特許法126条又は134条の2所定の訂正要件を充たすこと,
B 当該訂正により,当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること,
C 被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属すること,を主張立証することができ,被告は,これに対し,
D 訂正後の請求項に係る特許につき無効事由があること
を主張立証することができる
というべきである。
 本件においても,原告及び被告は本件訂正に関し,同趣旨の主張をしており,前記第2の1のとおり,原告が本件訂正請求をしていること(上記@)及び被告製品が本件訂正後の請求項1の技術的範囲に属すること(上記C)については,これを認めることができる。
 そこで,以下において,上記A,B及びDの点について判断する。
 ・・・
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2010年02月07日

時機に後れた攻撃防御方法であるとした事例

事件番号 平成21(ワ)6505
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年01月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点(5)(対抗主張〔訂正審判請求〕)について
 原告は,第2の2(7)の経緯により平成21年11月19日付け原告準備書面(3)をもって,本件訂正発明には無効理由がなく,かつ,被告製品は訂正発明の技術的範囲に属すると主張し,これに対し,被告は,原告の上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから却下されるべきであると主張する

 そこで検討するに,原告は,既に第1回口頭弁論期日において被告らから乙6刊行物記載の発明が本件特許発明と同一の発明であるとして乙6刊行物を提示されたのに対して,両発明が同一ではないとの主張を終始維持し続けていたにもかかわらず(主張を変更することを妨げる事情は何ら認められない。),弁論準備手続終結後になって訂正審判請求をした上で,最終口頭弁論期日に,この訂正により乙6刊行物記載の発明には本件特許発明と相違点が生じ無効理由がない旨の上記主張に及んだものである。そして,このことについてやむを得ないとみられる合理的な説明を何らしていない。したがって,原告の上記主張は,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出したものというほかなく,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。

 よって,原告の上記主張は,民事訴訟法157条により,これを却下する。
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2009年03月08日

明細書の要旨

事件番号 平成20(ワ)4056
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年03月05日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

(1) 要旨変更の判断基準
「明細書の要旨」とは,旧特許法上その意義を定めた明文の規定がないものの,特許請求の範囲に記載された技術的事項を指すものと解すべきである。
 したがって,特許請求の範囲を増加し,減少し,変更することは,その本来的意味においては,いずれも明細書の要旨を変更するものということができる。しかし,「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす」と定めているから(旧。特許法41条),当該補正が明細書の要旨を変更することになるか否かは,結局のところ,当該補正後の特許請求の範囲に記載された技術的事項が「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」か否かによって決せられることになる。

 そして,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,出願時の明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,このように導かれる技術的事項との関係において,当該補正が特許請求の範囲の記載に新たな技術的事項を導入するものであるときは,当該補正は,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということはできず,明細書の要旨を変更するものということになる。以下,このような見地から本件補正が当初明細書の特許請求の範囲に記載された技術的事項に新たな技術的事項を導入するものであるか否かを検討する。

・・・

したがって,当初明細書等に記載された発明は,「当接する」ことまでは要しないが,少なくとも複数の画像表示部が1つの画像を表示していると認識し得る程度に近接していることを要するというべきであって,各画像表示部が離れた位置にあることによって1つの画面を構成しないような画像表示装置は記載も示唆もされていないというべきである。そして,かかる構成が当業者にとって自明であったともいえない。

 補正事項@に係る補正後の特許請求の範囲の記載では「画像表示用の表示部を複数有し」とされているのみで,「複数の画像表示部が一つの画像表示がなされたと認識し得る程度に近接している」もの以外の構成を包含し得るものとなっているから,補正事項@に係る補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で,当初明細書等に開示された発明の構成に関する技術的事項に新たな技術的事項を導入するものというべきである。したがって,同補正は,当初明細書等の範囲内においてするものではなく,当初明細書等の要旨を変更するものというべきである。

・・・
以上により,本件補正のうち,少なくとも補正事項@に係る補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められず,明細書の要旨を変更するものであるので,補正事項Aに係る要旨変更について判断するまでもなく,本件特許に係る出願は,旧特許法40条により,本件補正に係る手続補正書が提出された平成8年4月15日にされたものとみなされる。
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2008年12月07日

新規事項を追加する訂正が請求された事例

事件番号 平成18(ワ)20790
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年11月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

2  次に,争点(4)(本件特許に無効理由が存在するとしても,訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となるか)について判断する。

(1 ) 前記1のとおり,本件発明は,いずれも進歩性が欠如するから,特許法104条の3第1項により,原告は,本件特許権に基づく権利行使をすることはできない。

 しかしながら,被告に特許権侵害の事実があるにもかかわらず,当該特許に無効理由があるため,上記条項により,同特許権に基づく権利行使ができない場合であっても,当該特許権者が,@特許庁に対し,適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っており,A当該訂正によって,上記の無効理由が解消され,さらに,B被告の製造販売する製品ないし被告が実施している方法が訂正後の特許請求の範囲に含まれる場合には,上記の無効理由があるにもかかわらず,上記特許権者は,上記特許権に基づく権利行使ができるものと解するのが相当である

 そして,前記争いのない事実等で判示したとおり,原告は,本件明細書の記載について,訂正審判請求をし,後日,特許法134条の3第5項により,訂正請求(本件訂正請求)がされたものとみなされたところ,原告は,本件特許権に前記1の無効理由が存在するとしても,本件訂正請求により,本件特許権に基づく権利行使は許される旨主張する
 そこで,上記の要件に照らして,本件訂正により,本件特許権に基づく権利行使が許されるか否かについて,以下検討する。

(2) 本件訂正が,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(ただし,平成14年法律第24号附則3条1項の規定により,同法2条の定による改正後の特許法の規定は,同法附則1条2号に定める日(平成15年7月1日)以後の特許出願について適用され,同日前にした特許出願については,なお従前の例によるものとされているため,本件訂正請求については,同法による改正前の特許法126条2項(以下「旧特許法126条2項」という。)が適用されることになる。)に違反しないかについて

ア 旧特許法126条2項の「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,したがって,同項の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正とは,当該訂正が,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである場合を意味すると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。

イ 本件訂正後発明1は,前記争いのない事実等(8)イ(ア)のとおりであり,本件訂正は,ゲートの位置を,本件訂正前は,リブ部に対応する部分としていたのを,リブ部のうちブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分,又は,リブ部を複数設ける場合は,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分(・・・。)に限定したものであることが認められる。

 これに対し,本件明細書には,実施例としては,リブ部がブレード本体の一方の側面部から他の側面部にわたって形成されているものしか記載されておらず,同リブ部を前提として,ゲートをリブ部の両側面部に設けたもの(・・・)及びリブ部の後方の面の両端部に対応する部分に設けたもの(・・・)が記載されていることが認められる(甲4)。
 したがって,本件訂正後発明1のうち,リブ部の長手方向の長さが短く,そのリブ部をブレード本体の長手方向端部のみに配置した構成は,本件明細書及び本件図面には記載されておらず,また,本件明細書及び本件図面の記載から当業者にとって自明であるということもできない

 そして,そもそも,本件発明1は,前記のとおり,ゲートをブレード本体に対応する部分ではなく,ブレード本体から突出したリブ部に対応する部分に設けることによって,ウェルド,バリ,ヒケのない現像ブレードを製造するというものであるところ,本件明細書において,リブ部のいかなる部分に対応した部分にゲートを設けるべきか,又は,リブ部を複数設ける場合に,ブレード本体のどの部分にリブ部を設けるべきかについての記載はなく(・・・。),むしろ,前記1(1)ア(ア)d⒟で認定したとおり,本件明細書の段落【0012】には,「・・・。」と記載されている。

 このように,本件発明1は,リブ部のうちのいかなる部分に対応する分にゲートを設けても,また,ゲートを設けたリブ部を複数設けても,技術的には異ならないということを前提としており,換言すれば,特定の部位にゲートの位置を設けることについての技術的意義を見い出していないものと解される。これに対して,本件訂正は,ゲートの位置を上記のとおり限定したものであるところ,本件発明のように,ゲートをリブ部に設ける現像ブレードの製造方法において,ブレード本体の長手方向におけるゲートの設置位置を限定することには,一定の技術的な有意性が認められるものと解される

以上の点を総合すると,本件訂正が,リブ部を複数設ける場合に,ゲートの設置位置を,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分に限定することは,本件明細書及び本件図面から導かれる技術的事項とは異なる新たな技術的事項を導入することになり,本件訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正ということはできないというべきである

ウ したがって,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(なお,前記のとおり,本件訂正請求については,旧特許法126条2項が適用される。)に違反するというべきである。
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2008年10月13日

無効の抗弁を覆す対抗主張が2度に渡り撤回された場合

事件番号 平成19(ワ)2980
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年10月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

(3) 特許権者による訂正審判請求 は,特許法その他の法令上,その回数や期間に制限が設けられているわけではない(ただし,特許法126条2項参照)。
 他方,特許権侵害訴訟において当該特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるときは,特許権者は,相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ(特許法104条の3第1項の抗弁),訂正審判請求がされ,同訂正審判請求が訂正要件を満たす場合において,それによって当該特許の無効理由が解消すると認められれば,当該特許が「特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」には当たらないことになるので,特許法104条の3第1項の抗弁は認められないことになる(訂正の再抗弁)。

 ところで,特許権侵害訴訟において,特許無効審判手続による無効審決の確定を要せず,特許法104条の3第1項の抗弁(以下「無効主張」という。)をもって,特許権に基づく権利行使の制限を認めているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で,迅速に解決することを図ったものであると解される。
 そして,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしている趣旨は,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解される


 このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきである(最高裁平成20年4月24日第一小法廷判決・裁判所時報1458号153頁・民集62巻5号登載予定参照)。

 もっとも,本件においては,上記2回にわたる対抗主張が撤回された後,新たに具体的な対抗主張がされたわけではないので,それが時機に後れた攻撃防御方法として却下することができるか否か問題となるのではなく,そのような対抗主張をさせるために口頭弁論期日を続行すべきか否かの訴訟指揮の在り方が問題とされているものである。


(4) 本件訴訟の前記経過によれば,・・・,原告は,平成20年7月14日の第9回口頭弁論期日において,同審判請求を取り下げる予定であると述べるとともに,同審判請求が認められることを前提とした対抗主張をすべて撤回したものである。そして,同期日において,原告は,今後行うべき訂正審判請求の具体的内容を明らかにせず,したがって,本件訴訟において審理の対象となるべき上記審判請求に対応する訂正主張が,訂正要件を満たし,同訂正が認められれば本件特許の無効理由が解消し,かつ,訂正後の特許請求の範囲によっても,被告方法が本件特許発明の技術的範囲に属するなど,同審判請求に対応する対抗主張の具体的内容を明らかにしなかったものである。

 このように,原告は,2度にわたり訂正審判請求を行い,その都度,当裁判所は,原告の対抗主張を許容し,被告に対して原告の対抗主張に対する反論を行うよう促し,被告もこれに応じて詳細な反論をし,議論が尽くされてきたものであって,当裁判所としては,第9回口頭弁論期日において被告から予定されていた反論(原クレームに係る対抗主張に対する反論)がなされれば,双方の主張立証は尽くされ,第2次訂正審判請求に係る対抗主張の成否を含め,本件について判決をするのに熟するとの心証を得ていたものである。

 上記のとおり,被告は,2度にわたる原告の対抗主張に対してその都度具体的な反論を行っていたものであり,原告が上記期日に至って第2次訂正審判請求に基づく対抗主張をすべて撤回した上,さらに口頭弁論期日を続行して,続行期日以降に新たな対抗主張をすることを許すことは,本件訴訟の審理を不当に遅延させるものになるとともに,被告に過度の応訴負担を負わせるものというべきである。

 上記のとおり,第9回口頭弁論期日の段階では,原告が第2次訂正審判請求が成り立たない旨の審決を受けて間がなかったことから,未だ原告が意図する訂正審判請求及びこれに対応する対抗主張の具体的内容が明らかではなかった上,上記審決の主たる理由が,本件分割出願自体が改正前44条1項に規定する適法な分割出願とはいうことはできないということにあり(甲81) この判断には首肯すべきところがあることに照らすと,今後予想される原告による訂正審判請求(第3次訂正審判請求等)が容易に認められるとはいい難い状況にあるといわざるを得ない

 以上の事情にかんがみれば,当裁判所としては,上記口頭弁論期日をもって,本件について判決するのに熟したものと判断し,さらに口頭弁論期日を続行することなく弁論を終結する措置を執った次第である。
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2008年09月10日

特許法104条の3の射程

事件番号 平成20(ネ)10019
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 付言−−−事実審の最終口頭弁論終結後の訂正審判請求について
・・・
(2) 当裁判所の見解
ア まず,上記各訂正審判請求の内容を検討すると,平成20年7月17日の各訂正審判請求は,本件各特許の無効理由を解消するものとは認められず(原告も,同訂正審判請求を取り下げている。),上記平成20年8月20日の各訂正審判請求は,これが認められる蓋然性は極めて低いものと判断できる。
また,上記各訂正審判請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1を前提として,被告製品が,同請求項1に記載された各発明の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものであるかを検討すると,本件記録に照らして,被告方法が上記各発明の技術的範囲に含まれることを認めるに足りる証拠は見当たらない。そして,技術的範囲に含まれるか否かの点について,原告に主張立証を補充する機会を与えるとするならば,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである。

イ 仮に,上記平成20年8月20日の各訂正審判請求が認められ,訂正審決が確定するという事情が生じることを想定した場合には,当審のした判断を覆す主張をする余地が生じ,また,たとえ判決が確定した後においても,民訴法338条1項8号所定の再審事由に当たる余地が生じ得ることになる。
しかし,仮にそのような事情が生じたとしても,原告が,そのような事後的事情変更を理由として,当審のした判断を覆す主張をすることは,特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されないというべきである


その理由は,特許法104条の3第1項の規定が,特許権侵害訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められることを特許権の行使を妨げる事由と定め,無効主張をするのに特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要しないものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で解決すること,しかも迅速に解決することを図ったものと解され,また,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしているのは,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解され,このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきであるからである(最高裁判所平成18年(受)第1772号事件・平成20年4月24日第1小法廷判決)。

そして,本件においては,第1次無効審決A及びB,原判決,第2次無効審決A及びBにおいて採用された被告の無効主張は,いずれも乙40文献に開示された発明及び乙7文献に開示された発明との関係での進歩性の欠如であったことに照らすならば,原告は,被告の当該無効主張を排斥し又は覆すための対抗主張として,単に平成20年3月28日の訂正請求に基づく訂正A発明及び訂正B発明における無効理由の解消等を主張するばかりでなく,当審の口頭弁論終結前に,第2次無効審決A及びBの取消訴訟を提起し,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求をするなどして,これに基づく対抗主張を行うことが可能であったというべきである。したがって,仮に,上記のような事情変更を想定したとしても,そのことを理由とした対抗主張を,適法な主張として審理をすることは,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである
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2008年07月27日

時機に遅れた攻撃防御

事件番号 平成19(ワ)6485
事件名 実用新案権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年07月22日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

(5) 乙第21号証を副引例とする進歩性欠如の主張が時機に後れたものといえるか否かについて

ア 原告は,被告が侵害論の審理が終了した後に初めて乙第6号証又は乙第7号証を主引例とし,乙第21号証を副引例とする進歩性欠如の主張をし,同証拠を提出したことが,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)である旨主張した
 当裁判所は,上記攻撃防御方法は被告が故意又は重大な過失により時機に後れて提出したものではないと判断するものであるが,以下にその理由を付言する。

イ 本件審理の経過は次のとおりである。
・・・

ウ 上記のとおり,被告は,第1回口頭弁論期日において,進歩性の欠如等を理由とする無効主張を平成19年9月28日までに行う旨を述べながら,無効理由の整理が不十分なため期日を重ね,その整理のためにその後約4か月を要し,平成20年1月31日の期日において漸くそれまでに主張した無効理由の整理が完了し,同期日において侵害論の審理を終了して,次回以降損害論の審理を行うべく当事者双方の準備事項を取り決めたにもかかわらず,被告は,その後の同年3月24日の期日に至って初めて,乙第6号証又は乙第7号証を主引例とし,乙第21号証を副引例とする進歩性欠如の主張をし,同証拠を提出するに至ったものであって,当初の予定からすると約半年遅れた攻撃防御方法の提出というべきであり,客観的には時機に後れたものと評価されてもやむを得ないものというほかない

 しかし,新たに副引例として追加主張した乙第21号証は,フランス語で記載されたフランス国特許の特許公報であり,検索に際してキーワードを選択するについても言語上の問題があり,我が国の特許・実用新案のようにその検索自体が必ずしも容易に行い得るものではない。また,検索の結果,引例の候補となり得る資料を入手したとしても,その資料が引例として適切なものであるか否かはこれを翻訳して改めて吟味する必要があるところ,フランス語の翻訳のために相応の時間を要するのもある程度やむを得ないものといえる。

 このような事情に照らすと,被告が,上記時機において乙第21号証を副引例とする主張及び証拠を追加提出したことについては,故意はもとより重大な過失があるとまでは認められない。

 よって,被告の上記攻撃防御方法の提出について,当裁判所は,これを却下すべきものではないと判断した次第である。
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2008年06月08日

足裏電極事件(第1審)

事件番号 平成20(ネ)10087
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年06月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 市川正巳
(控訴審 平成20(ネ)10087

『 (被告の主張)
(ア) 「足裏用電極」の存在しない体内脂肪重量計は,当初明細書に記載されておらず,当初明細書の記載から自明でもない
(イ) 本件発明は,「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含む。
(ウ) よって,本件発明は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されておらず,特許法36条6項1号に違反し,本件特許は,同法123条1項4号の規定により無効とされるべきである。
(原告の主張)
被告の主張(イ)は認め,(ア)及び(ウ)は否認する。』


『第3 当裁判所の判断
・・・
3 争点6−1(補正制限違反)について
(1) 当初明細書の記載
ア まとめ
 当初明細書に記載されている内容は,イ以下のとおり,
@足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより,電気的接続を実現しているか,
A「足裏用電極」を有しているため,「切換装置」を必要とする体内脂肪重量計であると認められる。
 したがって,本件発明の構成が当初明細書に記載されていると認めることはできない
(自明か否かの点は,次の(2)で検討する。)。

イ 特許請求の範囲
 当初明細書の特許請求の範囲は,請求項1ないし7の7つの請求項により構成されているが,いずれの請求項も構成要件に「足裏用電極」を含んでいることは,当事者間に争いがない。

ウ 課題を解決するための手段及び作用
 当初明細書の発明の詳細な説明中の課題を解決するための手段及び作用の記載(【0006】〜【0008】)によれば,同所には,「足裏用電極」が本件発明の構成要件として記載されていることが認められる。
・・・

オ 実施例
(ア) 実施例1及び2
 当初明細書の発明の詳細な説明中に記載された実施例1及び2が,足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより,電気的接続を実現しているものであること(・・・)は,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。

(イ) 実施例3
 当初明細書の発明の詳細な説明中の実施例3の記載(【0020】)によれば,同所には「足裏用電極」と「足用電極」とを有し,それらの「切換装置」を具備した体内脂肪重量計が記載されており,この構成においては,足裏用電極を経由することなく,嵌合部がコネクターとなり,第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続されていることが認められる。

カ 本件発明の課題等
 当初明細書の発明の詳細な説明中の発明が解決しようとした課題等の記載(・・・)によれば,同所には,本件発明が解決しようとした課題について,「足裏用電極」について触れずに,「抵抗の大きな靴,靴下を着用した状態でも,簡単に,正確に体内脂肪重量を推定することができる体内脂肪計付体重計を提供する事」(【0005】)であると記載されていること,効果の欄にも,同旨の記載があること(【0023】)が認められる

 しかし,【0005】の記載は,「足裏用電極」を有する従来の脂肪計付体重計の問題点を指摘した上でのものであり(【0004】),直後に続く課題を解決するための手段(【0006】及び【0007】)においては,「足裏用電極」を構成要件とする構成が記載されている。
 効果についての【0023】の記載も,「足裏用電極」を構成要件とする実施例1ないし3の効果の記載(【0022】)に続くものであるよって,【0005】又は【0023】が,「足裏用電極」を構成要件としない構成を記載していると認めることはできない

(2) 当初明細書の記載からの自明
ア 電気的接点
 原告は,足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより電気的接続を実現している方法においても,「足裏用電極」は単に「足用アタッチメント」の「第2の電極」と「インピーダンス測定装置」とを結ぶ電気的回路の途中に存在する「電気的接点」又は「導線」の役割しか果たしていないから,「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成は当初明細書の記載から自明である旨主張する
 しかしながら原告が指摘する発明が, 解決しようとした課題等の記載(前記(1)カ)を併せ考慮しても,前記(1)に説示の内容を有する当初明細書の記載から「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成が当業者に自明であると認めることはできない

イ嵌合
 次に,原告は,当初明細書には,足用アタッチメントを載置台に直接嵌合し,嵌合部がコネクターとなり第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続される方式の体内脂肪重量計が記載されているから(【0009】),「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成は当初明細書の記載から自明である旨主張する

 しかしながら,前記(1)に説示のとおり,当初明細書に記載された構成は,嵌合部がコネクターとなり第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続される方式のものであっても「足裏用電極」を構成要件に含むものであるから,原告が指摘する発明が解決しようとした課題等の記載(前記(1)カ)を併せ考慮しても,当初明細書の記載から「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成が当業者に自明であると認めることはできない

(3) 補正後の本件発明
 本件発明は,「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含むことは,当事者間に争いがない(被告は,本件発明の充足論におけるクレーム解釈においては,本件発明は「足裏用電極」を具備するものに限られる旨主張するので,念のため判断すると,本件発明(請求項14)の文言上,そのような限定はないこと,「足裏用電極」を具備しない場合でも,発明が解決しようとした課題等の記載(前記(1)カ)を解決し,作用効果を奏することができることからすると,本件発明は,「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含むものと認めるのが相当である。)。

(4) まとめ
よって,第2回補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でする補正とはいえないから,特許法17条の2第3項に違反するものであり,本件特許は,同法123条1項1号に該当し,無効とされるべきものであり,原告は,同法104条の3により,同権利の行使をすることができない。』
posted by ごり at 17:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法104条の3